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仁王立ちをしている少年(後輩だった)にギッと睨まれ、だって来いって書いてただろ……と言おうかなと思ってやめた。気合いの入った改造制服に逆立てた金髪。手入れの行き届いたマジカルホイール。ああ、たまに同じ駐輪場にあるやつだ。もしかして俺、彼と間違えられて交通手段破損の憂き目にあったんじゃないかな。絵に書いたような不良少年に「タイマン張ろうぜ」と高架下まて呼ばれた訳だが、ここに来る途中でタイマンとは喧嘩を意味する言葉だと知った。
「ひとつ聞きたいんだが、なんで俺はお前と喧嘩をしなくちゃいけないんだ」
「ふん、『お前』か。俺の事なんざ眼中にもねえってか! そうやって見下せるのも今のうちだ! あんたの番長の座、俺が貰ってやる!!」
「待って、対話して」
「行くぜ!」
拳と手のひらを打ち合わせ、気合を入れて真っ直ぐにストレートを放ってくる。待って。番長ってなんだ。ちょっと本当に待ってくれ。俺はいまどういう立ち位置にいるんだ。お願いだからおはなしをしてくれ。
「オラアアァア!!」
愚直な拳に見せかけて目の前でフェイントを入れてくる。頭がいいと言うより、喧嘩慣れしているんだろう。だが俺も喧嘩に巻き込まれ続けて二年だ。一瞬引っかかりかけたが、後ろに跳んで腰を捻った。顔の横を過ぎる腕を取り、足を掛ける。
地面に叩きつける直前で、そういえばこの辺りの河原は岩がむき出しになっていて危険だったと思い出した。咄嗟に頭の下に自分の手を差し込むと、頭の重みが直に手にのしかかる。鋭い岩が手の甲に突き刺さり激痛が走った。大声で叫びたかったが、何とか耐えた。意地だ。息を吐くと、目の前に後輩の顔がある。
緑の目が瞬いて、自分の状況を確認しているようだった。
「あんた、なんで……」
「……怪我はしてないか」
喧嘩するならもっとこう……芝生の上とかで俺以外の奴とやって欲しい。ずっと人を睨んでいた眼が視線を左右に迷わせて、つり上がっていた眉が下がっていく。
「なんで、俺を助けたんだ。…………2回も……」
2回? 少し考えて、この前のことかと気付く。いや、でもあれは本人が言っていた通り助けてくれなんて言われてないし、今だって俺がうっかり叩き落とす選択肢を選んでしまったから回避しただけで、誰も助けてない。
あーもう、めちゃくちゃ血が出てるから帰りたいな……。ちゃんとハンカチを持っていて良かった。止血の為に手に巻き付けながら、「さあな」と答えをかえした。知らん。俺だって知りたい。俺は何に巻き込まれてるんだ……?
「借りなんて要らねえんだよ! てめ、はなせ!!」
また暴れそうになったので腹の上にのしかかり、無事だった右手で両手を押さえ込んだ。近くで見ると、腹は薄いし腕も細い。全部俺の半分くらいしかない。牙を剥き出しにして暴れる犬みたいだ。とは言っても、どう見ても子犬だが。
「暴れんな。貸し借りも何も、俺の方が強いんだからお前に借りなんてもんは初めからないだろうが」
「強いやつが弱いやつを庇うのは当たり前だろうが」ぼやくように続けて、これは言葉選びを間違えたかなと言った傍から後悔する。こういうタイプはどっちが上か下か決まるまで戦い続けたがるって聞いた気がする。嫌だなあ……。
自分の顔が嫌いな餌を出された犬のようになっている自覚がある。大暴れされるかと待っていたが、後輩は動かなかった。強ばっていた身体から力が抜けている。「ははっ」すぐ下から笑い声が聞こえたので視線をやると、傷んだ金髪が笑い声と一緒に揺れている。こう見ると、本当に幼い子供のような顔をしていた。元から童顔なのだろう。
「それが、あんたの漢気ってやつか」
「ええ……」
何言ってるの……。
「完敗だ。負けた! 俺はあんたについてく!」
「えええ………」
何言ってるの……。
晴れやかな笑みを彩る夕日の赤を、一枚向こうの他人事みたいな世界に感じた。ちょっと目の前にいる後輩が何言ってるのかわからない。
「あんた……いや、ミョウジ先輩こそ、皆が認める番長だ……!」
「ちょっとその話から詰めていきたいんだが、番長ってなに……?」
待って、俺の学園生活初の普通に話せる相手ってこいつになるの? やだ……助けて………。
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