約束がないから待っていた


妖精――セベクは身嗜みに気を使うタイプだ。曰く、「僕の無様は若様の恥になるだろう!」とのこと。マレウス先輩もそこまで責任無いんじゃないかなとは思うが、彼らの国ではオウジサマ? みたいな存在らしいし、色々あるんだろう。
俺が生まれた場所はこういうタイプの身分制度が無かったので新鮮だ。俺のとこでは一番年寄りが一番偉い。……いや、妖精って外見年齢と実年齢が伴わない種族もいるらしいし……。

「お前、いま何歳?」
「16年生きた。貴様もだろう……違うのか?」
「いや一緒」

セベクもセベクで俺に聞かれたせいで、人間の年齢というものにふと不安が湧いたらしい。異種族だからね、そこら辺の感覚はふわふわしちゃうのもしょうがない。たぶんこいつは老化のスピードが遅いタイプなんだろうな、俺が死ぬ頃くらいに中年になるんだと思う。

とりとめなくそんなことを考えつつ、横から聞こえる要約すると『夜飯何食べる?』という声に「魚」とこたえながら目的地を目指す。俺とセベクが仲良く連れ立ってどこに向かうかと言うと、シャワールームだ。
馬術部とガーゴイル研究会の場所が比較的近いせいかタイミングが合うことが多く、なんとなく一緒に向かうようになっていた。
ここはディアソムニア寮専用のシャワールームだが、シルバー先輩は各寮共用の大きめのシャワールームに行っているらしい。あの人はお湯を浴びながら寝ることがあるから、人が多い方が死なずに済むと言っていた。俺としては、あの顔の良さでそんなことをするのは誰かの劣情を煽りかねず本当に危険だからやめた方がいいと思ってる。セベクと一緒に来たらいいのにな。

ディアソムニアは魔法に特化した生徒が多いからか、シャワールームを使う者が少ない。魔法ひとつで一瞬で清潔を保持出来る方法はあるし、お湯を浴びたと同等の健康効果を得る方法もある。
俺みたいに趣味でお湯を浴びたい者と、セベクみたいに身嗜みに特別気を使う者以外は効率重視だ。ここら辺はイグニハイド寮の奴らと話が合うかもしれない。

「今日も貸切だなあ」
「立地があまり良くないからだろう。運動部は共用に行くからな」
「なんでセベクは行かないの」
「ナマエも行かないだろう」

何当たり前のことを聞いているんだ? みたいな顔でひとつずつ区切られてるシャワールームに入っていったが、なんの答えも言ってないぞ。まあいいか。俺も隣に入る。あーー……石鹸忘れた。こういうのって全裸になった瞬間に気付くんだよな。

「石鹸貸して」
「開けるな全裸で出てくるな!! 公共の場だぞ!!」
「ごめん100俺が悪いわ。でも石鹸貸して」
「持っていけ!!!」

正確に手の中に投げ入れられた石鹸を借りて戻る最中も、中でなにか喚いていた。俺の裸くらい、いちいち騒がないで欲しい。もう慣れろ。俺だってセベクの全裸は慣れた。
ほぼ毎回何か忘れてる俺が100悪いので文句のひとつも言えないのがつらいところだな。


「ありがと返す」
「だから開けるな全裸で出るな!!!」
「使うかなって」
「ふたつ持ってきてるからいい!!」
「へえ」

それ絶対俺の為じゃん。そう言えばこの石鹸、新しいし、いつもセベクが使っていた爽やかな香りのものとは違うな。あまり好きじゃなさそうな甘ったるい匂いだ。俺が好きなやつですね。

「ありがとね」
「いいから!出ていけ!」

半泣きなのか被ったお湯のせいでそう見えてるだけなのか、顔を真っ赤にして吠えてるのが面白くてついからかい過ぎた。

先に出て髪を乾かしておこう。本当は魔法で一瞬で乾かす事が出来るけど、俺はこのガーガーうるさい機械の音が結構好きだ。時間をゆっくり使っていると実感出来て気持ちが落ち着く。
俺のせいで怒り心頭の頭びしょびしょセベクも少し遅れて出てきて、俺がぼんやり髪を乾かしながらマジカメを眺めている所に大股でやってきた。

「うるさいぞ! さっさと乾かせばいいだろう!」
「先帰っていいよ」

いつものように魔法で乾かして整え、俺の髪が乾くまで後ろでわあわあ怒り続けるものだと思いきや、おもむろに隣に座る。空いているドライヤーを両手で持ち、弄り回しては首を傾げた。この状態でスイッチが入ったら顔面に強めの温風が吹き当てられて面白いことになりそうだな……と思ったが、意味の無い意地悪をするつもりはない。「セベク」と呼びかけ、背後に回ってドライヤーを取った。

「このボタンを押す。やったげるからタオル貸して」
「ありがとう」

ありがとうとごめんなさいが大変素直なので、この大声傲慢妖精は憎めない。
大人しく目を閉じて髪を乾かされてる姿は、正直可愛らしくて笑ってしまった。

「人間、なんで笑うんだ」
「妖精は髪を下ろすと印象が変わるなあって」
「……面白いのか」
「可愛いなって」
「良い事か?」
「俺は好きだから良い事じゃない?」
「ふん」

触れる度に緊張したように震えて、湯上りという理由だけで納得できないほど肌が上気する。全く、狡い生き物だなあ。分かりやすいのに、絶対自分からは言わないんだよな。


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