排水溝


 最近排水溝に長い黒髪がぎっしり詰まっているという事件が頻発し、排水機能に影響が出た上に掃除当番からの苦情が殺到した。
 和泉守はしきりに「俺じゃない!」と言っているが、この本丸で黒髪の長髪を持つ刀剣男士は和泉守しかいない。
「兼さん、髪をちゃんと梳かしてから入らないと」と堀川に言われ、歌仙からは「髪を梳かしてから入ったらどうだい」と普通に怒られていた。俺としては、現世に姉も妹もいる身だ。こういう事になるのも慣れている。
 短髪の抜け毛一本と長髪の抜け毛一本も質量が違うだけで同じだ。生きてるだけで一日何十本も普通に抜けるものなのだから、そう怒らなくてもいいじゃないか。和泉守も風呂を出る前にちょちょっと排水溝の掃除をしてくれたら問題ないんだよ。と、仲裁に入ったつもりだったが、翌日、和泉守は庭で水垢離をしていた。
「絶対に俺じゃないからな!! 見てろ、犯人見つけてやらあ!!」と叫んでいる。
 可哀想になったので、台所からホースを伸ばしてお湯を出してやった。
 勢いが強すぎて俺が和泉守を虐めているような図になったが、明日からは俺の部屋についてる風呂を使うように言った。審神者のプライバシーを保護するために最低限ついてる風呂場とキッチンは、刀剣用のものと比べるとだいぶシンプルで小さいが、それでも庭よりはマシだろう。……と、思っていたのだが、どうやら俺が考える以上に価値のあるものだったらしい。
「明日遊園地に行くよ」と伝えられた幼児のような眼で大喜びされて、あちらこちらに言いふらしていた。失念していたのだ。刀剣男士はとても……特別扱いというものを好む。本質が刀であり、人に選ばれ使われる『物』なのだから仕方ないと言えるだろう。
 ここ最近の配水管詰まらせ犯扱いで、すこぶる不機嫌で戦闘でも不調だった和泉守だが、俺の部屋の風呂を使い始めてから始終桜吹雪で元気いっぱいになった。まあ、良いことだ。
 しかし、和泉守が使わなくなった風呂場だが、排水溝にはやはり髪が詰まる。風呂掃除の当番だった髭切が「すごいよこれ。きもーい」と素手で鷲掴みにして部屋まで持ってきた。心底やめて欲しい。
 これで和泉守の無実は証明されたが、余計にわからなくなった。これは誰の毛だ? 妖怪か幽霊か、なんやかんやの呪いか何か。
 外部からの仕業だろうと目星をつけ、明日にでも対応しなくてはならないと思ったが、その日から排水溝の毛は唐突に消えた。
 常識の範囲内の抜け毛に留まり、詰まることもなくなった。あれはなんだったのだろうか。
 一応、刀剣が使う風呂場を見に行くと今日も髭切がいた。
「あれ? どうしたんだい」
「いや、排水溝を見に」
「ああこれ?」
 髭切はあっけらかんと笑う。
「気持ち悪かったから、厨の塩全部この中に詰め込んだら静かになったよ。僕の成果だね、褒めてくれていいよ」
 頭を傾げて撫でられる位置に来たので、とりあえず撫でる。そうか、塩で祓ったのか。静かになった、とは。――なにかが聞こえていたのだろうか? 髭切はにこにこと笑っているので、それは聞かないでおいた。たぶん、それが正解だ。
 排水溝から微かに、女の声が聞こえた気がする。髭切は気にした様子もなく、にこにこと笑ったまま、排水溝にハイターを力強く流していた。


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