誕生の花





「明日俺の誕生日なんだけど、名前は何してくれんの?」

五条から電話があり唐突に聞かれた。
拒否権も与えられない内容を唐突に突きつけられ、えっと。と躊躇う。

窓の報告から三級の呪霊の存在が確認された群馬の田舎に、初めて会う二級呪術師の乙山さんという方と、補助監督の三好谷さんの三人で向かった。
乙山さんは基本無表情で、何を考えているのか分からない。しかし私の噂は耳にしているらしく、不愉快そうな顔を時折見せた。
別に貴方に危害を加えるつもりも、迷惑をかけるつもりもないですけど。
…気分は悪いが、任務はキッチリと二人でこなした。
ここ最近、日々の夏油との稽古のおかげか二級程度あれば卒なく祓えるようになった。自分でも更なる成長を実感し、満足感に浸る。二級に上がるのも夢じゃない、もっと頑張ろう!と向上心が高まるも、突然の着信音に身体がびくりと跳ね上がった。

携帯を開くと、着信相手には五条悟の文字。
五条が私に電話をかける事なんて、滅多にない。メールも殆どしないし、送られてくる内容なんてお土産の要求くらいだ。お土産の話かな?と内容を予想しつつ電話に出てみれば、冒頭の要求であった。



最近五条と会う機会が無く、誕生日の情報は聞いてなかった。片想いの好きな人の誕生日、どうするのが正解なんだろう…?
プレゼントを贈るにしても、五条の任務の収入額は私より高額だろうし、呪術師界の御三家の一家なのだから何でも手に入るだろう。
返答に悩み、沈黙を続けると耳元のスピーカーから「ねえねえ早く言えよー、何してくれんのお前はー?」と催促される声が聞こえ、咄嗟に「ケーキ買ってあげる!」と言うと「そういや最近気になってるケーキ屋あったから、一緒に買いに行こうぜ」と誘われた。
現在時刻21時過ぎ。今から群馬から高専に着くのは深夜になるだろうし、近くのビジネスホテルで一泊する事になった事を伝えると「じゃ現地集合で。後で明日の事メールしとくわ」と電話を切られた。

…切られて気づいた。
もしかしてこれはデートというやつでは…?ケーキ買いに行くだけだけど、任務でもない日に外で二人っきり?休みの日に五条と二人で出かけるのは初めてだ。うわわ、どうしようどうしよう。
嬉しくて思わず顔がニヤけると、乙山さんから「僕はもう帰ります。あ、あと気持ち悪い顔してますよ、名字さん」とサラッと毒を吐いて帰っていった。
こっちは幸せに浸ってるのに。苦手だ、乙山さん。

三好谷さんと一緒にビジネスホテルに素泊まりする事になり、布団に潜るがドキドキしてあまり眠れなかった。
規則正しい朝を迎え、眠たい目を擦りながら少し早めにホテルを出て、三好谷さんに昨日五条からのメールに記載されていた集合場所の近くまで送ってもらう事にした。

「今日五条さんの誕生日なんですか?その誕生日プレゼントを買いに?」

後部座席に乗るのも申し訳なく、助手席に座る。相変わらず車の運転が荒い三好谷さんは、法定速度を守りつつもレーシングの様な運転をしながら話しかけてきた。

「五条がケーキ買いたいって言ったんで、プレゼントとして一緒に買いに行くだけですよ。…やっぱり誕生日プレゼントって別がいいですよね?」
「んー、そうですねえ。ケーキだけでも嬉しいと思いますけど…でも、五条さんも名前ちゃんからプレゼント貰えるってなったら、もっと喜ぶと思いますよ」

ねっ!と言う三好谷さんは私の顔を見て親指立たせてグットサインを向けてきた。
ちょっと、前前前!信号赤になるからあ!


三好谷のおかげで集合時間の少し前には着いた。
誕生日プレゼントはケーキと言ったものの、やはりケーキとは別に誕生日プレゼントも渡した方が良いかなと近くの百貨店に入る。
昨日から考えているが、何を渡せば良いのかさっぱり分からない。何が欲しいか聞けば良かったかな?と思いつつも、サプライズ好きな五条を驚かせたいなと思った。
店内をぐるっと見て回り、出来れば形として残せるものがいいな…と考えていると、ブルーグレー色のマフラーが目に止まる。マフラーをしている五条の姿を想像しつつ手に取った。うん、生地も凄く気持ちいい。
…これに決めた。
高校生が買うには少しお高めの金額ではあったけど、呪術師の給与は結構いい。五条にはいつもお世話になっているし、とお会計を済ませて店員さんにプレゼント包装をお願いした。
マフラーを箱に入れて、包装紙で包む。丁寧にラッピングされたプレゼントを受け取って、約束の時間の十分前に集合場所で五条待つ事にした。

待つ。



待つこと……一時間。
時間が過ぎても彼は現れなかった。
あれ、もしかして私、集合時間を間違えたかな?一応、昨日の夜に送られてきたメールに書いてある時間と待ち合わせ場所を再度確認するが、間違いはなかった。
もしかして遅刻?…でも五条は怒るに怒れないような時間の遅刻しかしない。こんなに待つ事なんて今まで無かった。
風邪?もしかして途中で任務に入った?色んな可能性を考えつつ電話とメールをしても、反応はなかった。送りすぎもよくないなと思って、三十分に一回、二回送ったけれど返事はない。とりあえずもう一時間待ってみようと、待ち合わせ場所で待つことにした。

12月にしては寒く、はぁ、と息を吐くと白く現れ、空を見上げれば白い雪の結晶がはらはらと舞う。
朝出る時にテレビをつけると、『今日は雪が降り始め、昼過ぎには積もるでしょう。大雪になる可能性もありますので注意しましょう』と天気予報のお姉さんも言ってたっけな。
どのくらい積もるのか分からないが、帰れなくなると大変なのでそれ前までには帰る、絶対帰る。
チョコレートケーキが良かったなんて言っても、生クリームたっぷりのショートケーキを買って帰ってやる。
…強く決心するが、冷たい風が身体にまとわり、身体が震える。うう寒い。

もう今年ももう少しで終わるのかあー…。5月に高専の人達に出会って、あっという間だった。五条と出会って、一目惚れして、でも最初は全然素直になれなくて。…遠い存在のまま続くんじゃないかと思っていたけれど、なんだかんだで少しずつ普通に話せるようになったし、距離も少し縮んだ気がする。
それでも五条家との相容れない関係は未だに続いている。盗んだ呪具の事なんて最強の五条悟からすれば、そんな事を気にしていない事も分かっている。
しかし、必ず見つけて返すと誓った自分への約束が叶うまでは五条家には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。そしていつか、好き、という捨てたくても捨てられないこの気持ちを伝えられたらいいな。
自分の中で一年を振り返りつつ、ふと時計台を見れば、時間は先程見た時間から一時間経っていた。ポケットからケータイを取り出して開くが、五条からの連絡はない。
もしかして、怒ってたりする?不機嫌になるような事言ったかな?そんなマイナスな気持ちが散らつくも、ケーキ買っていけば許してくれるだろうと一番人気のショートケーキを購入して店を出た。
もし任務になってたとしても五条の強さなら半日で片付くだろうから戻ってこれると思うし、賞味期限もギリギリいけるだろう。あ…でも雪積もったら帰れないか?まあその時は一人でホールケーキ食べるもん!
電車を乗り継いで、高専へと向かった。



高専に戻ると、夕方になっていた。
高専の近くの駅を降りて、砂利道を歩いて来たけれど、まだこっちの方はさほど雪は積もっていない。少し時間がかかったけれど、雪も降ってたし、凍えるような寒さだったのでケーキも大丈夫だろう。

ただいまーと高専に戻ると寮の玄関の扉を開ければ、連絡が全く付かなかった本人が。五条は私の顔を見るや否や床に正座し、土下座しようとする。有り得ない光景にビックリして五条に近寄り、肩を掴んで土下座を止めた。
「え、五条どうしたの?!熱でもある?大丈夫?電話出ないし心配したんだけど」
「…した」
「へ?」
「寝坊、した。ごめん」
「あ…寝坊だったの?良かった、急に任務入っちゃったのかと思って」
「マジさっきまで寝てて、メールと電話気づかなかった」
「めっちゃ寝てたね?もー別にいいよ。はいコレ、とりあえず無難なショートケーキにしたけど良い?」
「…ありがと」

五条にケーキの箱を渡すと、ついて来てと言われたので後ろをついて行く。すると、初めて入る五条の部屋へと招かれた。
散らかっているのかと思えば、結構スッキリと整理整頓されている。二人きり、しかも好きな人の部屋に、ドキドキするが平常心を保つ。
おじゃまします。と言って部屋の中に入れば、座っててと言われ、ローテーブルの近くにクッションが置いてあったので座る。
五条の方を見れば、部屋にある冷蔵庫にケーキをいれる。テレビに冷蔵庫に電子レンジ。一応共有スペースにもあるけれど、結構部屋で充実させてるなあ。
五条は私の横に座り、私の手を掴んだ。そういえばずっと外で待ってたせいか、手が赤くなり、悴んで痛い。しかし暖房で部屋が暖かい為、少しそれも落ち着いてきた。

「何、お前ずっと待ってたの?」
「えっ、うん?そういえば雪降ってるよ。明日雪だるま作れそうだよ」
「ったく、ほんと…お前…」
「え、何?どうしたの?」

優しく私の手を包み込む五条の手、ゴツゴツしてるなあ。指の関節に触れ、確かめるように触るそのしぐさが、肌に触れるぬくもりが、じんわりと伝わる。

「…悪かった」
「寝坊の事?いいよ、五条も最近任務立て続けだったしょ?誕生日くらい休みなよ」
「あーー、、昨日桃鉄10年夜中に始めたのがダメだったわ」
「はあー?!ゲームしてたの?」
「だからごめんって」
「…まあ、任務とか怪我とかじゃなくて良かったよ」
「まあ最強だし?」
「うざー」

小さな事で言い合って、ふいに見つめ合ってしまい、笑いが込み上げて小さく笑うと、五条もははっと笑ってくれた。
一緒に外でお出かけ出来なかった事に怒ってはいない。少し残念だったなという気持ちはあるが、こうして誕生日に会えただけで嬉しいんだ。

「そういえば夏油と硝子は?」
「二人とも任務だってよ。俺の誕生日より任務優先するとかありえねー」
「仕方ないよ。それよりも帰ってこれるのかなあ」

五条の誕生日だから任務休み!なんてワガママが通るなんてことはあり得ない。夏油と硝子にメールを入れれば【雪が積もりそうだから、明日朝一になると思う】と連絡が来てた。
どうしよう、二人きりだけど大丈夫かな…と思っていると「とりあえず夕飯でも食べようぜ」とピザ屋のパンフレットを広げる五条。

「ピザ?」
「やっぱりパーティっつたらピザじゃん?」
「そうなんだ?」
「パーティやったことねーのかよ。俺が教えてやるよ、パーティの良さを」

とりあえずパーティーに必要なのはピザとコーラだと力説し、好きなピザの具を選ぶ。パンフレットにはたくさんの種類のピザがずらりと載っていた。

「名前は何ピザがいい?」
「何ピザって…こんなに種類あるの?」
「もしかしてピザ食べた事ない?」
「あるよ!でも普通の、トマトベースにチーズがのったやつしか食べた事ない」
「マルゲリータ?んじゃあそれとシーフードにしよーぜ」

ピザにシーフードがあるのか知らず、未知の世界を教えてもらった気分になる。五条的に美味しいから頼んだんだろう。彼が、好きな物は私も食べてみたい。

電話で予約して高専の前でピザの配達を待つ為、寮から出て領域外の入り口で宅配を待つ事にした。雪は以前とはらはらと降っており、多分朝には雪だるまが作れるくらいには積もりそうだなと思った。五条は部屋着のスウェットの上から着た、ブルゾンジャケットのジッパーを一番上まで閉じる。

「さみーな、上着着ててもさみー」
「明日雪合戦したいね」
「いいぜ、多く当たったヤツに罰ゲームな」
「言っとくけど無限なしだからね?」
「無くても勝つし。そーだ、夜蛾先生の頭をピコピコハンマーでぶっ放つって罰ゲームにしよーぜ」
「やだ!!死ぬ!!」

夜蛾先生の顔が苦手な私に対してだろ絶対!硝子はやらなさそうだし、三人になれば術師の実力順でいえば確実に罰ゲームは私になるだろう。
五条は寝起きで寒いらしく、身体をぴょんぴょんと跳ねて身体を暖めている。「このエリア担当のピザ屋仕事、はえーから直ぐ来ると思うんだけどなあ〜」と寒さに堪える時間が面倒くさそうだ。

「よくピザ食べるの?」
「まーたまに?傑とピザ食べながら映画観たりしてるけど」
「映画!?」
「観る?昨日何本か借りてきたけど」

そういえば五条の部屋のテレビ、談話室のテレビと同じくらい大きかったな。
中学生の頃、クラスメイトが話題になっている映画を観に行こうと話しているのを聞いて、少し羨ましかった気持ちをふと思い出した。
映画はあまり観た事がなかった。映画館に行った事は無いし、放映されて一年後くらいにテレビで放送されたのを見たことはある。だから丸々一本通して観た事はなかった。中学時代の心残りと興味心で観たい、とポロっと口から答えが出てしまう。

「んじゃあ後で何観るか決めよーぜ」
「え、観るの?」
「観たくねーの?」
「…いや、見たいデス」

即答されると思わず、聞き返してしまった。五条の誕生日なのに、私が誕生日プレゼントを貰ってる気分になる。まさか一緒に映画が観られるなんて…。ふと、五条が私と一緒に居ても文句言わなくなったの、いつからだっけ。と頭の片隅で考えていると、ピザ屋の宅配バイクが来た。

配達されたピザをテンション高めで持ち帰り、借りてきたというDVDから一本選んでピザを食べながら観ることに。五条が気になっていた映画を観ることにしたが、ピザは空腹で序盤の方にぺろりと食べてしまい、後半はずっと映画に夢中になってしまっていた。映画って凄い面白いじゃん。

「赤か青しか選べないって究極の選択怖すぎでは…?」
「映画なんだし、そーいうもんだろ。名前ならどっち切る?」
「うーーん…赤かなあ。青好きだし、好きな色って切りたくないじゃん?」
「お前青色好きなの?なんで?」
「えっ?!いや、特に理由はないけど…」

やばい、五条の目の色だから好き。なんて理由恥ずかしくて言えない。幸いそれ以上は踏み込んでは来ず、フーーンと相槌を打たれる。
DVDをデッキから取り出した五条はまたテレビの近くでガサゴソと何かしているようだ。「何してるの?」と聞けば「パーティーといえば、戦闘も必要だろ?」とキメ顔を向けてきた。いやかっこいいけど、なんかムカつく。パーティーに戦闘…?どういう事だ…?





「あっ!やっ、ねえごめんなさいっ、五条もうやめて」
「やーだ、ほらこっちこいって」
「むりっ…ねえわかんないっ、手加減してっ」
「下手くそだなあ〜、んじゃあこれで終わりな」
「やだあ!もっ…やっ!ああああっ!!」

GAME SET


テレビの画面に試合終了の文字が流れる。
私のピカチュウは可愛いプリンによってボコボコにされた。どこからか引っ張り出してきた四角いゲーム機をテレビに繋いだ五条は私にコントローラーを渡してきた。何が何だか分からず、レディゴーの合図でゲームが始まった。ちらっと五条の手の配置を確認し、そこを押すのか?と、とりあえずボタンを押すが、どこがどうなってるのか分からない。そりゃあ負けるに決まってる。

「お前スマブラ下手くそすぎ、名前のコントロールの使い方めちゃくちゃなんだよ」
「だって分かんないんだもん、ゲーム今までやった事ないし」
「お前俺よりおぼっちゃまなんじゃねーの?貧ぼっちゃまか?」
「ただ単に興味がなかっただけですう」
「そっかお前友達居なかったしなあ〜」
「五条、リベンジする。絶対負かす」
「リベンジの前にちょっとはコントロールの使い方覚えろよ、ホラ」

五条は立ち上がると私の後ろに座る。私の背後から手を回し、コントローラーを握る手の上に、細くてゴツゴツした手が覆い被さる。思わず「ぅぇっ?!」なんて変な声出してしまった。背中に五条の存在が伝わって、やけに熱い。

「スティクが移動でーAが攻撃な?んで、こことA押せば強いやつなるから、Bは必殺技な?分かった?」
「わわわかんない!」

今まで経験したことの状況に頭はフル回転して、ゲームの事なんか頭に入ってこない。ここがA?B?えあれ?攻撃?なんだっけ?!というか、この状況早く終わってくれないと心臓パンクしそうだ。

「はあ?分かんねーの?しょーがねーな。一戦一緒にやってやっから覚えろよ」
「ええ?!やっ、ちょっ!」

やめてほしいのに、私の手は彼の手によって動かされ、言葉も交わす事も許させず操作説明をしてくる。ここは割り切って五条の言う事に従わないと、この心臓が止まりそうな行動に終止符が打たれない気がする。
完全に五条のせいで故障した頭に手の動きと操作方法を叩き込む。呪術師やってるからいけんだろ私、なんて意味不明な自信をつけた。
コンピュータとの一戦は彼の手の動きに任せていたので、直ぐ終わった。「こういう感じ。わかった?」と聞いてきたので「分かった!すごく分かった!」と言えば、五条は手を離し、背後から隣に側に移動した。

しかし私の脳内には中途半端な記憶しか残っておらず、ていうかあの五分ちょっとで完全に覚えられるわけがない。「本当に分かったのかよ?」と言われ「分かってますから勘弁してくださいっ」と先程の状況になるのを恐れ、泣き言を言えば「しょうがねーなあ、特訓するぞ」と悪巧みする顔を向けてきた。ほんと意地悪だ。しかし、弱えーなって言いながらも、私に合わせてゲームをしてくれる。いつも睨み合ってるのが嘘みたいで、楽しかった。


少しスマブラにも慣れてきた頃、壁にかけられた時計に目を向ければそろそろ23時を指す頃だった。
日付も変わるし、そろそろ自分の部屋に戻ろうかなと思い、話しかける。

「五条、ケーキどうする?」
「んあーちょっと食べる。明日残り皆んなで食おーぜ」

そういって冷蔵庫からケーキを出して、小皿とフォークをテーブルに置いた。そういえば、まだプレゼントあげてなかった。「食べるかー」と腰を下ろした五条に「あ、あげる」と少し声が裏返りながら、プレゼントを渡した。

「…何これ?」
「…お誕生日おめでとう。誕生日プレゼント、です」
「え、誕生日プレゼント?ケーキだけじゃねーの?」
「そう思ってたけど…あげたくて。あ!気に入らなかったら、全然いいから」
「まじか…ありがと」

開けていい?と興味津々な顔で包装紙をビリビリと破いて開けながら言うので「もう開けてんじゃん」と笑いながら言ったけど、私の心臓はドキドキしていた。好きな人にプレゼント渡すの、緊張するなあ。
五条は箱からマフラーを取り出すと、キラキラした目でマフラーを見て早速首元に巻く。

「ど?似合ってるくね?」
「うん、似合ってる。かっこいいよ五条」
「…名前?」

私の選んだマフラーを五条がつけてくれる。ブルーグレーの色が五条の白い髪と、薄い肌と、その綺麗な瞳に馴染んでいる。
ああ、ずっと見てたい、触れたい。五感で彼を感じて、自分の物にしたい。綺麗で、見惚れて、少し頭がぼおっとする。

「ねぇ五条」
「ん、何?」
「あのね…私ね、五条のこと、」
「やほーー五条お誕生日おめでとーーーー」
「ちょっ、硝子」
「あ」

いきなりドアが大きな音と共に開き、振り向くと夏油と硝子がケーキの箱を持って現れた。が、その顔は固まってた。夏油は「だから言ったのに…」と頭を抱えて、「やべ、やっちゃった」と硝子は私に向けて片手でゴメンと謝ってきた。
…え、ちょっと、私…さっき五条に、なんて言おうとしてたの。ぶわわわっと顔が熱くなるのを感じる。

「おー二人とも終わった?雪大丈夫だった?」
「あぁ、積もってるけど大丈夫だったよ。さっき終わって、硝子と合流してね…」
「わわ私ちちちちょっと飲み物とってくる!!」
「あっちょ、名前ごめんー」

私は部屋から抜け出し、自販機へ走る。
後ろから硝子が「マジ空気読めなくてゴメン」と謝ってきたが、私からすれば、あそこで硝子と夏油が来てくれて助かった。
私は、何を、五条に、言おうとしてたの…?


後日、硝子に五条の誕生日にマフラーをプレゼントしたと伝えると、それって五条に夢中だよって意味あるの知ってた?と言われて、また取り乱してしまった。
…夢中になのに嘘はないんだけど。

どうか五条がその意味を理解してませんように。