夜のしじまに沫-参






{ 首尾はどうだい色葉 }
『与謝野先生。調度よい所に、東雲様に訊いて欲しい事があるのです』

与謝野先生にお願いをすると二つ返事で返され数秒後、知りたい解答が返って来た。

{ アンタの云う通りだった。手紙を渡された金髪の子供に詳細を教えてもらったみたいだね。市警からの連絡は今しがたキタよ }
『すみません。では誘拐された子供たちの詳細を調べて頂けますか?』
{ 其う云うと思って調べておいた。女の子は孤児としか情報がなくて難儀したが、金髪と橙頭の子等は同じ孤児院の出身で、あの火事があった場所だよ }
『ありがとうございます。もう少し調べてみますなのでお金の用意はしなくて大丈夫です。お伝えください』
{ ああ。こっちも何か解ったらまた連絡する……あんま一人で突っ込むンじゃないよ }

返事をせずに電話を切ると後ろから中也くんに声をかけられる。

「電話終わったか?」
『はい。お待たせしてすみません。新たな手掛かりを得られましてそれで』
「なら其処へ行くか」

伝票を片手に中也くんが歩き出す。未だ何も云っていないのに、と慌てて背中を追いかけると会計を済ませて店内を出ていた。私を待つ親近感の湧く高さの隣へ並ぶと「ン」と手を寄越せと差し出される。中也くんの顔と其の手を交互に見つめながら頸を傾げると「面倒くせェな」と云って手を取られ繋がれるや否や歩き出す。

『あ、あの中也くん。お仕事は?』
「今日はオフだ。だからお前に付き合ってやるよ、一人じゃ危ねぇしな」
『ありがとうございます、中也くん』

最後の言葉は掠れて聴こえなかったが優しさのある彼の行動に感謝を述べた。すると顔を背けて帽子を深く被ってしまう。

「ンで場所は?」
『火災現場です』







火事が起きた孤児院は経営難という訳ではない何処にでもある孤児院だったと近所に住む住人は述べる。職員と子供の関係も良好な姿を何度も目撃したという話を訊いたが中也と色葉は其の解答に否定的だった。裏社会に詳しい中也と仕事の関係や敦の話を知っている色葉達にとって表向きの顔だと見解する。跡形もなく焼け焦げた建物に残っていたのは煤と墨だけで木造建築物だったことは明らかだった。既に現場保存を終え撤収された後だったことにより中也と共に土足で現場へ踏み込む。

「佳く燃えたみたいだな。何も残っちゃいねえ」
『市警の方が持って行った可能性もありますが、大方凡て灰になってしまったのでしょう』

此の孤児院出身だったふたりの男の子を怪しんだ色葉は此処へ何か手掛かりになるものは無いかと探しに来たはいいが其れは甘い希望だったかと周囲を探索しつつ木の枝で灰を払っていると写真のようなものを見つけて手で払いのけて取り出すと同時に中也に名を呼ばれ手招きをされる。鞄の中へしまいつつ傍へと駆け寄ると靴底で灰と墨を払いのけさせると、其処には隠し扉のような凹みが存在していた。

「こりゃまた随分と脈搏もねぇモンが出てきやがったな。本当に孤児院かココは」
『貯蔵庫にしては巧妙に隠されていますね』

爪先で床をノックしながら確認していると一か所だけ軽い音がした。中也が色葉を下がらせ思い切り踵で其の箇所を叩く様に踏むと仕掛けが作動しからくりの音が聞こえたと思えば地下へと通じる階段が姿を現した。懐に閉まっているジッポを取り出し火を点火させると先に降りる中也。手を差し伸ばし色葉も又彼の手を取り階段を下った。
階段を降り終えると土壁に囲まれた自然と人工を混じり合わせた地下空間は入り組んでは否く一本道だったが特有の湿った空気と異様な臭いに鼻を抑える。

「此の腐りかかった臭いは死体か」
『ええ、ですが多分此処にはないでしょう。染みついた臭いに似ています』
「ああ、そうだろうな。暗がりで見えづらいが壁の至る所に血痕がある。乾き工合からして年月もんだ」

不安定な床を歩いていると足元に転がる人骨と思わしき物を見つけても驚きの声もなく色葉は中也の手を握りしめる。伝わる体温と振動に不謹慎にも「クソかわいい」と煩悩に囚われつつも披けた場所に着く。
蝋燭が壁の至る所にあったため中也は燈火として点火させ視界を取り払う。すると其処には思わず口元に手を添えてしまう程悍ましい光景が広がっていた。色葉の瞳の様に染まる一面血色が臙脂から唐紅と彩を見せ、彼女の瞳に反射する度に灯のように揺らめいた。

「大丈夫か色葉」
『大丈夫です。慣れていますから』
「そうかよ(普通の女なら入る前から想到すンだよ、強がりやがって)」
『中也くんはどう思いますか、此処』
「口にしていいなら拷問と躾、戦闘訓練をさせていた場所だ。孤児連中に仕込ンでいたンだろな」
『…構成員にするために、ですか』
「相変わらず勘が鋭い女だな。ああ、俺らの世界じゃ珍しくもねえが孤児院を隠れ蓑にする組織にしちゃ中々面白れぇこと画策しやがる」
『中也くんは購ったりしますか?』
「いや、うちは拾うのが多いが最近はそういうこともするな」

中也の言葉を聴き色葉は口を閉ざし俯いた。名前を呼ばれ覗き込む中也に顔を見せた時は普段通り笑みを浮かべている色葉の姿が其処にあった。此の恐怖に濡れた悍ましい場所では其の笑みはまるで嘆いているように視えた。頸裏に手を置き短めの溜息を溢してから、鉄格子を蹴破り中に置かれている道具を一つ手にする中也は彼女にも見やすいように明るい場所まで其れを持ってやってくる。

「刃毀れは酷ぇが人体切断をした後もある。血が真新しい、渇いて数日しか経っていないだろな」
『此れで放火犯と誘拐犯の犯人が解りました。後は場所ですが…見当も着きました』

鞄から取り出した写真を中也へ手渡すと其処には幼い少年が二人で写っていて其の背景には教会が建っていた。







月明りが差し込む硝子の天井を見上げながら香純は縛られている腕を動かし脱出を試みていた。隣で静かに動かない少女へ視線を向けると香純は傍により声を掛けた。

「大丈夫だよ。きっと助けが来る」
「……どうしてそう言い切れるの?」
「だって僕の…僕の知っている人は、どんな所に居てもきっと僕を迎えに来てくれると信じているから」
「……然う思える人が居て良かったね。あなたには帰る場所があるもの」
「君にだって君を必要としている人がいる。君の帰りを待っている人がいるよ、僕も君も死んでいいはずないんだから」
「……あなた無口かと思ってた」
「其れは僕も君に対して思っていたけど。あまり喋らないようにしているだけだよ」
「どうして?」
「だって、余計なことを云ってしまいそうになるから。そうしたらきっと悲しんでしまうから」
「……其の人の事すきなのね」

香純は然う云われると恥ずかし気もなく頷いた。隣で静かに寝そべっている少年らへ視線を向ける。

「彼らは先ほどから一言も話してないけど大丈夫なのかな」
「さあ…」

少女の静かな声が床にポタリと反響した。



何を書いているのか判らないくらい怖いです。もう怖い。書いている本人が怖いと思ってる。怖いよ。怖い。想像しながら書くともう怖い。散らばる死体の山をかき分けるみたいに怖いよ。うぇーん(´;ω;`)ウゥゥ