相談窓口への経路




蘭ちゃんに呼び出され事務所の真下に車を停めてもらう。

『何の用事なんだろう』
「私も顔を出しましょうか」
「それは辞めといた方がいいよ」

態々迎えに来てくれたのかコナンくんが、車に近づく。

「今、安室さんがいるから」
「ああ」

昴さんは察したのか「遅くならないうちに帰って来てくださいね」と私を降ろすと先に工藤邸へと戻ってしまった。やっぱり安室さんには露見されたくないのが理由かな。と思っていると見透かしたコナンくんの言葉により両断される。

「違げえよ。白線に鬼が出るレベル」

ほら、行くぞ。とコナンくんの後に続いて階段を上る。

『どんな要件なの?まさか私に安室さんを託す訳じゃないよね』
「これ以上自分の姉(仮)のストレスレベルを上げる訳ねえだろ」
『コナンちゃん』
「いちいち抱きつくな!だから、お前の事を“妹”と称して探してくれって依頼をしてきた奴がいるんだ」
『え、こわ』
「それ本気で怖がってるのか?安心しろよ、多分奴らの仲間じゃねえから。もし奴らの仲間が依頼に来るなら女子高生姿の五条夜子の容姿が写っている写真を見せてくるだろうからな。そいつが持ってきたのは昔の写真。多分5、6歳前後くらいだ。そんな写真を後生大事にパスケースに入れて持ち歩いているってことは、少なからず五条夜子の関係者ってことだろ。つまり、昔の五条夜子を知る人物からの情報を得られる訳だ」
『だから私を呼んだんだね。普段のコナンくんなら会わせようともしないから怪しいと思ったけど……それでその人の名前ってわかる?』
「ああ。蘭が騒いでたぜ。すっげぇ顔の綺麗な女みてぇな男。俳優なんだと。名前は……鶴丸国永」

コナンくんの口から発せられた単語に私は思わずバックを床に落とした。は……え、っと……聞き間違いかな?ドアノブに手をかけるコナンくんの背中にもう一度訪ねると、面倒そうにもう一度だけ答えてくれた。

「だからそいつの名前は――鶴丸国永だよ」

ドアが開き、蘭ちゃんが私の方へ来る前に風の如く速さでソファーを飛び越え着地。足を素早く動かし此方へ近づいてくる白い影にコナンくんを端へと押しやり飛びつこうしてくるその陰に手を添えて顔面をつかむなり制した。

「久しぶりの再会だというのにこれは手酷くないかい、夜子」
『コナンくん今すぐ動物園に電話して。鶴が一羽脱走したって』
「ははは!面白い冗談だ!」

手首を掴まれ手を伸ばしてくるので腹に足を置き、押し出す。

「足癖が悪くなったんじゃないか」
『変態さんに抱き着かれたくないだけ。私を抱きしめていいのはコナンくんだけよ』
「俺を抱きしめていいのはきみだけだ」
『私が抱きしめたいのもコナンくんだけ』

攻防戦を繰り返しているとコナンくんが「俺を引き合いに出すな!おめえの前方に控えている人からも睨まれるんだよ!」という視線を向けてきたので、ふいに視線を前方へ動かすと。爽やかな笑顔を浮かべている安室さんと遭遇し、私は悲鳴を詰まらせた。





■□■






ソファーに私と鶴丸が並んで座るが、顔面を掴んだまま距離を置いている。そんな私の正面に蘭ちゃんとコナンくんが座り、その後ろに腕を組んだまま立っている安室さん。おじさまは競馬中継に夢中の様子で、五者面談が幕を開けた。

「あ、あの……じゃあ、その鶴丸さんが探していた妹は夜子ちゃんだったんだね」
『激しく同意したくないけどそのようだね』
「あ…初めて見るわ。あんなに全力否定の拒否反応を示している夜子ちゃんを」
「凄く不本意そうな顔してるね……イケメンキラーなのに」
「本当ね……イケメンキラーなのに」
「そのイケメンキラーなのに僕にも靡きませんよね」

安室さんの介入に二人が押し黙った。

「じゃあこの写真は夜子ちゃんの小さい頃のものなんだ」
『どれ?』

蘭ちゃんから一枚の写真を手渡され確認するけど、確かに私が写っている。でもいつ撮られたのかは憶えていなくて首を傾げた。すると手元から鶴丸によって写真を抜かれ、大事そうにパスケースの中へしまわれる。

「幼い頃の君はカメラが回っていても気がつかない幼子だったからな。憶えていないのも無理はない。珍しい白銀に紫目。そうまるで紫陽花の如く美しく愛らしく咲き乱れる天使のような微笑みの『うちの兄がご迷惑をおかけしてすみませんでした』
「俺の口説き文句を途中で遮るのは酷くないか」
『黙って息だけ吸ってて。酸素が減るのを我慢してるんだから(もう話が進まないからお兄ちゃんは黙ってて)』
「逆、逆。本音と建て前が逆」

コナンくんの指摘に蘭ちゃんがこほん、と咳ばらいをする。

「でもまさかコナンくんの義理のお姉さんだったなんて知らなかったよ」
『ちゃんと説明すればよかったよ、ごめんね』
「ううん。込み入った事情もあるだろうし、いいよ。それにしても鶴丸さんと兄妹だったなんて素敵」
『どの辺りが?』
「きみはどうせアニメとかに現を抜かしているんだろ。ドラマとか観ないもんな」
『失礼だな。私だってニュースくらい観るよ』
「……俳優の鶴丸国永です」
『黙ってればの?』
「いやいや台詞ある、あるから」
『ビジュアルバンドのボーカルとか』
「俳優。は・い・ゆ・う!」
『……』
「ちゃんと出来るの?って母親みたいな顔をしないでくれ。きみよりは長生きしてるから」

この鶴丸国永はどうやら母の鶴丸国永で間違いがないようだ。最初見た時からわかっては居たんだけど、あんまりにも見慣れぬ洋装だったから何処の派手なバントマンかと思った。
どうやってここへ来たのか、色々と詳しく知りたいところだが、今はどうやってここから退散するかを考えている。蘭ちゃんとコナンくんは大丈夫だとしても最難関の方が君臨している。エクスカリバーまだ手に入れてないよ。

「積もる話もあるし、ここでお暇しようか。なあ最愛の妹よ」
『慰謝料払っておいで』
「依頼料ではなく」
『迷惑かけたんだから』
「わかっているさ。最初からそのつもりだ。毛利探偵」

鶴丸がおじさまに声をかけ。私に財布以外の荷物を手渡されたので、それを左手に持つ。おじさまにお金を渡している間にコナンくんが近づきスカートの裾を引っ張る。

「今日は夜子姉ちゃん家行きたい」
「コナン君ったら。お姉さんを取られそうだから嫌なのね」
『いいよ』
「うわぁ―い!」

コナンくんと手を繋ぐと蘭ちゃんが耳打ちで「また月曜日に詳細教えてね」と言われ頷いた。

「僕も知りたいですね。夜子さんと鶴丸さんのご関係が」

後ろから音も無く忍び寄らないで。心臓が口から飛び出そうだった。指先から腕、肩へとせりあがるように指の腹で触れられ身震いがする。てかくすぐったい。最後は掴まれギクリとするが安室さんはこれまた煌めく笑みを浮かべる。

「と、本当はご一緒したいところですが。今日は用事がありますのでまたの機会にとっておきます」

肩から手を離し事務所の扉まで歩き出す彼。じゃあ何故後ろから忍び寄り肩を掴んだんですか、紛らわしい。と恨みがましい視線を送ると安室さんは目を反らした。
その態度に驚く。あれ……いつもは反らさないのに……。安室さん、と呼びかける手前で彼は淡々と別れを告げてその場から立ち去ってしまった。
空気しか掴めないその手はふと床に落ちている鶴丸のパスケースに目がいき、拾う。何処で落としたかな。と埃を払って鶴丸の鞄の中にしまう。

「どうしたんだろう安室さん」
『お腹痛かったのかな』
「違うから。絶対にそれだけは違うからね」

蘭ちゃんに念を押された。





■□■






鶴丸を今の住居まで案内し、昴さんに紹介した後は私の部屋として使用している自室に鶴丸を招き事情を聴いた。

「俺もきみと同じ境遇さ」
『じゃあ五条家の兄なんだ』
「配役はな。きみはその妹なんだろ?だから依頼した時きみの兄と言ったんだ。別に嘘はついてないぜ」
『た、確かに…。だけどあまり五条家の名は出さないでね。報道とか新聞とかで知ってると思うけど』
「ああ。あの事件のことか。確かにきみや俺が五条の人間だと知れたら、殺されてしまうかもしれないからな」
『それは、どうだか知らないけど。発言には気をつけて。一応お鶴は芸能人なんでしょ』
「一応って…、きみの友人に聴いてくれ。きっと詳しく教えてくれるだろうさ」

ベッドに腰掛け呑気に笑う鶴丸を余所に、机に寄りかかり腕を組む。この鶴丸国永は、私が元いた時代の母、真昼の刀剣男士なのは間違いがない。私の幼少時を知っているのもあるが、彼から発せられる微弱の霊力は私が知る母のものだから。そして境遇が同じということは、彼もまた私と同様何らかの原因により過去へ飛ばされ、五条家の兄と成り代わってしまったということになる。即ち彼もまたこの時代に縛り付けられてしまった舞台役者という訳だが……私と違う点がひとつだけ。この鶴丸は霊力が全くない。普通の人間とほぼ一緒だ。ということは……、私はやっぱりひとりで立ち向かうのね。肩から力が抜け心の中で涙を呑む。期待はしてないさ、期待は。はいはい、このか弱い乙女である私がひとりで怪奇現象に挑んでやるさ。ゾンビなぎ倒す奴でなくてよかったけどな。
ふと、顔を上げると鶴丸はこちらをずっと見ていたのか昔と変わらない笑みを浮かべられる。思わず喉につまり目線を下げ、顔を逸らした。

「きみがお世話になっている人達とも挨拶が出来たし。俺がきみの隣にずっといなくても大丈夫そうだな」
『何処かいくの?』
「これでも人気俳優だから。映画にドラマに忙しくてな…本当はきみと暮らしたいが、余計な事に巻き込まれたくないだろ?スキャンダルとか」
『うわ―早く帰って』
「酷いな!だから俺ときみはこのまま兄妹ということで。下に居るきみの協力者たちにきみをゆだねるとするさ……今は」
『鶴丸。今……楽しい?』

ドアノブを回して出て行こうとする鶴丸に声をかけた。私の問いかけに彼は柔らかく笑む。

「ああ。人間は面白いな」
『そう……じゃあさっさと帰ってお兄ちゃん。ここにカメラを連れてこないで』
「ちょ、背中を急に押すな、か、階段から落ちる!」
『落ちろ、落ちろ』
「ああ、そうだそうだ。俺の連絡先はさっききみの端末機に登録しておいたから。連絡する時は電話で頼むぜ。きみの声が聴きたいからさ」
『うわ――吐きそう』
「きみって女は」

階段を降りると音に聴きつけ昴さんとコナンくんがリビングから顔を覗かせる。彼らに目を配り、鶴丸は兄らしく「妹を宜しく頼む」と言って頭を下げると、本当に颯爽と立ち去った。台風の目みたいな奴だな、相変わらず……でも、逢えてよかった。あんな奴でも……よかった。
玄関をぼんやり見ていた所為でコナンくんの声に気がつかず「おい」と叫ばれ驚き、数歩後退し後ろに控えていた昴さんにぶつかる。

『ごめんなさい、昴さん!』
「いいえ、天の邪鬼さん」
「ところで、聴かせてくれるよな。あの男の事」

コナンくんが可愛い顔している。うっとりしつつリビングへと移動し鶴丸のことを説明した。
勿論、コナンくんの事や現状、私が組織の人間に狙われる可能性が高い事も説明はしてないのだが、そのときふと思い出す。鶴丸の発言がおかしいことに。でもそれはどの言葉だったかまでは思い出せなくて、私は黙りこんでしまう。

「どうした?」
『あ、いや……なんでもない』
「親元を離れていた五条鶴丸が狙われる可能性は低いだろうから、安心しろよ。夜子さんの身内なんだろ」
『まあ……そうだね』

身内か……。
コナンくんを玄関で見送りリビングに戻ると夕飯の支度をしている昴さんを発見する。今日は昴さんが作ってくれるそうだ。私は冷蔵庫まで行き中からアイスティーの微糖を取り出し、コップに氷とアイスティーを注ぐ。コップを持ってテレビのある部屋へと向かう手前で呼び止められる。振り返ろうとした瞬間、昴さんが目の前に居て抱きしめられた。

『……はっ?!』
「危ないですよ、暴れると」
『い、いやちょっと!昴さん!なにをしてっ』
「いいから。大人しくしていなさい」

更に強く抱きこまれ身動きが取れない。背中に回る昴さんの手が首筋まで這い、産毛が逆立つ。え、え、なんだこの状況は!こんなイベントフラグ展開、何処で回収したっけ?で、でもこの感じ、このシュチュエーションは……も、もしかしてっ!

あのエロゲの導入シーンじゃないのかッ!!?

うぇああああ―――!!!最近やったゲームだからめっちゃ念入りに憶えているぅぅ!!い、いや何をまさかっ……お、落ち着けよ。私はただのパンピやない。重度のオタクだ。しかも26歳にもなって男性経験もなければそんな感性もない。知識は…まあ、ないこともないけど。そんな喪女に欲情する男がこの世界中を探したっていないわ!ゼロよ!ゼロ!!はぁ、はぁ……少し落ち着いてきた。おしおし……そうよ、そうそう。私のような女に手を出す男がいるならそいつはきっと、犯罪者―――。

「もういいですよ」

耳筋にリップ音が聴こえ、間抜けな顔を昴さんに晒す。彼はやはり柔らかく笑んだまま手を離し一定の距離へと戻る。

「気をつけてくださいね。あなたに近づく男性はとくに」

彼の指先には何かがつままれていた。その物体に目を向けるがそれを掌に納め隠されてしまう。

「夕飯、もう少しで出来ますので寛いでいてください」

彼はそういって台所へ戻って行った。