21のあと。
(パパ黒とは一回しか会ってない予定だったけど増えました)
桜が舞い散る頃、入学してきた新一年生とも交流し今まで人間とロクに関わってこなかった自分としては結構打ち解けた気がする。灰原は私によく話しかけてくれるし、七海は話しかけはこないが、こちらから話しかければ嫌そうな顔をしつつも話を聞いてくれるし話を振ってくれる。
そんな後輩と打ち解けつつある今日この頃、私は冥さんと向かった任務を終え、多摩川沿いを歩いて帰っていた。冥さんはいつも訓練つけてくれるし優しくて、守銭奴らしいのに一才今のところ金銭を要求された事はない。私、冥さんへの借金今いくらなんだろ…。任務で稼いだお金は高専で住む分などの固定費以外殆ど貯金してるけど足りるだろうか。
あ、そういえば明日硝子と久しぶりにショッピングだしお金下ろしておこっと。
近くの銀行のATMに寄り、お金を引き出して外に出ると、上下真っ黒のフード付きパーカーにスウェットを着た口元に傷跡のある顔をした人が通り過ぎる。
ま……間違いない、あれは!!
この前会った記憶が蘇り、指さすと彼もこちらを見た。
「げ、誘惑術師」
「伏黒さんっお金返してください!!」
逃げられないように彼のスウェットの裾を握って喋る。しかし彼の足は歩みを止めない。こんにゃろ…また逃げるつもりだな……!!
全体重を乗せて彼の腕を掴み「こんにゃろ、返せどろぼー!」と放つ言葉は途中で口元に置かれた手によって声をかき消され、身体は密着し腰に手を回された。
「未来返すっつてんだろ」
「返すっても子供に託してたじゃないですか!」
「今金ねーんだわ、つかお前さっき銀行から出てきただろ?貸してくれ、倍にして返すからよ」
「もう騙されませんから!!」
「イヤイヤまじまじ。嘘ならソッコーで逃げてたっつうの。アテがあんだって」
「……本当ですかソレ」
「本当本当、ちょっとついて来い」
倍にして返す方法があるの?
ドラ○もんの道具みたいな呪具でも持っているんだろうか。彼の口車に乗せられ、一先ず逃げないので着いて行く事にした。
「……なんですかココ」
「競艇」
「きょーてー?」
「つーか幾らだっけ」
「端数はいいので千円返してください」
「そんなに借りたか?んじゃあ、あの三番が一番、んで次に二か五が来るから俺に千円貸して、んで倍にして返すからよ」
ベンチ席が並べられている会場の先には湖のような川のような水辺が広がっている。学校のグラウンドのように一周を設けられている水面には小さな船のような機体が並んでいて、ベンチ座っているのは年老いたおじいちゃんや少し年配のおじさんが多い。
何だかテレビで見たことのあるような光景だ、いつ見たんだっけ……。しかし平日の昼間からこの人達は小船を見にきたのか…?この小船に何の魅力があるんだろう?
小船には確かに一から六までの数字が貼られていた。多分、陸自競技の川版みたいなんだろうけど直感的に三番の船が一位になる気がしない。
……伏黒さんからは以前と呪力の気配は全くと言っていいほど無いのだが、一着が分かる予知能力でもあるのだろうか。
「私、三番より六番の方が来そうな気がするんですけど」
「あ?六は久々の復帰戦だぞ」
「そうかもですけど絶対三は二番目ですよ」
「ハッ、分かってねーな」
そう言って伏黒さんは「千円貸せ、ちょっと待ってろ」と言う。千円札を持っていなかったので渋々一万円渡すと会場の中へと戻って行く。
……三分しても帰ってこなかったら探しに行く。んで次逃げたら術式使って逃げれないようにしてやる。私の彼への信用はゼロだ。
……なのにお金渡しちゃうなんて矛盾してるじゃん……なんで渡しちゃったんだ。
疑心暗鬼の中、二分ちょっとで彼は戻ると一枚の紙切れを持ってきた。
「何処行ってたんですか?」
「千円賭けてきた。見てろ、これが五千円になっからよ」
「賭けって…あ!もしかしてこれって競馬の川版ですか?」
「お前競馬は知ってんのか」
「祖父がよくテレビで見てたので」
よく見れば周りにいるおじいちゃんはペンと新聞を持って船のある川を眺めている。
昔、おじいちゃんもよく新聞を買っては新聞に丸印をつけてテレビを見ていて「何してるの?」と聞けば「黒船が来るぞ」とテレビに映る馬を指差していた。黒船?ペリーはもう居ないよ?って言えば馬の名前だと言っていたっけ。
……て事は私の千円、ギャンブルに使われた?ん?んんん??
思考が停止して隣に座る彼を凝視すると「お。はじまるぞ」と言うので、船に目をやると徐々に小船のスピードが速くなっていく。
[……――先頭六番!ついで三番ゴールイン!!]
船はスピードを上げて鬩ぎ合いか繰り広げられ、船は何周か回り、終わるようにアナウンスが流れる。そのアナウンスと同時に伏黒さんの持っていた紙切れは彼の手によってグシャリと紙屑になり、チッと舌打ちが聞こえた。
「伏黒さん?言いましたよね??」
「復帰戦で一着になるとはなーー」
「伏黒さん??二千円返してください??」
「お、払戻結果出たぞ。お前が賭けてたら千円が五万なってたな」
「ちょっと?!?!」
やっぱり私の言う通りじゃん!!彼の顔を睨むと、肩に手を置かれて伏黒さんの方に寄せられる。
んう、顔が近い、近いしやっぱりかっこいいめちゃめちゃイケメン……五条とは違った色気のような魅力に翻弄されそうになる。
「名字、お前の名前なんだっけ」
「…名前ですけど」
「名前、悪かったって、」
耳元で囁かれて肩が跳ね上がり、耳が熱くなる。これが大人の余裕っていうのだろうか……。
はっ……!だめだめ、彼は既婚者。しかも子持ち、私の中の硝子センサーが彼は速攻でクズ認定されるクズだしっかりしろ名前!!とサイレンを鳴らす。
「っそんな事言っても許さないです!!ちゃんと二千円返してください!!てか一万貸したんですから残りの九千円も!」
「チッ、んじゃあ次行くぞ」
「えっ、ちょっ……わっ!」
腰を担がれてそのまま競艇場を出る。まだ倍にする選択肢があるのか、伏黒さんは競艇場を出ると私を降ろして目的地へと足を進める。何処へ行くか分からないけれど、逃がさないように歩幅を合わせて後ろを歩いた。
そういえばこの前会った時、呪術師か呪詛師かさえ謎な存在だった事を忘れていたけど、攻撃されないし、子供を高専に入れるかもと言っていたから呪術師だと思いたい。しかし未だに彼の存在は謎に包まれている。
謎な彼の歩みは止まり、考え事をしていた為、身体にどんっとぶつかってしまった。
スウェット着てるからよく分かんなかったけど……伏黒さん思ってたより堅い良い??
さらに深まる謎に困惑していると、建物の影に私を壁にやった彼は私の上着のボタンに手をかけてぽつ、ぽつと外して行く。
「ちょ、何してっ」
「コレ着てたら未成年に思われんだろ、せめて上着だけ脱げ、まシャツまで脱がしてもいいけど」
「へ、変態やめ、……ぶっ!」
私の上着を脱がした伏黒さんは、シャツの第一ボタンをあけると、自身の着ていたパーカーを私に被せ、袖を通した。身長の高い伏黒さんの服はとてもぶかぶかでサイズも大きいからか手は指の関節から、裾はスカートが隠れるくらい大きい。
「おっ、エロ。うし、これで行くか」
「ねえちょっとどこに……!」
手を引っ張られて自動ドアを潜った先は、耳鳴りがしそうな程の騒音。建物の中にはギラギラとひかる筐体が並ぶ…これは所謂パ○ンコというやつでは?
昔、おじいちゃんとパチ○コ屋の前を通りかかった時に扉が開閉されるたびに聞こえる騒音に興味を示したら「名前はここには入りなさんな。十八歳になって入れるようになってもだ」って言ってたような。
扉にある注意喚起のステッカーには十八歳未満お断りの文字。ん?そうだよね、お断りだったよね?
……おじいちゃんごめんなさい、私は法を犯してしまいました。
今まで大切に育ててくれたおじいちゃんから言われた事を次々破ってっている気がして心が痛い。しかしそれでも私の使われた二千円とお釣りの九千円取り返さなきゃならんのです!!
伏黒さんにここに座れ言われて座ると、隣に彼も座る。伏黒さんから千円札を渡されて上部を指差し、そこに入れろと言われたので千円札を差し込むとお札は吸い込まれ、筐体の下からジャラジャラと音を鳴らしながら銀色の玉が出てくる。
私パチンコ屋に入るだけではなく打たされてない?そしてさっき入れた千円は私のですよね??
…慣れない場所で思考が停止していた為、気づいた頃には時既に遅し。
伏黒さんは席を立つと後ろから私の手を掴んでハンドルに固定させ、雑音が響く中耳元で喋り始めた。
「ここの穴に入れりゃあ抽選されるから狙え、玉無くなったらまた千円やるからよ、」
耳元で聞こえる声と彼のゴツゴツした手の感触、頬に触れる髪の毛に身体がドキドキする。ちかっ、本当何でこんな近いの。てかその千円私の。
画面の中央にある穴には中々玉は入らず、それでも彼が教えてくれたままハンドルを回して入るのを待った。
チラチラと彼の方を見ると、じぃっと筐体の画面を見続けている……そんな横顔がとても色っぽい。ずっと見ていたい、そんな気持ちになるのはやっぱり私ミーハーなのかな……。
自分の好みのタイプがクズと顔が良い人という何とも言えない共通点に悲しんでいると、筐体がバイブのように振動し、何かと思えば魚群が流れて7の数字が揃い、ピカピカと光る。
「うおおお?!」
「当たってんじゃん、しかも確変か」
「確変ってなに?!」
なんだそれは。よく分からないけど下の皿にどんどん玉が出てくる。当たったら玉が出てくるのかパチンコは。
「伏黒さんタマタマいっぱい出てくるんですけど!」
「タマタマってなんだ、金玉みてぇにいうなよ」
「ばっ…!違います!パチンコの玉!」
「パチンコからパ抜いてみ?」
「パ抜き?…チン…ばかばかばか!!」
「んな言ってる場合か、下皿ドル箱にいれろ」
言わせたのそっちだろ!!
赤い箱を筐体の下に置いた伏黒さんはストッパーを横にずらすと赤い箱の中に玉がどんどん入っていく。おお……当たると玉が沢山増えて、ピカピカ光って内心楽しくなってきた。多分、沢山出せば沢山お金が増えるんだろう。案外楽勝なのでは?
一時間程経たない内に伏黒さんはツーンとしけた顔をして「出るぞ」と言い、店員に私が出したパチンコ玉の入った箱を指さすと、店員さんは運んで機械に入れて行く。その後も店員さんへ伏黒さんがテキパキと慣れたように対応してくれて何も分からないのでとても頼りになるし、そろそろ耳がどうにかなりそうで外に出たかったから丁度良かった。
外に出て、ベンチに座ると伏黒さんは近くの自販機で缶コーヒーを買って私に渡してきた。お、青色のやつ……覚えててくれたんだ。
「ほらよ」
伏黒さんはポケットから私に一万円渡す。
ギャンブルと聞くとお金がどんどん減っていきそうなイメージなのだが、案外パチ○コは面白かったし、お金も戻ってきてくれて良かった。
隣に座った伏黒さんは下ろしていた私の髪の毛をさらりと持ち上げ、
「そういや五条はどうだった?」
「え?」
「ココ、付けただろ」
持ち上げた手は首筋を撫でるように指の腹で触る。ゴツゴツして堅い指の腹は、そのまま上へと登って耳を模るように撫で、ひゃっ、と声が出た。
「や、やめてください!…しかもあの後大変だったんですから!」
「へえ、何か五条にされたか?」
「べつに。ただ急に怒ってきて、胸揉んでやるとかキスしてやるとか……超上目線なんだもん」
「ははっ、ざまあみろだっつうの」
「笑ってないで反省してくださいっ!それより……伏黒さんは五条と会った事あるんですか?五条、名前聞いても分かんないって言ってたけど」
「あー……見に行ったのは五条悟が小せえガキの頃だったしな、覚えてねーだろ」
……なるほど、それは五条も覚えてないかも。
伏黒さんはぼうっとしている私の缶コーヒーを取り上げ、飲みかけの液体をごくごくと飲み干して一メートル先にあるゴミ箱へ投げ入れた。前回もそうだけど、見事に決めるなあ。
「つーか運良すぎ、お前誘惑術師じゃなくて弁才天の生まれ変わりの間違いだろ」
「たまたまですよ。……あ!でもこの前、五条からお金が貯まるゴム貰ったんですよ。そのおかげかも」
「金の貯まるゴム?」
「ほら!」
財布のポケットに入れた五条から貰った金色の四角いパッケージに入ったお金が貯まるらしいゴムを見せ、また財布の中に戻す。輪ゴムなのかヘアゴムなのか分からないし、開封出来そうだけどお守りみたいなものなのだからしていない。
伏黒さんはそれを見て驚いたような顔をして、ククッと笑った。
「何笑ってるんですか、絶対これのおかげですよ」
「へえ、今からそれ俺と使うか?」
「ヤですよ、お守りだしもうパチンコ疲れました…ってちょっと何してるんですか!」
開封して金運を高め、またパチンコ屋に後戻りするのだろうかと思っていたら、伏黒さんは私の太ももに手を添えてスカートの中に入ってくる。
「パーカー、脱がそうと思って」
「そうなら先に言ってください!てかそれはパーカーじゃなくてスカートの中……っ!」
太ももの付け根に達した指の腹はショーツのサイドにひっかける。彼の手はそのまま優しく太ももを揉むので、股を閉じて彼の手首を持ってスカートの中から引き摺り出した。やば、パンツ脱げるかと思った…!!
「っ……やめてくださいっへんたい!ちかん!」
「誘ってきたのはそっちだろ」
「意味わかんない!パーカー返すだけでしよっこのっ…!」
彼の手をチョップしてから一メートル離れ、借りていた上着を脱いで彼に一歩ずつ近づきながら、まるで動物に餌を恐る恐るやるように渡す。
そんな私から上着を羽織った彼は、余裕そうな顔をしつつボトムのポケットからお札を取り出してパーカーのポケットへ移動させる。
……ん?
「伏黒さん、私が出したパチンコ玉いくらになったんですか?」
「あ?五万。一万返したろ?」
「倍にして返すって言ったじゃないですか!」
「へーへー……あ、あれ五条悟じゃね?」
「えっ?!」
伏黒さんの指差す方に顔を向ければ、誰もおらず、閑散な道路沿いが続いているだけ。
えっ、何処?!居なくない??……見間違えかなあ?そう思って伏黒さんの方を向けば、居ない。あれ?!?!キョロキョロと辺りを見渡せば伏黒さんらしき人が遠くでこっちを見て手を振っていた。
「伏黒さん!!」
「お前やっぱり気許すぎ、じゃあなー」
こんにゃろ、逃げたな……!!
まあ一万円返ってきたからいいか…。
……ん?
あれ?ラーメンの千円、貰ってないぞ?
気づいた頃には時既に遅し、彼の姿はもう何処にも見えなくなっていた。
……っつこのっ!やっぱりイケメンはクズっ!!