誓約再契約




その日は工藤邸に兼定と薬研を誘い、今は私の部屋で三人で集まっていた。コナンくんたちの前ではとてもじゃないが話せない内容だったからだ。

『どうしてこの仕組みに詳しいの』
「真昼さんから聞いたんだ。この時代の事を」
『真昼お母さんが?』
「大将の祖母は歴史的研究者でもあったからな、資料があったんで可能性として教えてくれただけだ」
『おばあちゃんの資料……』
「真昼さんは最初、大将が死んだことで気が動転していたが今は持ち直しているから心配はいらないぜ」
「あれでも審神者だからな」
『そっか。それならよかった』
「鶴丸がこっちに来てるのは本当なのか」
『薬研たちよりも早くに会ったけど、何かあるの?』
「いや、ないさ」

兼定を遮るように薬研が前に出て口を挟む。

「髭切や膝丸とも会ったのか」
『つい最近だけど』
「随分幅を利かせてるな、大将。いいことだ」
『ふたりとも今はいくつなの?私は高校生だけど』
「俺っちは中学三年くらいだな。旦那は大将と同い年で同じ学校だ。もう手続きも済ませてある」
『はやっ』

先程から兼定が一言も話していない。珍しすぎて若干怖い。壁に背を預けながら兼定は窓から外の景色へ視線を送る。

「いち兄とは行動を共にすることが多いのか」
『そうだね、この時代で一番最初に会った刀剣で肌美精だからめっちゃ眼福だよね。最高でしょ。刑事さんだし将来有望株だから……っても戦いにも巻き込んでしまっているから酷い奴だよ私は』
「いち兄は人間になっても潜在能力は高いからいいんじゃないか。前世の記憶を所持している俺たちは慣れているからな」
『でも、ここでは仕えてくれている刀剣男士ではないんだし。戦いに巻き込むのは筋が違うでしょ』

そう言うと腕を組んでいた兼定がそれを解き、こちらへ顔を向けた。

「ずっと気になっていたんだが、主。あんたなにを遠慮しているんだ」
『遠慮はしてないよ。これから一緒に闘ってもらうんだから、頼りにしてるよ』

今日まで私は共に戦ってくれる者を待っていた。刀剣男士に会う度に自分に仕えてくれていた刀剣男士が来てくれないかと願っていた。けど、いざ。目の前に現れたとき、本当に頼っていいのだろうかと思いとどまった。敵の全体図が解っている訳じゃない。目的も統率者も見当がつかない段階。彼らも今は人と同じだ。怪我をすれば治療が必要でそれは人間同様の処置がいる。人間じゃないから雑にとかではない。ただやはり人間と神は違うということ。際限ある命ということだ。

あの痛みを彼らにも味合わせるのか。
あの恐怖を彼らにも与えるのか。

そう考えたとき一緒に、なんて言葉が出て来なかった。言えた義理じゃないとも思った。前は主従関係を築けていたが、今は違うとも思う。そこに付け込むみたいで憚られた。自分ひとりの力で何とか出来るなら何とかすればいい。今までだってそうしてきた。今回だってそうすればいいじゃないか。寧ろそうすべきだと思う。巻き込んだ挙句の果てにあの苦しみや重しを舐めるくらいならひとりの方がいい――――。

「馬鹿かお前は」

兼定の手刀が旋毛に炸裂した。突然の痛みにベッドの上で転がる私に兼定は腕を組み鼻を鳴らした。はいはい、美しい。

「ンな難しい事考えねえで存分に頼れ。態々巻き込まれに来てやったんだぜオレ等」

何も言ってないのに兼定や薬研にはお見通しだったのか、私の霧は乱暴にはらわれた。頭を押さえながら兼定と薬研の顔を見つめる。
ふと、審神者になった日の事を思い出す。あの時は小難しいことは何も考えなかった。ただ仲間を集めて共に戦うことは当たり前だと思っていたから。無我夢中だった。目指す場所は同じだった。言葉は言わずとも利害は一致していた。いや、きっとーーー。

「とどのつまり、大将のことが大好きってことだな」
「なっ!お、オレは別にぃ」
「そういう気持ちは全部大将が俺たちに教えてくれたことだろ」
『わたしもっ大好きだぁ!!』

兼定と薬研の間に飛び込む。倒れかかる私を支える為にふたりが腕を伸ばして受け止めた。薬研は笑っているが兼定は頬を染めて悪態つく。零れそうな涙を隠しながら大きな口を開けて笑った。

利口なのは辞める。だって私は弱いから。如何足掻いても誰かを巻き込むならば、巻き込まれに来たんなら巻き込んであげようじゃないか。それで伴う痛みがあるなら耐えればいい。元から怪我ばっかしてるんだ今更針が刺さるような痛みなんて軽いものだ。傷つく覚悟を決めた。だからこそーーー

『私はもっと強くなりたい。だから一緒に闘ってください』

言葉にすると薬研や兼定は二つ返事で承諾してくれた。
誰かに助けを求めることを悪いことだと決めつけていた。総てを理解したうえでの選択として、共に危険なことに立ち向かってくれると言うのならば、その声に耳を傾けなければならなかった。今更こんなことに気づかされるなんて何をやっていたんだか……弱虫。

『はあ、これで危ない事も三等分だね。よかったわ。血生臭い女子高生なんてテロップじゃ、ホラーゲームにしかならないから』
「大将はいつだって乙女ゲームのヒロインだからな。それに和泉守の旦那が総て引き受けてくれるから安心しろ」
「べ、別にそのつもりだから構わねえけど」
『マジっすか。おなしゃっす』

軽々とした発言をすると兼定が急激に落ち込み壁に額を押し付けて震えていた。

「大将はセオリーな女じゃないから」
『道は自分で切り開く派だから』
「いい女だな」
『薬研も男前だぞ』
「お前らのそういう所オレは嫌いだ」

飲み物でも取ってくるか、とベッドから立ち上がり部屋を出て一階へ下る。リビングに顔を出すと昴さんがバーボンを片手に飲んでいた。最近お気に入りだなそのボトル。と別の方を思い出し喉を詰まらせる。昴さんは私の姿を見つけると手招きをしてくるので、傍へと寄ったら両手が頬に滑り「え」と思う前に肉を掴まれ左右に引っ張られた。みょーんっと伸びる自身の頬肉。

『いひゃいひゃはにゅほみはふ(痛い痛いなにすんですか)』
「やっと甘える事を覚えた子猫にこれまで蓄積していたお灸をすえているだけだ」

赤井さんの口調に赤井さんの声。ということは変声器の電源は切っているな。強弱をつけて頬を引っ張られるが次第に終わりを迎える。殴られた方がマシだと思った。腫れる両頬に手を添えて微妙に涙がこぼれると隣に座るように促され、先程の行動を踏まえて大人しく座る。

「少しは理解できたか」
『はい。反省してます』
「幾らきみの戦いに参加出来なくとも差し伸ばされた手を拒絶するのは最良の選択とは言えんな」
『なんか……見透かされてる気がする。コナンくんゲロったんですか』
「容易く想像出来る図解だからな」

両手をそのまま目元へずらし顔を隠す。

『ひとつ言い訳してもいいですか』
「構わん」
『あの人ああ言わないと無茶する気がしたのでそう言うのはやだなと思ったんです…なんとなく』

ぐちぐちと言い訳をのらりくらりと伝えると赤井さんは私の頭をわしゃわしゃと撫で始めた。

「その優しさを彼はきっと理解しているさ(そして理解しながらその優しさという暴力に撲られていることだろう)」

赤井さんの間が長いと思いながら私が描く人の事を赤井さんはあまり知らないのに何故理解が深いのか疑問だった。

「旦那。俺っちは大将の味方だからな」
「オレの味方になれよ」

彼にまだ言えてない言葉があることを思い出す。自分から別れの言葉を口にしたのに連絡など出来る立場じゃない、という八方塞がりにも遭遇し、また頭を悩ませた。

私が誰似ていようが、今はそんなこと関係がない。そう思えるくらいには、あなたに伝えたい言の葉が生まれた。


突き放したのは自分なのに――――図々しい。