「…また変な呪いついてんなあ」
「簡単に言えば、美味しいモノを不味いって言ったり、はいをいいえで発言しちゃう正反対の呪いって所かな」
「マジでこんなのにかかるなんてバカなんじゃねーの」
怒りに任せて五条に向けてグーパンチを向けて放つが、この前五条が自信満々に教えてくれた無限に寄って五条まで届かなかった。睨みつけると「おーこわっ」と五条はケラケラ笑う。
五条に知られてしまうなんて…最悪だ…と絶望に浸ってると、硝子は呆れながら「五条、笑ってやるな」とフォローを入れてくれた。
…私だって、好きでこんな事になった訳ではない。
朝から千葉県の山奥で発生した任務へ夏油と向かうと、明らかに三級案件だろうと思われる呪霊だった。
「雑魚だし、名前に任せるよ」と夏油は近くにあった大きな石に腰かけ、携帯を弄り出す。オイ、見てくれないんかい。と思いつつも、呪具を構えて呪霊と向き合った。
同等級の呪霊である為、誘惑で静止を唱えても少しすれば動くだろう。が、するのは失敗、何もしないのは大失敗。
何事にも立ち向かう精神で、術式を使いながら呪具を振り払って攻撃を加える。あと一撃で祓える!と、少し高を括ったのが間違いだった。
術式で静止していた呪霊にかけた術が解け、動き出した。私は咄嗟の事に処理出来ず、呪霊は不意を突き私の口元に向かって黒いオーラを放った。
思わず目を瞑ったが、何も痛みも感じないし傷もない。呆気に取られつつも、祓わなきゃと最後の一撃を振りかざすと、呪霊は砂のように消えていった。
危機一髪、だったのか?任務についてまだ十数回だけれど、ちゃんと祓えてよかった。とほっと安堵する。
「大丈夫だったかい?」と夏油はこちらに駆け寄ってくるので、「安心して大丈夫、痛くないよ」と言おうとすると、口からは「駄目、痛い」と意図しない言葉が出てきた。
「…ん?」
「…へ?」
ポカンとする私と夏油。ん?あれ…?
「え、怪我してるのかい?」と夏油が心配そうな目を向けてくる。それもその筈、身体から血が出たり大きな傷が見当たらないからだ。
言いたい事とは真逆の事を言ってしまい、思わず携帯を取り出してメールを開き【大丈夫なんだけど、何故か思ってる事と反対の事言っちゃう!何コレ?!】と困惑しながら夏油に見せると、笑いを堪えた顔をして見てきた。一大事だというのに!!
「笑うな!!」と発言したかった言葉も「笑え!!」と大声で怒る様に言ってしまい、夏油はその言葉の通り、大爆笑した。クソ。
高専に戻って硝子に診て貰えば「呪霊による呪いの効果だね。これはどうしようもない、時間が解決するよ」と、このもどかしい気持ちの解決策は一つしか無いようだ。
試しに「はいかいいえで答えて。この呪霊可愛いと思う?」と最近捕まえたらしい蠅頭が入った檻を持ってきて硝子に質問された。
この蠅頭、めちゃくちゃ可愛いじゃん…!!と胸が躍る。
しかし、また呪霊好きってバカにされたくない。そうだ、ウソをついていいえと言えば、発言ははいと変換され、結局は可愛くないと思ってると伝わるんじゃ?!と脳内で算段する。
が、口から出た言葉は、いいえだった。嘘をついても、結局は本心が出てしまうらしい。
最悪だ。なんでこうなった…って、あの時私が気を抜いたせいなんだけど。
携帯を開きメール画面を開いて、五条に見せる。
【五条は何で医務室に来たの?怪我でもした?】
「俺が怪我なんかするかよ。傑にさっき会ったら、名前が面白い事なってるって言うから見に来た」
…あンの大仏野郎。
最初は優しいお兄ちゃんみたいな人かと思えば、関わっていく内に分かってきたが、夏油も五条と同じくらい、結構な問題児だ。というか、ここの学校には頭が少し狂ってる人しか居ない。
「五条も用が無いなら帰りなよ。名前、ちょっと飲み物買ってくるね。何かあったらメール頂戴」
【分かった、ありがとう】
私が打ったメールの文章を見て、硝子は悪い顔をしながら医務室から出て行った。
硝子の顔の表情に疑問を抱いたが、この状況にはっとなる。
……ちょっと待て、この状況下で五条が簡単に帰るわけないじゃん。硝子、連れて帰ってよ!!と発言する事も出来ず、硝子が何故悪い顔をしていたのかを理解して、絶望する。
【硝子、早く戻って!五条を連れてって、お願い!!】と直ぐ様メールを送信すると【五分くらいしたら戻るね】と呑気な文字の最後に舌を出した絵文字をつけたメールが返ってきた。
絶対に楽しんでるじゃん、硝子も…。
「どうしよっかなあ〜なんならせめて面白れー事言わせたいよなあ〜」
医務室の中をグルグル周りながら、五条も硝子と同じように悪い顔をする。
二人とも……いや夏油も入れたら三人か。
皆、私の事オモチャみたいにして私何か悪い事でもした…?頭の中で過去を振り返るが、こんな仕打ちをされるような悪事をした記憶はなかった。
悩んでいる傍ら、五条は突然あ!と声を上げ、思いつたような顔をした。
そして私に今まで見せた事のないようなニコニコしているが、明らかに悪巧みをした顔をして、私の近くに置いてあった椅子に座った。
「なあ、名前って俺の事好き?」
予想外の質問で胸が波打つ。
…なんで、こんな時に、そんな事を聞くんだ。
ニヤニヤする五条にメール画面に文字を打って見せた。
【嫌い、マジ嫌い】
「口に出して言えっつてんの。面白くねーじゃん」
【いや、マジで何が面白いのか分かんないんだけど】
「いっつも俺に対して嫌いーとかムカつくーとか、苛つく事言ってんじゃん?名前の口からさー、悟の事がぁ好き好きっ大好き〜!って言ってるの考えたら、面白れーに決まってんじゃんか」
【はあ?!絶対に言わない!!!】
ニヤニヤ悪巧みする五条に、睨みつけながらメールの画面を向けた。
…大体、元々嫌いなんて嘘なのに、嫌いって言ってしまえば、五条には前々から好きだったって事が分かってしまう。あああもう!本当に嫌いになりたいのに、なんでこうも胸が高まるんだ。
ここは一旦逃げるが勝ち。と思って立ち上がると、おい。と五条に左腕を引っ張られてまた座らされる。
「言わねーと、お前がこの前の任務で四級の呪霊逃した事、先生にチクるぞ」
なんで、それを。と言いたかったが口にする事も、メールに打つ事も、止めた。
…先週の一年全員で向かった任務。
三人と離れてしまい探していると、目標とは別の呪霊と偶然出会って見つめあってしまい、つい誘惑の術をかけてしまった。
術式のせいで私に縋るその呪霊を、思わず抱き抱えて人間にも被害が及ばない所に逃し術式を解いた。逃した後、無事に皆の所へ戻ったのだが見られていたなんて。
悪気は無かった。黙っていれば、逃れられるんじゃないかと思った。
五条から顔を背けて黙っていると、掴んだままの左腕をぎゅっと強く痛みが伴うくらい握られて、五条と向き合うと目が合う。
「四級レベルだろーと、会ったモンは祓う。お前が祓わずに逃して放置してたら、いつの間にか成長するヤツもいる。お前がまだ呪霊とおままごとしてーんだったら、呪術師やめな」
五条の目は、少し怒っているように見えた。
呪霊が全部悪いなんて、私には思えない。だって元々呪霊を生み出す人間が悪いんじゃないか。
…でも、呪霊を祓うのが呪術師の役目。そうしないと被害がまた増えるかもしれない。脳内では理解している。
……怠ったのは私。五条の言う通りだ。
【ごめんなさい】
「謝るのはいーから、さっさと言えよ」
…五条は待ってくれない。
逃げも隠れも出来ない。先生にチクられたくもない。四方八方塞がりだ。
先程の怒ってる様子は無く、オモチャで遊ぶような顔で言ーえ!言ーえ!と連呼する五条と向き合い、覚悟を決める。
もし私の恋心が知られても、五条が言えって言ったんだし、それにどうにかして全力で誤魔化す。
…出来るかは分かんないけど。
深呼吸をして、五条に目を見つめる。
「…わ…私、五条のことが……嫌い!」
思い切り目を瞑る。言ってしまった。ああどうしよう。好きって言っちゃった。心臓の音がドキドキとうるさい。
しかし五条から反応がなく、目を開いて五条を見れば、ぽかんとした顔をしていた。
「……は?もう一回言って?」
「…ごっ、五条の事が……嫌い」
「…なんだ、呪い取れて元に戻ってんじゃん。つまんねー」
…へ?もしかして、気づいてない?
五条は私の左手を離して、医務室から出ようとすると、硝子と扉の前で鉢あった。
「戻るの五条」
「…呪い解けて元に戻ってたから帰る。つまんねー」
そう言って出て行ったが、私の顔はいつまでも熱い。硝子と目があい、五条が座っていた椅子に座ると、硝子の顔は笑みを浮かべていた。
「呪い、解かれてないよね?五条に何聞かれたの?」
【俺の事、好きかどうかって…】
「ぶはっ!!それで?嫌いって言っちゃったんだ?」
【…うん、大丈夫だよね?気づいてないよね?!】
「あの調子だと気づいてないよ、バカだねえ五条も……あれ?」
【どうしたの、硝子】
「…んいや、別に問題ないよ。少し寝て呪力を回復すれば治るでしょ、ほら横になって」
硝子は少し笑ってベッドが置いてあるカーテンを開く。硝子に言われた通りに近くのベットに横になれば、朝一から動いていたからか、睡魔がすぐに襲ってきた。最初から寝てれば良かった。
…起きたら元に戻っていますように。
五条は医務室を出て談話室まで行くと、夏油が五条に気がついて声をかけた。
「あ、悟。どうだった?名前の様子は」
「…寝てたら元に戻るんじゃねーの」
「悟の事だから名前をまた苛めてたんじゃないかと思ったけど、違った?」
「いや…意味わかんねーの、アイツ」
「どうかしたかい?」
「俺の事好きか聞いたら、嫌いって言ってきた」
「……うん」
夏油は、少し戸惑った。名前の気持ちがついに五条に伝わってしまったか。五条はどう思うんだろう、と少し間を置いて相槌を打った。
「って事は好きって事じゃん。アイツ俺の質問の意味、仲間意識と間違えてねー?」
「…うん?」
「いや、アイツ俺の事ずっと嫌いって言ってんじゃん?俺は仲間意識のそういう事聞きたかったんじゃねーんだけど!」
「名前が悟の事を仲間としては好きだとは思ってるんだ」
「そーだろ?だって今まで任務で助けて来たし?」
「…で、悟は結局名前に仲間としてではなく、異性として好きって言わせたかったんだね」
「そ!」
「……それは遠そうだなあ」
「何笑ってんだよ傑!」
何でもないよ、と笑いを堪えながら言う夏油は、いつか二人が本当の事を向き合って言える日が来ます様にと心の中で願った。