空中分解するような浮遊感を身体で感じ、のちに圧のかかる重力を感じた。不思議な感覚だなあ。あ、でも右から感じるあたたかい温もりだけは落ち着く。この温もり、好きだ。
…イテッ。
心地良い感覚に身体を任せれば、突然痛みを感じた。なんだ、この痛み。摘まれるような、押されるような感じが頬から伝わってきた。
「オイ、いい加減起きろ」
右耳から聞こえた声にぱちぱちと目を開き、思考が止まる。何事かと思って顔を上げると五条が面倒くさそうな顔をしていた。
えっとー…あれ私…五条の肩に寄りかかって寝てた……?
窓側に座っている五条の後ろにある窓からは、晴天の青い空に白い雲のコントラストがはっきりとした景色広がっている。機内では「着陸態勢に入りますので、シートベルトをしっかりとおしめください」とアナウンスが流れ、客室乗務員さんがシートベルトの着用を確認し、去っていった。
「……おはよぉ、ごめん肩借りてた」
「何……お前、寝不足なの?」
「ねぶそく…?」
寄りかかっていた肩を戻し、止まっていた思考をぐるぐると稼働させる。
そういえば五条の事を忘れようとすればするほど頭の中がもやもやになって……よく分からないうちに五条と喧嘩してしまったし、嫌われて、寝ても何度も目覚めて…寝不足だったのかも?
さっきの面倒くさそうな顔は喧嘩してるからなのに、嫌な事忘れて気の抜けた声出ちゃってた……馬鹿みたい。
あーもう、しっかりしろ!これから大事な任務だというのに、飛行機の中とはいえ寝てしまうなんて。機体が上空した後、今回の任務についてどうするか自身で作戦を練っていたはずなのに、資料には詳しい事は何も書いてないし五条と会話するのも気まずく、何もやる事が無くていつの間にか寝ちゃっていた。しかも何だかいつもよりぐっすり寝れた気がする。大事な任務前に気が緩んじゃうだなんて、ダメだなあほんと。
「オイ聞いてんのか」
苛立っている声が再度聞こえれば右の頬をふに、っと摘ままれる。
…待って。この感じ、さっきの夢の中の感覚やっぱり私の頬摘んでたよね…?
彼に頬を触られるのは久しぶりで、言い合いをしてから触れられる事さえ無くなった。それで良かった。だって、五条にはリコちゃんが居るのに、私になんか触れていたらきっとリコちゃんは悲しむだろう。
…それなのに、頬に触れてくれて嬉しいのには変わりなかった。
「聞いてるよ。大丈夫、元気もりもりだし!」
「………あっそ」
彼に向かって思わず歯を見せるように口元が緩んだ顔を向ければ、一瞬驚いたような顔を見せたと思えば不貞腐れたような表情へと変わっていった。
あ、またやっちゃった。いけないいけない、喧嘩してたのに何笑ってるんだ。つい嬉しくて我慢していた糸が解けるように緩んでしまった。
……我慢?違う。私はもう諦めたんだ、我慢なんてしてない……してないもん。
どこからか湧き上がる感情を、クシャクシャにして丸めた。さあ私の目標のゴールはもうそこまで迫っているはず。五条へ呪具を返して第二の人生をスタートさせようじゃないか。
空港からタクシーに乗り、前回沖縄の任務で向かった廃墟のある場所の近くまで向かう事に。前回の任務先である廃墟や今回の任務先の場所へは、途中車道が整備されておらず、所々に大きな石が転がっていて車では中々通れないので、行ける所まで進んでもらう事に。
「へえ、そんな東京の学生がこんな田舎まで何の用事なんだい?」
タクシーの運転手は気さくに私達に話しかけてきた。今日は一段と暑いねえ。見ない制服だけどどこから来たんだい?と、客とコミュニケーションを取るタイプのようだ。
「えっと、田舎の伝承の自由研究があって…そうだ運転手さん、今から行く村について何か知ってる事ありますか??」
「どこにでもある村さー。…そういえば少し変わった神社があったかなあ」
一つでも新しい情報が欲しくて聞いてみれば、運転手さんは話し始めた。
なんでも村には小さな神社があり、天災の怒りを鎮める神様が祀られていて、田舎の村としては有名とのこと。海の近くにある村らしく、海や水に関連する神様だというが、詳しい事はよく分からないと言う。
それだけでも新しい情報と得れた事に変わりないのだが、ただそれが私の祖先とどう関わってくるのかが未だに謎だ。今まで私を育て教えてくれたおじいちゃんだって、祖先の事について神様の話なんてした事は無かった。
「おし、着いたよ。こっから十分歩いた所よお、暑いから気をつけて行ってきなあ」
「ありがとうございます」
謎が深まり思考がまとまらないうちに目的の場所へと辿り着き、タクシーをおりて徒歩で集落まで向かうことに。
七月の沖縄は灼熱の太陽が私達を照らしていた。一歩間違えば、熱中症で倒れてしまいそうな暑さ。四月に新調したスカートはひらひらと短めだから下半身はいいとして、上は長袖。勿論、呪霊から腕を怪我しないように守る為に着ているのだけれど、暑い……暑すぎる。
隣を歩く五条をチラッと見れば、腕まくりしてイライラした顔をしながら歩いている。…流石に太陽の暑さは無下限じゃ止められないのかな。
砂利道を進んでいくと少しずつ木々が立ち並び、奥へと進むにつれて太陽が隠れる程の木々に囲まれ、風が靡くと冷たい風が肌へと伝わる。先程の暑さが嘘のように、とても涼しく少し寒いくらい。
木々の中を十分程歩くと、家が建ち並ぶ村へと辿り着いた。奥に神社の鳥居が見え、その奥からか波の音が聞こえる。木々に囲まれて全然海の景色見えないけれど、タクシーの運転手の言ってた通り海が近いみたいだ。
「おおっ、巫女様…よくお越し下さいました…!」
「あ、おじいさん」
村で一際目立つ水模様が刻印されている鳥居をくぐって神社へ足を進めると、こちらへ一人の男性が歩み寄って来る。よく見れば前に会って私を巫女と呼んだおじいさんだった。
天にも縋るような顔で出迎えたおじいさんは早速中に入ってください、と私達を神社の中へと招き入れた。
神社の中は高専のように何処か洗礼された雰囲気が広がっており、客間のような部屋に案内された。
五条に何か話しかけようかと思ったが何も思い浮かばず、沈黙の中テーブルに置かれた湯呑みの茶柱をじっと見つめて正座した。…ずっと無言じゃん、それも何だか気まずいな。久しぶりの五条との任務、今までどんな感じだったのか分からなくなってきた。
重い空気が漂う中、襖が開き宮司さんのような方が私達の向かい側へ座りお辞儀をする。
「わざわざ遠い所から御足労頂き感謝いたします」
「いえ、これは私達の役目ですので。あの、それより今回の災いについて私達詳しく話を聞いていなくて、把握出来ていないので教えてほしいんですけど…」
「はて。儀式や災いの歴史については担当者に大方お話ししておりますが」
「嘘つくんじゃねーよ、そんな話来てないっつうの」
「五条、ちょっと」
うお、随分と黙ってたわりには一言目の口調悪すぎ。でも、言い方は悪いけれど、確かに五条の言う通りそんな話聞いてない。三好谷さんも何も情報が得られなかったって言ってたのに……どういうこと?
疑問が残る中、ちらっと宮司さんの方を見ればニッコリと笑顔を見せた。
「それでは水神様の祠にてご説明しますので、巫女様は別室へ」
「え、私だけですか?」
「ええ。水神様は男性には会ってはくれないもので」
「説明くらい俺にも聞く権利あんだろーが」
「では男性の方にはこちらで私からご説明いたしますので」
納得いっていないような顔をする五条だが、宮司さんの説得により不貞腐れたようにテーブルに肘をついた。
タクシーの運転手が言っていた通り、ここは水神様って神様が祀られているっぽい。神様なんだろうけど……呪霊の類に変わりない。まさか女性だけにしか会えないのは知らなかったが、それなら尚更良い。五条に手を借りる事なく、名字家と五条家の問題に終わらせてやろう。
立ち上がると、神主さんが現れ「こちらへ」と声をかけられたので、ついていくことに。
「…凄い」
広い境内の中、神主さんの後を着いて行くと、鉄の分厚い扉の先にある部屋へと案内された。
部屋、といっていいのか分からないけれど、一面に植林の緑が蔓を巻き、水の源があるわけではないのに壁には滝のように水が流れた空間が広がっている。不気味ながらもどこからか差し込む光が緑を鮮やかに映し出し、水も透き通るような蒼色が虜になりそうだ。
「とても綺麗ですね」
「やはり巫女様にはそう見えるんですね」
「…神主さんは、見えないんですか?」
「私にはさっぱり。ここには何もありませぬ」
呪霊の術式による幻覚か。呪霊と一緒で、普通の人にはこの情景は見えていないらしい。しかし呪力を一定に流して保っているとすれば、中々の呪霊なのかもしれない。
これまでの情報から私の推測であれば――その呪霊が私の祖先、そして五条家の呪具の在処を知っているはず。まずはその呪霊、水神様とやらに会わなきゃ。
「ここに水神様は現れるんですか?」
「ええ、私らには見えませぬが。では……男が居たら現れぬ故、ここで退室させて頂きます」
「え、ちょっとまだ詳しい話がっ」
「それについても、水神様が直接お伝えになるでしょう」
そう言って神主さんはそそくさと部屋から出て行き、ガチャっと大きな鍵のかかる音がして嫌な予感がした。咄嗟に危機感を感じて入り口の扉を押すがビクともしない。
もしかして嵌められた……?
呪霊から伝えるって何言ってるんだ、呪霊が人間と言葉を会話出来るわけないじゃん。今の私だって、術式を通じて何となくの感情が分かるだけなのに。それに鍵までしないと呪霊が現れないの?それとも五条と一緒だと不味い事がある……?
不可解な点が多くますます疑問に思ったその時、部屋の端からバシャバシャと水を弾く音が部屋に響いた。
……何、何か居るの?
素早くポーチから短刀を取り出して呪力を込める。緑が生い茂り先が見えない為、片手で構えたまま掻き分けると、白装飾を着た一人の女の子は口元と腕、足を縄で縛られていた。
「は……?!だ、大丈夫ですか?!」
一瞬、呪霊かと疑ったが、そんな感じは全くしない。まさかここに人が閉じ込められていたなんて。慌てて短刀で身体に傷をつけないように縄を切れば、解放され涙目になっている女の子はガタガタと震えながら私に抱きついた。
「助けてっ……生け贄にはなりたくないっ……」
「生け贄?どういう事?」
「貴方も見えるんでしょ、この空間が!」
「見えるけど…貴方もなの?」
「そうよ、私達は水神様に魅入られたのよ…っ!」
「…ねえ、その話詳しく教えて」
尋ねると、女の子は怯えながら口を開いた。
女の子曰く、この空間に�W何か�Wが見えた女は呪力が宿っているものとして生け贄に授けられるという。水神様は年々力が弱まりつつある為、人間と同化して呪力を保って今まで生きてきたらしい。そのおかげかここの地域だけは自然災害は昔から起きてないんだとか。
それにしても生きてる人を生贄にするなんて、この村どうなってるの……?
人間の醜さにふつふつと怒りが脇立つが、一番謎な問題が頭をよぎる。
未だに祖先と関わりと目的の呪具の謎は分からない…やっぱり水神様に会うしかないようだ。
「……分かった。とりあえず私が人質になって水神に会ってみるから、もう少しだけここに居てくれない?倒したらまた助けに来るから」
「ダメ、そんなの水神様に取り込まれてしまう!」
「大丈夫、負けないから」
負ける気なんて微塵子たりとも思わない。ここまで来たんだし、それにこの状況は五条よりもゴールに近づいている。このままリード出来ればいいんだけど……。
「けど……ここに居たら本当に水神に会えるの……?」
強そうな呪霊の呪力は感じられない。この空間が呪力で練られているのは感じ取れるけど…他はこの人質だった子の小さな呪力と……正面に湧き溢れた水の壁にある、鏡の中から漏れる呪力のみ。
あれ、こんな鏡さっきあったっけ?
じっと見つめると鏡は前へと浮き出てきた。咄嗟に危機感を覚えて目を逸らそうとするが反らすことは許されず、目を閉じることさえ出来ない。金縛りにあったかの様な状態で鏡を凝視すれば、映し出す鏡に見えたのは私の姿ではなく、五条とリコちゃんが仲睦まじく抱きしめあっている姿だった。
え……なんで、
やだ、待って………!
無意識に手を伸ばせば、鏡の中から水が溢れ、あっという間に右の手首を水圧で掴まれた。
やばい……!
バチっと静電気が弾け、動けるようになった身体を動かし、左手で呪具を抜き取って呪力を込め水を切るが、次は背後から腰を縄のような形をした水流が身体を締め付ける。無形のはずなのにそれは力強く、呪具で切っても切れることはない。地面に引きずられながら必死に抵抗するが、頭の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜるような変な感覚と、共に今までの嫌な記憶が破片のようにフラッシュバックしていく。
なんでこんな記憶が今……私は、五条から離れたくて呪具を返すのっ……こんな嫌な気持ちは全部要らないのに…!
地面に指を這い抵抗するが、上手く力が入らない。
「運百年ぶりというのに、運命は変わらないのう」
知らない声が、部屋に響いた。
何処から聞こえてるの……?
辺りを見ましてみると、身体に巻きついた水のベールが私の身体を持ち上げ宙に上がり、背後からぬるっと水で象られた手が私の輪郭を掴んだ。
「ずっと主を待っていた……わしをここに封じ込めた呪術師よ」
「……それは私の先祖の話でしょ」
「そんなのはどうでも良い、主のせいでここから出られずに困っておったのじゃ」
甲高い笑い声が空間に響き渡る。姿は分からずとも掴まれた水の手、これが水神か。まさか本当に呪霊が喋るなんて…。
「…私は祖先が盗んだ呪具を見つけに来たの。ここにあるんでしょ」
「さぁの」
「惚けないで」
「秘密を知るには代償が必要じゃろ?わしの望みを叶えばくわ教えてやろう」
「代償……?」
「お前のこのどろどろに焦げた呪力をわしに渡す事だ、これは中々美味そうじゃな」
「は?なに言って…………?!」
水神の言葉に反論すると、自分の胸元からドロドロと黒い液体のようなものが溢れ出てくる。
何これ……これが呪力なの?
今まで鍛錬した時に溢れていた呪力は、透き通るような生の色をしていて、澱んだ色はしていなかったのに。
いつの間にこんな事になったの……?
自分の呪力がおかしいことに身体の力が完全に抜け、身体を締め付ける水の力が強くなった瞬間、封じられていた扉が大きな音を立てて開き、呪霊の動きは止まった。
扉の方を見れば、息を切らして驚いた表情をする五条がこちらを見ている。
「…おい、ソイツを離せ」
睨んでこちらを見る五条には、私には手しか確認出来ない水神の正体が分かっているのだろうか。その言葉に答えるように部屋にククク、と不気味に笑う声が響くいた。五条の後ろで宮司さんと神主さんが「おやめください!」と止めようとしているが、無限を張ってるからか彼のには触れられないようだった。
いけない……一刻も早くこの状況を打破しないと、また五条に迷惑かけることになっちゃってるじゃん……!
「お前が想い人か。……可哀想に、また過去と同じ五条家の坊に対して恋心を芽生えさせるとは」
突然、水神が吐いた言葉に胸が軋むように締め付けた。
やめて、これ以上は、
「は?何言ってんだ」
「なんと、気づいておらんのか。哀れだなあ、こんなにも愛しい想いを抱いているのに、何も告げておらんとは」
「意味わかんねー事言うなよ、何が目的だ」
「分からんのか、この女の気持ちを」
「は?気持ちってなんだよ、意味わかんねーこと言ってんじゃねーつの」
「もうやめて………」
それ以上言わないで。
それ以上気づかないで。
どくん、どくんと大きく跳ね上がる鼓動に息も上がっていく。
「クク……ならば教えてやろう、この女はな」
「やめてっ!言わないで!」
「五条の坊よ、この女はずっとお前の事を好いて愛しているのだ、今もな」
「やめて……!!!」
「……は?」
ずっと隠していた気持ち、諦められなかった気持ちは、呆気なく呪霊の口から想い人へと告げられた。…呪具を見つけて返せば諦められると思ってたのに、呪霊には邪魔されるし、全然上手くいかないじゃん。
水神の発言に呆気に取られた言葉を発した五条の顔を見ることが出来ない。見てしまったら、本当に全てが崩れてしまう気がした。
「ククッそんな事を思うな、ほれ見てみろ」
心を読まれているのか、気味の悪い笑い声を発した水神は俯いていた私の顎をがっしり掴み、五条の方に向ける。見たくなくても見てしまった先には、目を丸くし立ち止まっていた彼の姿が目に入った。
「……見ないで」
「名前っ!」
気づかないうちに溢れ出た涙を拭う事も出来ず、精一杯の抵抗で言葉を発すると、五条は走りながらこちらに手を差し出す。助けを求めるように手を差し伸ばせば、身体はそのまま水に包まれ意識はそこで途絶えた。
名前へ伸ばした手は空を切り、彼女の姿は水に包まれて部屋の中央にあった鏡の中へと吸い込まれていった。
五条はそのまま走り、同じように鏡に吸い込まれようと手を当てるが、鏡は普通の鏡に戻っており、先程まであった呪力はこの部屋から消えている。
うっ……うぅ……と、嗚咽を吐きながら泣いてる女が部屋の隅にいる事に気づき、五条は現状の把握が上手くできなかった。
「まさか……あの子が君を想っていたなんて」
「しかし彼女が生贄になったおかげで村に平和は訪れるぞ!」
部屋の入り口で歓喜の言葉を口にする宮司と神主は喜びの笑みを浮かべていた。その様子をみた五条は、宮司の胸ぐら掴んで浮き上がらせる。
「……おい、どういう事か説明しろ」
「説明と言われましても……巫女様は認められたのですよ。君は知らなかったみたいだけど、あの子はずっと隠していたんです、君への恋心を。その思いは鏡に映し出され、水神様に認められたのです」
「違うわ、あの人は生贄になった私を助けてくれた……この忌々しい仕来たりから守ってくれたの」
言い合う宮司と五条の会話に女が間に入り、依然として嗚咽を吐きながら真実を話した。その話を聞いた五条の瞳は今までにないくらい瞳孔を開き、再度胸ぐらを掴む。
「あの呪霊の居場所を教えろ」
「なっ……なりません!せっかく生贄が現れたというのに!」
「祓ってやるんだって言ってんだよ」
「水神様が居なくなられては、今後自然の災いが起こるかもしれないんだ!」
「ンな事知らねーよ。大体あの呪霊が居なくなったら災いが起きる根拠でもあんのか」
「それは水神様が……」
「ハッ、呪霊の話に耳傾けるなんて阿呆らし」
あまりの信仰ぶりに鼻で笑う五条は、胸ぐらを掴んだ手を振り払い宮司は床に倒れた。
「俺はアイツを助ける」
そう決意した五条の身体には呪力のベールが纏っている。その言葉を聞いた宮司と神主は怖気付き、生贄になっていた女は勇気を出して立ち上がった。
「私が案内します、この神社には生贄になる一年前から住み込みで働く仕来たりでしたから大体は理解しております」
「……分かった」
水で濡れた装飾を纏った女は、宮司と神主を睨んで部屋から出る。水神様によって告げられた名前の気持ちを未だ理解しようとも理解出来ない五条は、彼女の元へ走った。