ミュウの仕事が終わるまで事務所の近くにある喫茶店で待つことになった国木田と色葉は窓際の席に対面しながら座り紅茶と珈琲を広げて推論を立てていた。
「佐伯さんから脅迫文のコピーを貰ってきた。佐伯さんの話によると社長は最初から地警に相談しようとはせず探偵社に依頼するように指示したそうだ。まあ、確証があるわけではないからな」
脅迫文面を片手に色葉は文字を目で追いながらミュウとの会話を国木田に弥弥言葉を濁しながら説明をした。
『ミュウさんを脅迫した犯人は事務所内部の人間ではないかと彼女自身疑っているようです。彼女にはお付き合いをしている男性がいるようで。同じ事務所のカエデさんという俳優さんだそうです。あ、ここですね』
国木田に視えるように机の中央に紙を置き一文を指す。国木田も目を通し「成程」と言葉を漏らした。
『此の事は事務所内部の人間にしか知られていない情報で、一般人が知る事はないですし、報道人にも知られていない事柄です』
「内部犯というのは頷けるな。此の脅迫文が届いた時刻を調べたら告知を掲載してから僅か1分だ。1分で此の文面量を打つ事は不可能だ軽く1万文字はある。今回は店頭ライブ。事務所関係者しか携わっていない小規模な企画であるため外部の人間が此れを事前に知る事は有り得ない。ハッカーでもない限りわな」
『ハッカーのような引きこもりが女性を付け回す様な行動力はないと思います』
「それもそうだな。だとすると彼女が怯えていた理由は内部犯という線が濃厚だからか」
『あの、其の事ですが独歩くん。少々御耳を貸してください』
「何故だ?此処でも充分聞こえる」
『あまり公言出来る様な内容ではありませんので』
腕を組み弥弥頬を赤らめさせる国木田。身を軽く屈ませ耳を傾け、色葉は国木田の耳殻に吐息を触れさせながら音を発した。
『 ミュウさんは脅迫メールが届いてから1ヵ月後に強姦被害に遭ったそうです 』
「なんだとっ!?」
国木田の怒声が店内に響き渡った。周囲の視線を集める中国木田の憤りに色葉は静かに国木田の裾を引いた。目を伏せている色葉の様子に国木田は息を吐きだしてから椅子に座り直す。
「だから俺にも怯えていたのだな…其の犯人は恐らく脅迫した奴の仕業だろう」
『はい。私もそう思います』
「お前の方は目星がついているのだろう、其の犯人とやらが」
『はい。ですが、此の事件には未だ何か隠されているような気がして…』
「入り組んでいるというのか」
『ええ…其れが何かは私にも解りませんが』
冷めたカップを両手で持ち色葉は口元で傾ける。
*
国木田の車で色葉の自宅へと向かう。ミュウは一度自宅に戻らせ着替えを持って再び搭乗し、今は色葉の自宅の真下に到着した。高層マンションのセキュリティーに特化したビルの前で荷物を受け取り国木田とは此処で別れる。戸惑うミュウと共にコンシェルジュに声をかけてからエレベーターへと乗り込む。
『同居人は男性ですがご安心ください。手を出す様な方ではございませんので』
「あ、はい…そ、其の方は恋人、なのでしょうか」
『いえ。幼馴染、みたいなものです』
エレベーターを降り扉の前まで行くと鍵を開ける前に扉が開閉する。中から出てきたのは敦で色葉は目を丸くさせた。
「おかえりなさい、色葉さん」
「おかえり色葉。荷物は敦君に渡すといいよ」
『ただいま…乱歩さん。その何故敦くんがここに』
荷物を敦くんが受け取り中へと持っていく中、靴を脱いで乱歩の話を訊く色葉。彼女の服を掴みながらミュウもまた弥弥怯えていた。
「だって脅迫犯に脅されてる子が来るんでしょ?だったら無害で不憫な敦君なら盾として申分ないかなって。食材は連絡くれた通り購って置いたから冷蔵庫だよ」
『であれば連絡くださった時に教えてくれればよかったのです。驚きました』
「ははは、じゃあドッキリ成功だね。あ、後ろに居るのがミュウさん?僕は名探偵の江戸川乱歩。大丈夫。君に興味はないから食指が動く事はないよ。安心して」
『其れは敢えて女性に失礼ですよ乱歩さん。ミュウさんすみません。男性が増えてしまいましたが敦くんは誠実な男の子ですから、度胸はありません』
「其れも地味に酷いですよ色葉さん」
広間へ辿り着くと広々とした室内が広がっていた。敦が荷物を隅へと置きミュウが一歩前に出た瞬間、色葉の目の前には包帯を巻かれた腕を上げて手を振る男が椅子に座っている。額に青筋が走っていた。
「おかえりなさ―い色葉ちゃん」
『……ミュウさん。私の部屋に案内しますのでまずは其方に腰を落ち着けましょう』
「あ、あの」
「おお。美しい…テレビで観るより何倍も美しいね。まるで鮮やかに咲き乱れる金魚草のようだ」
『先にお風呂入って来てください。乱歩さん。お風呂は沸かしてありますよね?』
「うん。お風呂掃除は僕の担当だからね、洗面所まで案内しようか?」
『お願いします』
「あ、無視だねコレ」
太宰を放置してミュウを色葉の自室へと案内し荷物も入れると乱歩に案内されながら洗面所へと向かった。そんな彼女を見送りながらエプロンを頸から下げ夕飯の準備を始める色葉の対面式台所の真正面に太宰が胡散臭い笑みを浮かべている。
「君は病み上がりだから無茶されると困るんだよ。其れに男手は多い方がいい」
『怒るなんて感情備わっておりません』
「そっか。残念だな〜。あ、手入れはちゃんとしたほうがいいよ。黴菌入るから、えっとコレとね、あとコレを使うといい」
敦は頸を傾げながら彼らの会話を訊いていた。太宰が机の上に並べている物は乱歩の夕飯の購い出しに付き合った際、一人薬品店へ行き購入していたもの。凡てピアスを開けた際の手入れ用の薬品関連ばかりだった。敦は色葉へ視線を戻すと彼女の耳朶には見覚えの無いファーストピアスが付けられていることに気がつき。元凶が太宰であることは直ぐに辿り着いたようで、頭を抱えていた。案内を済ませた乱歩が広間へ戻ってくるなり太宰の隣に肘をたてた。
『お疲れ様です。乱歩さん。事件は解決したそうですね』
「うん。僕の超推理のおかげでね。スパっと解決だよ!あ、はい。此れお土産」
手渡された紙袋。乱歩は出掛ける度にどんな些細な物でも色葉にお土産を購ってくるのが日課だった。遠出だろうが近場だろうが。その辺りで売られている駄菓子でも何でもお土産と称して購ってくる乱歩と色葉の習慣に彼女は遠慮なく紙袋から物を取り出す。出て来たのは写真立てだった。装飾に青薔薇が入っている高価な印象を受ける写真立てに色葉は笑みを浮かべた。
『ありがとうございます』
「壊れちゃったからね。遣っていいよ」
『会社で使わせて頂きますね』
色葉が写真立てを両手に持ち鍋に火をかけ、包丁を置いてから自室へと消えてしまう。残った敦を余所に太宰と乱歩が火花を散らしていた。
「あの時乱歩さんが購っていたのは色葉さんのためだったんですね」
「うん。手土産購うのが習慣になってね…誰かさんが勝手に贈り物したりするから今回は物になっちゃったけど。大体縛る行為や意味のある贈り物を贈る程僕は切羽詰まってないから気持ちはわからないけどね。仕方ないよね名探偵相手だもん、ねえ太宰」
「うふふ。やだな乱歩さん。贈り物ですよ?女性なら装飾品の方が喜びます」
「相手の了解も得ずに穴を開ける行為を含めて贈物って云うのは僕も知らなかったな。ありがとう参考になったよ」
『何の話をしているんです?』
自室から戻って来た色葉に対し二人は「なんでもないよ」と返す。再び台所に立ち野菜を刻む色葉の横に敦は立ち「手伝いますよ」と声をかけるとお礼を云って鍋を観てもらう。残りの二人は机の準備をして貰うことになりお風呂からミュウが出て来た頃には既に寄せ鍋が完成し皆で鍋を囲っていた。
まだ此の幕間は続きます。皆で鍋つついてしまおう。ちなみに席順は主人公の左隣りはミュウ、右隣りは乱歩さん。ミュウの隣は敦。敦と乱歩さんの間が太宰さんになります。次回も少し続きます。鍋ぱっぱ