そとにはわるいひとがいる 3


  いつからか、俺は宗三左文字とふたりきりの本丸で生活していた。引っきりなしに小鳥が鳴く春の庭を眺めていると、文机に置かれた一輪挿しの花が『なぜ明日が来ないの?』と喋りかけてきた。
 鼻先をゆっくりと掠めるように飛んでいく蝶が言う。『ここはどこだとおもう?』
 夕食で出された焼き魚が白くなった目を向けて言う。『虚構、嘘をつかれている』
 本の隙間を潜る紙魚が言う。『門を開けてごらん』
 俺のただ一振りの刀は、昔よりもやわらかな、落ち着いた仕草で言う。「僕が守ってさしあげます。全てのものから、籠にいれて、その翼を据いででも。僕が貴方を守りましょう」
 花は千切られ蝶は潰され魚は食われ本は焼かれた。
「この籠に入れて、貴方を永遠に守ります。だから、僕を信じてください。永遠を下さいよ。僕の永遠も忠誠も、心も血肉も何もかも捧げますから」
 そう言って俺のただ一振りの刀が泣くので、門は閉じられた。どこかの世界で、ピ――と甲高い声をあげて小鳥が死んだ。もう鳴き声は聞こえない。
 何故だろうか、身体が軽い。いつも怠くて、なんだかとてもつらかった気がする。今日は桜の下で昼飯を食べよう。そう伝えると、宗三左文字は小さく笑った。なんだかいろんな物を忘れている気がする。
「忘れるということは、今は必要のないものです。大切なことはちゃんと僕が教えてあげます。仲間の話をしましょう。きっと彼らもそのうち来ますよ。僕たちは馬鹿じゃ無いからわかっています。貴方が何をされたのか、僕たちをどうしようとしたのか」
 そう言いながら、宗三左文字は庭に降りた。その後ろを追いかける。みんなで(みんなって誰だ?)食べたら、きっともっと美味しいし楽しいだろう。早く来てくれないかな。楽しみだ。





【加賀国本丸No.00027965999
2245.2.25(開)〜2260.3.6(没)
歴史修正主義者による連続本丸襲撃事件により重症を負う。治療を行うも昏睡状態のまま三年経過、その後死亡。本丸襲撃事件の際、残存刀剣三十五振り。全て高練度であり再利用が期待される。本丸強襲の際、一振りが破壊された。鉄片の近くに壊れたお守りがあった事から、それは二度破壊されたと推測される】


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