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慌てて飛び起きて、いつもと同じ外出用の服を着る。朝の用意のいろいろをデュースが準備してくれててすげえ便利。てか、そんなに心配? 過保護過ぎじゃない? もしかして言ってないだけで、デュースってナマエのこと好きなのかも。オレそんな泥沼に参戦する気はないし、それならそうってハッキリ言ってくれりゃーいいじゃん。楽しいことは好きだけど、少しでもめんどくなったら嫌だし。
麓の街へ行く手前、ガードレールに身体を預けて立っているナマエを見つけて、少しだけ様子を見てみる。手鏡出して髪型とか気にしてるの、初々しいな。オレに格好いいとこ見せたいってかんじ、健気でウケる。意外とちゃんとした私服持ってんだな。全体的に黒っぽいけど、足が長いから野暮ったくならないんだ。ちょっとムカつく。
「おまたせ」
「俺も今来たとこ」
「気ぃ合うじゃん。で? 今日はどこ連れてってくれるわけ?」
「よさそうな映画やってたから、それ観に行こ」
「ふつーだな」
「ふつーが一番ですよ」
ナマエがスマホを出して「これとかどう?」って見せてきたのは、オレが好きなシリーズの最新作だった。元々見に行きてえって思ってたし、タイミングばっちり。
オレが「いいね、オレこれ好き」って言ったら「じゃあ決まり」ってすぐに予約をとってくれた。
「ここの映画館の会員になってるから、ペア無料のサービスチケットで向かいます」
「そういうのは言わないで「奢ってやるよ」くらい言っていいんだぜ」
「いやいや、ここで俺が奢ったら重すぎだろ。俺はデートって思って勝手に喜んでるから、エースは気軽な感じで奢られといてくださいな」
「ケンキョな奴」
「おくすり由来の感情だってこと、しっかり自覚しておりますからあ」
物分り良くて大人しくて謙虚。惚れ薬ってしっかり効いてるはずだから、ナマエって好きな相手(この場合はオレ!)に対しても遠慮しいな奴?
オレだったら好きな人に自分の事好きになってもらいたいから、めちゃくちゃ引っ付くし隙あらば手だって繋ぐのに、素振りすらしない。まあ、実質映画奢ってもらうみたいなもんだからサービスしてやってもいいかな。
後ろからナマエの手を引っ掴んで無理やり恋人繋ぎしてやると、「ギャピ!」って叫んで飛び上がった。顔真っ赤にして「うわわわ死んじゃうから……」って言ってんの、面白い。
「オレから誘ったデートじゃん。オレも今日デートって思ってんの、忘れんなよ」
「はひぃ……」
「これくらいで照れてたら、帰り際にはほんとに死んじゃうかもな」
「生き残りたい……」
「頑張れー」
ギクシャクしながら、オレのことを強めに触ったら壊れる置物みたいにそーっとそーっと触るのが面白い。こいつの恋人になったらすげえ優しくして貰えて幸せそう。オレにはちょっと物足りないけどな。
映画はやっぱり期待通りに面白くって、パンフレットも買ったし喫茶店であそこが良かったここが良かったって語り合う。
会員になってるだけあって映画を見慣れてるからか、ナマエの感想って同じものを見たのにオレとは違う視点があって面白い。
登場人物の心の動きとか、背景に置かれていたものが宗教的意味合いがあるからそこにフラグがあったんじゃ? とか。言われてみたらそうかも! ってなるところが沢山あって、もう一度見返したくなった。ちゃんと見てたけど、背景とかは考えたことがなかったなって思ってたら、「今度前作も見てみるよ」って言って驚いた。
「はぁ!? 続きもの途中から見たの!?」
「あらすじは見たし、これエースが好きそうだなって……」
「すっげえ好きだけど!」
「大丈夫だよ、映画って続き物でも登場人物の関係性ってなんとなく説明されるし。エースが好きなはなし、俺も見たかったからさあ。すごい面白かったよ」
「なんでそんなにオレのこと優先すんの」
「エースの事が好きだから」
アイスコーヒーをストローで掻き回して、氷がカラカラ鳴る。ナマエは穏やかに微笑んで「エースの事が大好きだから、身嗜み整えて、楽しんでくれそうな映画探して、早起きして、笑ってくれるのが嬉しくて、ずっとドキドキしてんの」と言った。
「へ、へえ……そう……」
「うん、そう。好きな人には尽くす派だったみたい」
「重……」
「だよねえ」
眉が下がったへらへら笑い。情けねえ顔。でもオレ、気の抜けた顔で親しみ持てていいと思うよ。ほんと。
「オレの部屋、前作のブルーレイあるから見に来ていいよ」
「え、いえいえそんなお手数おかけしますので」
「普通に観に来ればいいだろ。デュースいるし、遊びに来ればいいじゃん」
「あ、デュースと同室? そっか。じゃ、行こうかな」
オレが誘ったら即座に断ったくせに、デュースの名前出したら来るんだな。それがちょっとムカついて、なんでムカついたかよく分からなくて困った。そりゃ、惚れ薬由来で好きになった人の部屋には行きにくいけど、それが幼なじみと同室だったら行きやすいよな。理屈はわかる。わかるけど。
「なんか、ムカつく」
「えっ! すいません彼にチェリーパイを!」
「食いもんで釣るな」
なんでオレの好物知ってるんだよ。そこちょっと引くぞ。
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