見習いくんの趣味のせい
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へへっ…俺だってちゃんと…人に指導できるもん……もう…大人だもん……。
ぴたりとデコに手をあてられる感触がする。ああ、青江かな?なんかもう眠くてよくわからん。刀剣男士の手って冷たくて気持ちいいな。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ…」
「あしたにはすぐよくなりますよ」
「だいじょうぶ…貴方の宗三はここにいますからね」
「ねんねんころり、ねんころり…」
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朝ちゅんの号令で布団から飛び起き、右見て左みて宗三がいて悲鳴をあげた。
「宗三がめっちゃ優しい悪夢みた。こわ…風邪ひいたせいか…?尋常じゃない恐怖体験…」
「仕事が溜まっています。働いてください」
「慈悲もねえな」
ぶつくさと文句を言っている宗三を回避しつつ、万全になった体調を確認する。おめめぱっちり頭痛もない。健康体最高かよ。外から聞こえる堀川派うきうきラジオ体操のBGMに合わせて背筋を伸ばしながら、障子を開けた。
見習いくんが庭を掃き掃除している。
俺に気付いて一礼し「おはようございます!」と声を張り上げる好青年は、一般からの志願で審神者適正テストを受けたらしい。黒服のお兄さんたちにスカウトされなかったの?と来たら顔を引きつらせていた。怖くないよ、あのブラックメンたちは優しい筋肉だったよ。
前回は見習いが女だったので俺の顔のまずさが引き立ち、刀剣男士かっこいい!と惹かれる要因になったのではないかと、担当さんに言葉で殴りかかられたので「じゃあ見習いは男の方がいいですね。そういえば5年付き合った彼女さんへのプロポーズどうなったんです?ねえねえプロポーズの結果どうなったんです?ご祝儀おくらせてくださいよ〜〜〜〜」と言葉で殴り返しておいた。
泣きながらリアルパンチ喰らったのを、青江は俺が3発殴られ3発殴り返してから止めてくれた。俺がダメな子だと知っている青江はやりやすいなあ!これが一期や長谷部だと担当さんvs高練度刀剣になって地獄の様相だもんな!
最後は二人で「言われるほど不細工じゃ無い…燭台切はずんだもちみたいで可愛いって言ってた…」「なんで俺を捨てたんだ●●―!遠くの恋人より近くの間男かっクソ!くそおお!」と抱き合いながら、カラオケで青江の熱唱する歌えバンバンを聞きつつ泣き崩れた。
そうしてやってきた見習いくんはかつての俺を思い出させるピュアホワイト見習い。今度は失敗しないようにと、世話係につける刀剣も吟味した。
改めて見るとほんと心が痛い。あいつら大なり小なり俺と似てて申し訳ない。ごめんなほんと…俺がアホガキだったせいでお前らまで阿呆になって……ほんと許してくれな…。
はじめは青江に頼んだけど「君を長谷部くんだけに任せることはできない。…近侍って意味だよ?」と断られた。ごめんな…お前ら二人がかりで俺の世話焼いてたんだな…でも長谷部もけっこう俺に似てるとこあるからスマンな…。
結局お世話は人当たりがいい・世話焼き・ホウレンソウが徹底しているという理由で鯰尾に頼んだ。「いちにいお世話係失業ですねm9(^Д^)プギャーwww」と煽って実兄に真神風車固めを喰らっていた。ごめんな…俺が一期を共にして現世のプロレスを見に行ったせいでごめんな…。見た目の場違いさからヒールレスラーに絡まれて、飛び込みでリングに上がってベルト奪ってきたこと、担当さんに怒られたくないからみんなに内緒にしててごめんな…あいつ一目見て技を盗んできたんだ…。
そうしてさわやかに卒業し、見習いくんにトンパ文字で俺も読めない真名を授けて3カ月なんだけど。
なんかね。
担当さんから「ブラックの通報きたんですけど責任とってきてください」って言われちゃってね。俺ね。
「お前を使う事になるとは思わなかった。…行くぞ、ダイヤモンドチェーンソーくん一号」
蔵の手前の割とよく使うコーナーに置いていたチェーンソーを持ち、ポーズを決める。
うん、くっっそ重いけどなんとかなりそう。大丈夫、このために二百年くらい前のホラー漫画読んだから。血まみれのスケバンがチェーンソーでゾンビぶったぎる本読んだからたぶんなんとかなる。
覚悟を決める俺の背に、青江の静かな声が届いた―――。
「落ち着きなよ。まずは話を聞いてから、ね?
とりあえずそのホッケーマスクは外そう。13日の金曜日に出てくる怪物は、チェーンソーじゃなくて鉈を愛用していたんだよ」
「えっマジで?」
「そうそうまじまじ。だからこれは置いて、午後から蜻蛉切くんがこれを使って裏庭の拡張工事をするからね。
君は大人しく宗三くんを連れて行ってらっしゃい」
「今宵の僕は血に飢えていますよ」
「何言ってんだ朝だぞばーか」
「バカって言った方がバーカ!!」
「はいはい、いってらっしゃい。人に迷惑かけちゃだめだよ」
なんか軽くあしらわれたような気がする。
フンフンと鞘を振り回しながらやる気をアピールしてくる宗三は、「恩知らずは死ぬべきです」と真顔で言い放った。やだ…こわ…もっとやれ。
あんなにさわやかだった見習いくんが、まさかよりにもよって自分の宗三左文字を…。
「こいつはお勧めしない。うちのが特殊だとしても元から癖が強い」と説明して尚、強く望んで初期刀にした宗三左文字を虐待している…とは…。
きみにはガッカリしたよ。
みならいくん。
ギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュル 「やあ、久しぶり」 ギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュル
「師匠!怖いです師匠!!」
「うるせえ!ねえお前ぶらっく?ぶらっく作った??ねえねえ?」
没収されたチェーンソーの代わりに個人で持っていた非殺傷設定のチェーンソーを持ってきた。大丈夫大丈夫、非殺傷設定だから。安全シールはってるから平気。
居間でお茶を飲んでくつろいでいた元見習いくんと、その初期刀である宗三(ノーマル)が俺の派手な登場に戸惑い戦いていた。同じ刀が二本あってわかりにくいので、俺のはクルマサカオウム(仮)と呼ぶことにする。
クルマサカオウムは土足で登場して勝手に卓袱台の上のお茶を飲んでいた。
「俺、常々思っているんだよ…。いじめは傷害罪、万引きは窃盗罪って…正しく呼んで罪の重さをわからせねばならないって…。お前は罪人だということを言葉で理解させなくてはならないって」
「は、はあ…そうですね…?」
「だからブラック本丸も『歴史修正阻止法違反国家反逆罪』ってちゃんと呼ぼうってずっと訴えてるんだけど!!!
高練度審神者による新人育成法第9条!見習い卒業後5カ月以内に元見習いが歴史修正阻止法違反国家反逆罪に接触した場合!!その師は担当者との協議の元、国に必要書類を提出し、如何なる法をも無視し再指導にて更生させねばならないいいいいいいいいい!!!?!ねえ!!通報!!来たけど!?どういうことかな!!?」
「えええええええっっ!?」
「いいぞもっとやれ!右眼を潰せ!」
「や、やめてください!」
うちのクルマサカオウムが無責任に声援を送る横で、宗三(ノーマル)が元見習いくんの前に躍り出てきた。練度はまだ20にも達していないが、気丈にも俺の非殺傷設定安心安全チェーンソーくんに対峙している。さすがに暫定被害者に攻撃はできないためスイッチを消すと、あからさまにほっとした顔で構えた刀を下におろされた。
「何か勘違いをされています…主は、決して悪事など侵してはいません…!」
「そ、そうです師匠!俺は何もしていません!」
同じ分霊なのに幸薄い感が半端ない元見習いくんの宗三と、うちのふてぶてしい宗三を同じ視界にいれないように眼を逸らした。
「初期刀を酷く怒鳴りつけている新人だって、通報されまくってるんだよ!!」
「違います!信じてください師匠!俺はただ、宗三に口汚く罵ってもらうために演技指導しただけです!!」
「申し訳ありません…!僕が、僕がうまく罵倒できなかったせいで…!!」
「わかりました。この主従、僕が全力で説法ぱんちします。慈悲も無し是非も無し」
止める間もなく宗三(ノーマル)に説法ぱんちをいれて一撃重症を負わせたクルマサカオウムを抑え、怯え震える元見習いくんに事情聴取を行った。全部省略したい。
元見習いくん曰く――――「師匠の宗三左文字が、理想の女王様だったんです」
普段は好き放題奔放に生きているのに、相手が弱るとそっと近寄り付き添い優しく甘やかしてくれる。そんな宗三左文字が欲しかったのだと――――。ごめんそれ誰。あとこのオウムは雄です。
とにかく、マゾはマゾでも心の強いドМだった元見習いくんは、宗三左文字とはそういう刀だと思い込んだ。が、来たのはノーマルの…どちらかというとごく普通の宗三左文字よりも、一際大人しい性質を持った分霊がきたらしい。
そんな大人しい宗三に台本を渡して「さあ罵ってくれ!」と言われても、突然の変態プレイに即座に順応できる刀剣はいない。人間でも別料金が発生するレベルだ。
「いやらしい眼で見ないでください。この下賎な豚め」
「はあ!??この業界舐めてんの??もっと吐き捨てるように辛辣に!!」
「…申し訳ありません」
と、地獄のような演技指導に物陰でそっと涙をこぼす宗三を、演練相手やこんのすけが通報しまくったのが今回の顛末だという。元見習いくんには俺の渾身の壁ドンで「ばっっっかやろう…!!」とキレておいた。
その後クルマサカオウムに引き渡し、「こういうことがお好きですか。とんだド変態ですね、呼吸を止めてください。僕が吸うぶんの酸素に貴方の吐き出した二酸化炭素が交じると思うと不愉快でなりません」と罵倒と共に軽快に対人間用のビンタを繰り出す音を聞きながら、担当さんに報告メールを送る。ドMは10回目くらいまでは「ありがとうございます!」と言っていたけど以降はオットセイみたいに鳴くだけだった。
ほっぺたパンパンにした馬鹿野郎に説教し、「貴方を慕う僕の気持ちを疎んで…このような試練を与えになるのでしょう…」と悲しげに俯く宗三(ノーマル)に押し付けた誤解を強制解除。
和解に喜ぶ宗三(ノーマル)の美しい笑みに目頭が熱くなった。
「チッ、無駄な時間を過ごしました…。さっさと帰りましょう、今夜はすき焼きですって」
そーだよな。ああいうのが宗三左文字なんだよな。この大股開いてノシノシ歩いてるのはなんか違うんだよなあ…。
「そういえばさ」
「はい?」
「お前が俺を甘やかしてくれたことってあったっけ」
なんかそういうこと言ってたけど、覚えがないな。
先を歩く宗三はスピードを一切ゆるめず「知りませんねえ。熱病にでも罹ったんじゃ?」と軽く言い捨てた。
こういうやつだよ、俺の宗三は。あいつも変な夢でもみたんだな、きっと。
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