偏光フィルター講習



『どうせあれ乾くんの仕業なんでしょ。お姉さんそこのところ気がついてたからね』
「君が年上設定なのはさて置き、気がついていながらも何故君は入部したんだい」
『君には分からないだろう。ああ、そうだ。解らない。これは名のある星に生まれた人にしか解らない羞恥心と“何故あの爽やかイケメンの口から自分が推している例のあの人の名前を囁かれているんだ”という絶望に苛まれた人の気持ちなんて君には一生解らないだろうさ!』

拳を握りしめ長机をダンダンと叩いた私の迫力に乾くんは少したじろいでいた。

「君が不二のことを好意的な目で見ていることはわかった」
『そんな低俗な枠組でなんて目視してないわ。イケメンは国宝。だから不二くんも国宝。イケメンめっちゃ好き。目の保養。ありがとうございます』
「…真顔でよく言えたな」
『黙らっしゃい坊や』

長机が設置しているこの場所は周回している部員のために給水を配る給水所。
作って来たスポーツドリンクをカップに注いでくるくるとかき混ぜながら乾くんと言葉のキャッチボールをしていた。
隣の乾くんはマネージャーとなった私に教示して頂いている。乾汁の隣に普通のドリンク並べると自分の飲み物がまともに見える。いや、何も変なものは入れてないんだけれども。

「弓波先輩」
『おかえりなさい、越前くん』
「どっち」
『普通にこっち』
「ああ、こっちか」

手渡すと越前くんはゴクリと豪快に喉を上下に動かした。

「いい飲みっぷりだな越前。ちなみにこれはペナルティだがどうだい?」
「いらない」
『味どうだった?』
「味わってないからわかんない」
『じゃあもう一杯』

飲み干したコップを受け取り、代わりにもう一杯差し出すと嫌そうに眉を潜めた越前くん。
それでも喉が渇いているのか受け取り、今度は一口だけ含み。味見に徹してくれた。

「……ふつう」
『よかった…禍々しい邪気を放つドリンクの隣に自分で作った飲み物置いたらなんか味が変わってそうで不安になって』
「自分で確かめろよ」
『ごめんなさい…もう鼻テロされて』
「人の味覚は嗅覚から入るものだから仕方がない」
「最近弓波先輩から毒味頼まれること多いんだけど。オレに恨みでもあるわけ」
『え、いや(かわいいから…って言ったらまた怒らそうだな)頼みやすいから、カナ』
「いや、越前は頼みづらい分類の人間だと思うが」
「オレが年下だからでしょ」
「それだったら二年も対象になるな」
「……じゃあ、オレだから?」
『うん、かわいい』
「かわいいじゃない」

腕がそろりと伸びて額に綺麗な指がぴたりと止まるとペシッ!と音が綺麗に響いた。思わず目を閉じて額を抑えた。『いっだぁ…』と言うと満足して差し出したタオルを受け取った。
帽子を脱いでタオルを頭からかけた越前くん。身長といい顔がかわいい。この素直じゃない性格も込みでかわいい。中学生ってかわいかったのね。
頭を撫でたくなる衝動にかられるがそんな勇気ある行動が出来る魂を所持していないので、見守るだけにしておいた。

「楽しそうだね」
「おかえり不二」
「うん、ただいま。弓波さん?僕にも“おかえり”って言ってくれないの?」
『…お…おかえり、なさい不二、さま……つ、つまらないものですが』

左手にタオル、右手に乾汁のカップを持ち震える両手で顔を背けながら差し出した。

「すごく怯えてないっスか、先輩(不二様って)」
「恐怖認定しながらも恨み言は忘れてないとは(つまらないものか)」
「ありがとう。コレ好きなんだよね(面白い子だな)」
「こっちは通常運転なのが逆に何があったのか気になる」
「その全容を俺は知っているが…」
「僕は何もしていないつもりなんだけどね」
「何もしてないのにあそこまで怯える人間はいないと思うけど」
「そんなに言われたら恥ずかしいこと?夢中になれるのって可愛いと思うけどな」
『かわいくないです…』
「不二に言われて青ざめた女子を初めてみた」

止めを刺しに来たのかと思った。だけどその食欲すらそそりそうも無い赤い色のドリンクを軽く飲み干す不二くんのその美しい横顔ったら絵画の如く思わずため息が零れてしまいそうだ……蒼白になるけど。

「こらお前たち。あまり弓波さんをいじめるんじゃない」
「主に不二先輩と乾先輩しかね」
「別にいじめてはいないよ大石」
「いや、どっからどう見ても困らせてるだろ。それに大男に囲まれた赤ずきんにしか見えないから離れなさい。大丈夫かい?弓波さん」
『お、おおいしくん……』
「顔色が真っ青じゃないか!すまないね、本当に。悪気があっての事ではないと…多分、だけど。だから何かあったらすぐにヘルプサインを出していいからね」
『……』
「あ、倒れた」
「弓波さん!?」


――――あなたのその優しさで本日の血液が終了しました

これ以上優しくされたら確実に殺される。王子様に血液抜かれるか、女子たちに血祭りにあげられるか、どちらが早いかデットレースになっているだろう。今頃ヒートアップ中だ。
両手を組んで地面に横たわった私を心配して保健室まで運び出す大石くんと手配をする手塚くん。そんな騒々しい現場の中、変わらず会話を進める三人がいた。

「かわいいよね、彼女」
「そんなの知ってる」
「どの辺りに共感できたのか教えてくれないか?」



◆ ◆ ◆




《 毎日大変そうだね夜鷹 》
『一時はどうなることかと思ったけど、割と両立出来てるからすごい…15歳って若さが怖いわ』
《 そこじゃないでしょ 》
『元の私なら途中で屍になってるよ。体力って大切なのね』

今日は放課後も部活に参加しなければならないため、時間を割けない故に昼休みに図書館に来て日課の勉強をしていた。ノートに問題を解きながら参考書のページをニコがめくってくれる。この日課が功を得たのか最近では授業についていけている。これならあと少しだけ続けてあとは自宅で復習するレベルに持っていけそうね。将来につながるための保険と思えばこれくらい軽いものだわ。これなら家の手伝い時間も増やせそう。

『この問題解き終えたら次は硬式テニスの基礎知識を勉強しないと』
《 楽しそうだね夜鷹 》
『そうでもないよ』

口を閉じて眉を寄せた。少し不貞腐れた感じでペンをトントン叩いているとニコは「素直じゃないんだから」と行って頼んだテニスの本を取りに向かった。
待っている間ペンを動かしながら昼食後の昼下がりという魔の睡魔に数分後襲われた。

寝たらダメなのに瞼が重くて持ちあがらない。やっぱり睡眠削るときついのかな……まどろみと葛藤の中、ガラガラと何かが引かれる音がする。ドアかな?建てつけが悪いから少しギチって軋む音をさせて閉まる。足音がポツポツと聞こえる。何か呟く声も聞こえるけど、駄目だ……雑音でかき消されてる。でも静かな生活音だな。誰だろう……とってもしなやかに動いているから女の子?でもそれにしては少しだけ音が重い。じゃあ男の子?でも、どっちでもいいけど………こっちに来ないでね……。

暫くすると肩に乗る微かな重みと鼻孔をくすぐる甘い香りがして、息を吸い込み肺で味わうとそれは安眠作用なんじゃないかと思うくらい安心できた。

『……はっ!時間!』

がばっと起き上がった私は机の上に広げたノートの端にニコの足跡スタンプが押されていた。あんにゃろ起こしていけ……と悪態ついているとするりと肩から何かが落ちた。温かいそれは上着だった。
床から拾い上げて埃を払っているとそれが学ランであることがわかった。でも一体誰のかわからない。探ろうにもその学ランは「3−6」であるバッチはついているが名前までは記載がなかった。一体誰がこれを……涎のついた口端を拭ってとりあえず教室へと戻った。

「夜鷹どこ行ってたの?」
『図書室』
「あんた好きね……ってその学ランどうしたの?」
『あ、うん。なんか肩にかかってたから』
「それって……」

鷲深ちゃんが一瞬別の方へ視線を向けた。

『忘れ物かね?』
「……」
「……ソウダネ!」

えっちゃんが片言だったのが気になったけど、その後の鷲深ちゃんの温かな眼差しで「夜鷹は可愛いってあたしは知ってるから」と抱きしめられた。いや、鷲深ちゃんの方が綺麗だし。よくわからないが抱きしめ返しておいた。

「(残念だったわね不二周助)」



◆ ◆ ◆




『今日は宜しくお願いします』
「ああ、よろしく」

ある日の休日。私は乾くんと共に図書館に来ていた。対面に座り机の上には乾くんのノートと基礎知識が載っている辞典や参考書、私の手元には真新しいノートとファイリングが並べられ乾くんからテニスについての個人講習が行われた。

「しかし弓波は勉強熱心だな」
『いや、一応やるからには知識くらいはつけてないと(女子の皆さんからの集団リンチに合うんで)』
「?責任感もあると」
『冷静に人のデータとってないで教えてください』
「だが、俺が思っていた以上に基礎知識は備わっているようだ。今日はスコアの付け方や得点の数え方の方を中心的にやっていくか」
『お願いします』

隙間時間に覚えた基礎知識でほぼ間違いはないようだ。家に帰ったらパソコンでまとめてファイリングしておこう。ノートに書きながら授業のように説明を聴いていた。

「だが、何故俺を指名したんだい?君ならもっと適任者がいると思うが、主に不二とか」
『いや、選手の詳細な情報も欲しかったので、総合的に踏まえると乾くんに聴けば一発かと』
「合理的な判断だ」
『あの、つかぬ事をお聞きしますが…なぜここで不二くんの名を?』
「ああすまない。ちょっとした好奇心だよ……輸血は必要かい?」
『まだ、だいじょぶですっ』

その名を聞いただけで口から赤い液体を溢した私を最近乾くんは輸血パックを常備するようになった。賢明な判断です。

「手塚が気に入る訳だ。君のような娘が好みだと口を滑らしていたからね」
『……不意打ちはやめてください、ゴボェッ!』
「そのようだ」

ハンカチを口元にあてながら咳込む私の背中を撫でながら乾くんは再び輸血パックを取り出すが首を左右に振った。いや、中学生で輸血パックを常備していることが先ず間違ってると思います。元凶は私だろうけど。ああ、いつからこんな吐血キャラに濃すぎるだろ。パンピはこんな頻繁に血液を空気中に吐き出さないよ。
暫く講義は続き気がついた頃には既に午後三時を回っていた。同じ体勢でいた所為で身体が軋みはじめていたので腕を伸ばして椅子の背もたれによりかかった。

「今日はここまでにしようか」
『ありがとうございました』
「いやこちらこそ。ために成ったよ。選手のデータはUSBにまとめて置いたから帰ってから見るといい」
『これは態々ありがとうございます』
「君はよく他人を見ているんだね。侮っていた事を詫びよう」
『ええ、まあその攻略情報があるのとないのとでは行動パターンや言葉の回避策、逃げ方、逃避経路などの把握はしておいて無駄ではないのでなるべく知っておきたいと思いまして』
「命でも狙われているのか…?俺が想像していた以上に深刻な問題のようだ」
『いえいえお気遣いなく。それよりこれから時間あるかな?御礼をしたく』
「律儀だな。まだ時間はあるし、弓波の提案に乗るとしよう」

広げたノート等を片付けて乾くんと共に図書館を後にした。

「弓波さん宅はカフェを経営しているんだったね」
『そうだよ。顧客をゲットするために先ずは身近な人達を引き込むのが商業戦法』
「……俺はカモか」
『芋づる方式で釣り上げたいと考えています』
「悪徳業者のような言い回しだな。しかし君のデータを徴収出来るのであれば俺は構わない」
『…やっぱ自分の好きな事には飛び込みすよね』
「例えそこが地獄だろうとも」
『初めて友達になれそうな気がする』
「俺は普通に君とは友人関係を築いていたんだが」

閑静な住宅街を少しだけ抜けると木々がまだ残っている開けた場所に出た。
おとぎの国から現れたかのような建物が母が経営するカフェ【NORA】である。大変いい趣味だ。私は気に入っている。

「ほぉ……こんな所にあったのか。女性が喜びそうな外装だ」
『さあ入って。奢ってあげられるかはうちのマスターさんのご機嫌に左右されるけど、おもてなしはするので』

洒落た取手を引きドアを抑え乾くんを招く。鈴の音が温かく鳴り響き店内の落ち着いた雰囲気でアンティーク調の小物たちがお客さまを出迎える。内装の趣味は私の偏った独断と偏見だが、割と好評である。

「いい店内だね。データ整理に調度いい」
『良ければ利用して。そして宣伝も宜しくお願いします』
「ちゃっかりしてるな」
「あら、夜鷹ちゃん。おかえりなさい」

調度カウンターで珈琲の準備をしていたお母さんが私に気がついたようだ。
カウンターまで歩み寄る。

『ただいま。お店忙しかった?』
「ううん。落ち着いたところよ。それより図書館で勉強してくるって言ってのに、男の子とデートだったなんて。お母さんに言ってくれればいいのに。もう恥ずかしがり屋さんなんだから」
『お母さま。勘違いしてはいけませんよ。この方は同級生で部活も一緒なだけの乾くんです』
「強調線が何処かすぐにわかるな」
「そうなの?じゃあやっぱりフジくんが本命なのね」
『……once again』
「え?フジくんじゃないの?夜鷹ちゃんの彼氏くん?」
『………』
「おっと」

ふらりと身体が揺れて後ろに傾いた身体を支えた乾くん。うちの母上は今なんと仰ったのでしょうか?
Fuji?ふじ?フジくんがカレシくん?かれし?からし?いや、かれし……彼氏だって?!!
血液が一気に上昇して傾いた身体を立て直し母の両肩を掴んで叫んだ。

『私に恋人がいるわけないだろォォオオ!!!』
「そうなの?不二くん」
「恋人とは言ってないですよ、お母さま」

私の背後から不二くんの声が聞こえた。
やだな……振り返りたくないな……確認したくないな……そう思いながらも否定するためにはそうせざる負えなく。止む無く私は振り返ることにした。どんな結末が待っていようともここで振り返らなければ前には進めないと確信していたからだ。

「やあ、夜鷹ちゃん」
『………』

振り返った瞬間、全ての思慮は塵となって底へと沈んでいった。


――――しかも名前にちゃん付け………

口を閉じながらもその唇の端から一滴の鮮血が流れていった。



◆ ◆ ◆




「まあ、お友達だったのね。夜鷹ちゃんのママです。娘がお世話になってます」
「乾と申します……娘さん。大丈夫ですか」
「大丈夫よ。夜鷹ちゃんああ見えてタフだから」

親指を立てて晴れやかな顔をする月子に、乾は思わずソファーに横たわっている夜鷹を見つめた。

「ところで不二。なんでここにいるんだ?」
「僕だってカフェに行くよ」
「いや、そういうことを聴いている訳では……」

乾はそこで口を閉じた。それは乾にしては算出するまでもなく答えが頭の中に浮かんだからである。不二は相変わらず表情一つ変わることなく夜鷹の母、月子と談笑をすすめている。

「じゃあ奥の席にいる子たちももしかしてお友達なのかしら?」

月子がそう言うと奥の席から桃城と越前が「ちーす」と振り返って合流した。

「弓波先輩に遊びにおいでって言われてたんで調度いいから越前誘って来たんスよ」
「オレが毒味役やってるんだからその成果を見に来ただけ」
「みんな同じ部活なの?」
「そうですね」
「まあ……そうなの」

月子は穏やかな顔をして学生たちを見守っていた。

「不二先輩ひとりっスか?」
「うん」
「ふーん。一人で来たんだ。またあの綺麗でおっかない人に睨まれるんじゃない?」
「乙藤先輩が?越前何言ってんだよ。どっちかっつうと江口先輩のが突っかかるだろ」
「すみちゃんとみくちゃんのことかしら?その二人なら午前中に来てくれたけど……すみちゃんが言ってた鬱陶しい連中にこき使われてるって誰だかわかるかしら?わたしちっともわからなくて」
「それはわからなくて差支えないです」

乾がそう言うと「そうなの」と納得した月子。そして急に合点がいったのか掌に拳をポンっと乗せて。

「じゃあみんな夜鷹ちゃんに会いに来てくれたのね」

直球で言われて言葉に詰まった者が一名。そうです、と答えたものが二名。誘われましたと言われたのが一名いた。いえ、と不二が己の解答に付け足し始める。

「彼女にはちょっと迷惑をかけちゃったみたいなので」
「違うわ。夜鷹ちゃん、照れ屋さんだから。素直に言葉にするのを躊躇っちゃう子なの。でも本当は、あなた達と同じ部活に入れて楽しいって思っているはずよ。あの子意外とはっきり口にする子だから、嫌なら断ってるもの」
「ええ、存じてます」

不二がそう答えると周囲にいた彼らも同時に頷いた。そんな姿を見て月子は瞳を緩ませ淵に溜まった涙を指先で拭った。突然の行為に当惑してしまうが月子は笑みを浮かべてソファーに未だ眠る娘を視界に捉えた。

「夜鷹ちゃんにこんなに沢山のお友達が出来たのね。この子本当は優しいの。とっても素直で真面目で、でも時々言葉と態度を間違えちゃうときがあるから勘違いさせて友達も出来ずにずっと来たから……。だからこの子こと解ってあげられるのは私とお兄ちゃんしかいないと思っていたのに……お母さん心配して環境が変わったら何か良いことが起きそうな気がして、そしたら最近は凄く明るくて毎日楽しそうに学校に行くから…、だからこれからも良ければ仲良くしてあげてね」
「違うよ。それ……夜鷹先輩と、一緒に居て楽しいのはお互い様だから」

越前は言い終えた後恥ずかしそうに俯いた。そんな越前の肩に腕を回して桃城が歯を覗かせて笑った。

「まあ、何が言いたいかというと俺たちは夜鷹先輩とこれからも仲良くしていきたいってことなんスよ。こいつ生意気でスグかっこつけたがるんで気にしないでください」
「言われてしまったな、不二」
「ん?僕も越前たちと同じ気持ちだよ。勿論この場に居ないテニス部を含めて。皆彼女と仲良くしたいって思ってるからね。乾もだろ?」
「まあ。彼女といて退屈はしないし、俺と居ても苦痛に感じない女子は貴重だ」
「そういうこと」

楽し気に笑う雰囲気の中タオルを少しだけずらした手があった。



◆ ◆ ◆




お風呂から上がった夜鷹は髪をタオルで乾かしながら月子にお風呂を告げた。
すると引き留められる。

「お友達、楽しい子たちね」
『うん』
「学校は楽しい?」
『うん。楽しいよ』
「そう……明日はもっと楽しいわ」
『そうだといいけど』
「じゃあお母さんお風呂いってきまーす」
『うん。いってらっしゃい』

月子がお風呂へ行く最中、階段を上って二階の自室へと向かった。
部屋に入り乾に貰ったUSBメモリーの中に入っている選手データを開いたまま椅子に座ってマウスを動かす。メールボックスを開き、日課である兄へメールを送った。
ベッドの上にはニコが丸まっていたが起き出したのか欠伸をしながら「みぃ」と鳴く。

『ニコ。今まで知らずにいたけど“弓波夜鷹”って一体どんな子だったの?』
《 突然どうしたの?君は君のまま生きればいいんだよ 》
『……そうだったね。ごめん』

振り返った夜鷹の顔は普通だった。何の感情も湧きだしていない前の世界の彼女そのものだった。それを見たニコは眉を寄せてその青く大きな瞳を静かに揺らした。



――――元のカノジョがどんな境遇(せかい)に居たかなんてそんなのきみが知る必要なんてない。もうそんなこと考えなくていいんだよ、夜鷹


今回はなんと8500字!うわーい短いヾ(o´∀`o)ノ 全員書きたいんだけど、それはちょっと難しいので別の場所で残りのメンバーも書けたらいいなと思います。一応ね、これでもね、後半シリアスなので。前半くらいはほのぼーのーって全開で!いや吐血してるから血なまぐさかった!うん、楽しけりゃそれでいい。兄の紹介文、いつここで紹介できるだろうか……