無意識の花





この先困難な事ばかりだろう人生の中で、この大切な時間をいつまで続ける事が出来るのか分からない。
ならば今のうちに問題を解決して、強くなって、このまま大好きな人と大好きな時間をいつまでも過ごしていたい。だから誓いを立てた。

「それで、話とは?」
「高専卒業までに呪具をお返しします。出来なければ五条君と……お別れします」
「ほう……卒業まで待てと?」
「……お願いします」


五条と付き合ってからも、頻繁に高専へ五条家の方が出入りしていた。確かに五条家の中でも呪術師として活動している人もいるから仕方ないのだけれど。
そんな中、私に話を持ち出した丸メガネをかけた老人の姿があり、声をかけてこの前の話の続きを進める。
五条が私との未来を考えてくれている、一歩ずつ一歩ずつ進んでいこうと言ってくれた。だから、その為にはやらなければならない事から逃げてはいけない。
この約束をすれば、契りを交わすのも同じというのは分かっている。
五条が交わした私を監視下におくというものは上層部との話であって、私とは実質交わしていないので可能なのである……と水神は言っていた。
深々とお辞儀をして頼み込めば、フッと笑ったので顔をあげると老人は優しい笑みを浮かべていた。


「よかろう」



後は呪具を見つけるだけ。
彼と今後の未来を生きる為に。







*




焦んなくていい、少しずつ進んでいこうぜ。

なんて、いつものクセで強がってしまったが、待てるわけねーだろーが。

あの日、名前が変な事言ってからずっとソワソワしてしょうがない。誰だよABCの話をしたやつ。多分恋愛を話をするとしたら硝子なんだろうが、硝子が俺に意味を聞くように言ったんだろうし名前を大事にしろよという圧が伝わってくる。言われなくても大事にするっつーの。
けれど好きだと実感してからアイツの事が更に気になるようになった。デートで約束をしてから一週間、共に任務続きで会う事は出来なかったが、メールで連絡をとっていて下らない話をするそんな日々も楽しくて。電話も考えたが今の俺じゃまた名前のことを意地悪しそうで我慢したけど、限界。




「海、行こうぜ」
「は……?もう秋だよ」

久しぶりに教室に向かうと全員揃っていた。
突然の誘いに隣の席に座ってる傑が何を言い出すんだという顔をこちらに向ける。

「あちぃーじゃん。しかも今週末まで夏日なんだろ?」
「確かにテレビで言ってたけど…」
「今年の夏、四人でどっか行く事無かったし」
「まあ状況が状況だったからね」
「……悪かったっつの」

じとーっとした目でこちらを見てくるが、言いたい事は分かってる。俺が名前への気持ちを理解して、我儘に振り回していなければ、今年の夏は少しは状況も変わっていただろう。
しかし名前も戻って来たし、想いも伝わった。傑も最初は俺の態度に対して呆れてたが、連れ戻し仲直りした事で安心したみたいだ。

傑の隣の席に座っている硝子と、硝子の席に椅子を寄せ雑誌を広げて話している名前の前に立ち、何の話をしていたか知らねーけど会話を遮った。

「なー海行こうぜ」
「何急に」
「暑すぎだし、それに硝子今年海行ってないだろ」
「彼氏と行った」
「でも俺ら四人で今年遊んでねーし、海入りたいじゃんか」
「九月はクラゲが多いでしょ、それに海じゃなくてもいいだろ」
「え、海行こうよ」

俺の誘いにあまり乗り気ではない硝子とのやり取りを聞いていた名前が横から乗り気で入ってきた。え、名前が一番渋ってくると思ってたのにマジ……?

「硝子嫌なの?」
「いや……名前がいいなら」
「私はいいよ、硝子と海行きたかったし」
「んじゃー決定!ちゃんと水着持ってけよ」
「五条、」

すんなりと話がまとまり、ラッキーだなと思っていたが、硝子は声をかけると傑と同じようにじとーっとした目でこちらを見てくる。

「アンタ何考えてんの?」
「……何が?」

鋭い硝子の質問に間が空いてしまった。けれど質問を質問で返せば、呆れたような顔をして「別に」と話を区切り名前と机に広げていた女性ファッション雑誌の話へ戻る。
やべー……気づかれたかな。でもいいだろ、下心あっても名前が嫌がる事をするわけにはいかねーし、でも眼福だけでも得たいわけ。

そう、沖縄で名前が調子に乗って俺の上に馬乗りになった――……あれマジでやばかった、もう一度体験したい。出来ることならもう少し胸を揺らしながら馬乗りになってくれると一番良いんだけどな。まーアイツのビキニ姿見れるだけマシか。

あーー!!最高!!楽しみ!!!










「って、なんでスク水なんだよ……」
「馬鹿かお前は」

灼熱の太陽、最高の海日和。
計画通りに海にやって来てレンタルのレジャーシートにパラソルを立ててロケーション完璧!あとは俺の自慢の彼女!!と思っていたのに、現れたのは芋田舎のようなスクール水着を着た名前であった。
……別にスクール水着が嫌なわけじゃない。でもやっぱ海に水着ってビキニじゃん?あの水着から溢れるような胸と谷間が最高なんじゃん?名前が着ているスクール水着は加圧する素材なのか、いつもより胸が凹んでる気がする。
着替えて集合した時に愕然としたが、言いたかったものがやっと溢れ出た。
内心凹んでる間に名前は「焼きそば買ってくるー!」と言って傑を連れ、いつの間にか居なくなっていて凹んでいる俺の隣でタバコを吸う硝子が呆れたように呟く。

「だから言ったじゃん」
「分かってたなら言えって……」
「どうせ名前の水着が見たいが為に誘ったんだろ」
「んだよ、じゃあ硝子も名前にビキニ勧めろよ」
「はぁ?アンタが名前のお腹に傷つけたからビキニ着れなくなったの、分かってんの?」
「あ、」
「その様子だと忘れてたのか。だからあの時気づけと言いたかったのに……あーあ、今すぐ別れろと名前に言ってやりたいわー」

…そうだ、喧嘩して名前の腹に刀を刺したのは俺だ。
あの時、乙山リコ本人は気づいて無かったが容態は良い状況では無かった中、試合を任せてしまって心配だった事もあったし、名前なら交わせると思った。まさか刀を手放すとは思っていなかったし、さらに呪力を込めておらず気づいた頃には時すでに遅し。
俺自身はその傷を見てはいないが、瘡蓋になって残ったと後から知らされた。

「……もうあんな過ちはしねーよ」
「当たり前でしょ」

そういえばあんな事があったのに、名前は俺のこと憎んでないのか。好きだと言っても許せない事もあるだろう。
……もしかしてビキニを楽しみにしてる俺を嵌める為に海に行くのに同意した?名前にそんな策略な考えは出来ないはず。じゃあ何で…?
何か、また重要な事を忘れている気がする。
今まで恋人が出来てもその人の気持ちなんて考えて来なかったから、考えても中々当てはまる答えが思いつかない。
解決せず唸っていると「お待たせ!」と元気な声に目を向けた。

「ごめん、混んでて遅くなっちゃった!」
「別にいーけど……何で傑のパーカー着てんの」

戻って来た名前は、行った時に着てなかった傑のパーカーを着ている。すると焼きそばの入ったパックを持って戻ってきた傑が会話に入ってきた。

「少し目を離した隙にナンパされてたんだよ」
「だからあれはナンパじゃないって!目の色が違ったからコンタクトですか?って聞かれただけだし」
「大体そう言う話から誘われるんだよ」
「もしかして夏油もそういう事した事あるの?」
「……無いよ」

その間はあるに決まってんだろ、嘘つくなっつうの。傑の苦しい顔を横目に自分の着ていたパーカーを脱いで名前に渡す。

「こっち着ろって」
「いいよ。あ、夏油もパーカー返すねありがとう」
「いいから着てろ」
「名前、着てあげな。悟が拗ねちゃうから」
「何でよ。……いいの?」
「いいっつてんだろ」
「ありがと……」

誰が彼女に彼氏以外の男の服を着せるやつがいんだよ。水着はスクール水着だけれど、確かに顔は少し化粧しているのか、いつもより華やかな感じだ。片サイドに結んで緩く巻いている髪は少し大人びて、胸が加圧されていても身体のラインがわかるその姿は高校生にしては艶めかしい。

「そういえば店主に何か聞いてたけど、何だったんだい?」
「えっと……ちょっとね。あ、早く食べないと美味しく無いだろし食べよ!」

傑の問いに名前は誤魔化すような発言をする。…おかしい、絶対何かある。
何故なら俺の感は天啓並みだからな!




*






硝子と今度買うデート用の服を雑誌を見ながら相談していたら、突然五条が海行こうぜと割り込んで来た。急に何を言ってんの、と思考停止したけれど、これは良い機会。
私が見た先祖と水神が呪具を隠した場所は水辺の近くだった。しかも術式を使って海を渡り沖縄までやってきたみたいだったし、海の近くに呪具の祠はあるはず。
五条の誘いに賛成したけれど、硝子はあまり乗り気ではなかったので海が苦手なのかな?と思っていたけれど、あの後お昼ご飯を食べながら愚痴を溢してきた。

「アイツ、絶対名前の水着見たいだけだろ。名前の身体に傷つけたクセに本当クズだな」
「えぇ?そんな私の水着見て何の得があるの…違うと思うけどなぁ。それにお腹の傷もあるしスク水にしようと思ってるんだけど、嬉しいの?」
「男は獣なんだから。しかも今まで五条にちょっかいかけられただろ?」
「そうだけど……恋人の関係も、ハグとかキスとかより、とりあえず名前呼ぶところから始めようって言ってくれたよ」

少しずつ進んでいけばいい、そう言ってくれて嬉しくて。少し、悲しんでいる自分が何故か心のどこかにいるけれど、私なりのペースに合わせてくれるその気持ちが恋人という存在に変化したように思った。

「名前呼んであげた?」
「……まだ、」
「それでいいよ、少しずつで。あのクズにはな」

硝子はどうやら五条の様子に苛立っていたけれど、海にくれば別に五条はそんなに私の水着に浮かれているわけでもなく、発起人としては少し楽しくなさそうな感じをしていた。どうしたんだろ?任務で疲れてるのかな……?
そんな時に五条に色々任せるのは申し訳なく、夏油と一緒に屋台まで焼きそばを買いに行き、出来上がるまで待っていると知らない男の人から声をかけられた。
「それカラコン?可愛い色だね、どこの国の人?」なんて言われ、サングラスをしてくれば良かったなと少し後悔した。確かに淡い桃色の目をした外国人なんて居るのだろうか。答えにえっと、と詰まらせると横から夏油が「何か用ですか?」と対応をかわってくれた。突然あんな風に話しかけられるのは苦手だし、夏油と一緒で良かったな。

「お嬢ちゃん、お待たせ!」

屋台の店主から声をかけられて出来上がった焼きそばを受け取り、その際に「あの、ここら辺に祠とかありますか?」と聞いてみる事に。地元のことは地元の人に聞くのが一番。
すると「ああ、そういえばあっちの海の中に祠みてぇのがあるって聞いたことあるな」と南の方を指差す。少し岩場があってあまり人が行きそうにない所……しかも海の中にってなると、可能性は高い。
店主にお礼をすると、横から夏油が焼きそばの入った袋を持ってくれた。先ほどの男をあしらってくれたようで「ナンパには無視していいよ」と疲れた顔で着ていたパーカーを渡してきた。ナンパ?ナンパなのか? 
私はそうは思わないけど……夏油がそう言うのであればそうなのかもしれない。

それから焼きそばを食べて、砂浜で遊んで、ビーチバレーをして。少し過ぎた夏を堪能することが出来た。


しかし私の目的はこれから。呪具を見つけ出さなきゃいけない……私が考えるに日本の何処がにあるはず。
だけど海に面している国であるためこれ以上のヒントは無いし分からないのだから、しらみ潰しに確認していくしか無いのだ。

「硝子、少し海辺歩いてくるね」
「一緒行くよ」
「ううん、すぐ戻るから」

五条と夏油が砂浜でいかにリアリティな城を作れるか対決しているのを、そーっと抜けて岩場のある方まで歩いて行く。
岩場は少し足場が悪いけれど、どうにかして越える事が出来た先には、人気のない海辺が広がっていた。

「水神、何か気配とか無いの?」
「無いのう。それよりも五条の坊と探した方が良いんじゃないのか?あやつの目は呪力を認識出来る便利な能力があるからの、呪具の在処も分かるじゃろ」
「……五条には、呪具を探す事に関しては力は借りたく無いの。これは、盗んでしまった家に生まれた私が見つけなきゃいけない」
「しかしわしの力は借りるのか?」
「貴方も盗んだ一人でしょ、こういう時くらい力貸してよ」

五条と付き合ったとしても、やらなきゃいけない事は残っていて。盗んだ物を探すなんて人に頼むものではないし、もしかしたら危険が及ぶかもしれない。
それに啖呵を切って五条家の人に卒業までに見つからなければ別れるなんて言ってしまったから、尚更早く見つけなければならない。

「あんな事言わなければ良かったのではないか」
「もう!心読まないでよ」
「身も心も一体してると思うのじゃな」
「…だって、五条とずっと一緒に居たいし、横から邪魔されるのはもう嫌なの」
「ワガママじゃの」
「……五条には絶対言わないでよ」
「敬意を払え」
「言わないでくーだーさーいー」
「しょうがないのう〜」

んんん……腹立つぅ……敬意なんて、こんな性格悪い呪霊に持ち合わせてなんか……いやいや、これ以上言うとまた機嫌を損ねるだろう。

周辺を探索していると、鳥居のようなものが海の真ん中に海面から覗かせている。昔は海辺だったけれど地形が変わって海の中に沈んだのかも。水神が気配を察しないとはいえ、一応確認しておかないと気が済まない。
五条から借りたパーカーを小さな岩場にかけて、海の中に進んでいく。足元だけしか海水に触れていなかたったからか、徐々にふくらはぎから太もも、お腹から肩に水が触れて身体に心地よい冷たさが感じる。
泳ぐのは得意でもなく、不得意でもない。平泳ぎをしながら祠の近くまで泳いで潜ってみると、石で出来た小さな祠があったが、そこには何も無かった。水神も、私も、ここに呪力を感じることはない……って事は、ハズレか。
残念な気持ちになり浜辺まで帰ろうと顔を海面から出す時、周りにクラゲが沢山いる事に気づいた。
……確か硝子が九月はクラゲがいっぱいって言ってたっけ。刺される前に早く帰ろ……。
そう思った瞬間、足に刺激が走り身体がビクッと驚いて足が上手く動かなかくなってしまった。

やば、足つった……!!

想定外の出来事に動揺してしまい、上手く泳ぐ事が出来ず、腕をバタバタと動かして水飛沫をあげる。

「水神っ……!お願い力貸してっ、」
「嫌じゃ」
「はあ?!?!」

心の中で水神に咄嗟に助けを求めたが、彼女はツンと断る。
ちょっと待って、こんな所で溺れて死ぬとか呪術師としてアホすぎるでしょ!!しかも私が死ねば水神もどうなるのか分からないのに…!!

やば、溺れる……っ、、
頭が混乱して呼吸がうまく出来なくて、意識が止まりそうになった瞬間、手を引かれて海から体が浮いた感覚になった。

「おいバカ!何溺れそうなってんだ!!」
「ゴホッゴホッ……!」
「大丈夫か」
「う、うん。五条…ありがと」
「……ったく、一人で人気のない海の中潜るとかアホだろマジで」


身体を寄せて抱きしめてくれたおかげで何とか海面から顔を出す事が出来た。ホッとして彼の首元に手を回し、荒かった呼吸が少しずつ戻っていく。
しかし、彼の手が私の脇腹を持ち身体がビクッと跳ねて、ひゃ、と変なこえが出てしまった。
……海の中で、しかも水着が肌に密着しているからか触られる感触が敏感に伝わる。

「ぅ……ごめん変な声出して」
「……別に。泳げるか?」
「足つっちゃったっぽくて、しかもクラゲに刺されたっぽい」
「はあ?それもっと早く言えって」
「えっ、ちょ……っ!?」

私の膝裏を抱えた五条は勢いよく海から飛んで浜辺へと戻る。びっくりしてぎゅっと五条の首筋に手を回してしがみついていた私は、そのまま下ろされる事なく岩場に置いたパーカーを回収した五条は元来た道を帰って行く。
普段であればもっと視界が低いけれど、抱えられたせいか少し高く感じる。……ってそれよりもこの状況がは、は、恥ずかしいすぎるっ!!

「ご、五条下ろしてっ、」
「つーか何してたのあんな所で」
「べ、別に……」
「言わねーとキスマークつけんぞ」
「きすまーく……あ、あっ、ちょっと待ってっ、」

近くの岩場に私を下ろした五条は、私の言葉を聞かずに首筋へ顔を寄せてきた。吐息が首元に当たって彼の腕にぎゅっと握れば、首筋に痛みが走る。
これキスマー……って、これ噛んでるよね?!
以前伏黒さんにされた時よりも伴う痛みに、思わず彼の腕を強く握ると吸われるようなチクっとした痛みが走り、舌で舐められた感触に吐息混じりの声が出る。突然の彼の行動に心臓がバクバクと音を立てて、頭が追いつかない。

「はぁっ…五条、ちょっと待ってっ…」
「……お前が悪いんだからな」
「分かった、だからちょっと待って」
「お前が煽るから!」
「煽……ってえ?私、何か煽ったっけ……?」

どこをどうすれば煽った事になるんだ。
さらに噛みつこうとしてくる五条に両手で彼の肩を押す。素肌を触るのさえドキドキするっていうのに……!

「お前が首筋手回すからだろ!」
「ごめん…嫌だった?」
「嫌だったじゃなくてこっちがどんだけ我慢してると思ってんだ」
「が、我慢……?」
「スク水でくっついて……マジ馬鹿」
「もしかして本当に私の水着見たかったの?」
「んなっ…ワケねーだろっ!!それより答えろっつうの」

いや勝手に話進めてるの五条じゃんか!!
彼の顔は怒ってるというより、少し照れているようで前みたいに顔が少し赤い。しかし照れてるっぽくはないなぁ……よく分からない。
依然と足はじんじんとしていて、五条に助けてもらわないとこの先進めないだろうし、また噛まれるのであれば困るし、口を割る事にした。

「あの、呪具を返そうと……」
「呪具って……まさか」
「盗んだやつ。私が見たのは水辺にある祠だったから、もしかしたらと思って」

怒られるだろうか、それともまた噛まれるだろうか。俯いて彼の反応を待つが、思っていた反応が一切返ってこず、はぁ、と大きなため息が聞こえた。

「俺に何で言わねーんだよ」
「わしもそう言ったぞ」
「そーいうお前は術式で助けろっての」
「坊の気配がしたから任せたのじゃ」

ちょっと気づいてたなら言ってよ!
突然出てきた水神は、どうだ凄いだろうと言わんばかりにふふんと鼻を鳴らしている。流石呪霊……性格悪すぎ……。
五条は大きくため息を漏らし、私にパーカーを着ろと言わんばかりに差し出す。濡れた肌に袖を通すと私に背中を向けてしゃがんだ。

「ほら乗れ」
「でも、」
「つべこべ言うんならまたすんぞ」
「はぃ……」

岩に預けていた身体を起こし、痛い足を引き摺りながら五条の背中に寄り、肩に手を乗せる。

「他のやつらが小言を言ってるだろうけど、俺は別に呪具なんて見つからなくても良いって思ってるよ」
「……でも、私も嫌なの」
「…わーったよ。でも今度から探す時は俺に言えよ。俺も出来るだけ探す」
「うん……ありがとう」





*




何か隠してると思っていたがそれは的中。
傑と砂の城対決をしていたら、辺りをキョロキョロしながら奥の浜辺へと歩いて行く名前の姿を見かけ追う事に。
やっぱり何かあるんだと思ってはいたが突然海に入り出し、挙句の果てには溺れ初めたから急いで海に飛び込んで彼女の身体を支えた。
しかし無意識で首筋に手を回したり、柔らかい肌が触れる事で欲求が我慢していた爆発。これは俺は悪くない、悪いのは何も考えずに行動する名前の方だ。
そんな名前は俺の問いに対して「呪具を探してて……」と言いづらそうに口を開く。
……すっかり忘れてた、多分俺の中で引っかかってたのはこれか。この先、俺が呪具なんてどうだっていいと何度言っても、アイツも余程の頑固者だし探すのを諦める事はないだろう。





しかし帰り道の電車の中でもコイツは容赦なく呑気をかましている。隣で頭を俺の身体に預け、気持ちよさそうに寝て……俺がそんなに我慢出来ると思ってんの?はぁ…めちゃくちゃ振り回されてる気分だ。

「またアンタ名前に手出したでしょ」

俺の隣に座って寝ている名前の隣に座っていた硝子は、俺の方をチラッと横目で見る。

「別に、嫌がってないんならいいだろ」

流石に気づいたか。咄嗟にやってしまった行動にまた名前を傷つけたんじゃと俺も少し思っていたけれど、想いが伝わってからアイツが悲しい顔をすることは無くなった。
まああの後、硝子に診てもらってつった足もクラゲに刺された所も軽傷だったようですぐに元気にはなったけど、ずっとパーカーで首元を隠して、気づけば虫に噛まれたと言って大きな絆創膏を貼っていた。おい、俺は虫じゃねーっつうの。


ああ、これから耐えれっかなぁ。
そんな欲求が脳裏を過るが、アイツの頭はそれよりも呪具を探す事で大忙し。多分、五条家として認められたくて頑張っている所なんだろう。
何度も何度も釘を指しているのに、アイツらは一向に名前のことを信用しないし、高専によく来る。最近一番うるさいのはあのメガネのジジイだ。
海から帰って荷物を部屋に置きに行こうとすれば、噂をすればのように背後から声をかけられた。

「何、もうそろそろいい加減にしてくんない?これ以上頻繁に関係ない時に高専にアンタら来るなら、一先ずそのメガネぶち壊すよ」
「いえ、本日はこれまでの過ちを誤りに参りました」
「……は?」
「これからはどうぞ名前さんと、清いお付き合いを。応援しております」
「急にそんな事言うとか、何か企んでるでしょ」
「いえ。お二人の気持ちを受けてそう思ったのです」
「ふぅん、あっそ。じゃあこれから頻繁に高専に来ないでね」
「えぇ、たまには実家に顔を見せてくださいな」

はいはーい、と軽く返事をして部屋へと向かう。
まあこれから家の連中がちょっかいをかけてこないだけ、名前も少し気が楽になるだろうし良いか。