ぶらっくめん(表)


 あれは俺が中学生だった時の話だ。
俺は当時塾に通っていて、その日も暗くなるまで真面目に勉強をしていた。今では考えられないと思うが、俺にだって真面目な時代ってもんがあったんだよ。そんで、まあ、ボッチっていう訳じゃないけど一人で帰ってた。いやマジで。ボッチじゃねーし、友達いたし。今もいるし。なあ? ふざけんな眼をそらすなお前のこと言ってんだよ! ……ま、まあいい。とにかく俺は一人だった。時間は八時過ぎかな。結構寒かったから秋の終わり位だったのかな。
 んで、急いで帰っても俺んちは共働きの上で両親とも夜勤あるし、なんか買って食ってろって言われたのを思い出したわけだ。
 それを思い出した時には最寄りのコンビニなんてとっくに通り過ぎちまったし。仕方ねえ、近道すっかーって。普段は通らない路地裏を突っ切った。
 ……これがいけなかったんだよなあ。
いくら近所って言っても、表通りを歩かなきゃいけなかった。
 突然、ゴミ箱が乱暴にひっくり返されるような音が聞こえて。その通りにゴミ箱の蓋が目の前にぶっ飛んできた。運良く当たらなかったが、当たったらたぶんそれなりの大怪我をしていたと思う。ゴミ箱の蓋でだぞ。すっげー勢いだったんだ。
 酔っ払いが喧嘩してるんだって思ったね。飲み屋もあるし、家の中でもたまに酔っ払いの怒鳴り声が聞こえるようなところだったから。民度が低い? うっせー端っこと言えど大都会東京様だっての! ……で、巻き込まれる前に逃げようって後退ったら、何か硬くて柔らかいものを踏んでひっくり返った。どんがらがっしゃんって冗談みたいな音を立てての転倒だ。一瞬、表通りから聞こえる車の音も聞こえなくなった。
 クラスで受け狙いして全力で滑ったみたいな沈黙。
やばいと思ったときには遅くて、俺の目の前に男がやってきた。
「あーあ。君、大丈夫? 盛大に転んじゃったね。怪我はないかな」
 見たことの無いくらいのイケメンだった。黒スーツで眼帯をしてて、金のカラコンをつけてて、背が高くてスタイルが良くて声も良いイケメン。たぶん前世でドラゴンを倒し国を救ったとかしたんだと思う。よっぽどの善行を積まなければああはなれない。
 俺は飲食店のゴミ山に突っ込んで生ゴミまみれだというのに、そのイケメンは一瞬の躊躇もせずに手を貸してくれた。……これがまた良い匂いがするんだよ。俺が異性愛者じゃなかったら本当にやばかった。
 ……あ? ああ、ここまでは本題じゃない。こっからだよ。
そんで俺はイケメンに労られながら立ち上がったんだが、後ろからまた足音が聞こえた。
 そういえば、酔っ払いが喧嘩をしていたと思い込んでいたが、このイケメンが何かしたんだろうか? そんな事を考えていると、イケメンと同じ顔をした人間が出てきた。
「逃がしたかい」
「いや、捕まえたよ」
「あ」
「うん、そうなんだ」
「現地の人に見られちゃったね、どうしようか」
「とりあえず主に報告……かな」
 そんな事を言っていたと思う。俺を起こしてくれたイケメンは、俺の手を握ったまま放してくれなかった。
「逃がしたかい」「捕まえたよ」という会話で、察した。このイケメンが捕まえたのは俺のことなのでは? 慌てて逃げようとしたが、可笑しいんだ。俺の手を掴む手に、体温が感じられない。確かに革製の手袋をつけているが、それにしても冷たいんだ。
 その時になって俺は初めて、自分が踏んだ物を見た。見てしまった。それは、硬くて柔らかい、青白くて、断面からどす黒い液体が零れている、……人間の腕だった。
 叫んださ! 必死に逃げようとした! そしたら、そうしたら、黒い、金の眼が、ぞろぞろと! たくさん!
 同じ顔をした人間が、何人も! 何十人も!
「失敗しちゃったなあ……」
「仕方ないさ、こういう事もあるよ」
 気絶する寸前、そんな声が聞こえた。
目が覚めた俺は自分の部屋の中にいたけど、服からはうっすらと生ゴミの臭いがしていた。これが俺の体験した怖い話。たぶん、宇宙人だと思う。
 は? 俺の体臭じゃねーよ! 生ゴミの体臭がする人間って何だよ! 馬鹿!!


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