「お前ほんとぅぅにあの男と何もないんだな」
『ないに野口さんを賭ける』
「低い自信だな」
現場保全の解かれた公園内にて金庫に入っていたスマホを取り出し、風景の写真を撮り始める。そんな私の後ろで腕を組み片足で地面を踏みながら、兼定は不機嫌を露わにしていた。兼定が来るまでの間梓さんのまかないまんまを食べ、また眠ってしまい。目覚めた時には兼定と安室さんが互いに睨み、笑み合っていた。飼い主とわんわんの図に私は「もふもふパラダイス?」と思ったが違うようだった。ロッカーから荷物を取り出し退社準備を終えると兼定は私を小脇に抱えて喫茶店を後にした。暫く私は脇に抱えられながらスマホで位置情報をサーチし、道案内をしてながら辿り着いたのが経緯である。
一通り取り終えアプリを起動。解析を開始させると100%になるまで時間が掛かりそうだ。スマホをポケットにしまい兼定に振り返る。
「あとは何処だ」
『ビルは撮ったから後は神社の方で終わり』
「んじゃそこへ行って撮り終えたら店に入ろうぜ」
『らじゃ』
再び兼定と共に神社を目指して歩き出し。全ての写真を収め解析に回すとWi-Fiの通っている喫茶店に入った。今日は冷え込みようで温かいココアを注文する。二人掛けの窓際の席に座りスマホを中央に置いた。
『まさかこの金庫に入ってたスマホが未来のモノだったとは思わなかった』
「見分けがつかないからな。無理もないだろ」
『でもこれで審神者の独自ツールが使えるから調べる術が増えたけど…結果によっては』
「身の振り方を考えねえとな」
互いにココアを飲みつつ解析が終わるのを待つ。写真の他にムービーも撮っていた。それはあの三波さんが殺された現場。審神者のみが使用できるツールには警察顔負けの調査アプリが備えられている。カメラで撮ったものはすべて解析できる仕組みだ。しかもムービーで撮れば現場で起こった地形記憶に刻まれた当時の状況を映像化することが可能。未来とは便利な世の中なんだ。なあ、ドラ●もん。でもまだ君の使用する秘密道具はない。なあ…生きづらい世の中だろ。
スマホの通知が点滅する。先に終わったのは画像に収めた解析の方だった。兼定にも見えるように画面を浮き彫りにし宙に何個も画面を展開させる。
『まずは私が最初に時間遡行軍と戦闘した場所がここ』
「さっきの公園だな」
『次が路地裏、ビル内、神社、またビル……っと流石に列車は警察が回収してるから無理だったね』
「いや、これだけ集まればいいだろ。しかし画像に映し出せているとはいえ薄いな」
『相手も力が半減してるみたいなのがよくわかる。やっぱり気のせいじゃなかった』
「霊力が薄いってのは敵にも影響がある、にしても数で圧されれば勝機はねえな」
『体力勝負ってそんな根性論で通用する相手じゃないし』
「ああ。それにこっちはお前を含めて三人だ。向こうはまだ数の出し惜しみをしている部分がある。なら一体上限は何体なのかが胆だな」
『段々犯人ひとりにつき一体じゃなくなってるしね。寧ろ時間遡行軍が生み出せる人間からは何体でも生み出せる、って仕組みに切り替わってる気がする』
「間違いないだろ。それか投影してるか」
『一体の時間遡行軍を模写して大量生産してるってことか…その線も捨てきれないね』
「だが、お前の言う通り統率が取れている動きがある以上、操っている奴をぶちのめせば産み出すことは出来ない。叩くなら統率者だ」
将としての兼定は優秀だ。言っている事は正しい。するとムービーの方も解析が終了したようだ。今回のメイン。私が一番気になっている案件。これが統率者に繋がる決定的な情報だ。開示し再生する。
兼定と共に大きくした画面を見つめる。音がないのが残念だが、そのムービーには確かに時間遡行軍が映っていたしかも打刀。その隣には歩美ちゃんの証言通り背格好が一期くらいの男がいる。その男が手を上げ合図を送った瞬間。三波さんは斬り殺された。尚も続く残虐非道な行為も映されているが、その男も動きをみせる。耳に何かをあてた。多分あれはスマホ?頭部を揺らしている。多分頷いているのだとすると……電話をしているのか。長く話しているのか再生時間が終了するまで男は誰かと通話していた。一度ブラックアウトする画面に、兼定は腕を組む。
「薬研を誘わなかった理由が解った。お前は疑ってるんだな―――一期一振を」
兼定の真っすぐすぎる言葉に唇を動かそうとするが、目を伏せ首を縦に振った。
『一期の動きは不自然じゃない。何処も、何も。でも、見てしまったメール画面のあの一文が本当なら調べるにこしたことはないと思う』
「本来ここへ転生してきた刀剣男士は人間とほぼ同じだ。この世界は霊力が薄い。なら普通は視えないのが自然だ。霊感で視えるなら苦労しない。なのに奴は時間遡行軍が視えていたんだな」
『うん。それを踏まえると段々と怪しさは増えるんだ。助けに来るタイミングといい、関わるタイミングといい。全てにおいて実に自然に私に近づいている』
「まるで全てを知っていたかのように、か」
『でもまだ証拠がない。今のは全部机上の空論。だから薬研には言っていない。完全なる黒だと断定出来たとき薬研に伝えるっていうのは私の我儘かな』
「いや。そーゆのは我儘じゃなくて普通に家族だろ。お前の気持ちくらい汲める男だ、あの薬研藤四郎って男は」
『和泉守兼定も主の気持ちが読める男だと思っておりますけど』
「なっ、なんだよ」
『拗ねなくたって、兼定は来てくれるって信じてたよ。主は』
「……期待しないんじゃねーのかよ」
『馬鹿だな。期待しない程度に頼りにしてるって言ったでしょ』
「はあ?だから期待なんざして……そ、それってずっと頼りにされていたのか、オレ」
頬杖をついて笑うと兼定は真っ赤な顔をして他所向き「バカっていうなバカ女」と罵ってくるが、それが照れていることくらいわかるって。両手でカップを持ちココアを飲む。もうすっかり辺りはクリスマス一色だ。兼定の耳に注目する。揺れるピアスをじっと見つめていると横を向いていた兼定が「んだよ」と対面する。くっそ綺麗なお顔しやがって。好きだぞ。
『この後暇?』
「当たり前だろ」
『じゃあ、買い物に付き合って』
「別にいいが、何のだよ。コーディネートなら任せろ。あんたを飛び切りの美人にしてやるよ」
『嫌味かおい。ちょっとアクセショップに寄りたくて』
「あんたも耳に穴空けるのか?」
『空けないから』
耳たぶを抑えて痛みを想像し萎える。はあ……ここへ来ても兼定に女子の目が集中してやがるな。でも国宝を見るかのような視線なので心地よい。そうだろう、そうだろう。この美術品並みの美しさは誰にも摘み取れないのだよ。ふふん、と親馬鹿を発揮していた。
「で、どこの店だよ」
『ここから近場』
スマホ画面を見せ立ち上がるとトレーにカップを載せて退席する。外へ出て地図を頼りに歩き出した。
『やっぱ兼定は赤が似合うわ』
ピアスを当てていうと「そうか」なんて煽てたらエベレストでも登りそうな勢いのある兼定だったが。
「それ女モノじゃねえか」
『え、そうだけどなに』
「なにじゃねえよ」
『美人なんだからいいだろ』
「まあな」
女性用に作られたピアスを物色しながら様々なデザインを選んでいるとルビーの石が一際輝く飾り気のないそのピアスに魅かれて手に取る。兼定は手元を覗きこむと「質素だな」と言ってくるが、私にはそれが一番いいように思えた。片手には既にネクタイピンが握られており、それと共に買ってくると伝えレジに並ぶ私を余所に兼定は髪飾りのコーナーを見つめていた。
『お待たせ』
「おう。じゃあ次は」
ふたりでマップを覗きこんだとき、自分のスマホが震えた。何だろうと思い手に取ると薬研から着信が来ていた。兼定に画面を見せると頷かれ私は通路の端によって通話を始める。
『どうしたの薬研』
{ 調査中に悪いな。ちょっと気になった事があって大将にも確認を取りたくてな }
『なにかあったの?』
{ それが今しがた探偵殿から博士宛てに連絡が来て。手が離せない博士の代わりに俺っちが出たんだが直ぐに切れちまってよ。何の用件で掛けたのかわからんが、僅かに受話器から聞こえた車の走る音と子供たちの声が震えていた }
『誘拐、にしては電話が出来るってなると逃げ出したか。でも子供たちってことは人数が複数ってことだから、そんな一箇所に逃げ込むことは愚策。なら……閉じ込められたか、出るに出られない理由があるのか、のどちらかかな』
{ 車の走行音ってなるとトラック。積荷を運ぶ運送会社か或いは土木関係とかが妥当か }
『震えていたってことは脅されていたから?でもコナンくんが脅されたくらいで震えた声なんて出さないとなると…寒い環境にいる?』
{ となると冷蔵車か冷凍車か…ん。待てよ。今日博士の家に横浜から取り寄せたケーキが届くそうだ }
『そう云えば聞いたかも……あ』
{ 運がよけりゃ来るな }
『私達も向うけど薬研は毛布とか準備してといて』
{ ああ。あ、旦那に伝えておいてくれ邪魔して悪かったって }
『ん?わかった』
通話を切ると兼定は声が拾えていたのかぷるぷると震えながら「薬研の野郎」と言っている。だが兼定の腕を取り駆けだす。刻は一刻を争うのだから。
『はやく!博士の家に行くよ』
「お、おい!」
博士の家の前に到着する頃には私が兼定に引っ張られていた。久しぶりに長距離走を短距離感覚で走った所為で、息が乱れに乱れて地面に茹で海老状態で倒れ込んだ。
『む、むり……もう、むりぃ……』
「次からは体力強化も鍛練に取り入れるか」
『ちょ、おまっ…鬼か』
「鬼の副長と謳われたオレになんだ」
『うぃ』
兼定は割と手厳しい。ぜえぜえ言っていると横たわる身体の周囲に子供達と共に薬研がしゃがみ込み囲まれた。
「大丈夫か大将」
「お姉さん具合悪いの?」
『あ、いや…君達無事そうね』
「夜子姉ちゃんがレシート拾ったの?」
『え?レシート?いや、拾ってないけど。私は薬研から電話を受け取って』
「大将が推理して今に至るって訳だ」
「コナン君のお姉さんも凄いですね!」
「エスパーなんじゃねえか」
『まあどっちかっていうとオカルトかな』
身起こそうとしたら頭上から驚きの人物が現れ思わず顔を両手で覆った。
「あれ?もしかしなくても夜子さんですか?奇遇ですね。お仕事はどうしたんですか?」
『あ、いや…その……い、今帰ってる途中です』
「それはお前にも言えることじゃねえか」
「やあ和泉守君。寝不足の彼女を連れて何処まで行っていたのかな今まで」
「それをお前に説明する義理はねえな」
「参考までに教えて欲しいですね」
「教える訳ねえだろ」
美系同士が睨みあう。その間にコナンくんと歩美ちゃんの手を借りて身を起し哀ちゃんが私の背に隠れる。
『みんな大丈夫?寒かったでしょ。博士の家に入ってなよ』
「でもこのお兄さんたちは」
『大丈夫。何とかは死んでも風邪なんて召しあがらないから』
「そうだぞ。部屋の中温かくしてるからな、あとココアもあるから家に入れ」
うわぁーいっと博士の家に向かう子供たちを見送る中、コナンくんが隣に立つ。
「よくわかったね。薬研さんが電話に出た時電池切れになって一言も喋ってないのに」
「ああ。周囲の音を拾ったのさ。だが俺っちよりも大将の方が凄いさ。手掛かりを頼りに点を繋ぎ合わせて答えを導いたんだからな」
『手がかりが多かったし、それに確証があって来た訳じゃないから。コナンくんも今のうちに家に入っていいよ』
「夜子さんも後から来るんだろ」
『うん。あとで行くから皆で待ってて』
コナンくんを見送ってから立ち上がり、息を一つ吐き出してから兼定の耳を摘む。
『一々噛みつかない』
「いだっ!オレを狗みたいに言うな」
『顔合わせれば咆えているのは兼定でしょ。ほら、次寄る所あるから行くよ』
「ちっ」
「もしよろしければお送りしましょうか?」
『用事があるんじゃないんですか』
「ええ、きみの様子を診に行くという用がありますよ」
『……』
本気なのか、嘘なのかわからないが。嘘だろうに福沢先生を二枚賭けてもいいと囁く。細目で見つめる私と微笑む安室さん。それを睨む兼定の三人を見まわし薬研の一言。
「大将。どうせなら言葉に甘えればいいんじゃないか。旦那は付き合ってくれるそうだしな」
「なっ、薬研!お前はなんちゅうことをっ!」
『薬研がそう言うなら』
「ヒエラルキーが解りますね。僕なら構いませんので遠慮しないでください」
この男と密室の空間というのが身構えてしまうのだが…、だがここで身構えるということは意識しているということになる。それは自意識過剰すぎやしないか?この人が女に困っているようには見えない。ましてや女子高生と言う小娘に手を出す程溜まってもいないだろう。あれはノーカンだ。気の迷いだ。よし、と気合いを入れる為に頬を叩いて「いざっ」と車の扉を開けた。後部座席の。
「戦地に赴きか大将」
「ある意味戦争だろ」
「助手席が空いてますよ夜子さん」
『そこは美女しか許されないシードコートなので遠慮しておきます』
「ああ。普段からこの兄さん女を乗せているのか」
「最低だな、あんた。一人に絞れないのか」
「きみ達の援護射撃のコンビネーションに隙がなくて反論を返しても彼女が聞く耳持たずに後部座席に座られてしまったよ」
「ざまあねえな」
「大将はそんな安い女じゃないんでな」
後部座席に乗り込むと安室さんも運転席へ。窓を開けて「直ぐに戻る」と伝えると薬研が兼定の腕を掴んで「わかった」と頷き車は緩やかに走行を開始した。
「車か……やっぱそれか」
「今の旦那じゃ免許は無理だと思うぞ」
さてと。私は鞄の中から工具を取り出し買った品を手に作業を始める。
「夜子さん。行き先はどちらまでです?」
『警視庁でお願いします』
「きみは一期さんが好きですね」
語尾が強いな。手元を狂わせる訳に行かずにピンセットで取りつけていく。
「なにやってるんです?」
『一期に渡すものを製作中です』
「……」
『うわぁっ!』
急カーブでもあったのかと思う程揺れる車内。なんちゅう運転をするんだこの人。
「もうすぐクリスマスですからね」
『ええ、お世話になったので』
「(お歳暮)ちなみに僕には」
『ないですね…いまは…って今度は急ブレーキかッ!』
そんなジェットコースターの中、無事に警視庁まで到着した頃には車酔いになっていた。うぷ……乗り物は弱いんだよ。イジメかな。口元を抑えつつラッピングまでしっかりとやり遂げた私、偉いぞ。と己を褒めていると一期がこちらへ向かってくる。だけど、私の後ろに控えていらっしゃる腕を組んで笑顔の安室さんを目に映すと、細められた。
「夜子さんこれはどういう」
『い、一期!これ受け取って欲しいんだけど!』
間髪いれずに一期に差し出す粗品。一期はそれを見るなり固まり微動だにしない。恐る恐る顔を上げて一期の顔を見つめると、そっと手を伸ばし小箱を手にしてくれた。
「頂いても?」
『うん。いつもありがとう一期』
包みを開ける一期の眼前に入るのは先程最後の仕上げをした、天然石が埋め込まれたネクタイピンが現れる。それを目にした時、一期は一瞬だけ物憂げな瞳を浮かべた後普段通りの微笑みを見せてくれた。
「ありがとうございます」