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部屋に帰ってデュースに「ナマエがくれた」と自慢しまくった指輪も、ベッドサイドランプの横にある。にやにやしながら左手の薬指に付けると、先に起きていたデュースが「うわ……」って顔して、てかしっかり口に出して「うわ……」って言ってオレを見てた。
「なに見てんだよ」
「いや……幸せそうでなによりだよ。ナマエにもそんな甲斐性があったんだな……」
「ファーストネームで呼ぶな、ファミリーネームで呼べ」
「呼んだことないぞ!?」
「それ以上幼なじみマウントとるならオレにだって考えがあるからな……!」
「もう何言っても怒られる……!!」
一週間後には謝るからオレの異常行動はしばらく見逃してて欲しい。朝から疲れた顔のデュースが「これ、前にミョウジから押し付けられたゲーム」とカラフルな箱を渡してきた。
「エースも興味無いと思うけど、共通の話題があったら喜ぶかなって」
「お前ってほんといいやつ。詐欺とかに騙されたらオレが助けてやるからな」
「オクタヴィネルのことか?」
「オクタヴィネルのこと集団詐欺組織だと思ってんの?」
『マジカルプリンセス!〜恋の予感は蜜の罠!?〜』表紙におんなのこが好きそうなおめめキラキラの女の子キャラが4人いて、裏には恋愛アドヴェンチャーって書いてる。ソフトだけじゃなくて本体も貸してくれたけど、これもナマエのやつらしい。デュースは「あいつ人と遊ぶために本体何台も買う癖があるから……」と渋い顔してたけど、マウントか……? それは『僕と遊ぶために本体買ってくれたの[V:9825]』の意か……? ってメンタルギリギリになった。
朝ごはんはゼリー食えばいいし、授業始まるまで時間があるからちょっと付ける。テキストノベルっぽい。女の子が話しかけてくるから適当に選択肢選んでいくと、ドゥーンとかピロリンとか音が出て反応が変わる。なるほど、上にある好感度ゲージってのをためればいいわけね。ドゥーンだと選択ミスって、ピロリンだと正解ってわけ。マジでやったら結構楽しそうじゃん。
「ナマエはどいつが好きなの」
「はこおしって言ってたな」
「ハコオシちゃん? いつ出てくんだよ」
「さあ……後半とか?」
ふーん。時間ある時やろっと。てかこの真ん中のやつちょっとデュースに似てね? 雰囲気とか髪のかんじとか。この端っこにいる髪の毛跳ねてる子の方が可愛いじゃん。ぜってーこの子がハコオシちゃん。決まり。
「エース、着替えろよ」
「んー」
「次の授業ミョウジと同じだぞ」
「は!? 先言えよ!」
「入学した時から一緒だったろ。あいつだいたい端っこの暗いところに座ってるから……」
「お礼!」
空いてない方のゼリー飲料投げ渡しつつ、急いで着替える。端っこの暗いところって、先生の目が届きにくいってすぐ満席になるじゃん! 姑息! てか教卓近くの方がバレねえっての分かってねえのほんとバカ。俺のオススメは教卓斜め横。
「先いく!」って走るオレを、デュースはゼリーを飲みながら片手を上げて見送ってくれた。ナマエと勝手におさななじんでたことだけはマジでムカつくしぜってえ許さないけど、良い奴〜〜。
走って教室に飛び込んで、暗くて陰気な一団の方に向かっていく。「ひょえ……」「こわ……」「はわわ……」って変な声を出して左右に散っていく。え、席譲ってくれんの。イグニハイドのやつ結構優しいじゃん。
眠そうなナマエが「エースおはよお」と軽く手を振った。
「おはよ。オレ今日ここに座ってい?」
「いーよ。でも大丈夫? いつも監督生とかデュースとかと受けてるじゃん」
「あいつらもオレが惚れ薬被ったって知ってるからいいの。あとデュースのことデュースって呼ぶな。スペードって呼べ」
「幼なじみとの距離が一瞬で離れちゃった」
「勝手におさななじんだ方が悪い」
「暴君だねえ、次期寮長か?」
「そのうちなってやるよ」
オレ頭良いし器用だし要領いいし、リドル先輩のあとに寮長継ぐとか余裕だろ。むしろトーゼンっていうか?
授業始まるまでナマエと一緒だって思うだけで嬉しくて、顔が勝手ににやける。
「おおい、トラッポラ」
「なに、いまイチャイチャしてたんだけど」
「バチくそキレてんじゃん。泣いてくんね?」
「ナマエ、こいつが虐める」
「俺の彼ピに何すんだ」
オレの方はけっこうマジでイラついてるけどナマエは楽しそうに笑ってる。話しかけてきたのはサバナクローのやつだ。試験管を持ってるので、こいつ『恋する者の涙』目当てだな! ってすぐ分かった。惚れ薬、小テストの課題になってるから調合失敗して材料不足の奴が走り回ってたからな。
「じゃあミョウジが泣けよ。頼むよ、ほんの10mlでいいから!」
「結構な量なんだよなあ! なに失敗した時用の予備も求めてんの。てか俺が泣いても仕方ないでしょ」
けらけら笑ってかるーく言うナマエの言葉を聞いて、オレの心は突然致命傷を負わされた。
そうだ、ナマエは惚れ薬被って無いもんな。こいつ、オレのこと好きじゃないんだ。わかってたけど、わかってなかった。
「うえええん」
ボロボロ涙が出てくる。目の前の試験管をひったくって俯いて、水が溜まっていくのが見える。うええん。
「ミョウジお前、そういうデリカシーのないこと言うのやめろよ」
サバナクローのやつに言われたら終わりだからな。おら持ってけよと試験管を押し付けて、残りの涙はナマエの制服で拭いた。
「どぅーん、どぅーん……」
「え、なに」
「好感度、おちたおと」
「ええええそんなあ。ごめんてえ」
「ばか」
「何ミスったのかなあ?」
どぅーん、どぅーんって言いながら背中に顔を擦り付ける。今日のスート、なんか最近涙腺馬鹿だからちゃんとしたメイク落としじゃないと全然取れないやつにして正解だった。てか泣かせるのやめろ。酷いやつ。
制服、涙でびしょびしょにしてんのに引き剥がさないし、頭撫でてくれるし、「俺が泣かせたんでしょ、ごめんな」ってちゃんと謝るし。
ぴろりん。ぴろりん。言葉に出せない好感度アップの音が頭の中に響く。これって本当に惚れ薬由来なんだろうか。そうじゃなきゃ困るんだけど。
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