さん


「ふうん…」

小夜左文字は渡された紙を開いて、内容をまじまじと覗き込んだ。これはまた、面倒くさいことを押し付けられている。「こうなる前に回収できなかったの」と問えば「奴らついに主に直接送り付けてきやがった」と唸りながら答えられた。それは…なんという不遜な輩共なんだろうか。他人の不手際を主に押し付けるようなふざけた真似を。力を込めたせいで、持っていた紙の端が少し破けてしまった。息を整えて、改めて内容を読み進めた。

「練度は低いね」
「座敷に繋がれていたんだとよ。そのときゃ両手を潰してたらしいぜ」
「今は?」
「なおされてる」
「そう…」

それは、余計に面倒なことだ。

『不幸な事故』等で他の本丸に刀剣男士が引き取られていく事例は他にもある。そのほとんどは審神者同士が交流を結び、人の身ゆえに先に逝く定めを憂い、後に残された己の刀剣男士を案じた結果の契約だ。

その前例からわかった事がある。前の主が残した傷があると、それは引き取った先の審神者では癒すことができない。

どこかの誰かの分霊の首筋に落とされた口吸いの痕が、それを示していた。






「両手が潰されていたままだったら、まだ安全だったのにね」
「ああ」
「練度がどれだけ低くても、刀は人を殺せる」
「……めんどくせえな、主に見つかる前に役人ごと斬っちまうか」
「主が、泣いてしまうよ?」
「……はあ、」

ガシガシと頭を掻き、深くため息を吐く。この粗野な男は見た目に反して思慮深い。


「大丈夫、何かが起こる前に僕たち短刀がいる」

主を師事した人の教えで、この本丸ではまず短刀の練度が上げられている。敵が身近まで乗り込んできたときに、確実に身を守る為の武器。
初期刀としておろされた小夜左文字を筆頭に、練度を極めた短刀が主の近くに随時配置されている。



「見極めて駄目だったら、うっかり転んだふりでもするよ」


ぐさりと刺し貫く真似をすると、眉根を寄せて苦い顔をされたが、大丈夫大丈夫。僕は同田貫よりは長く主と一緒にいるからわかっている。
あの人は優しいけど身内贔屓のある人だから、反省した顔をして泣き続けたらこっちに同情して一緒に泣いてくれる。そういう優しくて酷い人だ。

そういうところが人間らしくて、美徳だと僕は思ってる。




「ところで何でこの紙はぐしゃぐしゃなの」
「貰ってくるために鼻水つけたからな」
「汚い…!」


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