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「ナマエって映画どこら辺からみたいタイプ?」
「後ろかなあ。無駄ににょろにょろ背が伸びたから、前の方だとちょっと後ろの人への配慮が必要になるゆえに」
「そういうの先に言えよ。前の時普通に真ん中って言っちゃったじゃん」
「真ん中で見るのも好きだからいいのよ」
「オレだって後ろの席でも楽しめるって」

あいてんなら真ん中でみたいって、特にこだわってる訳でもないのになんとなくで言っただけだし。どうりでちょっと縮こまってたわけだよ。後ろのやつの視界遮らないように2時間縮んでたの? やさし……好き……。

後ろ側の席をネット予約して終了。映画館についたあたりですぐ入れそう。

「チケット買ったからナマエはポップコーンとジュース奢って」
「えっっ払いますが!!?」
「次ナマエがチケット買ってよ。そんでオレがポップコーンとジュース買えばいいだろ」

頷け頷け頷けって祈りながら、「当然ですけど?」みたいな顔を作った。次のデートの約束取り付けてんの、気付けよ。オレ、マジプリとか知らないけどナマエが好きだって言うから金払って観にきたんだよ。ナマエが喜んだらいいなって思ったから。
わかれよ、好きだからやってんだって。お前がオレのこと好きだっていうから、オレも好きになっちゃったの。責任取れよ。

オレが頭の中でぐるぐるといろんな言葉を空回りさせてると、ナマエは「エースはほんとに優しいねえ」って言った。『大好き』って気持ちを鍋で煮つめたみたいなすっげえ愛しげな声だったから、「まあね」としか返せない。まあね、オレ優しいから。好きな奴には特別依怙贔屓して優しくなるタイプだから。





「本当にいいのお……?」
「金払ってるし、今更嫌って言うわけないだろ。てかオレもちょっとは分かってるし。主人公のリリィベルちゃん? が人気なんだろ」
「俺に歩み寄ってくれてる……! 申し訳なさとありがたさが半々くらい……!」
「ありがたさ100でいけよ。オレだってどうせ観るんだから楽しみたいの」

今はあまり見ねえけど、ガキの頃はアニメも見てたし。ゲームだって兄貴とスマブラしてたからちょっとはわかる。外で遊ぶ方が好きだったけど、こうなるんだったらもう少しいろいろ遊んどけば良かったなってちょっとだけ後悔。
デュースから聞いたナマエの好きな事は、アニメとゲームとガサガサ。最初のふたつはわかるけど、最後のガサガサってなんだよ擬音だけで喋んな。詳しく聞いたけど「川の中に入ってガサガサするらしい」って、ほんとにわかんなかった。役立たずがよ……。

「ほら、はじまるからオレばっか見ないで向こうむいて」
「はい」

あまり見られたら、顔赤いのがバレる。スクリーンには前の席を蹴るなとかスマホは電源を落とせとか、注意事項がコメディタッチなアニメーションで流れて、すぐに暗くなる。画面いっぱいにマジプリのタイトルが出て、女の子がたくさん出てくる。

さすが国民的アニメって言われてるだけあって、オレみたいな初心者相手でも引き込まれやすい内容で面白い。主人公の友達のサニーベルちゃん? がいいと思う。髪の毛跳ねてて元気で可愛いじゃん。ナマエもこの子が好きだったらいいな。
戦闘シーンがあるってのは事前に知ってたけど、思ってたよりもエグくてビビった。普通に女の子がぶん殴られてゲロ吐いてる。メイン視聴者が小さい女の子だから、小さい女の子とその親みたいな組み合わせの客が多かったんだけど、暗い映画館の中であちこちから子供の悲鳴や泣き声が聞こえて『臨場感がすげえ……!』ってなった。これ違う意味でも面白いな。次も見に行きてえもん。
見えないけど近くの席でどこかの子供が「べるちゃんまけるなあ!」って叫んでる。リリィベルちゃんはスクリーンの中で敵にぶっ飛ばされて怪我をしながら、それでも立ちあがっていた。

ナマエの顔をそっと見る。スクリーンからの明かりで表情が見えた。
眼がキラキラしている。オレを見てる時とおんなじキラキラ。
好きで好きで仕方ないって顔。

この顔が好きだなあって見蕩れてたその時、ナマエが瞬きをした次の瞬間、何かが変わった。

スクリーンの中では主人公のリリィベルちゃんが、悪い魔法士が作った愛の妙薬で恋心を弄ばれた青年を助け出している。「あなたが与えられた感情は、全て偽物だったの」これってオレ達に境遇似てるねって、映画終わったら笑って話したかった。

ぱちり、ぱちり。
ナマエが瞬きする度に、何かが変わっていくのがわかる。どうしてだろ、そういう能力とか無いはずなのに。


オレがあまりにもナマエの方を向いていたからか、ナマエが視線に気付いてオレを見た。

ぱちり。

へにゃりとした愛想笑い。オレのことを、好きって言わない目線。



あ、そうか。
惚れ薬の効果は最大で1週間。
1週間前に、切れちゃうこともあるんだ。

そっか。


このナマエはもう、オレのことが好きなナマエじゃないのか。
理解したくないのにストンと理解しちゃって、スクリーンに視線を戻した。画面の中は大団円で、リリィベルちゃんが「愛の力で一切解決!」と決め台詞を言っている。

幕が上がる前の真っ暗な劇場内では、子供たちの笑い声とおしゃべりが響いてどこもかしこもハッピーエンドだった。ここで泣いてるのはオレだけだなって、ちょっとだけ笑えた。


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