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ナマエは私の知らないことをたくさん知っていて、それは『ぜんせのきおく』なのだという。ナマエがそういうのなら、それは本当なのだろう。私はナマエが私を謀らないと信じている。ナマエの瞳の中に私がいるように、私の瞳の中にもナマエがいる。それが奇跡のような確率で得た幸運だということを、私はちゃんとわかっている。
弓を引き絞るように狙いを定める。次はもう外さない。
「ほら、私から逃げきってみせて……【
力が弱く、一撃で倒せないならば二撃で。三、四、五、動かなくなるまで射ればいい。
この猪を見つけた時、死のヴィジョンをみた。
私の背後にはナマエがいる。私を通り越して、この獣がナマエを蹂躙するかもしれない。
私はずっと、死を恐ろしいと思ったことは無かった。それすらも知らない感情を掻き立て好奇心を満たすものでしかなかったのに、初めて恐怖した。ナマエがいなくなるかもしれない。
そんな気持ちで放った矢に万全の力が宿るわけなく、いたずらに傷つけ手負いの獣を生み出しただけだった。追いつけない、逃がした、必ずここで仕留めなくてはいけなかったのに!
身につけたばかりのユニーク魔法は獲物の痕跡を見逃さない。発動と同時にどっと魔力が食い潰された疲れで足元がふらついた。
今日は深追い出来ないが、明日には始末がつけられるだろう。それが嬉しくて、ナマエに全部言ってしまいそうになった。彼があんまりにも私を褒めてくれるから、私の全てを肯定してくれるから、小さな子供のように口が軽くなってしまう。
私はいつだってナマエの特別で、良い子のままでいたい。褒めて欲しい。すごいねって笑って欲しい。ぜんぶぜんぶほしいんだ。強欲だなって、自分でも思うんだよ。
獲物を捌くように、この身体を全部開いて見せてあげたい。私の中身はきっと真っ赤な愛で詰まっている。心臓を半分ずつにして、ナマエの鼓動と同じ動きで生きていたい。モ・ナミ、私のいとしい人。モン・キュール、私のハート。君に褒められると嬉しいのに、「いけない子」と言われるのも胸が高鳴るんだ。だからこれはたぶん、恋なんだよ。
「ごめんね」
猪が事切れた時、用意した矢は全て使われていた。私の力では、苦しめずに仕留めることは出来なかった。急所になる場所に何度も矢を打ち込まれ、逃げ惑い、追われ、恐怖の中で意識を失う。とても恐ろしいことだろう。全てはあの時の私の過ちのせいだ。それがこの猪に苦痛の中の死を与えた。罪深いことをしてしまった。
私のせいで失われた命に祈りを捧げ、私のために糧になってもらう。見守ってくれていたお父様の力を借りて、木に吊るして血抜きをする。心臓が動いているうちは勢いよく出ていた血も、次第に勢いをなくしていく。
一通りの処置が終わるまで半日かかり、お父様に頼み込んで猪の首だけを切り落として貰った。胴体や皮は全てナマエの父上が買い取ってくれるという。
頭だけでも20キロ以上あるそれを引き摺るように持って、ナマエの元へ向かった。私は罪を犯したけど、ナマエはこんな私も許してくれるから。褒めてくれるから。
ずっと血抜きをしていたから、身体のそこかしこから鉄のいやな臭いがする。
おぞましい獣の生首を持って会いに行くなんて、頭の可笑しいこと。私だってわかっている。
それでもナマエは私を否定しない。誰も彼もがめんどうだと、訳が分からないと遠巻きにした私を、はじめて受け入れてくれた家族以外の人。
私の知らないことを教えてくれる人。
大好き、大好き、これを見て。
君の為に罪を犯した。これを見て、どうか褒めて。
これが私の『愛』だから。
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