「で?で?で?」
告白の翌日、俺はどうだった!とニヤつく彼奴に連れ出されて朝っぱらから駅前のファストフード店にいた。
とりあえず頼んだコーヒーを飲みながら、目の前で早く聞かせろとワクワクしているバカに一言、お前と一緒と結論だけ告げるとさっきまでその切れ長の目をこれでもかというほどキラキラさせていたのはなりを潜めて、え?と理解できないとでも言いたい顔が現れる。
真顔ならタレ目がちの俺よりよっぽどクールな顔立ちをしているのにそれに似合わず昔から表情豊かなやつだよな、と関係ないことを考えてる俺の肩をガッと勢いよく掴んだ奴はさてはお前昨日何かしたのか!と見当違いな事を言いながら俺を揺さぶった。朝の人の少ない時間とはいえ他の客がいないわけではない。彼奴が大きな声を出したせいで周りから不審なものを見る目を向けられる羽目になり、昨日からダメージ続きのメンタルはさらに抉られた。
「なんか雰囲気は脈ありそうだったのに泣いてごめんなさいって言われた」
立ち直れねーよとテーブルに突っ伏す。
そんな俺の頭上で「でも」とか「そんなわけ」とか聞こえたけれど、どうでもいい。
「やっぱりあのアメリカの君が忘れられないんだろ」
いっその事その男になれたいいのになんて馬鹿げたことを思うくらいには失恋のダメージは大きくため息ばかりが口をつく。
お前がそんな落ち込むなんて小学生以来だなと彼奴が小さく漏らしたのが聞こえた。
「まぁさ、ごめんなさいだけなんだろ?まだYesかNoかは聞けてないんだからどんと構えておけよ」
「ごめんなさいはNoだろ」
あのなぁ、俺の時は溜めもなく瞬殺されたんだぞ「ありがとう。でもそう言う目で見たことないし、他に好きな人がいるから」って即答よ!あの子ったら血も涙もないんだから!と少しおどけて話す彼奴は身振り手振りしながら俺の反応を伺い見てる。
相変わらず俺が突っ伏したまま動く気配がないとわかると「まったく」とぼやいて突然俺の頭をわしわし掻き乱し始めた。
「零はカッコいいよ。俺が女だったら惚れてるって保証する。自信持て!」
最後に軽く頭をぽんぽんとして彼奴の手が離れた。
「微妙な保証だな」
「うるせぇ」
自分のコーラをずびずびと音を立てて飲みきった奴は、人の失恋話を聞きながらもしっかりモーニングセットを食べ切っていて俺のコーヒーが残り半分ほどある事を確認すると早く飲めとせっつく。
「勉強は1日忘れて遊ぼうぜ」
今日は工藤優作の新作の推理小説を読んだ後、狙ってる大学受験に向けて勉強する予定だったけれど。
満面の笑みでカラオケとゲーセンどっちがいい?と誘う奴の顔を見たら今日だけはいいかと絆されてしまう。食べ終わったゴミを捨てる奴の後ろ姿に、しょうがない。と残っていたコーヒーをぐっと飲んで後を追った。
トイレに行ってくるから外で待っててと消えた彼奴と一旦別れ、先に店を出ると昨日と同じ春の陽射しが眩しくて思わず顔に手をかざす。何をするわけでもなくぼーっと駅前の大通りを走る車を眺めていると、車線を挟んで反対側の歩道に俺と同じくらいの年頃であろう男が同じように人を待っているのか佇んでいるのが見えた。
黒髪に眼鏡だったが、所謂イケメンと呼ばれる部類の顔をしているのがこの程度の距離ならハッキリ分かる。向こう側歩く女子大生らしき集団が色めいて少年に声をかけていたが首を振った彼に残念そうに去って行った。
「何見てんの?」
「いや、別に」
やってきた彼奴が俺の視線の先を辿る。
「お、ゼロとは正反対のタイプだけどかなりのイケメン発見。ゼロってばフラれたからって男に乗り換えるの?」
俺も貞操の危機?とふざける馬鹿を無視して「帰る」と目的地とは反対方向に歩き出せば、慌てて引き止められた。ごめんごめんとヘラっと謝る奴の額に思いっきりデコピンをしてやると大袈裟に痛がられたが一応失恋したての俺を揶揄ったんだからこのくらいされても文句は言えまい。
「あの真面目系イケメンくんなら絶対こんな仕打ちはしないだろうに…」
「俺だって真面目だよ。学年1位は譲ったこと無い」
「いや、見た目の問題」
そう言った後、俺の冷たい眼差しにやばいと思ったのか彼奴は俺のリーチから外れるように一歩後ろに下がって「行こうぜ」と目を合わせず俺の後ろにある駅の方を指差した。
もとより言い争うつもりもないのでそれに従い踵を返すと、歩き出した俺の後ろであいつの「あ」という間の抜けた声がしてなんだよと振り返る。その視線はさっきのイケメンの方に向いていて何の気なしに其方を見れば、そこには待ち人が来たのか顔を綻ばせるイケメン。そこに駆け寄ってくる女性はさっきまで俺たちが話していた人物、紗織だった。
紗織は普段はしていない眼鏡をしていたが見間違えるはずはない。男友達くらいいるってという彼奴のフォローも虚しく2人は軽く抱き合うとキスをした。
見ていたくない。
紗織の頭を撫でる男の姿を最後に、その光景に背を向けて歩き出した俺を駆け足で追ってくる足音がするが構っているほど余裕がなかった。きっと彼が紗織が国を越えてまで会いたかったアメリカの君なんだろう。隣で心配そうに俺を見てる奴が言うように正反対の男だった。中身はどうかなんて知らないが俺は金髪だしイケメンと持て囃されることはあるが同じくらい軽く見られることもある。あんな風に落ち着いて真面目そうな雰囲気は生まれ持った容姿からして到底違う。
「悪い。帰る」
とてもじゃないけれど遊ぶ気分にはなれない。俺を呼ぶ彼奴の声も無視して帰宅した。
夕方になって紗織から着信があり、出れずにいたら留守電にメッセージが残されていた。
"昨日はごめんね。零に話したいことがあるから会えないかな"
会いたくないと思う気持ちもあったが、返事をしないのも嫌で紗織にメールを返す。
"明日空いてる"
なんだかすごく疲れた。自室のベッドに携帯を放り投げ、参考書にノートを挟んで閉じる。形ばかりは勉強をしたものの何1つ頭に入ってなどいない。
腕で目を覆って天井を仰ぎ見ていたらメールはすぐに返ってきた。のそのそとベッドに這い上がり放り投げた携帯を開いてメールを確認する。
”明日13時に駅前のウェルカムバーガーの前で待ってる"
またウェルカムバーガーか。
昨日まで会えるとなったら何を着て行こう、どこ行こうとワクワクしていたのに、今は気が重い。明日にならなければいいのに。
了解とだけ返事をして、スウェットを掴んだ。起きていても生産性がないのだからさっさと風呂に入って寝てしまおう。
再度携帯を放り投げて部屋を出た。