ろく


自分で邪魔だと言ったので気を利かせておかえりいただこうとシマシター。俺たち刀だからよくわかりまセーン。ごめんなさーい。反省してまーす(チッうっせーな)という悪童感丸出しで、役人に向かって謝罪にならない謝罪を上から一切頭を下げずに言い放つ同田貫と、「悪気はなかった。あなたに迷惑をかけたのなら謝る。次はうまくやるよ」と殺意を剥き出しに審神者のみをじっと見つめながら言い切る小夜左文字を手で制しつつ、審神者である名前は役人へペコペコと頭を下げた。このなじみの役人は喋り方が軽いが、信頼のおける人物である。もともとは彼もかつて審神者であったとのはなしだが、なぜこんなにも刀剣男士は『政府の役人』という者に厳しいのか。
「彼らは彼らなりの理由があるんですよ。むしろ喜ばしいことってはなしです」と笑って言ってくれた彼は、本当に心の広い善い人なのに。

うちの子がすみませんと再度頭を下げれば、大丈夫大丈夫と軽く言われてしまった。血気盛んな刀剣男士は多いので、政府の役人は担当審神者の霊力が込められた守りを持っている。それさえあれば刀剣男士は刀は振るえても傷をつけることが出来ない為、恐ろしい形相の屈強な男が殺意を持って攻撃してくる恐怖のみで命に別状は…………役人というものはいつの時代もブラック感が満載で別の意味で涙が込み上げる。あの、ほんとうちの子がすみませんでした。

うーうー唸ってる同田貫と、じっとりと睨みつける小夜左文字を五歩ほど後ろへ下がらせて、呼吸を整えた。


「それで、彼は……」
「ああ、三日月宗近は車の中にいますよ。詳しくは先日送った資料と変わらず、後日改めての調査結果は此方になります」
「うううう」
「あ、泣かないで泣かないですごいここまで殺意の波動が」
「すびばぜん…」

もう調査書の字を見ただけで数々の悲劇が脳を駆け巡り涙があふれた。ブラックダメ絶対。
鼻をかんで涙を拭いて、車のドアが閉まるバタンという音を聞いた。




風が吹く。
数百数千の桜の花弁が、景色を桃色に染めた。夜がぽっかりと世界に藍色の穴を開けて、金色の月が静かに瞬く。



「お主が此処の審神者か。曰く付きだが悪さはせん。宜しく頼む」







狂気的な美しさだ。



何故か酷く恐怖を感じ、名前は後ずさった。下がらせていたはずの同田貫と小夜左文字が左右から名前を護るように前へ出る。

三日月宗近は桜吹雪の中で、不思議そうに首をかしげるだけだった。


←前 main|top 次→