One scene of the youth

俺は人生初の彼女を連れ、自宅に向かっていた。
紗織はテスト前の勉強などで何度もうちに来たことはあるが、肩書きが彼女となった今、妙に緊張してしまっている俺がいる。そもそも付き合って早々自分の家に彼女が来るという状況はそうないとは思う。
うちに来る理由が我が家で寛いでいる彼奴に話したいことがあるからとはいえ、独り暮らしの自宅に彼女。17歳の男が考えてしまうことなんか1つしかないだろう。

邪な考えに支配されている俺の横を手が触れないギリギリの距離で歩いている紗織は、そんなこと考えていないだろう笑顔だ。

学校での冷たくも見える凛々しさは影を潜め、るんるんとでも効果音が聞こえてきそうなほど喜びを表現する紗織の横で俺がそんな葛藤をしているうちにあっという間に家に着いた。

鍵をあげて紗織を家に上げると勝手知ったる人の家とばかりに自らスリッパを出して履いている。彼奴は起きただろうか。
とっくに家に上がっているのにリビングの扉を開けながらお邪魔しまーすと言う紗織。毎回思っていたがお邪魔しますのタイミングが違う気がする。

彼奴が寝てるかもしれないと言う前情報を持っていた紗織がそっと扉を開けるのと同時にきゃっ!と可愛らしい声が上がった。玄関で鍵を閉めていた俺は何かあったのかと慌ててリビングへ飛び込む。するとそこにはボクサーパンツ1枚の姿でしゃがみ込む彼奴と、ポカンと驚いた顔をしている紗織がいた。
状況を察するに、悲鳴をあげたのは紗織ではなさそうだ。

「紛らわしい声を出すな!」
「スミマセン」

立ち尽くす紗織の視界から半裸の馬鹿を遮るように前に立ち、早く服を着てこいと追い出す。そう言えば去り際視界に入った下着は俺が買ったばかりの未開封で置いてあったものに似ていて、手早くシャツとパンツを身に付けて戻って来た奴を問い詰めれば、勝手にシャワーを浴びて勝手に下着を拝借したのだと白状した。

自由すぎる幼馴染みにため息を吐く俺とその前に正座する彼奴。怒ってやろうかと思ったが紗織が笑っている顔を見たらまぁいいかと毒気も抜けて奴は無罪放免だ。
俺の怒りが鎮まったと分かった彼奴は途端元気になって、付き合った!?ついに!?とテンション高めで質問攻めにしてくる。紗織がなぜかそんな彼奴にありがとうと言っていて、耳打ちをするものだから少しばかり視線が厳しくなってしまうのも許してほしい。

「そんな怒るなって」

俺と紗織2人だけの秘密!と紗織の肩を抱く奴の手を叩き落とす。ゼロさん怖っと言う言葉とは反対に奴の顔は笑っている。秘密と隠された内容は気になるけれど2人の様子を見ているとまぁ無理に言わせる必要もないかな、と思えた。
そして、紗織がわざわざ出向いた伝えたい事とやらはたった一瞬で終わるそれだけだったようでそこからは3人で勉強をしたり、くだらない話をしたり、腹減った!と騒ぐ彼奴に紗織がサンドイッチを作ったり。いつも通りの休日となったけれど、帰り際彼奴が見ていない隙に背伸びした紗織の唇が頬に触れた事で今日の出来事がいつも通りじゃない、と改めて実感した。

「零には挨拶じゃないよ」

小さな声が聞こえて声の方に振り向くと、いたずらが成功した子供のような顔で紗織がこちらを見ている。
頬にキスもという行為にあまり抵抗がない故の行動だろうが、付き合って即日。まだ手を繋いだこともないのにキスをするとは思わなかった俺は固まってしまった。キスされた。

「あー!零お前顔がスケベ!」

キスという事実を頭で理解したら、にやけてしまった自覚がある。間が悪いことにその顔を彼奴に見られて指をさして笑われる。

悪いか。嬉しいんだよ。

反射的に手のひらで口元を押さえたけれど隠しきれてない気がする。相変わらずニヤニヤしてる彼奴を追いかける俺等2人を優しい顔して見てる紗織を家に送り届けたら、理由もなく電話してみよう。

彼女と何を話そうか。これから何をしようか。考えたらワクワクしてこれから何でもできてしまうような気がする。

追いかけていた奴を捕まえて「ありがとな」と素直に感謝を口にして見れば、信じられないものを見たとでも言いたげな顔で俺を見た彼奴だったけれど、笑顔を浮かべたまま手の甲を抓る俺にゴメンゴメン!と素早く謝ってその顔をふっと崩す。

「あーあ。お前に負けるのこれで何回目かなー」

俺にも早く春こーい、ともうほぼ沈んだ夕陽に叫ぶ馬鹿を紗織と2人並んで笑った。
imy.