商人は見限りが早い


スィンドルはナマエが思っているよりは数千倍、ナマエの事を好きだった。スィンドルは嘘を言わない。敢えて情報を伏せたりはするが、彼がナマエに伝えた言葉は全て真実だった。

顔が良いから貰い受けることに決めた。つまり、【あなたに一目惚れしました。私のものにしたいのでそうしちゃいます】という意味で、愛の言葉でもあったのだ。当然のことながら伝わらなかったが、スィンドルはそれで構わなかった。もともとまともな性格ではない。好かれようと取り繕っても、どうせいつか化けの皮が剥がれる。恋愛について集めた資料に[ありのままの私をみてほしいの]という甘ったるい言葉を見て鼻で笑った。そうそう、私もそう思いますよお。そして幻滅されて終わるんですよね。ですよねえ〜。

どういう理由だかはわからないが、ナマエは自分のデータを一部削除改竄していた。そのおかげで無気力になり、ナマエはスィンドルがいなければ飢えて死ぬか宇宙空間の何処かに流されて消えるかの二択だろう。そう、ナマエは自分がいなければ生きていけない脆弱な生き物だ。

スィンドルは嬉しくなった。

彼は強欲で愛なんてよくわからないが、執着だけは誰よりもよく知っている男だ。この世の全てはギブアンドテイク。そして賢い者が丸儲け。
ナマエが欲しい。ナマエが生きるためには私が必要。私がいなければ無様に惨めに死ぬだけのナマエ。考えるだけでワクワクした。惨めったらしく縋り付いてくればいい。そうしたら、仕方ないから優しくしてあげよう。生きるために精一杯媚びて、私の名前を呼べばいい。そうしたら私も、仕方ないから構ってあげよう。




それなのにナマエは自分でエネルゴンを摂取もしなかった。緩やかな自殺に身を投じている。いくらなんでも無気力すぎる。素人が勝手にデータに手を加えたせいでバグが生じているのだ。ああもう、ナマエはなんて馬鹿な子だ。

本当は専門外なのだが、武器を作るついでにデータを弄るスキルを持っていたスィンドルが仕方なくバグを潰していった。そのついでにメモリをちょっと引き出してナマエの過去をモニターで見てみれば、どうしようもない腰抜けの映像が流れた。大爆笑だ。こんなに笑ったのは初めてという勢いで笑った。こんなクズ見たことない。いや間違えた、私の目の前にいるこのクズがあのクズだ。笑いすぎておなかいたい。
不満気な顔をしたナマエにバグが消失した事を確信し、軽口を叩く。

『そんなクズを飼ってあげている私はなんて優しいんでしょう!』

『ああ、俺も思う。スィンドルはたまに優しくなるな』






何言ってんだこいつ。









スィンドルは愛をよく理解できない。しかし執着だけは誰よりも知っていた。でもそれは、相手の利用価値を知ってでの執着。もしくは嫌悪由来の執着しか知らなかったのである。

自分が真っ当に好意を持たれるハズなんてないので最初から諦めた。生きるために、嫌いな私を嫌々利用して執着すればいい。その為にスィンドルはナマエの前では取り繕う言葉ひとつ言わず、率直で傲慢で辛辣な素の自分を晒していた。これのどこが優しいという。だったら普段の営業トークでおべっかゴマすりしている時の自分はなんだ。天使か。架空の生き物か。

うわ気持ち悪い。胸のところがゾワゾワする。あなたにそんなコメント望んでいない。

私はただ、私無しでは生きられない私を嫌う貴方が欲しいだけだ。


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