ここはよいとこ


そうか、あの音はボールの音だったのか。つまり俺はついに、人間の手持ちというものになってしまった。
そう気が付いた時には、身体の傷はすっかりよくなっていた。
人間はナマエというらしい。ナマエさん、ナマエさん。と、ハブネークは届かない声で名前を呼んだ。珍しかったのだ。種族名の他に固有名詞を持つものは見たことが無かった。ザングースへの悪口としての【白毛むくじゃら】や【くそけだま】は言ったことがあったし、仲間から【一番でっかい】と呼ばれたことはあったが『名前』というものは身近になかった。

『ナマエさん、腹減った』
ハブネークの声は人間にはシャーシャーガラガラと蛇の出す音にしか聞こえない。

「はいはい飯なー」

それでも半分くらいは通じるので、心臓のあたりがぬるくなった。


ここはいいところだ。誰もハブネークを追いかけ回さない。いやな毛玉もいない。何もしてないのに頼ってくる幼い仲間もいない。
ここにいるのは、ハブネークを守ってくれる人間だ。



出会いは父と慕うには遅過ぎて、友と呼ぶには守られ過ぎた。


ハブネークは、ナマエの名を呼ぶのをいつの間にかやめた。

『アナタ、』

「おー。どうしたんだお前は。甘えたい気分か?」

『うん、そんなかんじさ』


シャーシャーガラガラと、蛇は鳴く。


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