06訓






「お〜久しぶりじゃのぉ名前」
「ん〜一年ぶりくらい?相変わらずもじゃもじゃのパーだね!坂本の兄ちゃん」
「おまんもちっこぉガキなのは変わらんのお」

今日は夜から仕事してくれれば良いと言われ、久々に街でもぶらぶらするかと探索していれば見知った船を見かけて海岸沿いまでやって来た。大きな船はやっぱり快援隊の船で、久しぶりに坂本の兄ちゃんと出会った。
二年前、江戸に出てから懐かしい顔に出会ったのは坂本の兄ちゃんが初めてだった。

私と会う前にヅラの兄ちゃんと坂本の兄ちゃんはよく交流してたらしく、戦争が終わる前に花吐病になった事も諸々何があったのかの話も、粗方聞いていたらしく、江戸に寄る時にはタイミングがあえば話をしていた。

「病気の方はどうや?治っちょーか?」
「あんまし。最近花吐病の完治薬が他の星で出来たって噂聞いたけど本当?」
「おお、あれか!聞いちょる聞いちょる。しかし薬一個作るのに大変らしくてのお。手に入るのは困難じゃ、すまんのう」

前に河上万斉と出会った時に聞いた話は嘘ではないらしい。しかし坂本の兄ちゃんでさえ入手困難とは、一体どんな手を使って手に入れたんだ鬼兵隊は。

「そぉ〜いえば、また名前の働いてるメイド喫茶に遊びに行きたいぞ。ボーイッシュな女の子おったじゃろ、あの子可愛かったのお」
「あぁ、あそこの店なら潰れたよ」
「何?!あの後高杉に会う機会があってな、名前が成長して働きだしとったから一緒に行こうと誘っとんだがの。おまんと高杉よー仲良かったじゃろ?」
「…潰れた原因、多分ソレだと思う」

鬼兵隊に目をつけられた理由がわかった…。
あの時から変な手紙がきたり、鬼兵隊のロリコン人間がメイド喫茶に遊びに来た時もあったが、なるほど。
ヅラの兄ちゃんは私が高杉のことを忘れられず花吐き病を患っている事を知っているが、坂本の兄ちゃんにはそれを明かしていないらしい。彼自身もそれを気にしていないのか、はたまた能天気で考えてないのか花吐病になった原因の相手を聞いては来ない。ま、どちらにせよ、坂本の兄ちゃんはこのままでいてほしい。
しかし別に居場所を隠しては居なかったが、まさかこんな事になるとは思わなかったな…鬼兵隊が今後もチラつくのは避けたい所だ。

「そういえば最近金時にも会ったのお。あん時からすれ違ったままじゃろ?わしゃヅラからおまんねーちゃんの本当の事知ったが、金時はまだ知らんのじゃろ?」
「金じゃなくて銀ね。…しない方がいいし、知らない方がいいの、幸せだから。って兄ちゃんも本当の事知っちゃったんだもんね、ごめんね辛い思いさせて…」
「辛い思いをしとんのは名前の方じゃ。…わしらは名前の仲間、おまんの思いは伝わっちょるけ」

兄ちゃんは私の頭を大きな掌で優しく撫でる。相変わらず大海原のような広い心を持った人だなあ。
銀の兄ちゃんにも、伝えたら、許してくれるだろうか。考える度に、あの白夜叉の目を思い出す。鋭くて、今にも牙のような刃物が目の前に突き立てられそうな、そんな感覚を。
ブルりと身体を震えれば、タイミングよく携帯もブルブルと震え出した。携帯するだけの携帯ではなく、機能を発揮するようになったのは最近のこと。
着信の相手を見れば、その原因からだった。

「電話か?」
「うん、仕事の連絡。じゃあまたね」
「おう、また来るきに!」




▽▲





「遅ェ。どこ行ってたんでィ」
「街を探索してたんです。てか三秒じゃ来れないし!」
電話の相手は最近色々と付け回したりちょっかいをしてくるこの沖田さん。電話に出ればいつもの駄菓子屋に来い、三秒な。とだけ言われ、猛ダッシュで駆けつけたのにこの王様のような態度。

「で、何のようですか?」
「お前、今日仕事は?」
「夕飯当番があるので、夕方まで休みですよ」
「じゃあデートしよ」
「は…?」
「デートって言ったらデートでさぁ。丁度街探索してたんだろ、俺の行きつけスポット教えてやらァ」

そう言って私の手を握って歩き出す。
この前お酒を飲んでたとはいえ私の事を貰ってやるだの言ってたけど、デートなんて言われたら、本当に何を考えてるのか分からない。






「…ここは?」
「俺がよく行く飯屋」
「いやいや飯屋って猫の飯屋?キャットフード食べないけど?!」

来たのは町の奥にあった路地裏。キャットフードの入ったお皿が置いてあり、猫が群がって食べたり、時には寝てたりしている、猫の広場だった。

「暇な時はサボってよく来るんでィ」
「仕事してくださいよ。…沖田さんは犬か猫なら猫派ですか?」
「従順に俺の事だけ考えてくれたら犬でも猫でもどっちでもいいでさァ。名前も俺の事だけに従ってくれたらなー」
「いやいや、結構従ってますけど」
「名前は?犬と猫」
「私は…猫かなぁ。人の気知らずで自分の道どんどん進んじゃう所とか、不意に甘える所とか好きです」
「…お前は、それについていく子猫見てぇだな」

沖田さんは親猫の側で眠っている子猫の背中を撫でる。
いつも後ろ背中を見つめていた、あの背中をおいかけて、必死だった。

逃げて、立ち止まっているのは私だ。


「ホラ、次行くぜィ」
「次は何処に行くんですか…デートっぽい所にして下さいよ…」
「俺ァ恋愛なんてロクにしてこなかった芋侍でィ。そんじゃあ都会のデートってやつやってみよーじゃねーか」


立ち上がった沖田さんは、私に手を差し出してきた。有り難くその手を掴んで立ち上がるが、そのまま手は繋いだまま、次の目的地へ歩く。
絡まる手が少しドキドキする。男の人の手って結構ゴツゴツしていて、硬いんだなあ。手汗かきませんように。
あの発言が本当だとか、嘘だとか、そんな事は気にしなくていい。せっかく沖田さんが手を出してくれたんだ。好きにならなくても、高杉の事を忘れるキッカケの一つになってくれるかもしれない。
それなら、この機会を楽しまなくては。



なんて事を願っていたら次の目的地についた。


「ゲームセンター…?」
「ガキのデートっていったらコレでィ。ホラ、これやるぜィ」
「えっ?!何これ、銃打つの!?」

連れてこられたのはゲームセンター。江戸に来てからはいつも仕事、休みは通院で娯楽なんてロクにしてこなかった。ゲームセンターなんて、人生初めてだ。テレビ等で見たことはあったが、中々面白い。この銃を使ってゾンビを撃ち落とすゲームなんて、中々面白いじゃないか。獲物を落とすなんて、昔の血が蘇る。
しかし点数は沖田さんの方がヒットポイントが5点有利で終わった。

「おめー初めてにしては中々やるねィ。インドア派かと思いきやアクティブ派か?」
「沖田さんも中々上手いじゃないですか」
「おもしれー奴だ。勝負しようぜ、ゲームで勝った方が団子奢りでィ」
「いいですね、負けませんよ?」

それから、ゲームセンターにある勝負ゲームを色々やった。アイスホッケーとかいうやつとか、モグラ叩きやら、なんとかカートやら。
ルールも簡単で初心者でも面白かったが、勝利は沖田さんの手に。
流石に初めてでは勝てっこなかった。


「負けたんで払いますけど、沢山買わないで下さいね」
「こういう時は男が奢るモンでさァ」
「あっ、ちょ!…いいんですか?」

ゲームセンターから出て沖田さんがよく行きつけの団子屋で一息つくことになり、お会計をしようとすれば沖田さんが先に支払いを済ませる。

「一つ貸しでィ」
「沖田さんに貸し作ったら、とんでもない事要求されそう…。ほどほどにしてくださいよ…」
「さぁ、どうだかねィ。ま、今日は元々俺の要望だったし、お前ェも楽しんでたっぽかったから満足だわ」

縁台に腰掛けて団子を頬張る沖田さんは空を見上げる。いつもちょっかいをかけて意地悪してばっかりなのに、何だか最近少し違う気がする。

「沖田さん…沖田さんは、なんで私のことそんなに気にしてくれるんですか?」

それは、と沖田さんが口にしようとした時「あれ?沖田さん、非番ですか?」と後ろから声をかけられた。振り向くと眼鏡の男の子と、少し顔を顰めたチャイナ服の可愛い女の子が。
眼鏡の男の子は声をかけたはいいものの、沖田さんと私を見て少し焦った顔をした。

「すすすすすみません、もしかしてデート中でした…?」
「もしかしてもねーよデート中でィ」
「このサディストとデートするって正気アル??オネーサン何者アルか?」
「えっと、私は真選組で女中をやってる名字名前っていいます。貴方達は…?」
「かぶき町の女王の神楽アル!こっちはメガネ」
「メガネじゃなくて新八だ!!」

ギャーギャーとツッコミとボケの言い合いが繰り広げられる。沖田さんより少し幼い、まだまだ子供なのにおつかいだろうか?

「お前らも何してんの?旦那は?」
「僕たちは銀さんに頼まれてお団子を買いに。良い仕事が入ったのでご褒美です」
「銀ちゃん自分の分の報酬持ってパチンコ行ったネ、人に頼み事しといてあの腐れ天パ」
「へー随分と良い依頼が入ったみてぇだな」
「仕事って何をされてるんですか?」
「万事屋っていう何でも屋です。もし何かあったら仕事受け溜まりますので」
「お金くれれば何でもするアル!名前もそこのサドと縁切りたくなったらいつでも待ってるアルヨ」
「要らねー事言うなクソチャイナ」

沖田さんと神楽ちゃんが睨み合いをして悪口の言い合いが飛んでる中、新八君から良かったら名刺貰ってくださいと、小ちゃな名刺を貰った。
名刺には万事屋銀ちゃんと書かれており、下に電話番号と住所が記載されていた。
へぇ、銀のつく名前の人って兄ちゃん意外にも居るんだなあ。
ありがとう。と有り難く名刺を頂き、新八君と神楽ちゃんは団子を沢山買って帰っていった。

「なんだか元気いっぱいの人達だったね」
「元気ありすぎて五月蝿くて仕方ねェや」

気怠そうにまた団子を一口、口に入れて空を眺める沖田さん。そういえば、さっきの話途中で遮られてしまったけれど、沖田さんは何って言おうとしていたんだろうか。

「お前そろそろ仕事の時間だろィ」
「え?」
「俺ァもう少しゆっくりして帰りまさァ。仕事遅れておばちゃんに迷惑かけんなよ」
「大丈夫ですよ、こっからだったら全然間に合いますから」

屯所まで歩いても十五分前には仕事にとりかかれる。仕事中の方が時間の流れは早いのだけれど、休みの日にしてはあっという間に時間は過ぎていって、有意義な時間を過ごせれた感覚だ。

「…沖田さん、今日一日ありがとうございました。楽しかったから、またお願いしますね」
「一時間一万円な」
「レンタル彼氏かよ」