鶴丸ではなく俺の説明不足のせい


こんばんは、今日も元気な審神者マンです。本日はクレーム処理の為に参りました。…と、目の前であぐらをかいている鶴丸に言うと、眼を丸くして「くれーむ…くれーむぶりゅれぇ?」と自分の中の最新のカタカナ語と合体させていた。なんだその消化しにくそうなものは、苦情だよ苦情。

「俺は何か迷惑をかけたか?」

「夜な夜な徘徊しているから夜目が効かないでかいやつらが「うっかり斬りかかりそうで困る」ってよ。不眠症か?夜は早めに寝ないと翌日に引きずるぞ」

「ふみんしょう」

「やめろその心を覚えたばかりの人形みたいな喋り方。自分の面の良さを考えろ、呪い人形か」

「酷い言いぐさだが一応褒められているのか?」

「おう」

ついには腕まで組み始めた鶴丸が、身体をぐらんぐらんと揺らしながら「しかしな」やら「俺にも言い分はある」と考えながら言葉をつないでくる。


「空は星が綺麗だし夜に鳴く虫の声も面白いというのに、なんで皆夜になると黙るんだ?

俺に内緒で楽しいことでもしているのか?」


「ん?」

「そもそも寝るとは何だ?それは良い物か?なんで俺を誘ってくれない!いじめっこは良くないぞ!」

「待て待て待て。えっ、お前自分の部屋にある布団は何だと思ってたの?寝た事ないのか?」

「布団は身体を休めるためのものだろう。俺だって部屋で本を読むときとかに、ちゃんと活用しているさ」

「おっと」


皆が自分に内緒で何か楽しい事をしているらしいと勘違いしはじめた鶴丸は、だんだんとヒートアップしてきたが、ちょっと待て。俺は当たり前のように各自最低限の生命活動は説明なしでも行えていると思っていたが、まさかそうではなかったのか?

鶴丸が顕現してから…と脳内で数えてみたが、ざっと見ても2年はいる。その間眠ることなく延々と活動し続けていた?なんというぶらっく。まじか。検非違使さん俺です。

「寝るという事は身体を効率よく休めるのに必要なことで…」

「俺はちゃんと休んでいる。疲れてもいないぞ?疲労が付いたら君がすぐに気をつかってくれているじゃないか」

「そうね…でもね人の身体っていうのは…」

「俺は人じゃないし、この身体も肉と血があるだけで人間とはいえないだろう。手入れで人間は直るのか?」

「そうね…しかし他のやつらも寝ているしね…」

「他刀と比べても仕方ない事じゃないか?」

「論破すんのやめろ。何か不具合出たら怖いから寝る努力をしろってことだ」

「むう」

一通り寝るという事を説明したけれど、やっぱり理解はできていないようだった。お手本がわりにそのまま並んで昼寝をしてみたが、数時間後に眼を醒ましたら並べて敷いたはずの布団を自分の分だけ片づけて、俺の布団に入りこみ、そのまま此方を凝視。普通に怖い。自分の顔がお人形さんみたいに整っていることを自覚してほしい。

俺を起こさないように気をつかったのだろう。極限まで気配を消した状態で添い寝をされ、凝視され続けたと知った衝撃はけっこう強い。

「これはこれで楽しいが流石に飽きるな」

「俺の顔に油性ペンで落書きした言い訳はそれだけでいいか?とりあえずお前は明日の演練取りやめな」

「えっやだ」

「やだじゃない」

しばらくは今更ながら心配なので検査諸々で部隊には組み込めないと伝えれば、口を尖らせてしぶしぶと「わかった」とこたえた。本人も言われてはじめて自覚し、少し気になりだしたようだ。

他の刀剣たちに「どうやって寝ているんだ?」と聞き取り調査をしたり、寝る前におすすめといわれた行動を律儀にまねたり、努力は認める。しかし結果にはいたらず、何をやっても寝れないから諦めて、また本丸内をうろうろしはじめたがいい加減星空を眺めるのも虫を探すのも飽きたのだろう。

最終的には「この本丸で一番ホットミルク作るのが上手いのは俺だぜ」と別のスキルを磨き始めていた。

「ぶらんでー1滴とハチミツたっぷりが美味いんだ」と作ってくれたものは確かに美味だったし、検査でも異常に数値などは見られず本人もケロリとしている。俺は考える事をやめた。本人の強い希望もあり、一応の対応として高い方のお守りを持たせてから部隊に戻したが変わりはない。


今日も鶴丸は元気だし、最近では俺に構ってもらう時間を得る為にエクセルをマスターし「きみの仕事は俺が全ていただいた!驚いたか!さあ俺と月見酒と洒落込もう!」と待ち構えていたりする。わーやめろーなんてひどいことをするんだー。これはもう鶴丸と酒飲むしかないな、仕方ない。自分の役割をとられたと長谷部がすごい顔をしていたが、みなかったことにした。





そんないつもの毎日だったが、ある日の朝、目が覚めて戸を開けた時に何かを見つけてしまった。

穴だ。

その底には白いものが横たわっていた。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」

「なんだいこのタオルケットを引きちぎったみたいな声は!朝くらい大人しく人に迷惑をかけずに生きようね!!」

「朝から青江が手厳しい!!鶴丸が!鶴丸が!」

「鶴丸さんがどうかしたのかい」

「倒れてる!たすけて!つるまるがいきしてないの!」

「……あ、ほんとだ」

俺の可憐な悲鳴に駆け付けた頼れる刀達(全員武器装備)がゾロゾロと穴を覗いては、「鶴丸さんだ」「石投げてみようか」と慈悲もないことを言い合っている。やめたげてよ!

安定が持ってきた投石兵を回収し、穴の淵に手を置いた。

本当にピクリともしていないのが怖い。折れていたら姿かたちすらなくなるから生きていることはわかる…が、いったいどうしてそうなった。

「大丈夫かー!落ちて気絶でもしたのか?怪我は!?」

「んんん……」

「どうした!?」

俺の声が届いたらしい。穴の底でもぞもぞと身じろぎしてから、おもむろに座り込んだ。胡坐をかいてぼんやりと上を見上げる。

「あー……よく寝た。こりゃ驚きだぜ……ああ主、『おはよう』」

「寝た!?えっ、おめでとう??いや待てお前寝相すげえな、スクリュー回転でもしたのか」

「何わけのわからない事を言ってるんだ」

「てめえ」


ある日の夜長、というか昨日。「なぜ俺だけは寝れないんだろう」と何十回目かに渡る脳内会議の結果、刀の時に寝すぎたのでは?と思い立ったらしい。

ならば寝られる環境作りだとスコップを持って徘徊し、鶴丸が寝場所に決めたのは俺の部屋の前だった。

そこに自分の身体がすっぽりはまるくらいの穴を掘って横になる。そのまま目を閉じて、ざわざわとした人の気配に目を開け、俺の声につられて上を見たら。青い空が見えたそうだ。

はじめてのスヤァが穴の中ってそれでいいのか。


「なんで俺の部屋の前に…」

「君の傍が心地いい」

「なんなら一緒に寝てやるぞ」

「それは夜伽の誘いか?」

「んなわけあるか」

「じゃあ良い。あまり君を独り占めすると、桃色の鳥が怒る」

「フラミンゴかよ怖すぎ引く…」


寝乱れまくってほぼ全裸な寝間着姿のまま刀だけひっつかんで真っ先にすっ飛んできたクルマサカオウムが、背後で「穴の中がいいなら畑の横の生ごみ捨て場でいいのでは?」と憎まれ口を吐いて江雪にぶん殴られている。

確かに、誰か一人を特別扱いしたら全体の雰囲気は悪くなるだろう。

「なんか…こう、良い感じに工事してお前好みの寝場所作ってやるから…雨の日とか心配だから…」

「すまんな。世話をかける」

「いいって事よ」

しかし眠るとは良い事だなと、当たり前の事をようやく知ることが出来た鶴丸が呟くように言う。

「きみの傍でなら永遠に眠れそうだ」

「起きてくれなきゃ困るぞ」

「必要とあらばいつでも起こしてくれ。起きて最初に見るのが君の顔だと、なんだか特別な気持ちになるから」

「主を目覚まし時計かわりにする宣言やめていただける?」

「だめか」

「気が向いたらな」

たまにしかお願い事をしてこない良い子の鶴丸の【お願い事】だ。口では適当に流したが、聞いてやるのもやぶさかではない。

俺の言葉の真意をくみ取ったらしい鶴丸は、ニコニコと微笑んでいた。


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