ひとつのほんまるのはなし
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私はこの本丸の太刀として最後に顕現した刀でした。弟達は既に第一線で戦働きをしていましたが、刀として在るにも関わらず生来の戦嫌いの為、主に望まれるまではと自ら名乗りをあげる事もせず、安寧と平和を貪っていました。
愚かなことに、私は主の人の良さを利用していたのです。
彼の人は決して他者に無理強いをするような方ではありません。
だから私のこの傲慢な我儘すら、笑って許してくださったのです。
兄弟はこんな私を見て「兄上の方がすてーたす的に圧倒的有利なんですよ」と意味のわからぬ言葉で急かしに来たり、「一緒に戦場へ行こう……」と袖を引いて誘いに来ましたが、私は畑仕事や厨当番等、楽な方へ、好きな方へと逃げていました。
燭台切光忠は、主の一番の刀でした。
初期刀の加州清光が悔しがりながらも認めるような、そんな絆が彼らにはありました。それが主従なのか、それを越えるものか、それはわかりませんでしたが、確かに特別な物があったのです。
優しい主、頼れる仲間、可愛い弟達。私は幸せでした。
つかの間の、幸せでした。
業火が、怒声が、血の臭いが、空を、本丸を焼いていきます。仲間が、ああ、弟が、皆が、燃え、
「主を安全なところに!!」
へし切長谷部の声でした。
その声に突き動かされ、部屋の中で動けなくなっている主を担ぎ上げた私は、見てしまったのです。
部屋の前、障子。バッサリと斬られた腹と、金属が砕ける音。
部屋を守るように両手を広げた後ろ姿は、燭台切光忠でした。
彼は、私が主の元へ辿り着くまでの時間稼ぎをしてくれていたのです。彼は最期まで、主の為に在りました。
私の捲し立てた咄嗟の嘘に、主は「光忠」と、そう私を呼びました。
例え眼が見えなくても、審神者が自分の刀を見分けられない筈はないのです。それなのに主は、私の稚拙な嘘を肯定しました。そうであれと、願っているのです。
主の悲しみはとても深く、燭台切光忠が折れたことを信じられなくて、認められなくて、私の言葉を信じたのでしょう。
はじめは嘘の上塗りを続ける私を止める刀剣もいました。
しかし、すぐに居なくなりました。主が自ら両目を抉り取ったのです。
「これで、もう、何も見えない」
空洞になった眼で笑う主に、皆が思いました。
もう主は駄目になりかけてしまっているのだと。
燭台切光忠の存在は大き過ぎたのです。
彼と主は誰よりも信頼しあっていました。主にとって、彼は眼でした。
彼がこの世にいないと知れば、きっと主は光を永遠に失うような痛みに蝕まれるでしょう。だから、私は燭台切光忠のふりをしました。「僕達、声が凄く似ているね」と、教えてくれたのは彼でした。
古参の彼と新参の私のどちらが重要でしょうか。考えるまでもありません。積み重ねた時の分、燭台切光忠は私よりも価値のある存在です。だから、口調を変えました、着ているものも、髪の長さも、色も、振る舞いも、戦い方すら。
すると次第に、両の目が金に染まりはじめました。
私の『嘘』は認められたと、望まれたのだと思いました。これは正しかったのだと。その頃には自分が何だったのか、よくわからなくなってきましたが、主くんが笑うのでこれは正しい事なんだと思っていました。僕はただ、皆が幸せに笑いあった本丸を守りたかっただけだったけど、よくわからない。ごめんね。
「俺はお前のことも大事だったんだよ、■■」と、主くんは僕に言ってくれたけど、とても嬉しい気持ちがあるけど、それが何の音をしたのかよくわからないんだ。でも大丈夫、僕が守ってあげるからね。大丈夫だよ、主くん。だからもう悲しまないで。
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