狐の憫笑、葉隠に



ダブル2から練習試合が開始された。
模擬公式戦ということで5セットマッチで試合が展開される。コートは2コートあるため空いているコートにはアップで選手が打ち合いをしている。あくまで練習だから出来るシステムだ。
スコアを記録に残すためにボード通りに書き写しつつ片手にアイドルうちわを振ってみる。ちなみに私が持っているものは表が「こっちむいて」裏が「決めポーズ」とかそんなものが書いてあった。跡部くん使用にはなっている点がわざわざ作ったんだなと感心する。
隣で鷲深ちゃんがデジカメを構えてシャッターを押している。でも音が鳴らないタイプのようで写真を撮っているのか私では確認ができない。
ふりふりとうちわを左右に振っていると、空きコートで軽く打ち合っている跡部くんがギャラリーに向かって指パッチン(本当にやるだ)して決め台詞を抜かしている。そして私の方へ向くとこっちにもサービスでやってくれた。見えているのか、あの距離からこのうちわの文字を。

「さっきからこっち見てるなあの泣き黒子」
『そうなんだ。視力ないから視認できない』

眼鏡持ってくればよかったと後悔。元々視力が2.0というバケモノ級の鷲深ちゃんはレンズ覗けば一発で視認できた。

「顔はやっぱ好みなんだよね」
『カッコイイもんね』
「でも喋るとイメージが違うからやっぱ紙面でいいってなる」
『わかるわ…現実知らん方がいい』
「人間が次元を超えることなど出来ないってことさ」
『そうだね』

つくづくそれは思う。紙面だったら何を言われても私は第三者側としての感情しか出さないから「かっこいい」だの「素敵だの」言えたが、現実となりそれが立体となったとき、対面した私が感じたことは「なんだこの失礼な奴」だもんな。
しみじみとふたりで語っているとまた跡部くんがこっち見ながら手を振っている。いや、しっかりと準備運動してください。と思いつつも新聞部に提供する写真はしっかりと納められていることには満足した。

「乙藤さん。写真撮ってるの?」
「そう」
「……さっきから夜鷹ちゃんとふたりで跡部の応援?」
「企業秘密」
「そう……ねえ、そのデジカメ貸してくれる?僕が撮ってあげる」
「そういえばあんた写真撮るの上手かったね…って一体何を企んでいるのさ」
「企むなんて人聞きの悪い……貸してくれるなら彼女の写真もっと綺麗に撮って君にあげるよ」
「……はい」
「(欲に忠実)」

スコアに集中しすぎて隣で何かが行われていても私には認識すらできていなかった。望遠鏡欲しいとくらいしか思っていなかった。
すると隣から軽い風が舞い込んできて鷲深ちゃんが席を立ったのかと思って顔を向けるとそこには不二くんがデジカメを片手に座っていた。あれ鷲深ちゃんは?

「乙藤さんなら飲み物買いに」
『そうなんだ……いや、何故不二くんがここに犬猿の仲では?』
「やっぱりそう見える?でもしいて言うなら、僕の写真好きが功を為した結果かな」
『…不二くんアップは?』
「うん、大丈夫」
『そっか』
「跡部とは知り合いなのかな」
『偶然知り合ったという感じです』
「ひとりで?」
『ううん。鷲深ちゃんとえっちゃんと一緒のとき』
「そっか……君は困った子だね。水面に浮かぶ月みたいだ」
『ん?』

海堂くんの攻めが功をなし、相手の態勢を崩したいいアプローチをした瞬間を乾くんに頼まれたビデオカメラで確認しながら、スコアに記載していたため。不二くんの話を半分も聞こえておらず聞き返すと不二くんは笑みを浮かべて首を左右に振った。彼はその美しい横顔をレンズに納めシャッターを押す。その仕草だけで眼福だなと思うあまり少しだけ長く彼の横顔を見つめていた。

―――写真撮るときも眼は閉じているんだ

「(そう、掴めぬ月を手に入れようと男を翻弄させる。かぐや姫みたいな……でもこんなに鈍いとちょっと困っちゃうな)」


鳴らぬシャッター音が聞こえた気がした。



◆ ◆ ◆




ダブルス2が終わり。海堂くんと乾くんに新しいタオルと新しい飲み物を手渡し労う。

『海堂くんは冷却スプレーしないと。乾くんはストレッチ入念にね』
「すんません」
『いいから。じっとしてて。これが終わったらゆっくりストレッチしよう』

海堂くんの手首と関節を重点的にスプレーを噴射させながら鷲深ちゃんにドリンクを支持した。

『ごめん鷲深ちゃん。2番と3番を2:8で割ってくれる?』
「わかった」
『それから乾くんのストレッチ付き合ってあげて』

割ったボトルを手渡してくれて鷲深ちゃんは頷いて乾くんの元へ向かった。
海堂くんの手首を冷やしながらドリンクを飲ませつつ、次のダブルスが試合に向かうのを見送りながら桃城くんと河村くんに指示を出した。

『ごめん。大石くんは1番と3番を7:3で菊丸くんは1番と2番を2:8で割ってくれる?タオルは籠の中にあるから上からで』
「任せてくださいよ!」
「わかった」
『うん、これなら大丈夫そうね。さてとストレッチいこうか』
「ひとりで出来るんでいいっス。先輩は試合の記録とか仕事に戻ってください」
『……わかった。でも無理しないでね』
「ウッス」

海堂くんが立ち上がるとそのままこの場から退場した。多分外周するんだろうと読む。
私が記載したスコアを手塚くんが手にしながら見ている。

「よく見抜いたな手首への負荷が異常だと」
『ちょっとスナップが甘かったというか。違和感を感じて。ビデオを見てるとよくわかるよ』
「そうか」
『海堂くんが戻ってきたらテーピングしないと。しっかり診てもらうなら病院の手配しようか?』
「そうだな。悪いが任せる」
「先輩」

リョーマくんに声を掛けられ振り返ると2番のジャグを指して告げる。

「あのサーバー空なんだけど」
『さっきので無くなったのかも。新しく作るね。ありがとう教えてくれて』
「別に。あれ人気だね」
『あれは糖分多いからね。あ、今から試合始まるからスコアとビデオどうしよう』
「それなら俺が引き受けよう」
「ストレッチ終わったよ」

乾くんと鷲深ちゃんが戻って来たので乾くんと交代して私と鷲深ちゃんはジャグを確認して2番と3番を手にするとリョーマくんが「オレも行こうか」と申し出てくれたがそろそろ試合が近いことを知っていたためアップを優先するように言ってから二人だけで氷帝選手に教えてもらった設営所まで歩いた。

「しかしあのサーバーって夜鷹のオリジナルブレンドでしょ?」
『うん。疲労、体調などを考慮して作成してみました。それぞれに効能があるから必要としているものを適宜ブレンド配分考えて作るの』
「ほんとっそういうの好きね」
『錬成しているみたいで面白い。まあ乾くんに触発されたっていうのもある。隣である意味凄いドリンク作られちゃうとこっちも作ったろうって気になった』
「あのバンダナくん大丈夫かな」
『一応冷やしたから腫れは引くだろうけど…骨まで響いてたらちょっと危ういかな。これ作り終えたら病院に連絡しとこうと思って』
「そうだね。……しっかしマネってやること多いのね。あたしなら無理だわこんなに」
『慣れてくるとミッションこなすみたいで楽しいよ』

純粋に楽しいと思ったから伝えたんだけど、鷲深ちゃんは母と同じような表情をして私の頭を撫でた。
「そっか」って言って。何だかどっちが年上なのかわからなくなるな。一応25歳なんだけど。今は15歳だが。何だか身体に魂が馴染んでくると精神まで退行してしまうのだろうか。最近ふとそんなことを思う。やたらと中学生だった頃の自分が浮き彫りになる。私ってこんなに活発だったんだな。何事も挑戦というか、自分なりに進んでた気がする。昔の自分を思い起こせば起こす程中学生の自分として生きるというニコとの最初の約束ごとが浮かび……時々それだけでいいのかと自問自答してしまう。根本的な解決にはなっていないんじゃないかって、答えが出る。この世界に存在していた弓波夜鷹という人物は塗り替えられて消えてしまう。本当にそれでいいのだろうか。私はこの世界でカノジョを媒体に自分らしく生きる、それで本当にいいのだろうか……歯車は狂わないのだろうか。肉親がなんともないように、カノジョを取り巻く環境、それに影響された人々すべてに影響はないのだろうか……迷宮はいつも後ろにいた。
設営場所まで来ると水と氷を所望してこの場所に置いていた自分の鞄を取り出して中からドリンクに必要な材料を処理し始めた。水と氷を貰って来た鷲深ちゃんだったけど、突然振動がしてポケットに入れていたスマホを取り出すなり「ごめん。電話」と言われたので「いいよ」と答えて鷲深ちゃんを見送った。

『はあ……ここは落ち着く』

肩に張っていた力を抜いて少し手元を緩めた。実はテニスコートに来たときから女子の視線が痛かった。訴えかけられている嫉視が身体中に槍が突き刺さる感じがして、酷く緊張した。人の眼は口よりも多く語る。むき出しの感情を顕わにしたあの視線を向けられていると思うと息が詰まりそうだった。青学でも感じていたが、それよりももっと濃度が高いものだ。あんなに一身に向けられると気が滅入る。だけどここは関係者以外は立ち入ることはできないと知っているから嫉視からも猜忌からも逃れ解放された気分だ。余程精神的にきていたのか手元が滑って水を落としてしまった。しかもキャップ緩めていたから中身が全部床に吸い込まれていく。

『ああ……』

空になってしまったペットボトルを手にして床を自身が遣っているタオルで水気を払いながら一本貰い直しに立ち上がった。

『すみません。お水頂けますか?』
「あ、ごめん。今取りに行ってるんだ。ちょっと待っててくれる?あ、何本必要?」
『一本です』
「それなら裏手にまだ数本だけ残ってるから持ってくるよ」
『なら私が持ってきますよ』
「え、女の子にそんな重い物持たせられないよ」
『台車がありますよね。それ遣わせて頂ければ大丈夫です』
「そう?ならお願いしようかな。ごめんねマネージャーさん」
『いえ』

自分の不注意で一本無駄にしてしまったからそれくらい、と思って私は台車を転がしながら設営の裏手に位置する場所まで向かった。



◆ ◆ ◆




裏手に行きケースを見つけるのに時間はそうかからなかった。
だが1ケースどころか4ケースも置いてあったため、ついでにと1ケースずつ持ち上げて台車に乗せる作業を行う。そんなか細い背中に手が伸びる。音を消して忍び寄る白い腕が夜鷹の背中を捉えて赤く染まる爪が宙を掻きながら小枝を踏む、パキっと乾いた音が背後から聞こえて彼女は振り返る。人気のない場所から突然聞こえて来た音の正体に少なからず警戒は抱いていた。だが夜鷹の眼に映ったのは、兄のマネージャーである梁瀬工が手を振って笑みを浮かべている姿だった。

「こんにちは。夜鷹ちゃん、重そうですね。僕が手伝いますよ」

上着を脱ぐとそれを夜鷹に渡し持つように促す。梁瀬はあっという間にケースを台車に運び終え。台車を引きはじめた。先に行ってしまう梁瀬を追いかけるように夜鷹は駆け出し、あの不気味な場所から抜け出した。

「マネージャーをやっていることは晃から聞いていたのですが、まさか本当にここに居たとは思いませんでした。あいつの鼻はどうなっているんですかね」
『あ、えっと…お兄ちゃんの撮影ってここ、なんですか?(あれ、私お兄ちゃんに場所まで伝えたっけ?)』
「ええ。急遽場所の変更がありまして。近いところに使えそうな建物があったので交渉して…まあ、母校なんで割と融通聴けたんですが」
『工さん、氷帝が母校なんですか?』
「おや、意外ですか?」
『あの、お兄ちゃんの幼馴染と聴いていたので…てっきり神奈川の学校かと』
「ああ、ええ。僕も晃も神奈川出身ですけど中学から単身で氷帝に通っていましたね」
『え。中学生で一人暮らし?!』

驚きを隠せずに夜鷹は素っ頓狂に叫んでしまう。慌てて口を抑えたが梁瀬は既に半分笑っていた。

「晃はアイドルを目指していましたからね。事務所の指示で氷帝に。ちなみに僕は女の子が一番かわいいのが氷帝だったので」
『あ…ああ……自分に正直ですね』
「不純な動機だって蔑んでくれた方がマシですね、その顔見てしまうと」

係の人へ声をかけて説明するとお礼を言われる夜鷹。水を必要な数だけ入手できたためそのまま自身に宛がわれた場所まで行き、再びドリンク作りを再開させた。だが一向に梁瀬がこの場から離れる様子がないため、夜鷹はこの際聴けなかったことを聴いてみようという気になり、話題を振った。

『私が通っていた学校は兄も通っていた場所なのだと思っていました』
「普通はそうですよ。あいつが異例なだけです。その様子だと自分が通っていた場所を教えてもらっていないのでしょう?」

眼鏡の奥で梁瀬が眼光を細める。その所作で夜鷹は警戒心を持つ。どこまで相手は知っているのだろう、己の置かれた状況を。探るような眼差しで梁瀬を見つめるが、梁瀬は暫くすると兄の幼馴染に戻った。

「口止めをされている訳ではないので学校くらいなら教えますよ。立海大付属です」
『……はぁい?!立海だって!?』

二度目の素っ頓狂な声がこの場に響き渡った。再び口元を手が覆い夜鷹は驚愕を隠せずに目を見張る。そんな様子を観察しながら梁瀬は緩やかに口許を和らげた。

「夜鷹ちゃん、努力家なので。勉学に関しては問題なく通っていましたよ。ただ……そこが君にとって最適な環境だったかは、また別問題ですけどね」
『環境……梁瀬さん。兄に怒られませんか』
「大丈夫ですよ。僕、怒られたことないので」

くすりと狐が化かす仕草をして夜鷹を混乱させた。だが夜鷹は確実に15歳少女の弓波夜鷹について情報を得られ息を細く吐き出した。
腕時計を確認しながら梁瀬はそんな夜鷹の機微を見ながら忍び笑った。憐れに思いながらももがく己よりか弱き少女の姿を梁瀬は少なからず楽しんでいる節があった。

「さて、僕はそろそろあいつの所へ戻りますね……血も凍る号哭が聴けそうですし」

最後の言葉は吐息によって隠れてしまい彼女の耳まで届くことはなかった。

『兄を宜しくお願いします』
「はぁい。あ、頃合いを見計らって連絡するので出てくださいね。あなたじゃないとあいつ止まらないんで」
『は、はあ……』

隠された言葉に夜鷹は首をやや傾けながらも返事をした。彼女も滅多に会えない兄には顔を出したいと思っているからだろう。
理解していない夜鷹の様子さえ梁瀬にとってはこれから興じられる舞台には甘いスパイスとなっていた。塩梅は良好のようだ。近くと偶然通りかかった海堂は夜鷹を見かけると近寄り「先輩」と声をかけた。梁瀬はそれを見逃さずに海堂へ声をかけた。

「悪いんだけどあの子の荷物持ってあげるの付き合ってくれませんかね。僕これから用があるので」
「別に構わないが……誰だお前」
「ご心配なく。僕は夜鷹ちゃんのお兄さんの友人です」
「そうなのか、先輩」
『そうだよ』

怪訝な顔をして海堂は彼女に尋ねるが夜鷹は海堂の腕を注視しながらそれを気取らせないように目を見て答えた。海堂はジャグを一つ手にして「これ運べばいいんスか」と訊ねる様子を眺めつつ梁瀬はほくそ笑む。そして梁瀬は海堂の肩をとんとんと叩いてから夜鷹に別れを告げて梁瀬はもう一度受付まで行き台車を手にした。

「あ、台車借りていいですかね」
「ええ、大丈夫です」
「ありがとうございます……いくら俺でも運ぶのは手間取るからな」

梁瀬が朗らかに笑う先では少し大きめなダンボールがガタガタと揺れていた。



◆ ◆ ◆




戻ってこない鷲深ちゃんにはメッセージを残して海堂くんの申し出に頭を下げ先にここから離れることにした。

「遠慮しなくとも持てますよ」
『私も持てるから大丈夫』

ジャグを一つ持ってもらい並んでテニスコートまで歩いていた。海堂くんは親切にしてくれているのだが、流石にそこまでされると申し訳ない気持ちになるので勘弁してください。怪我をした腕を視察しながら異常さは見た目だけでは関知しなかった。だが内部まではレントゲンを撮らないとわからない。やはり病院の手配をしておこう。と算段しながらも、私の思考は梁瀬さんとの会話ばかりを占めていた。
実家は神奈川、兄は氷帝……どうしてカノジョは立海に……難関校であることは小耳にも挟むくらいなのだから相当頭が良くなければ三年間もついていけない。カノジョは頭がよかったということになる。だが、それでも環境が悪いとなると……思い浮かぶのは対人関係かな。いじめ、が一番しっくりくる。この吐血する癖は私というよりカノジョの身体が憶えている衝動的発作に近い。それもすべて発症するときは精神による負荷と対話だ。人と話すのは確かに私も苦手で職場ではよく胃酸を汲んでいた。だが、それでも吐血するまでには至っていない。もし、私の感情に影響されて吐血という発作に直結したのなら……カノジョは対面する際、嘔吐していたことになる。だがこれはあくまで憶測だ。私の中に揃っている情報は少ない。何にでも組み替えてしまえば近い答えになってしまう。それでは真相に辿り着くことはできない。私は知りたいと感じていた。15歳の弓波夜鷹の××した経緯を―――。
知りたいと思わない方が難しいってものだ。誰だって助けてくれた恩人のことを知りたいと思うのは普通の感情だろ。
ニコに聴けないのなら彼が居ぬ間に集めるしかない。少しずつでもいい拾って集めて欠片を繋いで、そしていつかあの子のことを理解したいと思うのは、偽善者っぽいな。
ただの謎解きをしたい探偵きどりの私に絶望を与えてほしいってだけの感情論だよ、これは。

「先輩が気がついたって聞いた」
『ああ、違和感のことかな。でも細かく見れば誰でも気づく機微だよ』
「いや、その……手当も含めてありがとう、ございました……」
『少しはクールダウンできた?』
「ウッス」
『戻ったらテーピングさせてね』

返事は返ってこなかったが、海堂くんは首を縦に振って隣を歩いていた。
青学のスペースまで戻ってくると賑やかしくも騒々しい場面に遭遇してしまった。

「なんだこれは」
「あ、海堂!それと弓波さんおかえり。あ、持つよ」
『ありがとう……』

大石くんが出迎えてくれた。私が持つジャグを持ってくれたがそれよりもこの討論は一体なんだ。海堂くんと呆気にとられ眺めていた。そんな様子を大石くんが「ああ」と納得しながら苦笑する。

「ゲームが終わった途端、英二と向日が張り合って…そしたらそこに忍足と桃城が加わってしまった…という状況かな。弓波さんはここに居た方がいいよ、うん」
「あのバカが」

ジャグを指定のところへ置いてもらい、三人で様子を眺めていた。

「なんや桃城。いきなり変態扱いするんは失礼やな」
「いや、あんたはする。存在が胡散臭いんスよ」
「ほんま失礼な奴やな。俺は夜鷹ちゃんとお話したいだけや」
「夜鷹ちゃん、だと?!うちの大事な箱入り娘の下の名前を呼ぶのやめてもらっていいですかね」
「なんや、俺は下の名前しか知らんだけやで」
「だからって初対面の人を下の名前でちゃん付けで呼ぶのはおかしいでしょうよ、しかも女の子の名前だぞ」
「さっきからお前はあの子の父親か!」
「俺は後輩想いのいい先輩なだけっスよ!」
「後輩想いって……なんやお嬢さんに懸想しているんかあのルーキー。かわええとこあるやん」

忍足のところへアクロバティックな動きで参上したのは離れたところで向日くんと論争していた菊丸くんだった。

「ちょっと!うちの味覚音痴王子だって負けてないんだからな!」
「貶しとるがそれ天才くんのことやろ」
「いいか、氷帝!人の恋路を邪魔するやつはうんたらかんただからん!」
「そうだそうだ!馬に引きずられろってんだ!」
「それを言うなら馬に蹴られてしね、やろ」
「ちょっぉ―と待った!!」

そして今度は忍足くんの後ろからアクロバティックな動きでおかっぱ頭の向日くんが華麗に参上した。

「うちのチャームポイントは泣き黒子王様だって遅咲きの春到来中なんだよ!」
「うちの坊やもなんや遅咲きの青恋に突入ってところなんや邪魔せんときや」

忍足くんも加わってしまい。しまには「うちの王子が」と叫び出し「うちの王様が」と反論しあうのを眺めながら私は海堂くんに向き直ってテーピングをすることにした。大石くんに協力してもらいながら手当を済ませてストレッチを付き合う。今は、調度河村くんが樺地くんと対戦しているみたいだ。手塚くんと乾くんが試合を見ている中、肝心の王子様たちが見当たらなかった。

『あれ、当事者は?』
「そう言えば不二も越前もいないな」
「越前は兎も角、不二先輩がいないのは気がかりっスね」

周囲を見渡している最中鷲深ちゃんが駆け足でこちらに近寄り膝をついて息を乱していた。

「よかった…夜鷹。ここに居たのね」
『鷲深ちゃん。ごめんね先に行って』
「いいのよ。あんたが無事なら」
『無事って?』
「こっちの話」

言葉を濁して鷲深ちゃんは私を抱きしめてくる。その勢いに倒れそうになりながらも彼女の言葉が引っかかる。そして忍足くんと向日くんを呼び来たのか鳳くんが声をかけてくる。

「あのすみません。跡部さん、見ませんでしたか?」
「いや、見てないな」
「そうですか……重ね重ねすみません。うちの先輩が」
「いえいえ。お互い様ですから」

鳳くんと大石くんが謝り合う中、跡部くんの不在が私の中でより大きく蠢くこととなる。
胸騒ぎとかではないが、嫌な感じがした。そんな私の考えを読んでいたかのようにバイブレーションが唸る。
画面に表示された文字に梁瀬さんの顔が思い浮かんだ。

『ごめん。大石くん三人を連れ戻してくる』

それだけ言って鷲深ちゃんから離れて走り出した。



まだ続きます。長かった(;´・ω・) 少しずつ明るみに出しつつある15歳の夜鷹ちゃん。名前同一で面倒だな。カノジョ=15歳の夜鷹ちゃんって憶えてください。表記間違えたらごめんなさい。梁瀬は食えない奴なので。この後に続くのはちょっとシリアスかなって……想像中(まだ原稿に落としてない)。私は忍足と同じ足フェチなので共感しまくってました。わかるでお前さんの気持ち。悪ふざけは多分少なくなってくるのでちょっとちゃちゃをいれました。