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授業が被ってたのは一限目だけだったし、休み時間も一緒にいたかったのにナマエにはイベントで走らなきゃダメだから……って断られた。陸上部って訳じゃないのに、なんのイベントに出るんだろ。あれで意外とスポーツ好きなのかな。背ぇ高いしバスケとか良いと思うし、今度一緒に1on1してくんねえかな。

「放課後いつでも来ていいよ。部屋は306ね」とかるうく言われて、間違えないように部屋の番号をメモしてるあたりオレって相当可愛いと思う。
授業終わって、走って寮に戻って大急ぎでシャワー浴びて乾かして、部屋着っぽいけどこのまま外に出てもいいかなってくらいの「こいつマジじゃん……」って引かれない程度に気合い入れた服に着替えてってやってたら、いつも以上に髪のハネが変に気になったりしてワックスで整えて、あーかわいいかわいい。オレってかわいいやつ。健気じゃん。こんなの惚れ薬の効果消えたらナマエだけ、オレにドキドキしちゃうやつ。でもその頃にはオレはクールに「薬の効果ってだけだろ、なあにオレに惚れちゃった?」って言ってやるからな。恋するものの涙、ドバドバ流せよ。オレが泣いた12倍は泣かせてやる。

「カチコミか?」
「お部屋デート」
「カチコミか……」
「話聞いてないタイプ?」

自分の中で答えが出てることを聞くな。デュースが最近よく見せるしおしおの顔でオレを見てるので、暇なら手伝ってと威嚇する。人に内緒で勝手におさななじんでたならナマエの好みくらいわかるだろ。とりあえずオレの手持ちの香水の中で好きっぽいのあったら教えて。なかったら使わないから。

「好きかどうかは分からないけど、これと同じやつは持って……ない。違う。間違えた。うん、これだけはない」
「嘘が下手くそ過ぎねえ? なに、これ持ってたの?」
「もってない」
「おうこら眼ぇ合わせてものをいえ。なに? 天井にゴーストでもいる? 頑なに眼ぇ逸らすじゃん。逆に気になるわ」
「やめたほうがいい」
「ふーん」
「あっ」

ミドルスクールの時にちょっと背伸びして買ったやつ。トップノートが柑橘系強めで、ミドルノートでグリーンが出て、ラストノートでスモーキーになるやつ。さすがに大人っぽすぎたかなあって思って数回しか使わなかったけど、今のオレならたぶん似合うし? 部屋にあったなら少なくとも嫌いってわけじゃないだろって手首に吹きかけた。いーにおい。なに黙ってるかわかんないけど、デュースにしては良いセンスしてんじゃんって褒めようとしたら「僕はやめた方がいいって言ったからな」って渋い顔をしていた。

「なあに、変なやつ」
「もういいだろ。ほら、早く行かなくていいのか?」
「やばっ」

遅刻寸前のしろうさぎのように慌てて部屋から飛び出して「ごめん、服片付けといて!」と叫ぶ。遠くから「お前!」って中途半端な怒鳴り声が聞こえたけど、言ったもん勝ち。今度なんか奢ってやるからそれでチャラにしてもらう。

鏡舎に走ってイグニハイドの鏡に「おじゃましまーす」と飛び込んで、誰かに306号室ってどこって聞こうとしたけど、廊下にいる奴ら全員「ぴぁ」とか「キ゜ュッ」とか短く叫んで消えていく。はぁ? 感じ悪くねえ? ハーツラビュルと構造違うからわかんないんですけど!

「すいませーーーん! 今ここの部屋入った人〜〜〜!」
「嘘……追ってきた……」
「あ、返事あった。306号室どこっすか」
「み、右の階段のぼって真っ直ぐ行った奥の方ですぅう」
「ありがとーございます!」

上が下級生の部屋なら、この部屋は先輩の部屋な気がする。てかだったら逃げなくていいじゃん。オレ可愛い後輩だけど? なんかこの寮、すぐみんな居なくなるくせにどこかから監視されてる感じがして居心地わりぃ。オンボロ寮よりこっちの方がゴースト的に住みやすそう。
さっさとナマエの部屋に行こうっと。てかナマエも四人部屋だろうからなんかお菓子とか持ってきた方が良かったかな。



306

ナマエと三人の知らない同級生のネームタグがかけられた部屋の前で呼吸を整える。急いできたって感じだとダセェし。髪、やっぱちょっとハネてる。コンディショナー急に変えたせいかもしれない。高いやつにしたのが逆に悪かった? 最悪。

何度か前髪を弄って、時間が経てば経つほど勝手に心臓がうるさくなるから落ち着くのは諦めてノックをした。すぐにナマエの「あいてるよ〜〜」って声が聞こえて、嬉しくなってドアを開ける。

「不用心」
「だって今日エース来るって言ったじゃん」
「オレが来るから開けてたの」
「そ」

ナマエの寮部屋はやっぱりオレと同じ四人部屋。でも、なんか思ってたのと違う。妙に何も無い。てかナマエ以外のベッドに人が生活していた気配しないんだけど。

「四人部屋……だよな?」
「うん、もちろん」
「事件後の犯人みたいに証拠消してんの、なんで? 汚いって言ってなかったっけ」
「昨日寝る前にエースが来るよ〜〜って言ったら徹夜で掃除してた」
「気が利くじゃん。そいつら今どこいったの?」
「寝袋持って談話室に引きこもってる」
「なんで?」
「2人っきりにしてくれてんじゃないの?」

へえ、いいヤツらだ。会ったことの無いナマエの同室者に心の中でピロリンって言っておく。俺の好感度が上がった音。

「エースってあんまゲーム興味無いよね、スマブラもやったことない?」
「スマートブラスト? なんかあの吹っ飛ばすやつ?」
「そうそれ!」
「兄貴とやってた。それなら自信あるぜ」
「やったー!! やろうやろう! 俺ハメ技使わないし5秒間攻撃無し縛りするわ!」
「何言ってんのかわかんねえ〜〜」

ガキの頃よりもずっと画面が綺麗になってるゲームは、コントローラーの形もオレの知ってるやつとは違う。出来るかなってちょっと不安だったけど、練習モードでいろいろ教えて貰った。てか、近いんだけど。

「タメのあとこの順番で動かすんだよ。でもこれ慣れがいるから練習しとく」
「……ん」
「こうね、こう。手で覚えると案外簡単だから」
「……ん」
「難しい? エースくーーん? 今画面見てなかった気がするけど夢?」
「……ゆめ」
「うそつけえ!」

あのさあ、後ろから抱えられて、俺の手ごとコントローラー握って、そんなんで落ち着いて覚えられる訳なくない!? オレはもう手が握られてるそれだけで頭がいっぱいになって、使ってるピンクの玉みたいなキャラがどう動いてるかとかどうでもいいんだけど!
あのさあ、オレだってナマエとゲームして遊びてえよ! お前、こんな、こんなの、一回目のお部屋デートでやるべき姿勢ではなくない!?

「こら、エース。俺が教えてんだから真面目に画面みてよ」
「ごめ……」
「このゲージが溜まったら技出しできるから、タイミングみて……」
「ううぅ……」

ピンクの玉みたいなキャラが派手な技を出して、練習用の動かないキャラクターが遠くへ飛んでいく。「うまいじゃーん」というナマエの声が、耳元に息がかかるほど近くて頭がくらくらする。ピロリンピロリンピロリンピロリン。ずっと頭の中で鳴っててうるさい。

「じゃ次、対戦しよ」
「ううう〜!」

自分のコントローラーの所へ戻ろうとするナマエの足をおさえる。手繰り寄せたコントローラーを「おら!」と投げ渡して、「ナマエは経験者だからハンデな! オレのこと抱っこしながらやれよ!」って、自分でも訳わかんないことを言い出した。だって、お前、こんな、こんなことされて! さっさとはなれようとする方が悪いじゃん! 1度距離詰めたのはそっちなんだから責任取れよ!

「すげえ縛りプレイ。いいねえ、やろっか」
「え、えすえむ……?」
「すいませんオタク語録です。敢えてゲームに独自のルールを追加してプレイすることを言います」
「びっくりした……」
「それはほんとごめん。じゃ、改めて」
「ひえっ」

突然腰を掴まれてナマエに強く寄せられる。さっきよりもくっついて、俺の腕の上にナマエのコントローラーが軽く当たった。

「負けたら何か罰ゲームする?」
「いいぜ、かかってこいよ」
「蛮勇〜〜」

へらへら笑いやがって。ナマエのしばりぷれいはこの姿勢だけじゃないって、覚えてるからな。


「ハメ技なし5秒間攻撃なしな」
「あ! くそ覚えていたのか!」
「当たり前。ボッコボコにしてやる」
「こわ〜!」
「しゃべんな」
「横暴か〜?」

ずっと近くなって、吐息も心臓の音も体温も全部分かりそうで、頭の中がぐらぐらする。そのおかげでゲームの方に集中できた。こっちに夢中になれば、ナマエのことを気にしなくてすむから。
ナマエの吐息も心臓の音も体温も全部わかるなら、ナマエにもオレの吐息も心臓の音も体温も全部伝わってしまってるかもしれない。恥ずかしくて訳が分からなくなってコントローラーを適当に押しまくってたら「完璧なハメ技使ってくるじゃん!!」って悲鳴が聞こえた。へえ。ふーん。こうすりゃいいのか。教えてくれてありがと、ナマエせ ん せ い。


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