bgm, Kesha/ Praying

4 Over Dub 重ね録りの朝から聞こえる夜



起きる、顔を洗う、
湿った服を洗濯機に放り込む。


いつも通り居ないのに居たことだけが解る違和感の中、カーテンを開ける。窓を開けて新しい風を取り込む。新しい空気を、目一杯に吸い込む。それでもまだ、新しい何かが始まった実感は得られなかった。
失くしてしまった喪失感からか、病の山を超えた時のような、すうっとした感覚が胸にある。



どうして勝手に開けちゃうの。
終わっちゃうじゃない。

どうしようもなかったけれど、終わりたくなかった。
解っていたけれど、続けていたかった。



向かい合ってこなかった私達に未来はあるのかと言えば、どう考えても真っ暗だった。いい方法が解らなくて毎日霧の中に居た。きっと素直に、報われなかった可哀想な気持ちを言えていたら良かったんだと思う。


約束を信じて疑わず、作っていた御馳走を捨てた夜明け前の虚しさや、自分では無い誰か違う人に触れるシーンを切り取ったお騒がせな雑誌を見てまんまと嫉妬を煽られた事、自信がなくなって愛があるのか疑った事、確かめたくてできなかった事、デートの途中で居なくなってしまった事より、甘い顔して言った埋め合わせがやってこなかった事、記念日を忘れたことじゃなくて好きだと言葉にしてくれなくなった事、あんなに惜しみなくくれていた愛の言葉を「そんなこと」に変えてしまった事。酷かった事なら幾らでもあった。



多分、敗因なら好きすぎた事だ。


伝えようとした時の、
あの歪んだ顔が嫌いだった。


後悔と謝罪に満ちた傷付いたような表情が可哀想で見たくなかった。同じように傷ついた自分を棚に上げてでも見たくなくて、そんな顔を見るくらいなら何も気にしていない事にした。
同じようにドライになればそんな風な自分でいられた。それはフリでしかなくて、実際には薄ら残った傷がいつ露呈するかの、引き伸ばし続けるだけの日々になる。まだ、なんて事はない、まだ、――まだ。



間違った選択の結果、
より酷い顔を見るようになって、
次は顔を見られなくなった。

見詰められるのが大好きだったのに、
もうそんな資格はないように思えて目を逸らす。
そうやってひざしの顔は歪んでいった。



好きな人には笑っていて欲しいのに、
与えられなかった。
ドライなフリを選んだ癖に、傷を捨てられなかった。
どうしようも無いまま、
それでも終わりたくなくて、もっと苦しめた。


辛いと言った昨日の言葉が忘れられない。一番見たくない顔をして辛いと言うその痛々しさ、ごめんねに有り余る後悔、今更抱き締められない自業自得、それでも香る、絡まった思い出。そうして背中に感じた手の感触がスイッチを押した。

大好きだったが溢れ出て、ごめんねの代わりに零れたのは自分勝手な寂しさだったのに、決めた事を貫き通せなかった私をそれでもひざしは抱き締めてくれた。掠れる柔らかなキスが毒を抜いてくれるのに寂しさが埋まらない。辛かったのは同じなのに、これ以上は傷付けると解っても心の底から寂しいが止められない。


悲鳴を抱き合うような交わりが最後でよかった。
苦しそうに歪んだ顔を見ながらこれ以上こんな事が続いたら、痛みで二人とも消えてしまうかもしれなかったから。

大好きな温もりに包まれて力尽きた新しい朝に、ひざしはいない。これだけ埋め尽くされていた日々から真っ白になるなんて、今は全く想像がつかない。


少し風当たりがきつすぎたなと窓を閉めて、
カーテンも閉じる。
冷えた身体を抱き締めて、もう一度眠りたくて、
私は寝室へと踵を返した。



全部手放すところから始めたのは私だ。
それなのに、代わり映えしない朝を迎えた頭の中では
大昔の二人が笑い合う声がする。


自分の呻き声の裏側から、
まるでハチミツのような、
素敵な勘違いの歌が聞こえる。




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