真実への階段




駆け付けた時には斧で扉を破った哀ちゃんに似た女性が、歩美ちゃんを抱きかかえて子供たちと共に小屋から脱出した矢先だった。彼らに駆け寄り上着を脱いで三人をくるむ。

「夜子お姉さん!来てくれたんだ」
『ごめんね、遅くなって』

子供たちの顔にそれぞれ触れ、状態を確認するが大怪我をしている者はいなく。軽症程度で済んでいる様子に胸を撫でおろした。近くにいる女性に目を向け私は靴を脱ぎその女性に靴を履かせる。

『皆はここで待機してて。今、捜索隊があなた達を探しているから』
「夜子お姉さんは?」
『このお姉さんと話があるから』

タイツの足で女性と目配せをしながら薄暗い森の中へと立ち去った。
この場から離れる必要があったからだ。暫く森の中を進み子供たちから距離が取れたところで互いに木々に背を預けて落ち着かせた。

「来るのが遅いわよ」
『ごめん…ちょっと手間取って』
「っあなた。その傷」
『ああ、うん。ちょっと、ね。それより、哀ちゃんでいいんだよね』
「ええ……」

ずるずると幹に沿って地面に座り込み。左肩付近の服や抑えた右手が血に染まっていた。診せてと哀ちゃんも膝をつき診察し、自身の衣服を脱ぎ止血を施す。

『ありがとう。にしても哀ちゃん凄く美人で驚いたよ』
「なに、してるの……何やってるの。あなた。この傷の言い訳があるなら聞くわ」
『あ……えっと、ただの自己満足だよ』

血塗れの右手を翳し握りしめる。食道に競りあがる空気を逃がすように咳込む。呼吸が乱れ身体が熱い。うだるような熱に眩暈を覚える。額に哀ちゃんの手が触れ「熱があるじゃない」と指摘されるが、それは君もだろと思った。





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暫くするとコナンくんがやって来たのか、哀ちゃんが足を引っかけて転ばせた。憎まれ口を叩いても哀ちゃんが最初に連絡をしたのはコナンくんだったみたいで、喉を震わせる。ついで、私へ視線を向けたコナンくんは眉を寄せていたが、もうあまり聞かれたくないために先に口を挟む。

『彼から連絡先聞いてくれた?』
「ああ、一応な」
『ありがとう。スマホに入れておいてくれると助かる』
「それはいいが……救急車の手配しとく」

スマホをポケットからあさったコナンくんは何処か怒っている様子なので衣服で血を拭い、右手で彼の頭を撫でた。

「あの男は知り合いなのか」
『多分。連絡先聞いたときあっさり教えてくれたなら』
「拍子抜けするくらい教えてくれたよ。それに一期さんとも知り合いぽかったし」
『じゃあ知り合いだ』

登録を終えるとコナンくんはスマホを弄り怪我人である私の状態を告げている。

「そういや夜子さんもパスリングしてんのか」
『え?パスリングってなんの……』

いつの間に――っ?!

驚きのあまり右手の薬指を穴が開くほど見る。憶えていないというか覚えがない。すると、私のスマホにメールが届いたらしく、コナンくんが勝手に開き「ああ」と私に画面を向けてくれる。

「蘭の奴が夜子さんの分も持ってたらしく、それを安室さんが寝ている間にこっそりはめたらしいな。ほれ画像」
『……なにしてん』

確かにその添付されている画像には、私の右手の薬指に指輪をはめこんでいるイケメンがおりますが、ほんとっなにしてくれてんの。項垂れた。

「本当にこの人何がしたいんだ」
「案外単純かもよ」
『喪女虐めるのが趣味か、そうか』
「……灰原の意見に一票」

コナンくんと哀ちゃんがふたりして笑っているが、私は何も理解していないのだが。っと少し不貞腐れた。

「そういや警視庁に呼ばれてた時のあの三波さんの件。聞いてなかったな」
『話してなかった』
「三波って彼女が入院していた時、隣の部屋にいた患者のこと?確かニュースになってたわね」
「ああ。さっき一期さんから聞いたんだ。その三波さんの死体が妙なことに日本刀のようなものでばっさりと左頸動脈から右骨盤まで斬られて放置されていたって。まるで辻斬りにでもあったかのようにな」
「ニュースでは変死体としか報道されてなかったわよね」
「あまりにも酷かったらしくてそれ以上は報道規制がされたみてえだな。辻斬りにしては死体は一つだけ。何週間経過しても音沙汰なかったからな」
「成程ね。それで、ストーカーをされていた彼女が呼ばれた、と」
『もう話す事なくないか、私』
「その死体の写真を診たんでしょ」
『……そうだよ。あれは人間が殺したんじゃない』
「それって今夜子さんが俺たちに内緒で秘密裏に動いている事と関係ある?だったら話してくれねえか」

コナンくんの鋭い眼光に睨まれてしまい、わかったと。私が欺瞞してきたことを話そうじゃないか。と右手を挙手させて私は自身の考えを精査させるように彼らに説明した。





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今ある歴史を変え、新たな未来を望むもの。それが歴史修正主義者である。彼らの戦力を時間遡行軍という。即ち過去の歴史が大きく変わるその時代に飛びやり直し、リセットをさせるために、その時の要である人間、歴史上の人物を殺害する。或いは加勢するなどし、歴史の進路を変更させる動きを見せていたのが私の知る歴史修正主義者と時間遡行軍だ。

だが、この時代に現れている時間遡行軍は根本から違う。

人の過去への執着心から呼び寄せられている時間遡行軍。それも殺害。人の歩みの中で逸脱した人を殺した人間の元へ現れる仕組みとなっているようだ。傾向からして間違いがない。確かにこの時代に根付いた時から異常なほどの犯罪が起こっている都市。犯罪と執着を媒体に時間遡行軍を召喚させるというのは、陰陽道からすれば目から鱗レベルの頭の良さだ。

そしてこの時間遡行軍は、人間を無闇に襲ったりはしない。

悪影響を及ばせ引き込む。或いは魔を刺させるという行為はしても、自らの手で人間を殺めたりはしないようだ。これまでの統計からいってそれは実証済みである。彼らが反応するのは霊力を認知し、これを扱い、自分たちの障害となりえる者を狙うよう習性されている。つまりは審神者だ。審神者である私を真っ先に狙うのはそういうことだ。だが、必ず襲わないとは言い切れないため見つけ次第排除している。

もう一つ、犯罪と執着を媒体として時間遡行軍を召喚している統率者がいる。
隊列が取れ、尚且つ無闇に人を襲わない彼らを見ていれば指揮官がいることは容易にわかる。今はまだ時間遡行軍を倒しながら探ることしか出来ないが、いずれ交差した線はぶつかる。それまでは情報収集をするよ。やっと落ち着いてきたから……でも首謀者がなんの目的で行ってるのかは見当がつかない。意図や目的は感じられるから尚更とっ捕まえて吐かせないとね。

一期には協力はしてもらっているが、戦闘に参加はさせてない。場所の移動とか援護射撃くらいはお願いしているけれども。一期や鶴丸は時間遡行軍を相手にするため刀に肉体を授け、人型とし、名刀たる刀を持って撃退する役目を担った付喪神、の前世となり替わりだから。鶴丸には手伝わせてないから、彼は無関係としてください。

『――兎も角。彼らに対抗できるのは今のところ私だけで。標的にされているのも私だけであるから、首を突っ込まないように』
「怪我が増えているのは正義のための勲章ってことね」
『そんな大それた事はしてないよ。正義って語れるほどじゃないし』
「ンな謙遜する所じゃねえだろ。立派に守ってくれてるじゃねえか」
『いやいや、正義語れるのは心配かけさせないまでに強くなってからじゃないと。流石にアンパンマンに怒られるよ』
「意外とストイックなのね」
『…褒められると照れるな』
「今の褒めてるうちに入るのか? じゃあ今の話を踏まえるとあの鶯丸って男も付喪神ってことか」
『さすが名探偵。彼は多分前世の記憶を継承されたただの人間だと思うけど。一応話をしておきたくて……あまつさえよければ戦いに参加してほしいけど、やっぱ人間となったのならそういうのから離れたところで生きて欲しいよね』
「……貧乏くじばっか引くんだね、夜子お姉ちゃん」
「お人よしすぎ」
『そうでもないよ。自分勝手だよ』

目の前がぐるぐるする。気持ち悪くてしょうがない。空を見上げて星空が顔を覗かせる。ああ、綺麗だな……もう少し澄んでいるときっと満天の星空が見えるだろうな。

私の意識はそこで途切れた。





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草木をかき分けて狐が顔を覗かせる。古書を片手に眼鏡をはずした男は旅館の窓を開け、狐を招いた。

「随分遅かったな」
「これ以上続けるには流石に酷ではありませんか」
「普段から人間を小馬鹿にしているお前が小娘の肩を持つとは」
「あの方は高貴の香りが致します。この私が見初めた女性は初めてですよ」
「捕って喰ろうてくれるなよ。あの子は彼女から託された娘だからな」
「そんなに大事なら手助けしてやればよいものを」
「それはお前がしてくれただろう、今はあれくらいで十分だ」

膝の上に寝そべる狐の毛並みを櫛で整える。片目が髪で覆われた鶯色の髪がふわりと揺れて。月夜を見上げた。

「可愛い娘には旅をさせろというだろう」
「そんな諺でしたっけ?」
「細かいことは気にするな。またいずれ会うことになる。それまで見守っていよう―――我が主の孫娘を」