Aが抜けたストレート



夢女子なら誰もが通過点のように書き連ねるトリップ小説。それはまさに「●をかける少女」のような淡い恋と幻想、時折現実染みたそのアンニュイ差は年代の幅を取り去り、少女たちをめくるめくシンデレラの世界へと旅立させたものだ。
……だが現実に起こったところで嬉しいとか喜ぶ前に「絶望」が押し寄せてきたのはきっと私だけだろう。ああ、まだ救いはあるだろう。ここは日常的な世界がモチーフだ。寧ろスポーツ漫画だ。だから急に「戦場に駆られる」ことはないだろう「巨人を駆逐する」こともないだろう「魔法少女になってよ」ってこともない。あくまで私は一般人のモブのモブといった端役だろう。寧ろそれでいい。それでいいんだ。なのに、望んでないのに何故主役級の人達に「あ、いた」とウ●ーリーを探せみたいに見つけられなくちゃいけないんだ!平穏に過ごしたい私としては、今度こそパンピになろうと心に誓った私の第二人生のステップを全力で潰しにかかってくる君たちはまさにライフル携えた戦場のガンマーだよ。
てか、同じ世界に存在しているだけで、もう罪だよね。

「弓波さん。次移動教室だよ」
「行こう」
『あ、う、うん』

頭を抱えていたがクラスメイトに声を掛けられ席を立ちあがった。女の子に囲まれながら「次の授業なにするんだろう」や「昨日のテレビ見た?」など普通の会話を耳にする度に、まだ引き返せると胸を撫で下ろした。

「コウってかっこいいよね!」
「わかる!モデルのときからファンなんだよね、あたし」
「弓波さんもそう思うでしょ?」
『う、うん。そうだね……かっこいいよね』

再び湖の中に沈む勢いだった。若手で人気絶大を誇る俳優、コウは私の兄ですとは言えない。流石に言いたくない。いじめられたくないからだよ。あと女子のあの押し付けとかが苦手。社交辞令とか通用しないじゃん。サインもらってきてとか家に押しかけられるのも正直イヤだ。友達でもないのに「友達だよね」とかそういう安易な言葉を振りかざしてくるのも嫌だ。良好で適度な関係を築きたい私としてはここは穏便に内密にの選択肢を選ぶこと間違いなし。



◆ ◆ ◆




進学校だけあって入試の時も大変だったけどいざ入学すると流石に授業に追いつけないなんて今後の薔薇色人生を築くためにはあってはならない現象。クラスメイトに別れを告げて放課後。図書館の人気の少ない角へ行き勉強道具を取り出した。
最近、家に帰る前にここで今日やった授業の復習をしてから帰ることが多くなった。家の手伝いもしたいけどなるべく頭がやる気のあるうちにお浚いしておきたい。
ノートと教科書を広げてシャーペンを片手に問題を解き始める。図書館は静かだけど一番の利点は参考書が揃っているところ。わからなくなったら辞書の他にも参考書を見た方が解りやすいことも多い。借りるとなると億劫だからここで勉強している間に読んでいる。
2時間くらい勉強してから家に帰ろう。調度混雑している時間帯だろうし。腕時計を確認してから再びノートにシャーペンを走らせた。

―――ん、ここはえっとxを代入してから……あ、でも先にこっちを解かないと答えに辿り着かないのか?

手を止めて悩んでいると横から手が入って来てもう一つ出していたペンを取ると教科書のとある場所に印をつけた。

「この問いはこの公式を使うんがベストだぜ」
『え、でもそれだと最後まで解けなくない?』
「ああ、そっか。ここは出来てるんだな。じゃあ次はこれを使うんだよ。これじゃないのを使うと最後まで辿りつけねえからさ」
『えっと……これをこうで、yは二乗の、んと……あ、x=2』
「正解!弓波さん読解力高いな」
『いや、それほどでも……って、どちらさまですか?』
「え?!オレのこと憶えてないの?同じクラスの江口御厨だよ。席も隣なのに」
『……それは申し訳なく』
「武士みたいな口調だな」

愉快そうに笑う江口くんに半ば思考が追いつかず空笑いをした。自然と隣の椅子を引き座り始め、未だに片手に持つ私のペンで問題を解く手伝いをしてくる。頼んでいないのだが、その強引差に引きずられる形で暫くの間江口くんとノートの上に線を描き続けた。
1時間経過したところで背伸びを始めた江口くんを皮切りに、私もペンを置いて目頭を抑えた。流石に集中力も切れてしまった。

「弓波さんって漫画とか好き?」
『(唐突だな)えっと、まあ…どちらかといえばすき、かな』
「じゃあコレ試しに読んでみて」

手渡されたのは歴史ファンタジーものだった。美男子が表紙に描かれているが、問題はそこではない。この絵師さんの絵柄がドストライクだったのが問題だった。

―――なんじゃこりゃっっ?!! え、ちょう見たしぃ……

喰いつく私の反応を肘を立てながらニマリと口角を上げた江口くんが「貸してやんよ」とまさに鶴の一声。

『ありがとう。帰ったら読んでみるね』
「おう。あ、感想とか知りたいから携帯の番号教えてよ」
『あ……ごめん。私まだ持ってなくて』
「そうなん?へぇ〜んじゃ明日まで感想期待して待ってるわ」

椅子から立ち上がり江口くんは「またな」と手を振って図書室から退出した。意外に背が高いな江口くんと後姿を見て思ったが、それより何故声をかけられたのか不明なのだが?今更疑問が返って来た。
チャラ男なのか?確かに雰囲気はそんな感じだけど。髪は黒だったし、割とイケメンだったな。え、あんなモブ居たっけ?
顎に指先を乗せて唸っていると「センパイ」と聞き覚えのある声が耳に届いた。

「もうすぐ閉めたいんだけど」
『越前くん……ってなんでここに』
「オレ、図書委員だから」
『あ、そっか』
「?オレ、アンタに教えたっけ?」
『ううん!言葉の綾だから気にしないで。うん。さて、そろそろ帰らないと』
「さっきのヤツって先輩のクラスの?」
『え?あ、そう、かな?』
「なんで曖昧なの」
『いや、人の顔と名前覚えるの苦手で』
「へぇーその割にはオレの名前はすぐ出て来たよね」
『(主要キャラだからね、とは言えないし)かわいいから、かな?』
「はあ?かわいい?……ケンカ売ってる?」
『滅相もないです。はい、すみません』

越前くんの迫力に押し負けて私は駆け足に図書室を後にした。



◆ ◆ ◆




江口くんが貸してくれた漫画。唐突に借りたとは言え一体どんな意味があったのか。私が漫画好きではないことすら知らない仲だというのに社交性を斜め上にいくアゲインな人間もいたもんだ。と、パジャマに着替えた私は机の上に置いた一冊の漫画と向き合いながら腕を組んでいた。

『ははは、パンピになると決めた私の意思を見くびるなよ。生まれてこの方生粋のその道の人だが、今更絵柄だけで落ちるほど私は容易く攻略などできんぞ小童め!』
《 どこのラスボスキャラなの? 》

ベッドの上で寝そべり寛ぎモードなニコを放りながら私は漫画へ手を伸ばした。



―――― 数分後 ―――――




『ナニコレ……まじぃ……うぉそやろぉ……ひぇ……む゛り゛ぃ……オェ』
《 ……落ちた 》

二次元の世界での一次創作を舐めていた。私は世界を完全に侮っていた。私の世界よりは劣っていると何の根拠にそんなこと言っていたのか今となってはわからないが、これだけは言えた。どの世界に行ってもその道のプロはその道のプロになる生き方しかできないんだってことを。いや、人生勉強な日々だね。ありがとう作品。ありがとう江口くん。
瞳の淵に溜まった涙を拭いながら私は、翌日感想を聞きに来た江口くんに洗いざらい臆面もなく性癖をぶちまけるのだった。

「だよな!アレ面白いよな。やっぱ弓波さんは話がわかる人だわ」
『こんな素敵な作品を紹介してくれてありがとう。江口くん、あなたは天才だったよ』
「何気にオレをディスるのは趣味なの?これの続きの巻を実はもってきてるんだ、よかったら借りてく?」
『貰ってく』
「強奪する気かよ」

見えないように本を袋の中に入れて、それを更に紙袋に入れてくるなんて江口くんは本当にパンピなのだろうか。全く世の中不思議でしょうがないよ。
てか、これ重い。受け取った紙袋を両手で抱えながら廊下にあるロッカーに入れた。
廊下は人通りが少なく誰も留まることもしておらず、だったため少しだけ読もうかな。と魔が挿してしまい。厳重な梱包を紐解き一冊だけ取り出し中身を読みだす。昨日は続きが知れなくて生殺し状態だったために「少しだけ」が数十分は費やしていた。

『………』

集中するあまり気配が読めず、歩いてきた人もまた私の気配を感知せずで互いにぶつかってしまい盛大に手元が誤り、廊下に投げ出された身体と本。

『いたた……っ』
「あんたこんなところに突っ立ってなにして………」
『ご、ごめんなさいっっ!』

思わず二度見してしまった。ぶつかって尻餅をつき悪態をつかれた人は、青春学園のマドンナと呼ばれるに相応しい。イギリスと日本のハーフである美人で有名な乙藤鷲深さんだった。
そして、なんでそんなに二度見して言葉を失っているかというとそんなリア充の塊みたいな人物の手元には私が読んでいた漫画が握られていた。
終了のお知らせのベルが鳴り響く。けたたましく脳内で大合唱だ。漫画を読むなんて誰でもする行為だけどその漫画は割とマニアックだと思われる。しかも女子に人気だと昨日ネットで調べてわかった。それはアプリのゲームから始まったためにコアなファンがいらっしゃるゲームで一般人にはあまり名が知られていないで有名だった。だからきっと……漫画好きとかを通り越して“オタク”だって知られてしまう。パンピのフリしてきたのに“オタク”だって知れ渡ってしまう。あんなに美人で有名な人が鶴の一声的な感じで全国ネットレベルで公開処刑に処されるんだ私は。ネット社会こわい。人間のコミュニティこわい。
結末で想像し青ざめていく体温と顔色。次第に食道をまたあの鉄分が駆け上がっていくのを感じていた。

「あんたコレ知ってるの?」
『(処刑のはじまりですか)は、はい。まだ漫画しか読んでませんけど。アプリゲームなのでスマホ持ってないですし』
「これPCゲームであるよ」
『そうなんですか。パソコンは持っているので帰ったらインストールしてみます』
「これURL」
『あ、ご丁寧にどうも』
「あと、その下に書いてあるのがあたしのフレンドID」
『………』
「………」

握手を交わして連絡先の交換を無言でした。漫画はどこからだと聴かれたので「江口くん」と答えたら教室へ入るなり江口くんの断末魔が響き渡った。

「え、ちょっ乙藤さん?!ちょっまって!!オレがなにをしたんですかッ!!」

あとで聞いたら鷲深ちゃん(PCメールでやりとりして呼ぶようになった)は隠れていない腐女子さんでした。教室の座席で白昼堂々と美男子の淫らな冊子を広げて読んでいるのに誰も気がついていなかった。



◆ ◆ ◆




『ニコ……私は次に生まれ変わるなら真っ当な人間になりたいと思っていたんだ』
《 猫じゃなかったの 》
『いや、猫だよ。そうじゃなくて。オタクに走らない一般人になりたかったの』
《 いや…無理じゃない?どこにも絶つ気なんてないよね?最初から 》
『努力を認めようよ。結果じゃなくて過程が大事だよ』
《 それで、今回もオタクで行くんですか 》
『い、いや……私はパンピに……』
《 体勢がエクソシストになってるよ 》
『ジョブチェンジはしたくないの。あくまで漫画やゲームが好きなだけっていうこう、ラブじゃないの。ライクなの的な』
《 段々言い訳みたいになってるよ……ジョブチェンジしないでサブ職業に置き換えればいいんじゃないの? 》
『……っそれだ!あくまでパンピが本業、副業をオタク……これだね。もうこれしかないね。うんうん。それなら私は一般人』
《 (既にトリップして二次元に存在して生きていること事態が一般人からかけ離れていることには気がついてないんだね) 》

ニコが生温かな視線を送ってきてるけど私はやっと自分の型というもの得た。目標のない人生程怖い夜道はないわ。これで心置きなく家の手伝いをしつつ軍資金を貯めるという働く意欲的な目標が出来たわ。モチベーションを保つことも大事なこと。勉学に励みつつお金を貯めて趣味に没頭する。薔薇色人生も波に乗ってきたんじゃないかな。
スキップをしながら店頭に出てお客様から注文を承った。

「要するに、オレと同じになるってことか」
『えっちゃんとは違うかな。私はそこまで軽薄ではない』
「オレも軽薄ではないよ?!」
「あら、別に隠さなくてもいいのに。夜鷹がどんな人間でもあたしは好きよ」
『鷲深ちゃん』
「ちょっと、そこで口説くのやめてくれる?オレの立つ瀬なくない」
「ハウス」
「いい声で言うな!」
『えっちゃんうるさい』
「え、ごめんなさい……てか、扱い酷くない?」

もうすぐ転校生してから一か月経とうとしていた。大分クラスにも溶け込めて、学園の空気にも慣れてきたころだった。鷲深ちゃんとえっちゃんのふたりと過ごす時間も多くなって今は結構楽しい時期だった。慣れてくると緊張していた頃が酷く懐かしく思える。まだ秘密にしなければならないこと(兄のこと)やうっかりさば読んだ発言など(年齢の差異から生じる言語解釈の違い)やや緊張しなければならない部分はあっても、そこまで予防線を張らなくても済んできた。それに最近は主要メンバーとの遭遇率も低いし(乾くんは除く)波風起たない平穏な日々を過ごしていた、んだけど………。

「部活はもう決まったかしら?」

担任の言葉によって大破された日常。戸惑いを隠せない私は表情を引きつらせた。

『え、っと……』
「急な転校だったので一か月は様子を見ていましたが、もう大分慣れてきたと思うのでそろそろ規則に倣いましょうか」
『え、規則?ですか?』
「うちは部活と委員会は強制参加なの。委員会は文化祭実行委員に入って貰っているからあとは部活動だけど…弓波さんは体育の成績もそこそこいいみたいだし運動部に入ってもやっていけそうね」

先生がはりきって勧めてくる。手元には部活動のチラシが山のようにあるところ見ると先生は余程部活に熱を入れるタイプの人間のようだ。
だが、私は部活になど入りたくない。部活に入ったら家の手伝いができない。手伝いができないってことは軍資金が貯まらないってことになり、そして……私の目標が消えてしまう。
泡が吹き出そうになる口元をきゅっと結びなおしてから拳を握ってなるべく自然に声色を落とした。

『あの…私の家は母子家庭で、その……お母さんの仕事の手伝いをしたいなと……そんな理由では部活動を入らない言い訳にはなりません、よね?』
「そうですね」
『そうですか』

キッパリ断れたよ。なんか清々しいよ一層のこと。先生はその後も私に興味を沸かせるための演説は続き、山のように積まれたチラシを手渡したら颯爽と職員会議に行ってしまわれた。
この中から選べと申すのか……とりあえず図書室に行こう。そう思い鞄を取りに教室へ戻る廊下へ足を踏み出した。
その道中何の部活にするか候補をあげることにしてみる。確かえっちゃんは男子バスケ部だったよね。それで生徒会役員もやって……え、なんであの男そんなスペック高いの。
それで、鷲深ちゃんは美術部で美化委員だったかな。鷲深ちゃんは絵の才能もあるから(原稿用紙を見せてもらった)適合した部活だよ。油絵もやってみたいとか言ってたな。きっとモデルはひん剥かれたえっちゃんだろう。男のヌードを描きたいって言ってたもんね。と、なると私は……文芸部、あたりかな?どっちにしろ文化部の方が都合がつきやすいよね。家の手伝いをしたいのは本当だもの。己の欲のためもあるけど。しっかりと閉じられた教室の扉。普段だったら開けっ放しだというのに何故今日だけはフリー入場を禁じたのだ。

両手塞がってるから開けられないよ。足でって取手の位置高いからスカートの中身見えちゃう……まあ、見えないパンツ履いてるけどさ。扉の前で唸っているとふと影が差されシトラスの香りが鼻孔を擽った。

「弓波さん。重そうだね」
『ふっ、不二くん』
「あ、待って。今開けるね」

初恋の人物である(第一印象から決めてました)不二周助くんに声をかけられている現象に気が動転して思わず血流が逆流しそうだった。一歩後退しそうになった足を引き留められるかのように、不二くんは私の背後に立っていた。え、なにこの逃がさないみたいな包囲網わ。
でも紳士的に扉を開けてくれた。しかも「どうぞ」と爽やかな微笑みを…って不二くん真顔も爽やかな微笑みだったわ。上ずった声で『ありがとう』だけを伝えて可及的速やかに自分の席まで移動した。チラシを机の上に置いて一息をつく。不二くん忘れ物でもしたんかな。珍しいこともあるもんだ……なんか最近主要キャラと遭遇しなかったから心臓が破れそうなんだけど。しかも不二くんだったもんだから、心拍数が異常な速度を計測している気がする。

「部活決めるの?」
『ッ!』

思わずどひゃ!って言わなかった私は偉いと思う。両手を握りしめて一歩後退した私に不二くんは普段通り喉を震わせながら机の上に載せたチラシの一番上を手にした。

「テニス部に興味あるのかな?」
『え?!あ、えっと』

何故一番上に男子テニス部のチラシがあるのさ!思わず地団駄を踏みたくなった。
一歩踏み出され私の手元に男子テニス部のチラシを持たせる不二くん。覗くように身を屈ませてくるその近い距離に友達でもそんな距離は保ちません!と抗議を唱えつつ私の口は真一文字。

「弓波さん体育の授業もそこそこ動けてたからきっとやっていけると思うよ」
『(そこそこ)そうかな。でも家の手伝いもしたいし。運動部はちょっと』
「家の手伝い?」
『カフェを経営してるの【NORA】っていうんだけど』
「ああ。姉さんが一度は行ってみたいって言った場所かな」
『ぜひお越しください』
「ふふ、わかった。姉さんに伝えておくね。そっか手伝いね……じゃあ補佐的な部活なら参加可能ってところなのかな?」
『えっと、まあ…そうかな。それなら出来そうかも』

発想の転換。そこには気がつけなかったな。募集要望欄を読みながら「マネージャー募集中」との記載に成程っと考える候補の一つとして加えていた。でも男子テニス部のマネージャーは候補に入ってないけどね。あそこは駄目だよ。私の血液がなくなってしまう。「弓波さん」と名前を呼ばれたのでうっかり顔を上げて返事をすれば、不二くんは視界にドアップで映りこんでいた。

――――斜め45度!! ありがとうございますッッ!!

口内に広がる鉄分の味が私の思考回路も沸騰させた。口端から零れそうになったのでハンカチを取り出して口元にあてるとやはり喉を震わせていらっしゃった。なんか私の態度わかってて声をかけられている気がする。横目でチラっと見据えると不二くんは見えているのか見えていないのか、その閉じられた瞳で「ん?」と小首を傾げてくる。この人ほんとっ罪な人だよ。まったく。

「君にピッタリな部活を紹介してあげる」
『い、いや間に合って「テニス部のマネージャーなんてどうかな?」

人の言葉を遮りはじめたよこの爽やか王子様。そして今サラリととんでもない発言かましてなかった?まねじゃー?ま、まねーじゃー??ま……マネージャー?!!い、いやいや勘違いするな私!きっと女子テニス部のマネージャーとかよ!ええ、きっとそうだわ!

「男子テニス部のマネージャー」
『……口に出てましたか?』
「わかりやすいよね、弓波さんって」

柔らかいその笑みに空けた口はしぼんでしまう。イケメンは罪だな……。

『マネージャーを募集しているなら一年生が適任だと思う。三年の私はすぐに辞めてしまうもの、それじゃあ部員が大変だわ』
「……弓波さん。きみは」
『では、私は帰ります。さようなら』

緩んだ隙に鞄を片手に教室を飛び出そうとした所で背後から這い寄る声に脚が固まってしまった。
そして一言。たった一言。それを不二くんの口から零れただけで……気がついたら入部届にサインしていた。



「おや、不二おかえり。勧誘は成功したようだね」
「うん…そうなんだけど。彼女なんだか後半怯えてて」
「ふん……まあ不二の口から秘密を暴露されたら凍てついてしまうだろうね、彼女は」
「それってどういう意味かな?乾」
「なにはともあれ結果オーライじゃないか。彼女は無事に青学テニス部のマネージャーとして入部が決まった訳だ」
「手塚がまさかあそこまで彼女を気に入ってたなんてね」
「俺の口添えもあるが図書室での彼女を見たら好印象だったんだろうね」
「……ふっ、楽しくなりそうだね」
「(不二。ひとつ伝え忘れたが、確実に恐怖対象として認識されるリスクは確率的に98%だ)」

9000文字以内に収まった。それにしても長い上にオリキャラばっかで後半しか出てこないのでこれって夢なのか自問自答したくなりますが、これはこれで書いていて楽しいのでありですね。江口くんが当て馬になる小話とか個別にかけるといいと思います。続きは、いつかまで。またお会いしましょう