未来の花





あれ、ここはどこだ。

気づけば暗闇に横たわっていた。
目が慣れているのか、周りが見渡せるが何もない。分かるのは、空間がそこにあるという事実のみ。
夢?最近たまに変な夢は見るけれど、何だかいつもと少し違う。そういえばさっきまで何をしてたっけ……ゆっくり頭の中を巡らせた。


そうだ、リコちゃんに対戦を申し込んだんだ。
五条に強くなったことを認めてもらいたくて……でもリコちゃんが急に発作を起こして……あれ?それから思い出せない。途絶えた記憶の先を思い出そうとするが浮かぶ事はなく、とりあえず立ち上がって歩きながら思い出そうと足を進めた。
歩き進めると変化のない空間の先に何かが見える。


なんだろう?
少し近寄ってみると、男の人が横たわっている。五条と同じような白くて透き通るような綺麗な髪の毛をしていて、身長は二メートルはあるんじゃないかと思うくらいすらっとしたモデルのような体型。
怪我はしてないみたいだけど、こんな所に一人でどうしたんだろう。多分……敵ではないし、ひとまず自分の状況も掴めないこの状況を、もしかしたらこの人は何か知っているかもしれない。
よし!っと気合いを入れ、目隠しをしていて起きてるのか分からない男の肩をトントンと叩いてみた。

「あの〜……すみません」

ピクリと肩が少し跳ねて起きている事が分かり、こちらもびっくりして少し肩が上がる。
横たわったまま、男はゆっくり目隠しを上から下に下げると、五条と同じ透き通るような青い目と目が合った。
吸い込まれるようなその目を見つめ、ふと「五条……」とぽろっと言葉が口から出てしまい、思わず口元を手で覆った。
確かに五条も背は高いけど、ここまで大きくはないし……少し雰囲気も違うのに、なんであいつの名前が出ちゃったんだろう。
私の様子を見て目隠しを元に戻した男は、ははっと空笑いをすると起き上がり、あぐらをかいて座った。

「ここは夢、かな?こんな物も見せてくれるんだねえ」
「あれ……その声、五条?え?は?」
「ウン、名前の大好きな五条悟だよ〜」

五条と名乗る男は両手を広げて「ほらほらーおいでー」と抱擁を求めてきた。が、状況を読み込めず、男の様子を見て一歩後退りし睨んだ。

「だ、誰ですか!五条はそんな事言わないし…す、すす好きじゃない!!」
「ははは。名前の生意気さは昔も今も変わんないなあ。じゃあ……この目を見ても、そんな事言える?」

先程元に戻した目隠しを、今度は首元まで下ろす。目隠しで覆われていたあの目は五条悟だと、私の目が、心が言っている。けれど今の五条とは少しだけ色んな所が違っていて、すんなり飲み込む事は出来なかった。

「名前は本当に僕の目が好きだね」
「五条だけど、五条じゃない…。だって骨格とか、まるで大人になったみたい……」
「ピンポンピンポンピンポーン!!大正解、僕は28歳の五条悟だよ〜」

28歳……?嘘でしょ、11年後だっていうの?
体型は少し違えど、能天気な所は変わっていない五条に対してこれが大人なのか?と理解ができず、さらに違和感を感じた。
大人の五条なんて想像した事無かったけど……ほらもっと11年も経ってたら少しは大人っぽい性格になってたりするものじゃないの?

「……本当に28歳?」
「うん。ちなみに、名前は?まだ高専生だよね」
「今年17……二年生だけど」
「…もしかして今6月?」
「うん、確か6月24日だったはず……って、本当に未来の五条なの?」
「何、そんなに信じられない?自分の誕生日に桃鉄10年やって寝坊して、可愛い可愛い名前を二時間も寒空の下で放置した男信じられない?」
「本当信じられない男だけど、信じる」
「よかった」

五条はニンマリと笑う。悪態をついたんだけど気づいてるのか?
確かに彼が自身の誕生日に寝坊して遅刻して私を寒空の下で待たせた事は、夏油にも硝子にも言っていない。単に私の中で五条に想いを伝えようとしてしまった事で頭がいっぱいになって、遅刻のことを誰かに愚痴ろうなんて頭から消えていたからで。遅刻したことは私と五条しか知らないはず……ってことは、本当に未来の五条なんだ……。

「それで…なんで大人の五条と夢で出会ってるの?」
「んー……そんな事より、とりあえず座ろう?」

ほらほらーとまた手を広げる。先程からいつもの五条とは考えつかない程のフレンドリーさに追いつけず、こちらからすれば先程まで気まずい関係が続いていたんだから尚更不気味に感じ、少し離れて横座りした。 

「で、なんでなの?これって何かの術式?」
「うーん。術式であり、違うとも言えるかな?僕にとっては最悪で最高なまやかしだけど、名前にとっては僕の力が必要だったのかもしれないね」
「…どういうこと?」
「さっき、僕の許嫁と戦ったでしょ?」
「、うん」
「そして倒れた。覚えてる?」

その言葉に、消えていた記憶がうっすら蘇っていく。そうだ、リコちゃんが倒れて、気づいたら自分も倒れてて……お腹を見たら刀が刺さってた。
記憶を辿っていると、五条は私の方に触れるか触れないかの距離に指を持ってきて、お腹の下あたりに指先を添えた。

「な、なに?」
「君のここに刀を刺したのは僕だよ」
「…そう、なんだ」

……そういえばあの時、倒れるリコちゃんの後ろに五条の影が見えた気がする。私を刺したということに嘘偽りはないだろう。

「なんでそんな事したのか聞かないんだね」
「……別に、五条が私の事嫌ってるなんて知ってるし」

無理矢理キスされたり術師を辞めろと言われたし、刺すほど私の事が目障りで嫌っているんだろう。
胸がぎゅっと締め付けられると、大人の五条はこちらに近寄って後頭部を優しく触れ、胸板に寄せた。

「嫌ってないよ、これは僕のワガママだし。そのうちあの頃の僕からちゃんと伝えると思うけど、これだけは覚えててほしいんだ」
「……なに?」
「これから苦しい事があるけど、耐えて欲しい。僕を好きっていう、その想いを諦めないでほしいんだ」
「なんで、それ、知って……」
「……って言っても、これは夢だから多分起きたら忘れてるけどね」
「……はあ?」

あっけらかんとした私に対して「夢の中なんだから覚えてるわけないじゃん?馬鹿だねえ名前は」と呑気に笑い出した。

「でも忘れちゃうなら意味ないじゃん」
「意味が無いわけはないよ。僕が言うんだから安心してよ」
「なにそれ……その自信はどこからくるんだか」

相変わらずの適当ぶりに思わずクスッと笑みが溢れる。それにこうやって普通に五条と話すのが久しぶりで、とても心がドキドキしていた。例え夢だったとしても、これが最後でいいやと思うくらいの高揚感に似た感覚。

……この感覚をずっと味わえるのなら、夢の中にずっと居たいな。

今までの自分らしくない気持ちが過った時、五条は私の手を引っ張って胸の中に閉じ込めた。

「ちょっ…五条!」
「はぁ〜最近あんまり名前とハグして無かったからなあ。相変わらず名前の肌は大福みたいに柔らかいねえ」

そう言って頬を柔らかく掴んできた。こうやって頬を掴まれるのも久しぶりだな。
今でも覚えてる。一年生の秋、五条と仲良く無かったのに彼は私の頬をよく摘んでいて、やめてほしいと言っても「やだ」と言うくらい、私の頬には癒しのような力があるらしい。正直よく分からないけど、未来でもそれは変わらないんだ。

……ん?変わらない?
ふとある事に気づいて、抱きしめられた身体を引き剥がした。

「ちょっと待って。最近って…28歳の私が五条とハグしてるの…?」
「何、気になる?教えた方がいい?」
「えええっちょっと!超当たる占い聞いてるみたいで怖いからやだ!」
「何だソレ。てか未来が変わる可能性もあるし言うわけないじゃん」
「……結局教えないじゃんか」


冗談だとは思わず驚き不貞腐れた私に対して、ははっと柔らかく微笑み姿は、未来の姿でも笑いかけてくれた表情によく似ていた。

「そういえば……あの時勝手にキスした事怒ってる?」

急に気まずい事を堂々と聞いてくるなコイツは。こういう所は相変わらず五条っぽい。

「怒てるっていうか…リコちゃんに対して罪悪感でいっぱいかな」
「ふうん。まあ僕は後悔してないから、謝ろうとは思わないけど」
「なら聞いてこないでよ。……ちなみに何であんな事したか、教えてくれないの?」
「それは過去の僕に聞いてほしいかな」

微笑んだ五条は私の唇に人差し指で触れ、その指を彼自身の唇に触れながら私の瞳を見つめ、胸が高鳴る。正直、かっこいい。どうしよう。
顔が熱くなって下を向けば、耳元で可愛いとボソリと囁かれ、思わず五条の袖を握った。

「……帰りたくない」
「ダメだよ。帰らないと僕とは会えないんだから」

思わずでた弱い本音を吐けば、優しく頭を撫でられ、甘えちゃいけないのに糸が解けるように気持ちが緩む。
正直……もう辛いことに耐えられる自信がない。

「僕はこの先も名前と一緒に居たい。名前は僕と居たくない?」
「だって、五条にはリコちゃんが居るじゃん……」
「でも僕のこと、好きでしょ?」

当然かのようにニコニコしながら五条は聞いてきた。そのとおりだ。無理だと、叶わないと知っていても、何度もこの想い消えてしまえばいいと思ったのに、想いは消えない。消えるどころか、どんどん想いは露わになっていた。

「思ってたけど、私の気持ち知ってるんだね…って事は私、打ち明けちゃったんだ」
「そうとは限らなくない?単に僕が名前の事が好きなだけかもしんないよ?」
「いや、ない、それは絶対ない」
「えええ、全力で否定するじゃん」
「……多分、私が伝えたせいで、五条を困らせたと思う。未来の私の事だけど過去の私が謝っておくね、ごめんなさい」
「謝んないでよ…名前はさ、自分の事後回しにしすぎなんだよね」
「…アンタがワガママなだけだと思うけど」
「まあ僕の事は置いておいて。自分が欲しいモンくらい、ちゃんと言わなきゃダメだよ。一人で背負い込みすぎなんだから、僕のこと頼ってよ」
「そんな……リコちゃんに言って、私には…………言わなかったくせに」
「あ〜……もう!」

少しイラついたような声をした五条は、再度私を抱きしめると、頭を優しく撫でてきた。
ちくりちくりと傷んだ胸を包み込むように。

「……ゴメンね。あの時、君の気持ちも知らずに、僕の意地であんな事になって」
「……意地って?」
「秘密。でも、僕ららしい道を進んだと思ってるよ。……ねえ名前、僕のこと離さないでね」
「どの口がそんな事いうの……リコちゃんがいる癖に」
「はは、名前が僕に対してこんなにも嫉妬してくれてたなんてね。……気にしなくても大丈夫だよ、僕は名前以外考えられない」

コツン、と頭同士をくっつけ透き通る海のような水晶玉の瞳で私の事をまじまじと真剣に見てくる彼に対して、嘘を言っているわけではないと感じた。
でも、五条がこんな事を言うはずがない。と、すれば。

「これは、夢」
「……まあ夢みたいなモンだよ。でも僕の心は夢じゃないよ、信じて」

信じてと言われて、はいそうですか。と素直に受け入れる事はできないけど、否定する気持ちにはなれなかった。
だけど歩みを止めようとした足の痛みが少しとれた気がした。なんだかんだ毎回五条に救われちゃってるな私。

しかし未来のワガママな五条にもここまで振り回されるのは、なんだか無性に腹が立つ。少し未来のことを聞いてもバチは当たらないだろう。

「そういえば夏油は元気?」
「…元気だよ。気になる?」

五条はピクリと一瞬身体を凍らせたが、また呑気な顔で問いかけてきた。……今もだけど、五条に夏油の話すると、変な顔をよくするんだよなあ。何か問題でもあるんだろうか。
でも、これは前々からずっと気になってた事だから知りたい。


「まあ……星漿体の事があってから上の空の時が多くて、少し不安だったの」
「そっか…名前は気づいてたんだね」
「何に?」
「いや?ちなみに硝子も元気だよ」
「よかった……みんな元気でやってるんだ」

ほっと安堵して笑みが溢れる。いつも死と背中合わせの世界で生きているから、不安だった。少なくともこの五条の世界は明るい未来。

「…ねえ、五条。五条は今楽しい?」
「うん、楽しいよ。強い仲間も増えた。だから……この状況をどうにかしないとなんだけどねえ」
「どうかしたの?」
「…まあ、ちょっとまずった。でも大丈夫、僕最強だし」
「…なんか違和感」
「へ?どういう事?」

ニッコリ自信満々に笑う五条だけど、ずっとあった違和感。なんだろ、何かが足りないような。でも、何だか思いつかない。

「うーーん、五条が僕なんて言うからかな?やっぱり大人になったね」

相変わらず能天気でマイペースだなって思うけど、いつもよりも優しい物腰だし口調も柔らかい。10年間何が五条を変えたか分からないけど……そのきっかけに私が五条を幸せに少しでも出来てたらいいな。
ならば、私はこんな所で諦めちゃ、死んじゃいけない。ぐっと拳を握って決心すれば、足元から光が差し込んできた。

「時間みたいだ。またね名前」
「うん。ありがとう」

未来の五条に、また会えるように。





***




「……いっ……!」

海から上がる様に、身体がふわふわと意識とリンクする。心地良い感覚だったものが徐々に体中に痛みが走り、思わず声を上げた。うっすら目を開けると白い天井が見える。

ここは…医務室…?あれ、さっき……
なにか大切な夢を見たはずなのに覚えていない……でもここが夢じゃないのは分かる。

……そっか。

「…私、死んでない」
「名前、アンタ死ぬ気だったでしょ」

ぽつり、と独り言を呟くと、返事がきた。横を見れば硝子が居て、顔を歪ませ怒った顔をしている。
……ああ、また硝子の事怒らせちゃった。でも、彼女が言った事は真実だ。

「……うん」
「死なせないよ、私が。絶対治すから」
「うん……ごめんね硝子」
「そこはありがとうって言ってよ」

……ごめん。
硝子にそんな顔させて本当にごめん。
でもあの時、私に出来る事がよくわからなくなった。あれをしても、これをしても、上手くいかない。
けれど何でだろう。生きろって、未来で待ってるって、誰かに言われた気がした。

「……もう死のとしたりしないから。硝子、治療してくれてありがと」
「……謝らなきゃいけないのは私の方。名前を……あの時コンパ誘ったこと」
「なんで?硝子は何も悪くないよ」
「名前がそこまで追い詰めてたなんて、知らなくて……私、尚更追い詰めたよね」
「違うよ私が力不足なだけ。謝らないで、ね?」
「……ねえ名前、私達友達だよね?」
「うん」
「……ならさ。頼ってよ」
「……うん」

でも、これから私が進む道は危険な道。私の祖先の事に硝子を巻き込むわけにはいかない。
だから私がやらなきゃいけない一番の事、終わらせるから、もう誰にも心配かけないから。

そばにいてくれてありがとう、硝子。



*




一週間後。

「もういいのか、身体は」
「はい、もう完治してます」
「…そうか。それで、またあの件か?」
「はい。……もう時間がないんです。これ以上止めるなら、高専を辞めても、術師を辞めても、勝手に行きます」

七月。完治に時間がかかってしまい、タイムリミットはすぐそこだった。
お腹には刺さった刀の傷口は、ヘソの少し下に瘡蓋のように出来て完全に消える事は無かった。硝子は傷跡が残った事に対して「私のせいだ、ごめん」と謝ってきたけど、必死に治してくれた彼女には感謝してる。
……あの時、全てを投げ出そうとしたのは私なんだから、この傷が誰のせいでなんて他人のせいにはしない。

療養中、基本寝たきりで過ごしたおかげで、身体も少し楽になった。あまり横になっても眠る事はあまり出来なかったけど、前より格段に体調が良い。
準備は万端、おじいさんのいってた日までには解決しなきゃ。
……それが高専が、呪術界が私を拒んでも、やってやる。

「…しかしまだ報告が、」
「それなら、先程承諾がおりましたよ」

後ろから声が聞こえて振り向けば、三好谷さんがいつもの笑顔で「久しぶりですね」と声をかけてきた。

「…それは本当か?」
「ええ。上層部の方々が名前ちゃんをお待ちですので、連れて行っても構いませんか?」
「あぁ。…名前、無理はするな」
「だいじょーぶですよっ!ありがとうございます」

夜蛾先生の顔を見たら、いつも怖かったのに、少し可愛くみえた。こんなにも優しい先生が、私のためを思って心配してくれていて、ぎゅぅっと胸が熱くなる。
ありがと、先生。




三好谷さんについていくと、進むにつれて先が暗くなって、柱に灯る蝋燭だけで暗闇を進む。奥まで進み、とある部屋に通されると……見慣れた白い髪が目に入った。

「……なんで五条が、」
『今回の任務は二人で行ってもらう』

疑問に思って声を出せば、襖のような板の奥から声が聞こえる。ゆらゆら揺れる蝋燭の灯りで影が見え、多分襖の後ろに居るのが上層部なんだろう。上層部の声に三好谷さんはお辞儀をし、きた道を戻っていった。
一週間ぶりに会う彼は私の目を見ることもなく、はぁと深く溜息を吐いて頭を掻く。

「別にコイツが行く意味無いでしょ。俺だけで解決できる」
「私一人だけで十分です。五条とはやりたくない」

上層部に文句を言うなんて今まで我慢してきたけれど、今回だけは言わせてもらう。
もう五条には迷惑をかけたくない。これ以上名字家の問題に五条家が関わって欲しくない。

『他言無用。これは私達上層部と五条家の命令だ』
「そんな話、俺は聞いてないですよ」

納得いかない彼は、反論の言葉を示す。
…五条家が私と五条を命令…?
あれだけ彼との接触を毛嫌いしていたんだ。寧ろ五条と同じように来ないように拒否するか、もしくは私が呪具を盗まないように考えて五条だけで遂行させるはずなのに……何か理由があるのだろうか。
しかし五条家の人が関わってくるのであれば、理由を聞く事も、拒否することも出来るわけもない。

「……分かりました」

なるべく彼に関わらずに終わらせよう。
終わりは、もうそこまで来ているのかもしれない。


**


任務の遂行予定時間は、二日。
依頼書には場所と任務期限が一週間後としか書かれておらず、詳しい内容は何も書かれていなかった。
空港へと向かう車の中で、しっかり対策しようと考えていたのに、あそこにあるはずの呪具の詳細や呪霊が関係しているのか分からないのであれば、対処のしようがない。調査にあれほど時間かかったのに、分かったのがこれだけって…少しおかしくない?
途方に暮れ、低い車の天井を見上げる。ちらっと横を見れば五条はずっと窓の外を見ていて、一人分の距離は空いていても隣で座ってるだけで居心地が悪かった。だめだめ、それよりも任務で出来ることを少しでも考えなきゃ。


「三好谷さん、これ以上の情報って無かったんでしょうか?」
「なんでも村の人達が公に話したくはないみたいで。現地に到着した術師に直接話すと言っていたと上から話は聞いてますよ」
「……そうですか」

呪霊が関連する事には昔からの言い伝えがあったりするし、秘密厳守なルールでもあるんだろうか。
身一つで進む感覚に不安が過ぎる。ううん、でも大丈夫、私ならやれる。不安な気持ちなんて捨てて問題ない。少しの油断が失敗を招いてしまうんだから気を引き締めないと。





空港へ着くと三好谷さんは手配していた飛行機のチケットを私達に渡した。
沖縄、二か月ぶりだな。
……もし、あの時私が東京に帰らずに理子ちゃんと一緒に行動していれば、理子ちゃんは……伏黒さんは死なずにすんだんだろうか。

ぎゅっとチケットを握りしめて、気持ちを引き締めた。

「三好谷さん、いってきますね」

もう後悔はしたくない。後戻りも出来ない一発勝負、負けるわけにはいかない。

「……名前ちゃん一つお願いしてもいい?」
「なんですか?」
「抱きしめても、いいかな」

三好谷さんは少し悲しそうな顔で、私を見てきた。そんな顔しなくていいのに。「いいですよ」と彼女に笑いかけて両手を広げた。

「……必ず無事で帰ってきてくださいね」

三好谷さんは私をぎゅっと抱きしめながら力強く言う。もう諦めない、死なない。呪具を返すまでは。
彼女の言葉を受け止めて、はい。と答えるように背中に手を回して抱きしめ合った。






「最後の別れみてーな事言うじゃん」

搭乗口を通過し機体に乗り込んで席に着いた時、五条は鼻で笑いながら独り言のように呟いた。多分、先程の出来事についてなんだろう。

「私は負けないもん……ちゃんと生きて帰る」
「お前が居なくても俺一人で充分だし。邪魔すんなよ」
「…それはこっちのセリフ」

もう負けない。