両手の平を閉じたり開けたり繰り返して、三日月宗近は「ふむ」と頷いた。

人の身体とはこのようなものなのかと、今更ながらに感心する。何分、この世におろされたその日のうちに両手を潰されて部屋に繋がれたのだ。そこから先は長かったような気もするし、つい先日の事だったような気もする。潰された手が腐り落ちたので時間は経っていたのだろうが、あまり興味はない。

己を生み出した審神者は、非道い男だったのだという。
三日月は他にくらべる者を知らないので、「そうだったのか」としかこたえられなかった。同じ本丸にいたもの達も同じだ。審神者だった男が連行されていくのを眺めて、では左様ならと刀に戻った。三日月も続こうとしていたのだが、何故か今こうやって他所に連れていかれている。希少価値が高いというのは、なにやら手間のかかることであるらしい。こちらもあまり興味はない。

二本の足で歩くのは久々で、牛歩にも劣るそれに嫌気がさしたのだろう。政府の役人とやらに押し込められた『車』は、幾多の本丸を経由して徒歩よりも早い程度の速さで進んでいく。
「抜き打ち監査も兼ねているんだよ」と言われたが、そういえばそのヌキウチカンサとやらで審神者は捕まったのだった。

本丸によって周りの季節も、色も、住んでいる者たちも違う。突然現れる車に驚き、警戒する刀剣男士の姿を繰り返し見た。

庭に降りていた老女を背に守るように立つ脇差がいた。

幼い子供をあわてて抱きしめる気の弱そうな短刀がいた。

若い男の首根っこをつかんで縁側に放り投げて逃がし抜刀する短気な太刀も、のんきに頭を下げて挨拶をする小娘の横でこちらをギンと睨む槍も、片手に投石用の石を隠しながら主人にならって頭を下げる打刀も、大きな身体で車から主と仲間を隠しこちらに向かって歩いてくる大太刀に、ただ無言で笑いながら刃を向けて立つ勇ましい薙刀も。


「貴公らは嫌われておるのだな」

「そうですねえ。貴方がたからみたら、唯一無二の大事な主を扱き使う矮小な人間風情って感じですからね。ありんこが噛みついてきたらムカつくでしょう、そんな感じですよ」

「そうか」

「だからね、貴方のいた本丸は本当にヤバかったんですよねえ。
だって、貴方達、審神者を護らなかったでしょう?普通はああやってこっちに敵意を向けるものなんですよ」

「そうか」


喚きながら引きずられていく審神者の姿が頭に浮かんだ。ぎゃあぎゃあと何かを喚いている姿を、本丸に残っていた刀剣男士たちはジッとみつめていた。それ以外に何をしていればいいのかわからなかったのだ。きっと、他の者も同じだろう。



「まあ、貴方の引き取り手は優しいお人なので安心してください」

「あいわかった。期待しておこう」


やさしいとはなんだろうか。やさしくすると言って両手を潰されたから、またこの手とはお別れか。少し名残惜しくて、手の平を開いたり閉じたりを繰り返した。


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