囲う花





※お酒と煙草シーンは二十歳になってから!


二連チャンだった任務が終わり、夕方に寮へ帰ってくれば、硝子と廊下でばったり会った。

「おっ、丁度良い所に。今から皆で鍋パするよ、名前も来な」
「鍋パって…鍋パーティー?!」
「そうだけど、何でそんな喜んでんの?」
「鍋パーティーなんて初めてだから、嬉しくて!あ、お風呂入ってから行っていい?」
「ふふ、オッケー。今から具材切る所だから丁度良いかも、待ってんね」
「うん、すぐ行くねー!」

鍋パ!鍋パーティー!!
テレビのドラマで見た事はあったけれど、やった事がなくて嬉しくて心が躍る。一つの料理を友達と囲むの、夢だったんだよなあ。
しかし任務帰りで髪がバサバサ、服はボロボロ。冬だけど沢山動いたし汗臭い。お風呂に早く入ろう!と大浴場に向かう為、部屋に戻って着替えを用意するが、最近任務続きで洗濯するのを忘れていた。
やっば…溜めすぎた、これはやばい。
残ってる下着が、秋口に硝子と一緒にお揃いで買った、あの真っ赤な勝負下着。これ着るの、恥ずかしいなあ…なんて思いつつも、背に腹は代えられなかった。

▽


お風呂から上がって、余った服のオーバーサイズの長袖ワンピースに着替える。
共有ランドリースペースの洗濯機に洗濯物をぶち込んで、硝子からのメールに集合場所と指定された場所へ行くと、畳の部屋に硝子と夏油と五条が揃っていた。
へえ…こんな部屋あったんだ。

コタツを囲み、鍋パーティーは既に始まっていて「おせーぞ」と言いながら五条はお構いなしに箸をすすめる。
時計回りに五条、夏油、硝子と座って居たので、私は五条と硝子の間に入った。
硝子から紙のお皿とお箸を貰い、出来上がった鍋を有り難く頂く。いつも料理は自炊だけれど、人が作った物を食べるというのも良いなあ。
いただきますと皿に寄せたしゃぶしゃぶ肉を口に入れると、ジューシーな味とシンプルなお出汁が良い味を醸し出していた。

「ん〜!美味しい〜!!」
「今日の任務で助けた人が商店街の精肉店の人だったらしくてさ〜。帰りにお礼って肉貰ってたら、商店街の八百屋からも野菜沢山貰っちゃって。おかわり沢山あるから食べな」
「えっ凄いじゃん硝子!沢山食べる!」
「おい、食べすぎて太るなよデーブ」
「うるさいなあ、五条も沢山食べてんじゃん。あ、その肉私も食べたい!」
「名前も悟も、まだまだ沢山あるから喧嘩しないんだよ」

私と五条はお鍋の具材を取り合いながらも、鍋奉行の夏油は肉と野菜を配分良く投入していく。こういう所で器用さ出てくるよなあ。
硝子はというと、煙草を灰皿に置き、鍋をつつきながら日本酒と書かれている瓶を小さなコップに注いで飲んでいた。
…って日本酒?!

「しょ、硝子、それお酒?」
「うん。呑む?」
「あーやめとけやめとけ。ぜってー名前弱いって。しかも15度って、絶対酔う」
「五条、お前が呑めないからって名前が呑めないと決めつけるのは良くないよ?」
「…え、五条お酒弱いの?」
「コイツ、下戸だから。この前呑んだ時も即効で潰れてたし」

げこ?ゲコ?蛙?何ソレ?と聞くと、お酒が飲めない人の事を言うらしい。お酒の世界に一歩踏み入れた気分だ。
ていうか一緒に呑んでたんだ…。知らない情報を聞いて、胸が急にギュッと苦しくなる。何なんだろ、これ。

しかし、お酒は今まで一滴も呑んだ事無かった。まあ未成年だし、それが当たり前なんだけど。祖父も酒よりお茶が好きだったしなあ。でも、興味はとてもある。悪いことをしたくなるような、興味心。
硝子に呑んでみたい!とお願いすると、ホラ。と小さなコップを渡してきた。これはお猪口というらしい。
注がれたお酒をグイッと一気に口にいれて飲み込むと、喉のあたりがかっと熱くなる。味も、よく分からない。…美味しいとも感じない。
気になって「もう一杯頂戴?」とお願いすると「日本酒はちょびちょび飲むのがオススメだよ」と教えてもらい、しゃぶしゃぶ肉と野菜を堪能しながらちょびちょびと呑む。
…うーん、よく良さが分かんないけど、これが大人なんだ…ふふ!

「ほら五条?名前は下戸ではないっぽいよ?お前だけだよ、楽しめないのは」
「うるせーよ。俺はメロンジュースとの組み合わせがピカイチなんだって知ってるから」
「鍋にメロンジュースは合わないだろ?」
「合うんだよ!」

五条と硝子が何か言い合いしてる…ふふ。楽しい、ちょっとふわふわして心地良い。今日は任務沢山こなしたし。ちょっと眠くなってるかもしれない。うふふふ。
何がおかしいのか自分でもよく分からないけど、面白くて笑ってると、五条がうげえと変な顔をして見てきた。ふふ、変なの。

「硝子、やっぱりコイツも下戸だわ。だんだん顔赤くなってる」
「あー…本当だ。まあでも完全に落ちる五条よりは強いでしょ。名前大丈夫?ほら、一応水も飲んどきな」
「うん、ふふ。はあ〜い!」
「はは、酔ってる名前可愛いね。いつも気を張ってるのが柔らかくなったみたいだ。悟、名前の頭撫でてみてよ」
「はあ?なんで」
「私じゃ届かないからさ。場所変わる?」
「別に…撫でるくらい、出来るし」

夏油の言葉にちょっと不貞腐れな顔をする五条は、私の頭を優しく撫でる。
んん…めちゃくちゃ落ち着く。なんだこれ…心地よくて、もっと触って欲しい。

「…これすきかも。ね、もっとちょーだい…」
「良かったね悟。もっとだってよ?」
「っ…もう撫でてやんねーよ、ばーか!」
「じゃあ私が撫でてあげる〜ごじょ〜おー、よしよ〜し!」
「はあ?!名前の分際で馬鹿にすんな!」
「はは、あの五条が名前に翻弄されてる、ウケる」
「ああ、いつもは逆だからね」
「おい!和んでないで助けろよ!」

キレてる五条もかっこいいなあ。白くてきめ細やかな髪を撫でると、ふわふわしてて、柔らかい。
んー…なんかいつもなら恥ずかしいはずなのに。なんか今日は気分が良くて手が出ちゃう。よし、もっと撫でちゃえ撫でちゃえ。
ガシガシ撫でると、五条の手に掴まれて止められてしまった、ちぇっ。

*


お腹いっぱいになり、食べ終わった食器類を硝子と片付けて、コタツに入って冷えた手を温めると、顔が緩んだ。
やっぱり冬の冷たさと寒さには勝てないや。
「へぇ」と鋭い目をしながらニコニコした夏油が、私を見てきたので「どうかした?」聞いてみた。

「名前って大体な色の下着着るんだね」
「んえ?」

…なんで夏油が私の下着の色、知ってるの?
ポカンとしていると、あー!!と硝子が少し大きい声を出す。そして、私のオーバーサイズの服から見えていたらしい肩に掛けたブラ紐に指を通した。

「これ、この前お揃いで買った勝負下着じゃん。着てくれてんだ。嬉し〜」
「ハッ、何に勝負しに来てんだよウケる」
「違う!最近任務続きで洗濯するの忘れてて、残ってたのがこの下着だったんだもん…」
「お前ブラジャーつけるくらいの胸あんの?ぺったんこすぎねー?」
「はあ?!あるもんっ!」
「そうは見えねーけど?硝子ぐれー胸大きいんだったら着るのも分かるけど、名前にはまだ早えーだろ?スポブラで充分」

五条は鼻で笑って私の胸を過小評価する。おい、スポブラ舐めんなよ。イラッとする感情が湧き出すが、私よりイライラしている表情の硝子はタバコの煙を五条に向けて吐いた。

「オイ、人の胸見てんじゃねーよクズ。そんなに言うなら、五条が名前の胸大きくさせたら?」
「興味ねーよペチャパイの胸なんて」
「はあ?こっちがお断りだし!ばーか!」
「へーへーそーですか」
「悟はお子ちゃまだからね。私的には育てるのも楽しいと思うんだけど、私じゃダメかい?」
「育てるんじゃなくて育ってるんだもん、夏油のあほ!ダメに決まってんでしょーが!」

男ども、私の胸を馬鹿にしすぎじゃん!?成長期なんて、まだまだこれからだし?
硝子から「ちょっとこっち来て」と言われて近寄ると、背後から両脇に手を通される。お酒のせいか、ふわふわしていて状況が飲み込めないでいると、硝子が後ろから私を抱きしめ、そしてそのまま両胸を両手で揉みしだく。

「ちょっ、何すんのっ」
「アンタらは分かってないわねー。胸なんて大きさ関係ないの。感度が大事」
「んっ、んん!しょーこ、やめてっ」
「名前はさー、結構敏感なのよね。だから治療する時に少し困んのよ。特に右耳から首にかけ、ね」
「ひゃっ……んっ、あっ」

硝子が右の耳元で囁き、右側の首元を少し舐めると、今まで出した事のないような声が出てしまい、思わず口元を両手で塞いだ。「お、良い声出た」と硝子の声が耳元で囁き、身体が変な感覚になって目を閉じる。
…なんでこんな反応しちゃうの。気持ちいいけど、ムズムズする…。
感覚に犯され、閉じてしまった目を薄目で見ると、五条がサングラス越しでも分かる程、目を丸く開いてこちらを見ていて、羞恥で顔が熱くなった。

「ねえ、やだっ硝子!」
「えへ、ごめーん」
「五条も見ないでよ…ばか!」
「…別に、見てねーよ」

シャツの首元を寄せてブラ紐を隠すと、夏油は「勿体ないなあ」なんて笑っていた。何が勿体ないの、変態め。
硝子に背中を預けていたので起きあがろうとするが、次は服の中に手を入れてきた。
え、まだやるの?!

「しかし名前、胸大きくなった?サイズ小さくない?」
「え、分かんない。でもちょっとキツい気がする」
「ほら、ここの肉も入れれば胸溢れちゃうけど」

服の中に入れた手が、脇に出た肉をブラジャーの中に詰め込まれ、硝子の指が胸の先端に手が当たり、んっ。と、また変な声が出てしまって口元を押さえた。

「もう、やら、恥ずかしいっ!」
「ふふ、名前の女性ホルモンが活発になってるね。どんどん可愛いくなってってるし、最近ドキドキする事でもあった?」

ドキドキする事…?ふと思い返すのは、元旦の出来事。身体と身体が触れ合う…それが男の、好きな人。思い返すだけで顔が熱くなる。沸騰したような頭で、口先からぽろっと言葉が溢れた。

「この前、ごじょーがいじめてきた…」
「え?五条また名前の事虐めたの?アンタも懲りないね」
「はあー?何もしてねーよ」
「したもん、ぎゅって!あと…いつの間にか一緒に寝てた」
「は?…どういう事、五条」
「だから何もしてねーっつうの!寒かったから抱き枕代わりにしてやっただけだし、寝てたのだって名前が勝手にベッドの中入ったんだから、しょうがねーだろ!」
「でも恋人でもない人と一緒に寝るのは無いだろう?なあ、硝子」
「同意〜。あんたのパーソナルスペースぶっ壊れすぎてんだよ」
「ほら!!やっぱりあれが普通なの、五条だけじゃん!ばか!」
「うるせーよ、大体名前が体制が無さすぎなんだよ。特訓だっつうの」
「特訓とかいらないもん!」

特訓特訓って、結局恥ずかしがってる私を揶揄って笑ってるだけじゃん。こっちは心臓が破裂しちゃいそうなのに。何も思ってない五条にムッとなる。

「まあでも悟の言う通り、名前はそういう経験積んでた方が、呪力の底上げも出来ると思うけどね」
「どーいうこと??皆とぎゅってした方がいいの?夏油とも、ぎゅってした方がいい?」

…そういえば、五条が私の祖先は五条の祖先の事、めちゃくちゃに抱いたって言ってたもんな。成る程、そういう事なのか?疑問に思っていると、夏油はニッコリした顔を向けて来た。

「うん、そうだね。私ともぎゅっしようか?」
「おい、傑。やめろよ」
「…何だい、悟がしてるのに私がしちゃいけない理由なんて無いだろう?それとも悟にとって都合が悪い事でもあるかい?」
「そういうの、手のひらでコロコロしそうじゃん傑。危ねーっつうの」
「それはコッチの台詞だけどね」
「どっちもどっちだっつーの、クズども」

硝子が二人の間に入って苦言を呈する。ハグする事で何を言い合ってるんだこの人達は。相変わらずクズで問題児なのは変わりないけど。
そして…そんな問題児の一人の事を、とてもカッコよくて好きだと思ってる事には…誰もつっこまないでほしい。

夏油はコホン、と咳をして仕切り直したかのように話を続けた。

「まあ…なんというか名前の誘惑の術式は、元々色気を使って人を陥れる為にもあったわけで、そこを開花させれば呪力も解放されるはずだよ。…名前の性格的には、オススメはしないけどね」
「ペチャパイ寸胴な名前にそんな事出来るわけねーだろ」
「分からないよ?私の聞いた話だと、追放された名字家の呪術師は絶世の美女だったらしいからね。経験を積めば名前も容姿や性格は変わるはずさ」
「ハッ、恋愛初心者が成長するには時間かかるだろーけどな」

夏油と五条はよく分からない事を言い合いながら、嘲笑する。もしかして正月での事、あんだけ私で遊んだのに、またやるつもりなの?ふざけんな、ばーか。
なんだよもう、皆んな私の胸とか下着とか、そんな話ばっかり。

…ん?下着?あ、そういえば!

「洗濯機入れたままだった!!乾燥機入れてくる!」

立ち上がって少しよろけながらも、洗濯物の事で頭が醒める。
やばいやばい。気づけば21時回ってる。
明日任務の予定は無かったけど、最近授業受けてなかったから、学習プリントの山が待ってるだろう…考えるだけで頭が痛くなる。

共有ランドリーへ行き、終わった洗濯物を上にある乾燥機に入れた。コインを入れ、回り始めた乾燥機を見ながら近くのベンチに座って一息つく。
…三十分くらいで乾くかなあ。
暖房がついてない為、肌寒いがお酒で暖まった体に心地よい。
しかし、ふわふわな感覚に浸っていると、急にムカムカしてきた…あ、やばい。これが悪酔いですか?
そういえば、硝子に水飲めって言われてたのに飲むの忘れてた…。
ウッとくるムカムカに襲われ、水を求めていると、目の前に水のペットボトルが目に入る。

「ったく、こーなってると思った」
「ご、ごじょう…」

いつもは生意気なのにピンチに手を差し伸ばしてくるとは、やっぱりどこぞの王子様なのか?
…否、多分コイツは面白がって来たに違いない。

「なあ、お水下さい五条悟様って言ってみ?」

ほらほら。五条は少し悪い顔をしながら私を見下す。お水如きで命令に従うか!と言いたいが、砂漠にあるオアシスに辿り着けそうで着けない気持ちに縋りついた。

「お…お、水、下さい…ご…ょう……るま」
「ハァ?聞こえないんだけど?」
「あっ…無理…きもちわるい…吐く…」
「しょーがねえーなー。ほら、吐かれたら処理めんどーだろ」

私の頬にピタッとペットボトルを当ててきて、熱くなった頬がひんやりと冷たい。
受け取ってごくごくと水を身体に取り込むと、500mlのペットボトルが一気に空になった。

「…っはあ、生き返った!あれ、私飲むの早くない?」
「それ俺の飲みかけだから、多分半分くらいしか飲んでねーよ」
「へ?!な、ななんで飲みかけなの!?」
「何でって…いくら経っても帰って来ねーし、硝子が様子見て来いって言ったから、ついでに自販機で飲み物買った帰りに寄ってきたし。つーか飲む前に確認しろよ」
「な、ななな!か、かんせつ!」

酔いは完全に醒め、逆に別の意味で顔が熱くなり、身体をどんどんと熱らせる。
ふと先程までの発言と行動を思い返す。関節キスもだけど、五条の髪もふもふ触ったりしたし、元旦の事とか話しちゃった…何してんの私、最悪だ。

「間接キスで悶えてんの?さっきまで皆で箸つついて鍋食ってたのに?」
「ううう…考えると頭痛くなってきた…何やってたんだ私…」
「酔いが醒めたようで良かったよ。…そっちのお前の方が安心するわ。もう酒呑むなよ」
「いやでも…大人になったら呑むと思うよ?」
「極力呑むなよって話。呑むなら俺が隣にいる時にしとけ。お前、絶対人に絡むだろ」
「五条には絡んでもいいの?」
「…他のヤツが困るだろーが」

五条から人の感情を考える台詞が出て来た事に驚いた。…何やかんや優しいのは知ってるけど。
しかし、五条に迷惑をかけるのも申し訳ないし、お酒はもう飲まないようにしよう。いつか、一人暮らしをしてお家で飲む位なら許してくれるかな?


乾燥が終わるまでの約三十分、二人でベンチで座ってポツリポツリと喋ったり、沈黙したりを繰り返す。そんな空気も昔はソワソワしてたのに自然に溶け込んでいた。
乾燥機を終えた洗濯物を畳み終え、部屋に持って帰って硝子達の所へ戻ろうとすると、女子寮から共有スペースへ続く廊下で五条は待ってくれていた。
…先に行ってても、良かったのに。

***


畳の部屋に戻れば、硝子と夏油がタバコを吸いながらお酒を嗜んでいた。硝子は私の顔を見てニヤリと笑う。

「おそ〜い。何してたの?もしかしてイチャイチャしてた?」
「してない!乾燥機待ってただけ!」
「そう?あら、酔いも醒めてんね?んじゃーゲームしよっか」
「ゲーム?」
「てってれえ〜ラブゲーム〜」

ドラえもん口調の硝子は、何処からか出したトランプの束をテーブルに置く。
ラブゲームって何?と聞くと、トランプに命令が書いており負けた人はカードの中から一枚選んで、カードに書かれている命令を行う事。と説明した。
罰ゲームは嫌だけど、皆とトランプはやりたい!
ゲームに賛成すると、大富豪をやろうか?と夏油がトランプを切って配っていく。

久しぶりにやるなあ…ルールを思い出しつつ、頭の中で戦略を考えながらトランプを出す。

結果、一抜けしたのは五条、二抜けは硝子、三抜けは夏油、そして、ビリは…私。

「ウェーイ、大富豪〜」
「……。」
「はぁーいっ大貧民の名前ちゃん!罰ゲームどうぞ〜」
「さいあく…」

五条はウキウキした顔で私の残った三枚トランプを私の目の前に出してきた。
ああ、どうにか変な罰ゲーム出ませんように。
直感で真ん中のトランプを引いて、カードに書いてあるお題を見る。

「隣の人の好きな身体の部位を一つあげる…?」
「名前の隣ってことは、五条じゃん」
「硝子の場合もあるよね?」

どちらもなのかな?と聞くと、硝子はニヤりと口元を緩めて、煙草を吸いながら五条の方にどうぞどうぞと押し付ける手のポーズをした。

「ここは大富豪さんの五条に譲ってあげるよ」
「えー?五条の好きな身体の部位って…」
「キャッ、名前のエッチ!」
「五条に言われたくない!」
「大体俺の良い所なんて全部に決まってんだろ」
「相変わらずの自信満々だねえ、悟」
「そりゃーこの五条悟に悪い所なんてねーだろ?なあ?で、早くしろよ名前」

憎たらしくは思うけど、相手は片想いの相手で尚且つ一目惚れな訳で、好きなパーツなんて本人が言う通り全部に決まっていて。…しかし、敢えてあげるとしたら…。

「え…えー、えっと、目!」
「はあ…目?六眼?…つーか普段全然目合わせてくんないじゃんお前」
「それは癖で…。五条の目、凄く綺麗な目しててずっと見てたいくらい…は、す……良いと思ってるよ」
「いーよ、いくらでも見てれば、名前チャン?」
「あーハイ、来ました五条の弄り発言。もうその手にはならないもん!」
「んだよノリ悪ィ〜」

出た、五条の揶揄いモード。そんな事言われると、ずっと見てたい気持ちになる。
…けど、これは冗談。本気になるな、期待するな私。



二回戦、神経衰弱。
負けたのは夏油だった。

「次は私だね…えっと、キス顔を写メで撮る…」
「傑、キス顔してみてよ」
「…こんな感じ?」

薄目で口を窄ませるその姿に、笑いが込み上げた。

「「「ギャハハ!!!」」」
「…三人とも、本当にしてあげようか?」

悪い微笑みをする夏油に向かって五条は「はあい、じゃあこっち〜傑ちゃんチュー見せて〜?」と笑いながらケータイを向ける。夏油もノリノリで口を窄めて目を閉じるので、その顔に笑いが込み上げた。一番笑ってる五条は「俺も!俺もやる!」と同じようにキス顔を作って夏油に写メを撮らせている。
何でアンタまで罰ゲームやってんの…。ていうか、めちゃくちゃ楽しんでるじゃん。



三回戦、七並べ。
負けたのは硝子。

「んじゃー私ね…っと、右隣の人と手を握る…って事は夏油とかな」
「少しセクシーな握り方をしてよ硝子」
「いいけど、欲情すんなよ?」

硝子は左手でタバコの灰を落としながら、右手をゆったり夏油と絡める。指と指の間に指を絡めて何とも言えない妖艶な動きに、見てるコッチがドキドキして両手で顔を覆う。

「なんでお前が恥ずかしくなってんだよ…」

私の左腕を掴んで五条は目ぇ開けろと悪戯してきた。無理無理無理!!
顔が赤くなってるらしい私を見た硝子は「名前は保健苦手だもんね、今度教えてあげるよ」と色っぽい顔を見せてくる。
同い年なのになんでこうも余裕あるんだろう。ていうか私が保健のテスト赤点だったの、もしかしてバレてる…?




夜も23時を回り、あとラストワンゲーム。

「最後は悟を負かせたいね」
「今んとこ皆罰ゲームやったし?そう思うでしょ、ねー名前?」
「絶対負かす!!」
「ハッ、やってみろよ」

最後は大道のババ抜き。五条に対して戦いでは勝つことは難しいけど、カードなら…!!



…ゲームは進み、終盤に残ったのは、私と五条。
カードが二枚なのは私、残り一枚は五条。

「六眼って透視出来ないよね?!」
「出来てたらもう上がってるっつーの。…ぜってー勝つ」
「名前、やれるよ。ここは色気戦略しな、誘惑術師ならやれる」
「え、無理だよ?!」
「別にいーよ?名前に負ける気しねーし」

硝子からのアドバイスに頭が混乱する。色気戦略…?!誘惑術師ならって分かんないよ、ハグすれば良いの?…いや無理無理無!
…もうそれなら、私が罰ゲーム受けた方がマシだ。
ゲームの最中、トランプをはけつつ書いてある内容を見てたけど、セクシーポーズをするとか、異性と腕を組むとか、今まで体験した事のないものばかり。絶望的だけど、色気戦略するよりマシ。
五条にジョーカーではない方のカードを差し出した。

「…五条、お願い!こっち取って」
「…ぜってーやだ」
「ねえ、これジョーカーじゃないから。お願い!」

懇願するが、五条は挑戦的な顔をして「そんな甘えた目ェしても、その手には乗らねーよ」と少し笑う。
えっ、甘えた目なんてしてないし、もしかして私の意図伝わってない?!
五条は私の差し出したカードではなく、ジョーカーの方のカードをとって目をまん丸にする。

「は?…なんでババを取らせよーとしねーんだよ、図ったな?」
「違っ、色気戦略とか出来ないから…それなら罰ゲーム私が受けようと思って…」
「意味わかんねーよ、ったく…ホラよ」

五条は不機嫌な顔をしつつ二枚のカードを出してくる。
…出来れば勝ちたいけど、もう、どっちでもいい。
運に任せて、えいっ!と引けば、それはジョーカーでは無かった。

「勝った…五条に勝った!」
「……はァ。罰ゲームやってやるよ」

納得しなさそうな顔をして、五条はトランプの中からカードを一枚引く。そのトランプに書いてあったのは[10秒間くすぐる。]

「これって俺がくすぐるの?くすぐられるの?」
「くすぐられるって書いてないから、くすぐるんじゃないか?」
「フーーン。これ、俺が指定していいんだよな?」
「別に良いよ?一抜けの私が決めてもいいけど」
「ハッ、傑だって結局考えてる事は一緒だろ?なあ、名前」
「…へ?」

突然声をかけられて、気の抜けた声が出る。五条はニコニコしながら、しかし怒ってる筋が心なしか見える。

「俺がくすぐるの、お前な」
「え、」

ちょ、ちょっと待って。罰ゲームって五条が受けるんじゃないの?やだ、止めて!
硝子と夏油に顔を向ければ、グー!と親指を立てていた。何がグッド?!何がオッケー?!
ツッコミを入れたい気持ちになるが、背後から腰のあたりに指が沿ったのが分かって、ひゃ!と声が出る。まさか、と背後を見ようとするが伸びた指の動きに思考は停止した。

「…ぁっ、ひゃ、やっ、ごじょ!あっひゃひゃひゃ!!あっははっはやめ、ひゃはっはっ!!!」
「俺を騙そーなんざ100年はえーんだよ!」
「あーっひゃははっは!!やへ、ごひょーやめへっひゃっひやひゃ!!」

触られる腰に伝う指の細かい動きに身が捩れる。
はやく、早く10秒!!経ってるのか経ってないのか分からず「じゅ、じゅーひょーたったはら!やへめ!」と懇願するも擽る手は止まらない。
もう無理!と身体のバランスを崩し、後ろの五条の身体に寄りかかると、擽る手は止まった。
身体を起こしたいけど、息が上がってそれどころじゃない。どっと出た疲れに浸っていると、頭上から五条の顔がチラリと見えた。

「楽しかったな、なあ名前?」

「何が楽しかったんだ?悟」

上から見下す五条の顔を見上げた時、五条の上からドスの聞いた声が聞こえた。
も、もしかして…この声って…!

「お前ら!今何時だと思ってるんだ、廊下まで響いてるぞ!!あと酒、煙草禁止!」


ゴツン!!!!と四人の頭に山ができた。


*


マジで死ぬかと思った…。
まさか夜蛾先生がこんな時間まで高専に残ってたなんて。教員って大変なんだなあ。
お開きになり、共有スペースから五条と夏油とオヤスミと挨拶を交わして硝子と女子寮へ向かう。

「ねえ、最近五条と名前の関係変わった?」
「そう?んー…そういえば最近、揶揄ったり意地悪したりするのが多くなったかな?前みたいに罵倒された時よりは傷つかないけど…。しんどい、期待しそうになる」
「ていうかさー脈アリなんじゃないの?」
「ないよ。ただ本当、悪戯で遊ばれてるだけ。酷いよね」
「でも好きなんでしょ?」
「……ウン」
「懲りないねアンタも。ね、また一緒に下着買いに行こうか」
「…うん!行きたい」

冷え切った廊下を歩いて部屋に戻るけれど、卓を囲んで楽しかった心は、ずっと暖かかった。