明日世界が終わるんだってさ
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こういう時のために空き室があるのか……俺は誰にもうつさないために空き室送りだ……罰かな? と思っていたら、親切な同室者達が「具合が悪いのに慣れない部屋は辛いだろ。俺たちが向こうに行くよ」と部屋を譲ってくれた。善なる者たち……ありがとう……元気になったら何か奢るからな……いやあいつら俺より金持ちだ。なんか……作ったガーゴイルとか、あげるからな……。
一日目、授業の途中で早退後部屋にて安静。まあ動けない。驚いた。親切な同室者が「ゆっくり眠れるように」となんらかの妖精おまじないをかけていたせいで外部からの接触が出来なくなり完全放置され、うっかり飢えと乾きと熱で死にかけていた。
二日目、マレウス先輩のお見舞いで親切な同室者の呪いが解かれてなんとか死を免れ、水と食い物の支援を受けた。マレウス先輩、怖がられているけど優しい先輩なんだよな……。リリア先輩は「パン粥じゃぞ〜〜」とナチュラルに毒物を渡そうとしてきたので嫌われているのかもしれない。元気になったら今後のことをよく考えておきたい。
三日目、今日。風邪の引き始めの一日目と激烈悪化の二日目に比べたらだいぶ良くなった。熱は平熱より高いが、部屋の中を行き来する時に死を覚悟しなくても良くなった。寝ながら糞尿垂れ流すか~~~という覚悟、もう二度としたくないな……。
ドンドンドンドン!!!!
「軟弱な!! パン粥を食べろ!!!」
返事の前に入ってくるなんて珍しいな。真打登場みたいなノリで飛び込むな。いろいろ言いたかったが、弱りきっているので静かに頷いた。
「ありがと、置いといて、あとでたべる」
「……まだ良くならないのか?」
シルバーは一日寝たら治るぞ と言うが、あのシルバー先輩と俺を種族人間だからといって雑にまとめないで欲しい。思い出してくれ、あのバキバキの腕の持ち主と俺の基礎体力が同じなわけないだろう。
早退する時に「うつしたくないから治るまで部屋に来るなよ」と言って、確かにその時に「誰が行くか! さっさと治せばいいだろう!」とこたえていたはずだが、三日は持たなかったな。
湯気が上がる出来たてのパン粥入り鍋をサイドテーブルに置いて、いつも厳しく吊り上がっている眉が下がる。犬の尾みたいだなと思って、大人しくベッドの横に膝立ちになって覗き込む頭を撫でた。俺もだいぶ熱でやられている。いつもなら勝手に触るなと怒りそうなものの、セベクは甘んじて俺の手のひらを受け入れていた。意外に柔らかくて気持ちのいい髪質をしているんだよな。
「ナマエ、ナマエは死ぬのか」
「死なないから……」
「僕にできることはないか」
「うつらないうちに出てって……」
出ていく気は無さそうだ。俺になすがまま撫でられて、ぎゅっとシーツを握る。筋張った男らしい手をしているなとぼんやり考えていた。洗濯できてないから汗臭いだろうに。
「父が倒れた時、母がよく「死なないで」と叫んでいた」
「お父さん、身体が弱いのか」
「いや、健康だ。そう簡単に死ぬような人じゃない。なんであんなに騒いだのか、わからない」
「俺はねえ、ちょっとわかるよ」
お母さんがお父さんのことを愛してるからなんだよ。仲が良くていいことだ。
心配なんだよ、愛してるから。弱っているのを見ると怖くなるんだ、愛してると。
俺だって子供の頃飼っていた猫の体調が崩れた時には、怖かったもんだ。彼が死んだ時に世界もきっと終わってしまうんだと思ったけど、結局世界は終わらなかったな……。
喋りながら眠くなってきて、自分で何を言ってるか分からなくなってくる。
「眠いのか、眠ればいい。パン粥は起きたあと温めてやる」
「ごめん、ありがと」
「気にするな、早く治せ」
張り上げるようなよく響く喋り方をするセベクが、子猫を宥めるような声音で俺に言うのが面白い。元気だったら、「可愛いね」くらい言ってやれたんだけどな。
寝て起きたときに、ベッドの横で膝立ちになって俺を覗いたままの姿だったのには本当に驚いた。「鍛えているから問題ない」と言うが、膝をピンポイントでどうやって鍛えたというんだ。出来るのか? ちょっとプロの鍛え方は分からないので自信なくなってきたな……。
さすがに身体がかたまったのか動きがぎこちなかったので、到底1人では食べきれない鍋いっぱいのパン粥は俺が温め直して半分こ。いや、俺が4分の1、セベクが4分の3食べた。せっかく来てくれたせめてものおもてなしにと、俺からの提供で出したフルーツ、マレウス先輩からのお見舞いだと言ったらうるさくなりそうなので黙っておこう。
四日目、親切にも俺を殺しかけた同室者に平謝りされたり一発ずつ殴ったりと完全復活を遂げたが、セベクの雰囲気がおかしい。ペソペソにへこんでいる。マレウス先輩に何か言われた時のへこみ方とは違うから、単純に弱っているのかもしれない。
「うつったんじゃないか? ごめんな、パン粥作ってやるよ」
「僕はそんなに軟弱じゃない。大丈夫だ」
「いやでも調子悪いだろ。無理するなよ、心配なんだ」
「心配……」
「ナマエは僕が病気だと心配なのか」とボソリと呟いたが、いやそれは心配だろうが、俺を血の通ってない何かだと思ってる? 失礼なやつだなおい。
「当たり前だろうが、担いで保健室まで連れてくぞ」
「ふん、そんな細腕で僕が担げるものか!」
「突然元気」
「僕は最初から元気だ!」
ご機嫌じゃないか。どうした。さっきまで明日世界が終わるんですよと言われたような顔をしていたくせに。こいつは強大な力がある代わりに構造が単純なんだな……。わかりやすいのは、良い事だ。
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