繋がりたい電波線



洒落た扉に取手。手を伸ばして引けば呼び鈴が慎ましく鳴り響いた。

「いらっしゃいませ。おひとり様ですか?」

若々しく見えるエプロンを着た女性が笑いかけるのを見て彼女の母親だと気がつく。

「あの、夜鷹さんはご在宅ですか?」

注文をひとつするみたいに慣れない名を読むと推測通り、女性は彼女の母親だった。
片手に持っていたポットと共に飛び跳ねて、飛びついた。

「………お、お兄ちゃんッ!!」

“お兄ちゃん”と呼んだ声に倣って奥から男性が現れた。姉さんと同世代と思わしき人物が僕を視界に捉えると寄っていなかった眉が一気に寄り、険しい顔つきとなった。

「母さんどうしたの」
「あ、お、おにいちゃっ!あ、夜鷹ちゃ、夜鷹ちゃんの彼氏がっ!彼氏がッ!!」
「ん?夜鷹のカラシ?」
「彼氏よ!彼氏!!」
「かれし………、そんな訳ないだろう。この細め野郎は、あ、この爽やかな彼は夜鷹のクラスメイトで部活仲間の不二周助クンだ」
「あらそうなの?」
「………お世話になっています」

なんでお兄さんは僕の事を知っているんだろうか。その疑問はあまり深く追求しない方がいいと判断した。先程から蛇の眼孔が如く目を合わせた瞬間噛み殺されそうな勢いがあった。

「(こいつ何しに来やがった。しかも頷いてねえ)母さん。俺今から撮影だから明日帰る(あとで確認しとくか)」
「あら、気をつけてね」
「ああ、行ってくる。不二クンもゆっくりしていってくれ(早く帰れ、地獄にな)」

言葉の端々から裏腹な声が聞こえるけど聞かなかったことにした方がよさそうだな。眼を閉じたまま「ありがとうございます」だけ伝えた。
カウンター席に勧められて座ると彼女のお母さんとは思えないおっとり具合で紅茶を淹れてくれた。

「夜鷹ちゃんの方が紅茶淹れるの上手なんだけど、ごめんなさいね。今日は図書館に行くって出掛けちゃってて。でも午後には帰ってくるって言ってたからそれまで待っててくれる?」
「待たせて頂けるなら」
「オールおっけいよ。夜鷹ちゃんの彼氏さんだもの」

勘違いしている。もうさっきのやり取りすら忘却の彼方のように置き去りにして話を戻されてしまった。
お客さんは閑散としていた。いや多分忙しい時間帯ではないのだろう。秒針が静かに刻む流れが緩やかなこの空間で彼女の母親は笑顔のまま、たくさんのお菓子を出してくれる。その一つ一つを食べるたびに「夜鷹ちゃんが作ったのよ」とか「夜鷹ちゃんがラッピングしたの」など娘が本当に大事なのだとわかるくらい自慢話に耳を傾けた。

「夜鷹ちゃんたら真面目で。携帯持ったらって言ったら“まだ早いでしょ”って。もうお母さん心配だから持ってほしいのに。あとお買い物とか頼みたいのに」
「彼女自身が持つことを躊躇っているんですか?」
「そうなの。普通は欲しがるって聴いてたから」

確かに本来年頃なのだから携帯を持ちたがるのは自然なことだ。現に彼女の友人である乙藤さんや江口も所持している。部活の連絡にも必要だから出来れば持ってもらいたいとこぼしていた大石の意見も出来るなら溢しておこうかと思っていたけれど、どうやら渋っているのは彼女自身だったことにやや驚いた。

「なんだか夜鷹ちゃん。ちょっと見ない間におばさんみたい」
「そうでもないですよ。今時にしては珍しいというだけで。そこも彼女の魅力のひとつです」
「……不二くんは夜鷹ちゃんのこと、見てくれているのね」
「あんまり見過ぎて倒れられてしまいますけど」
「あら、それは照れ隠しよ。全くもう」
「(いえ、吐血して倒れるの倒れる方なんだけど…言わない方がいいかな)だといいですけど」
「でも、お兄ちゃんも強く言わないのよね。背中押してくれてもいいのに」

それについてノーコメントにしておいた。憶測だけで断定するのも悪いと思うし…でも確実にあのお兄さんって人は結構な分類の人物だと僕の勘が囁いた。

「さっきの人は夜鷹さんのお兄さんですか?」
「ええ。そうですよ」
「もしかして俳優のコウさん?」
「あら。不二くん。もしかしてお兄ちゃんのファンだった?」
「いえ。姉が気になっている俳優だと言っていたので」
「不二くんお姉さんがいるのね〜ということは長男か。ん〜夜鷹ちゃんをお嫁に出すと不二くん家に取られちゃうのかしら」
「ふふ、随分と先の話をしますね」
「可能性はあるかもしれないじゃない?」

カウンター席でそんな話をしていた。


おっとり母上が不二くんと会話しているだけの話なので短く。漸くここで兄が出せた。ヤバイ感じの兄を出せたことでもう満足です。本編でも出したいこの兄を宜しくお願いします。主人公妹命です。