降り注ぐ白雨




一期から連絡が来て、私はポアロで蘭ちゃんと梓さんと別れ一期が指定した場所まで直行した。一期の姿を見つけると傍へ行き傘の中に入れて貰った。

「ずぶ濡れじゃないですか」
『傘忘れちゃって。それより時間遡行軍が現れたって本当?』
「ええ。この辺りで殺人事件が起こり被疑者を護送している最中に突如現れたのですが、奴はそのまま何処かへ行ってしまい。私は被疑者の裏付け捜査をするといって抜けだして探し、やっと見つけたので連絡をした次第です」

一期が指し示す場所には確かに時間遡行軍がいた。だが、腕時計を確認するとまだ19時を回ったばかり。人通りもそれなりにある場所だ。しかも会社帰りの人々で溢れている。こんな所で大立ち回りなんてしたらパニック間違いなし。一期は片手に握っていた木刀を私へ差し出す。準備よすぎじゃないか一期。受け取り以前私が書いた文字がまだ残っていた。

『見た所打刀一体だけみたい。此方の様子に気が付く前に一期はそれとなくここから人を遠ざけて』
「わかりました。でもあなたは」
『制服のジャケットを脱いでネクタイも外す。髪も縛ってあとは顔を隠せるものがあれば…』
「これなら使えますか?」

一期は近くにあった狐の面を取り私へ差し出す。何故ここに狐の面があるかは今は触れないでおこう。きっと都合だ。狐の目元だけの面をかけ、ビルの隙間から駆けだすと時間遡行軍が私に気がつき此方へ一気に距離を詰めて来た。

「ご通行の皆さま。今すぐ此処から避難してください。爆弾がしかけられていると通報を受けましたので、ただちに避難をお願いします」

一期の呼びかけに人々が慌て出す。なるべく人の居ない所へ駆けているが、奴の方が速い。後ろから振り下ろされる刃を避ければビルの壁に深く突き刺さり粉砕する。石礫が飛んできて足に当たる。しかも雨と面で視界が悪い上に路面が滑るため不安定な態勢で避けると、壁を斬りながら振り切り、逆再生するように、そのまま横薙ぎで攻められ、足を滑らせ地べたに尻もちをつく。頭上で刃が通り過ぎ、冷や汗が流れた。

打ち首かよ……!

住宅街から抜ける道を見つけ飛びつくようにその道に入り、細道故に相手も手が出せないかわりに、突いてくる。華麗に避けながら広い道へ出ると車が一台止まっていた。

車に注視がいっていると一太刀が飛んでくる。ギリギリで左に避け車のいない反対方向へ走る。細い路上にまた別の車を発見する。くそっ……!何処かないの?!暴れていい開けた場所はっ……木の立て札があり通り過ぎがてら視線を向ける。

この先に神社……

だが、突然横道から男が飛び出しぶつかる。軽く飛ばされ路上に倒れると相手は雨の中傘もささずにスーツ姿で手ぶら。左脇あたりに膨らみを見つける。そして眼鏡をかけていた。

「すまないお嬢さん」

手を差し出してくれた若いのかな。30代前後の人が手を掴んでくるが逆に引っ張り男の人が上に圧し掛かる。だが男の人が居た場所に刃が突かれ。壁にめり込んでいた。男は突如壁に傷が作られている事に驚いている。このままこの人を一人残すのも得策ではないな。男の人を背後に隠し立ち上がる。男の人には「待て」と手で制した。
水溜りに足をつけ間合いを互いに取り木刀を構え同時に踏み込む。相手の刃を木刀で受け止めずに左の二の腕に切り傷が走るが、換わりに相手の脇腹を切り裂いた。怯む間に男の人の腕を掴んで来た道を戻るように駆けだす。男の人が何か言っているが話している場合ではない。矢印の方向へ曲がり階段を駆け上がり、神社の境内に到着すると手水舎へ行き柄杓を手にするとお兄さんに水をすくってかける。

「なにをするっ!」

もう一度すくって今度は地面に水をまき柄杓を置いた。

『絶対に此処から出ないでください』

それだけを告げると男から離れるように森へ駆けだす。神聖な水なら気配を消せる。そして私の方へとより鮮明に追ってくる。一定の森の中まで来れば振り返り木刀を構える。すると木々の隙間から脇腹を目掛けて白刃が襲いかかる。木刀で防御するが、力の差によって吹き飛ばされ木に身体をぶつける。思いきり背中からぶつけてしまったため気管に入り、咳を溢す。準備もしてなかったから口内に鉄錆が広がりシャツの袖で拭う。

お面を外し相手に向かって投げ捨てると白刃が互いに交差し、火花が散る。力で負けるなら相手の隙をつくしかない。刀が交り合い金属音が断続的に響き、森中にこだまする。身体が圧され地面のぬかるんだ土に足を取られバランスを崩すと喉元目掛けて払われ、首の皮を裂かれた。血管まで到達しなかったものの血潮がふく。喉に手を置き距離をとる。

思わず血の気が引く。あと少し反応が遅れたら血管まで到達してたら死んでいた。眼光が鈍く光時間遡行軍のそのおぞましい姿に畏怖が走る。震えが止まらない。

食い止めなきゃ死ぬし、逃げても死ぬ。なにこのどれ選んでも【死ぬ】って選択肢は……私のカードには【死】しかないのかよ。

血が止まらない。雨が弱くなってきているがそれでも視界が悪いのは変わらない。どうする……どうやって攻める。考えている暇も与えて貰えないまま攻め込まれ、避けるしかなく。受け身だけで凌ぐ。金属音が交り合い火花散るその時、銃声音が森中に轟いた。銃弾が相手の刀を弾き緩んだ隙に距離をとり周囲を見渡すと声が届く。

「この先に開けた場所がありますので、そこまで走ってください」

その声に従い、背を向け走り出す。木を遣って白刃から避けつつ街灯が一つだけ灯る場所へ出た。すると拳銃を構えた一期が居て、目を見張る。

『一期、避難は』
「終えました。心配で来てみたのですが、正解でしたね」

後ろから来た殺気に右へ避けると銃弾が飛び、見事に命中する。距離を取るために地面に手をつき体勢を整えた。

「銃では仕留める事は不可能ですね」
『牽制にはなってるけど』

話しながらも銃弾が撃ち込まれている。だがそれでは時間遡行軍を倒せない。この木刀もあと一回くらいしか使えないだろうな。半分折れかかっている。素材は木だから仕方がない。いくら刀剣男士と同等の威力を得られる名前を使用しても所詮は木刀。何度も使えるものじゃないことはこの前折ってしまった金属バットで教訓を得た。あと一撃で仕留める為には奴の足止めをしなくちゃならない。

『一期。奴の手元は狙える?』
「お任せ下さい」

私は時間遡行軍の懐まで一直線に駆けだし奴を上段に構えさせる。頭上に天高く上がった手と手の間に握られる柄。鍔から伸びる刀身が雲の隙間から零れる月光に照らされ、一期が狙いを定め撃ち放つ。明確なその銃弾は見事に打刀が掴む柄にヒットし、刀が地面に落ちていく。
獲物を持たない奴の胴部分に狙いを定め斬り裂くイメージで横へ薙ぎはらうと上半身と下半身に別れその場に崩れ落ち消滅を確認した。

『はあ……なんとかもった』

木刀は見事に折れて柄の部分しか私の手の中に残っておらず。血が流れる首を抑え膝から崩れ地面に座り込んだ。傍まで歩み寄る一期は上着を脱いで私の肩にかけると、ハンカチを取り出して首に押し当てる。

「無茶ばかりするお人だ」
『ありがとう。助かったよ』
「礼には及びませんよ」

手を貸して貰い立ち上がる。汗だくになっている一期の様子を横目に視線を落とす。

『ごめんね、巻き込んで。巻き込まないようにするって言って結局巻き込んで、申し訳ない』
「……水臭い事は言いっこなしで。私が好きであなたの傍にいるのですから」

一期は端末機の操作した後、それをポケットにしまい手を引かれ「送ります」と言われるのでその言葉に甘えて歩きだした。

『制服買わないとやばいわ』
「血だらけですからね。一応上着とネクタイは持ってきていますが」
『ありがとう。てか今回も派手に壊してしまったな……どうしよ』
「それはあまり問題ないかと思いますよ」
『どうして?』
「今まで報道でも取り上げられていませんので。三流ゴシップ誌以外は」
『……なるほど』

一期と共に歩きだす。一期が後ろを気にしながら歩いている事も知らずに、私は呑気に今晩の晩御飯は昴さんのシチューだと鼻歌を歌っていた。