壱引いて弐引いて参引いて


 美濃にいた審神者のはなしさ。とても優しくて穏やかで刀に好かれてる審神者の、現世から連れてきた猫が寿命で死んでしまった。有名な愛猫家だったから、猫の葬式でもやるんじゃないかって喪服を仕立てたぐらいだ。案の定葬式はやったし、俺は出席した。馬鹿らしいと言ってやるなよ。その審神者の心のよりどころは猫だったんだ。次は我が身の可能性は誰だって持ってる。
 身も世もなく泣きじゃくりながら「お前がいなくなったら、俺は一人ぼっちになってしまうよ」と屍に縋っていた姿が忘れられないな。その後ろで迷子のように突っ立っている彼の刀達も。
 重篤なペットロスになった彼は引きこもってしまった。本丸の運営は近侍に一任されたまま、政府からの書類はどんどん溜まっていくし、役人も異変を察知して来るようになるけど、近侍をやったことのある刀が頑張って審神者の筆跡を真似て審神者のやっていた仕事を思い出しながら書類をこなして、「主は疲れている。出直してくれ」と役人を追い返した。
 筆跡なんざどんなに真似ても調べたらわかるんだ。でも、彼らは必死だったからな。政府も俺たちも黙認した。
 あの子が生きてた時はみんなと一緒にご飯を食べてた。主の膝の上に乗って魚を狙うわるいこだった。それでもあの子は主の唯一だったんだ。だって俺たちがいても、主は一人ぼっちになってしまったんだから。
 同じ模様の猫ではダメか?
きっとだめ。あの子に代わりはいないでしょう。
 ……そんな風にしゃべっているのを聞いたよ。俺は彼の友人だから、本丸に入るのはそれほど難しくなかった。引きこもっている部屋の戸を叩いて、お前の刀の事を考えろと諭し続けていた。うざかっただろうなあ。だが、俺はあまり頭が良くないから解決方法なんてそんなもんしか考えられなかった。庭から猫の鳴き声が聞こえた。きっと刀が彼の為に拾ってきたのだと思ったよ。
 彼が泣きながら生きてる間、本丸の中の空気はゆるやかに歪んで滞ってにごって。半年経った頃、ようやく自分から「部屋を出る」と言ったんだ。だが、遅かった。
「にゃあ」
 あの子のかわりにはなれないの。あの子はいいな、愛されてる。ああ錆びてしまう。主に飽きられた刀は。不要なものよ。錆びてしまう。朽ちてしまう。あの子はいいな。
  それが俺の聞いた最後の言葉。
 さて、そこに残っていたのは、にゃあと鳴く付喪の名も神の名も失ったモノが四十と少し。
構われないと壊れるよ。物だから。構われないと媚びてくる。心があるからな。
 というわけで、にゃあにゃあと。
美濃のどこかにあるネコ屋敷本丸の話だ。
 今では顕現しなおした男士に「この子は清光、俺の初期刀だよ」と、赤い首輪が可愛いつややかな黒猫を紹介するし、大きな茶トラとその足元にまとわりつく白の子猫に「岩融と今剣はきょうも仲がいいな」と微笑んで手を振ってるから、男士達は優しく見守っている。
 主はかつて俺たちと同じ刀剣男士をなんらかの事情で失ってしまって、こころが病んでしまったのだろう。役人がいうには、ある日突然刀剣男士がいなくなってしまったという。なぜ俺たちは主を置いて消えたのだろうか。全く、不義理な俺がいたものだ。
 そう言って、何も知らないまま主が大切にしている猫たちの世話をやいている。本丸として機能しているし、彼の心はもうどうしようもない事になってしまったけど、審神者として問題は無いからな。病院にも行ってないし、病人の自覚も無いだろう。優しくて気が良い奴なんだ。今でも友達さ。現世からの付き合いで、家で生まれた猫の子を、俺が彼にあげたんだ。

神から理性を1引いて 身体は獣に成りました
神から知性を一引いて 心は獣に成りました
神から矜持を1引いて 魂ここのつ等価で交換

神から三を引きまして そうしてネコに成りました。そんなこんななはなしだ。ちゃんちゃん。


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