騎士に巣食う病魔



夜鷹が乙藤とジャグを運んでいる最中に忍び寄っていた悪鬼羅刹たち。女であれば誰でも備えている妬心が眼に宿り燃え上がる情火の如く身体の中でのたうち回っている。蛇のように息の根を止めるその勢いで噛みつこうと伸ばした手は綺麗な指先によって遮られた。激憤を眼に宿し掴んだ先を見据えればそこには俳優で有名なコウがいた。
「芸能人のコウだ」と色めいた声を出しながら惚ける女たちは次の瞬間慄然とした。それは絵に描いたような好青年で知られるコウが嗤笑していたからだ。

「お前ら……誰のに何をしようとした?この手に持つ物はなんだ?」
「いッ……!」

掴まれた手の中には剥き出しのカッターナイフの刃があり、その手を力込めて握られた所為で女の手に食い込んでいた。その痛みに眉をよせて咽び泣くがそんな声など晃には届いていない。その瞳には紺碧が揺らいでいるだけだった。

「おいおい女の子にそんなことしたら駄目じゃないですか。珠のような肌なのに」

眼鏡をかけた優しそうなスーツを着た男が現れたことにより女たちは助けを求めるように視線を向けるが、その男の方が余程恐ろしいことを知らない。

「これがどんなものか教えてやっただけだろ」

手を離しカッターを取り上げればその女の頬を斬りつけ髪を一房落とした。

「ヒィっ……」

腰を抜かしてその女は地面に座り込む。すると取り巻きたちは一歩後退する。誰もその女の傍に寄ろうとは考えていない。我こそは先に逃げると、思っていた。
しゃがみ込み斬れてしまった頬に親指を添えて抉るように押し込んだ梁瀬。その顔は嘲笑の渦。

「こんなに怯えて可哀想ですね……はははは、晃は意地悪だ。ちゃんと斬ってあげないと痛いのが持続しちゃうじゃないですか、ね。お嬢さん」
「ゆ、ゆるしてっ……!たすっ、たすけてっ!!」
「お前の方がエグいじゃねえか。ほら、早く保護してこい。あいつに気取らるようなことはするなよ」
「ちょっとスーツに足跡つけないでくださいよ」

足跡がくっきりと刻まれた背中のまま梁瀬は実に甘い顔して女たちに手を振った。

「さようなら」

その言葉に慄いた女たちは逃げることも出来ずに硬直した身体を引きずって晃の手によって場所を移動させられた。人気の少ない、場所へ―――。



◆ ◆ ◆




さて、と。晃は人使いが荒い。昔から暴君のような振る舞いをしていた男だが、本音は妹想いの優しい兄であることを俺は知っている。何せアイドルなんて人形劇になったのは妹の他愛のない無責任な言葉によって選んだのだから。あいつの愛は深い。離れて暮らし、荒波に揉まれながらも只管妹のために行って来たのに、見返りは妹の事故ときたら誰だって壊れてしまう。壊されぐちゃぐちゃにされて残った欠片が愛する者の残骸ならそれをかき集めて大切に守ろうとするのは普通のことだ。まあ、暴君であると噂を広めたのは俺だけど。薄っすらと笑みを浮かべて暴君が愛する姫君の元へ向かう前に、くるりと足先を転換させた。いや―俺は昔から当事者より傍観者の方が好きでね。舞台をひっくり返せるならひっくり返してその結末を俺の想像を超える舞台に仕上げてもらいたいと考えてしまうプランナーだから……まだ役が足らない。
球つき音がする方へ向かえばおあつらえ向きにも目的の人物たちが揃っていた。
人間の警戒心を解く笑みを携えて声をかけた。それはもう最高のディナーを提供する給仕のようにね。

「やあ不二君。越前君。お久しぶりですね」



◆ ◆ ◆




梁瀬の声に振り向いた越前は首を傾げた。そんな様子の越前に代わって不二が代わりに返事をする。

「こんにちは梁瀬さん。今日はどうしてこんなところに?」
「いや〜ここで撮影が入りまして。偶然ってすごいですね」
「偶然だなんて、穏やかじゃないですね」

不二は梁瀬がここにいる理由をなんとなく察していた。それは越前もそうなのだろう。先程から一言も声を出さないがずっと睨みを利かせている。そんな鋭いふたりに両手を上げて手品師のように種や仕掛けがないことを披露する。

「あの人はいないの?」
「おや、越前君。僕の事は忘れても晃のことは憶えているんですね」
「別に。アンタより強烈な印象だっただけでしょ」
「それで、彼女も彼女のお兄さんもいないここへ来て…一体何の用ですか、僕たちに」
「不二君は話がわかる人ですね。ええ、そうです。あなた達にとっておきの舞台をお見せしたくて呼びに来たんですよ。あと、跡部財閥のお坊ちゃま」

夜鷹に逢いに来た跡部にも声をかけた梁瀬。だが梁瀬とは初対面のはずの跡部は彼を知っているようだ。

「梁瀬ってのは金融業界を牛耳るものか」
「人をヤクザみたいに言わないでくださいよ。あなたのような人に顔向けできない職業ではないですから」

頭を垂れて梁瀬は笑みを絶やさない。そんな梁瀬を見下ろしながら跡部は「食えない野郎だ」と言葉を落とす。

「さて、では行きましょうか。招待客はあなた方三名ですから」

執事のように手を差し伸ばし招き入れる素振りをする。不審な梁瀬の行動に猜疑心を絶やせない三人だが誰もが梁瀬の言葉の裏に見え隠れする夜鷹の影を追った。

「跡部、梁瀬さんは君の知り合いなのかい?」
「ああ。多分こいつは梁瀬グループのCEOだったのに自ら辞退してどっかの俳優のマネージャーになった変わり者の梁瀬工だろ」
「変わり者だなんて酷い言い方ですね。ミステリアスな男でお願いします」
「こいつは元氷帝学園の生徒だ」
「それは納得」
「そのどっかの俳優っていうのは彼女のお兄さんだね」
「あいつの兄が俳優?つぅーことは元氷帝学園の生徒会長で暴君と噂になってる奴か」
「ぼうくん?アンタのことじゃないの?」
「誰が暴君だチビ助」
「跡部君より酷いですよ。うちの晃の方が」
「だが副会長が操ってたって言う噂もあるんだが…なあ、梁瀬」
「おや?それはどういう意味ですか?僕がしたことは女の子にちやほやされたことだけですよ」

歩きながら梁瀬のことを探る三人に「着きましたよ」と声をかけた。静けさしかないこの場所からすすり泣く声が背筋を凍らせた。梁瀬の方へ三人が目を向ければ梁瀬は人差し指をたてて口元に携える。

「僕はもう行かないといけないんで、ここから覗いててください」

内緒話をする幼子のように笑みを浮かべて梁瀬は颯爽と消えた。こんな惨い現場から。
彼らの目の前に広がる光景はまさに暴君そのものだった。
跡部の取り巻きだと思われる氷帝生徒である女子たちが地面に竦み上がりながら嗚咽を漏らしていた。
彼女の兄である晃が一人の女子生徒の髪を掴み上げ静かに憤怒を表す。

「おい、何度言えばわかんだ……あいつの可愛さは内面から滲み出る慈愛なんだよ!」
「はいっ!すみませんでした!!」
「おら、次いくぞ!」

木の枝を持ち地面をたたく度に竹刀のように撓る。地面に正座しながら女たちは声を張り上げられる。

「今日のあいつの下着の色はなんだ、答えろそこのメスブタ!!」
「はいっ!あ、えっと……白です!」
「ちげぇー!!!」

答えた女の子の頬を拳で殴っていた。容赦のないスパルタ方針だ。

「あいつの今日の下着の色は……ッ水色だ!!」

好青年と詠われ、国民的に人気を誇るコウ、24歳。熱愛報道はまだなくその潔癖から麗しの王子と呼ばれているあのコウの口から妹の下着の色が叫ばれた。
圧倒的に口を噤み全身で引く越前、不二、跡部の三人を余所に女子たちは調教済みかのように従順だった。きっとそんなこと些末なことなのだろう。

「え……なにこれ。何を見せられてのオレ達」
「うん……理解しない方がいいと思う領域が危ない」
「あれは手遅れだろうな……もう戻ってこれねえ」

また一歩と引いていると台車を転がしながらダンボールを地面に飛ばしてやってきた梁瀬がウィンクしながらどこかの女子のように「きゃわ」から入ってきた。

「三名様追加ですよ」

ダンボールの端から腕が飛び出している。しかも変な方向に曲がっているのだが、と越前は顔を青ざめさせていた。勿論不二も顔には出さないものの精神的ダメージは大きかった。ダンボールの中にどのように入れられているのか見えてしまう跡部は眼力を封じる。

「罪状は?」
「夜鷹ちゃんをボコ殴りにしようとしたんだって、どうします?一応僕が中途半端に教えてあげたんですけど」

ダンボールを蹴るとひっくり返り中から女が三人這いつくばるように出てきた。所々切り傷が目立っているその女の子三人も氷帝生徒のようだ。
よろめく身体を必死に起こして睨みつけてくる度胸がある女がひとりいたが、梁瀬が後頭部を掴み地面に叩きつけた。

「あれ?どうしたの?謝罪の仕方は教えたよね?」

鼻と口を塞がれ手足を動かして必死に訴えているが梁瀬は「ん?わかんないな」とほくそ笑んでいる。残りのふたりはそれを見るなり晃へ向けて土下座をする。額を地面に擦り付けて懇願するように謝罪を譫言のように繰り返した。

「お前やりすぎなんだよ。こうなると使えねえだろ」
「そうですか?今日の僕は機嫌がいいからソフトにしたんですけどね」

手を退かしてやると女はぐったりとしまま泣き崩れていた。

「おい、メス。お前がやろうとしたことはこういうことなんだよ」

前髪を掴みあげ顔を見て告げる晃の眼は怒気が含まれている。

「傷つけられる側の痛みがわかったか?理由も解らずにズタズタにされた気持ちがわかるか……人の痛みも自分がやろうとしたことも責任持てねえような奴が、人様を傷つけようなんざ考えてんじゃねえよ」
「…っ…」

髪から手を放し晃は立ち上がると梁瀬は「つまらないですね」と空のダンボールを蹴り上げた。

「あ、そうだ。またあの子を傷つけたくなったら教えてよ……今度はお兄さんとイイコトしよう、ね?」

大人の色香を漂わせながら嫣然としている。だが言葉とは裏腹なその表情に狂気を感じたその場にいた女たちは静かに首を左右に振った。

「じゃあ散れ」

背を向けた晃を合図に女たちが立ち上がり駆け足でこの場から離れていった。残った晃はポケットから飴を取り出して口に含む。隣では煙草に火をつけて吹かしている梁瀬がいる。

「吸えばいいのに」
「あいつが煙たがるから吸わねえ……んで。あいつは無事に届けたんだろうな」
「ええ。僕を誰だと思っているんですか。でも……あの子、前より鋭くなってますね。まるで別人だ」
「あいつは俺の妹だ。工、ネクタイに血がついてるぞ」
「おや。汚いですね」

ネクタイを解き梁瀬はそれをポケットにしまった。

「んで、俺はギャラリーを呼んだ覚えはねえぞ」

手にしていた枝を木々の隙間に隠れている三人に向けて投げつけた。するとそれを避けて三人は姿を現す。右手に煙草を持ち替えて梁瀬は笑みを浮かべ、スマホを操作する。

「おい梁瀬。一人増えてんじゃねえか」
「僕らの後輩ですよ、ねえ跡部君」
「跡部?跡部って……俺らのスポンサーじゃねえか」

急に強面な表情から一転、青ざめていく。その表情をよく見ている越前と不二は「兄妹だ」と頷く。

「大丈夫ですよ、まだ息子さんなんで。お父様に告げ口なんてしませんよね?」
「それは脅しか?お前が勝手に連れて来たんだろうが」
「おい、工。お前はいつも余計なことを」
「いいじゃないですか、この方が面白いと思って」
「面白いじゃねえよ。こいつらに……今日あいつが履いている下着の色を聞かせちまったじゃねえか!!」
「そっちですか……え、いいじゃないですか。別に水色可愛いです」
「お前もちゃっかり聴いてるし!」
「柄を言わなきゃセーフですよ」
「そ、そうだな…」
「でも夜鷹ちゃんに胸充て必要かな?つるペタだよ」

梁瀬の言葉に晃が飴を奥歯でかみ砕いた。まだ舐めきれていないから粒が大きかった思うのに、その飴を粉々に粉砕した音が壁を破壊する音と同化している。

「あいつはあるぞ……ちゃんと……Bカップくらいな!」
「あれで?あれでBあるの?!」
「寄せてあげればBだ。だがいつもAカップつけるからな。まあアンダーとトップの差で今はブラをつける時代だから実際のサイズはAだな」

梁瀬は煙草の吸殻をしまいながら指した。そこには思春期の中学生が顔を伏せて耐えていた。

「お前ら何聴いてんだ!!」
「そっちが勝手に言ったんだろ!」

羞恥に耐えかねた越前が真っ赤な顔をしてクール型なしに叫んだ。
気になる女性の下着の談義になってついには胸囲のサイズまで聴いてしまったら中学生たるもの涼しい顔してはいられない。跡部ですら顔を手で覆っている。

「俺の夜鷹が……マイスィートエンジェル夜鷹が……穢れを知らない俺の癒しをっ……今日のおかずにしたら許さねえぞお前ら!!」
「誰がするか!!」

耐え切れず跡部が叫び出す。魅惑の王様も流石にこれには反論をせずにはいられなかった。

「妹の何処に不満があるのか!」
「面倒くさいな!」
「俺なんて……目覚ましは妹の”お兄ちゃん朝だよ”ボイスからはじまり夜は”おやすみお兄ちゃん”で占めるのが日課なんだ!どうだ、可愛い声だろ!」

スマホを片手に録音が再生される。確かに彼女の声でそう囁かれている。いつ撮ったんだこいつと周囲は誰もが思った。まだ彼の談義は続く。

「移動中は通話録音したものの聴き、大抵は仕込んだ盗聴器で録音した会話を聴いてる。それから俺のスマホ画面は妹の寝顔だ」

ここまでの語らいは全て真顔である。

「本当は制服がよかった……!」
「それじゃ捕まりますよ」
「ちなみに俺の聖書は……三歳時の七五三だ!」

誰もが思った(梁瀬以外)こいつはやばいと。手遅れだと。

―――根っからの変態だ……!!

周囲を一瞬で凍らせた妙技に梁瀬だけが免疫があるので背伸びまでしていた。

「ちなみに夜鷹ちゃんは知らないからねこんな監視された日々なんて」
「最低すぎる」
「流石の僕でも理解できない」
「シスコンのレベル越えてんじゃねーの」
「やばいですよね、僕の幼馴染」

他人事のように笑っている梁瀬のマイペース差が三人の苛立ちを募らせた。

「今すぐ帰れ。そして夜鷹先輩に近づくな変態」
「あいつの保護者から辞退しろ」

越前と跡部が反論を開始した。
それに加わらない静かな不二はというと……開眼したまま梁瀬に声をかけていた。

「今の態と聞かせましたよね、どういうつもりですか?」
「どうって…君、本当に中学生ですか?普通好きな女の子の下着の話されたらあの二人にみたいになるでしょうに……あ。もしかして不能でした?」

梁瀬の腕を掴み綻ぶ顔を浮かべながらも骨を折る程度まで力をこめて掴んでいた。

「いたたたっ……不二君ちょっと本気で怒ってます?」
「僕だって気にしている女性のそんな話をされたら反応に困るんですよ。でもそれを顔に出したらあなたが喜ぶかと思ってそれは癪に障るので我慢しているんです」
「うわぁ……この子俺と一緒の性質の子だッ!アッタ!イッタァ――!!」
「毎日素振りしているからこんなところで頼りになるね握力。ああでもタカさんの方が君の希望に応えられそうですね」
「折る気だこの子!イダダダツ!!俺の手は女の子を喜ばせるためにあるの!男に捕まれて痛みに悶絶するために存在してないの!!夜鷹ちゃ―――ん!女神様早く来てぇ!!」

梁瀬の叫び声に応えるかのように花の香りをさせながら真打が登場した。

『お兄ちゃん』



◆ ◆ ◆




私が着いた頃にはまた賑やかしい現場になっていた。でも多分さっきより酷い有様なのはなんとなくわかる。
跡部くんとリョーマくんが兄と言い合いしているし、梁瀬さんは悲鳴を上げて不二くんがなんか腕握ってる。そんな現場を視界に納めながら私は……ここに鷲深ちゃん連れてこなくてよかったと心からそう思った。
もし来ていたら「リアル萌え」とか言いそう。男同士の何を口論しているのかわからないけどこの修羅場的場面を見てしまったら鷲深ちゃんの自我を私だけで抑えられるかわからない。
汗を拭きながら一歩前に出ると梁瀬さんが私にしがみついてきた。

「待ってたよ夜鷹ちゃん。ああ、もう怖いです。不二君。ちょー怖いです」
「まだ終わってませんよ梁瀬さん。話し合いを続けましょう」
『ふ、不二くん。落ち着いて後ろに魔王が降臨なされてるよ、サタンですかその方』

私にまで恐怖が伝達し、両手を上げて降参すると不二くんは目を閉じていき「ふう」と息を吐き出してから「仕方ないね」と怒りを納めて頂いた。
梁瀬さんはそそくさと私から離れると、次は兄へと歩み寄った。

『お兄ちゃん。撮影はどうした…』

あと一歩のところで跡部くんに腕を掴まれそのまま背中に回され、リョーマくんに保護された。ん?どういう状況かね、これは。状況が見えない私は兄へ視線を向けると兄は柔らかな笑みを浮かべてはいるがやや目がつり上がっていた。

「ちょっと跡部クン。兄妹の語らいを邪魔するのは無粋じゃないかな」
「黙れ。お前がこいつの兄というだけで今すぐ保護対象に入るんだよ」
「こんな猛獣の傍に先輩を置いておくとか出来るわけないでしょ」
「越前クン、近いよ。離れてあげて夜鷹は免疫ないんだから」
「このくらいの距離ならもう大丈夫でしょ夜鷹先輩」
『え、まあ……』
「いつもどの距離なんだよチビ助」
「息の根とめたろうかこのクソガキ」
『……え、お兄ちゃん今何て言ったの?』
「ん?越前クンはお子様なのかなって言ったんだよ」
「妹の前で猫被りやがって」
「剥がしてやる」
「出来るもんならやってみろ餓鬼ども」
『お兄ちゃん?』
「うん?それより今日は直帰でいいって許可出たから車で一緒に帰ろう」
『え、う、うん。いいけど…何かお兄ちゃん変じゃない?大丈夫?』
「(俺の白衣の天使)大丈夫だよ。校門のところで待ってるから」
『わかった。終わったら行くね』
「あいつ聞こえない程度の声量で罵倒しやがる」
「悪党風情が」

跡部くんとリョーマくんの鋭い眼光が兄へと一身に注がれている。一体何があったのか、聴いても兄もふたりも答えてはくれない。私の知らない間に一体なにが……というか何でここ若干鉄の匂いがするの?ふるりと産毛が逆立つ。鉄っていうか血の匂いってやつかな……何でこんな何もないところからそんな匂いがするのか。誰かが怪我をしている様子もないのに。肩を竦ませると近くにいたリョーマくんが私の手をとって「行こう」と促した。

「もうすぐ終わるね」
「とっとと行くぞ」

三人に背を押されて私は振り返ることができない。あの場に何があるのだろうか。何かを隠されている気がして、でも振り返ることも恐ろしく思えた。

「梁瀬」
「はいはい。ごめんなさい……ダンボールに血が付着してたの忘れてた」

くたびれたダンボールをつまみ上げごみ箱まで運ぶと投げ捨てる。そしてポケットにしまったネクタイも投げ入れた。

「バイバイ」


もっと人徳がない描写にしようと思っていたのだが、やはりここはもう少しふざけようかと思って。オリジナルキャラが一番狂ってる気がする。この話って一体なに?って自分でも思う。ほんとっは甘く書こうと思うのにこれからのことを考えると彼だけが頭おかしいことになるので皆で狂えば怖くない方式、ですかね。気をつけてることは人間らしく書くと臭いしつまらないから、少しシニカルに書いてはいます。跡部様の台詞は気に入ってます(*‘ω‘ *)