雪はしんしん降るという。本に書いてあったそれを頭っから信じ切って耳を澄ませていたが、どうやら比喩表現だったようだ。風もなく雪だけが降り積もる世界は白くて美しいが、冷淡で詰まらない。自分の我儘に付き合ってくれていた主の手がひんやりと凍えていることに気が付いて、あわてて障子を閉めた。

外と中とを分ける結界の役割を果たす障子は、一瞬で冷え切った身体を室温の暖かさになじませていく。冷気がこちらに漏れ出ないのは、素直にありがたい。

「あんなにどこもかしこも真っ白いと、お前を見失ってしまいそうで寂しいねえ」

「さびしんぼだな君は」

くしゃみをした主にちり紙を渡し、炬燵の電源をいれて招き入れる。寒かったが死ぬほどではない。刀が本体の身なので人の子の数倍は辛さを感じるが、それでも死ぬ事はないのだ。だが、人は寒さで死ぬことがある。自分の迂闊さを胸の中で責めながら、己の熱を分けるように主の手を握り息を吹きかけた。

「子供の頃母にしてもらったなあ」

「俺は君の母上じゃあないぞ」

「わかってるさ」

じわじわと体温を戻していく掌を自分の頬にあてる。まだひんやりとしていて気持ちがいい。もにもにと頬を揉まれ、「俺は真面目にやっているんだぞ」と叱ってみたが、こんなに嬉しそうに笑われては強くは言えない。惚れたもの負けなのだから、鶴丸は最初から勝てる見込みがないのだ。

笑ってくれるだけで、炎と鉄から生まれた身体の奥、何かで出来た心臓がきゅうと鳴く。

「俺は雪がよく降る街に生まれたんだよ」

あまり過去を語らない主の突然の言葉に、少しだけ驚いた。先をねだるように身を寄せる。

頬からはなれた手が頭を撫でてから手を握った。もうひんやりとはしていない、温かい人の手。

「雪はあまり好きじゃなかったんだ。寒いし歩きにくいし、雪解けの時期はどこもかしこも泥まみれでねえ。夜に降る雪は特別嫌いだった。冷たいものだといっても、あんまりにも冷淡な印象じゃないか」

「おお…それは申し訳ない誘いを…」

雪見をしようと誘ったのは鶴丸だった。すっかりしょんぼりと身を縮めてしまった鶴丸を審神者は「よっこいしょ」と掛け声をかけて背後から抱きしめる。

「話を最後まで聞いておくれ。俺はね、鶴丸。生まれてはじめて雪を美しいものだと思えたよ」

「へえ、どんな理由だい」

「陳腐で面白味のない理由だよ。君が隣にいるだけで、ずっと見ていたいくらい美しいものだと思ったんだ。

ああ綺麗だなあと横をみて、お前も真っ白なもんだからふと不安になっただけさ。

お前は色男だから、雪の精に眼を付けられないように隠さなきゃならないねえ」

「隠れるなんてつまらないな。どうせだったらちゃんと首輪をつけてくれよ」


首輪をつけて紐でつないで、名前を書いて名前を呼んで。俺が君のものだと宣言してくれればいい。

「にゃー」と鳴いた真似をすれば「鶴の癖に」と笑われた。今は猫の真似でいい。こんなに雪が降る夜は、君と炬燵で丸くなりたいのだ。


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