嗚呼―――つまらぬ。人の世は幾らか過ごしたが本当にどこもかしこもつまらぬな―――色葉。
「立てよ……招宴は始まったばかりだぜ」
小競り合い。いや唯のじゃれ合いじゃこんなものは死を扱う事すら烏滸がましい、子供の喧嘩。なれど色葉は理想郷から拳を叩く。なんじゃお主、まだ出せぬよ。お主を傷つける凡てものから儂が護ってやる。やから主はまだ眠っておれ……深淵の淵は海底のように静かじゃ。主の心を癒す。傷口を癒し感情を抑えよ。主が出来ることはこいつらを止めることではない。休み安定させ無事に帰ることじゃ……待っているのだろ。お前の帰りを―――待っているのだろう。色葉(おまえ)という存在を。魂の乖離とは元来然るべき接触を禁じる。近ければ近い程其の魂は縛られそして結合してしまう。結合すると戻って来られぬ。儂と主は出会ってはならぬものじゃった。だというのに……主は儂を手放さぬ。いつまでも儂が護ってやれるとは限らぬ故にはよ独りで立ってほしいと思うが……。
『愛らしいのぉ……可愛すぎてもう殺せぬ』
せめてもう少しマシな未来になるまで、儂が護ろう。全霊を掛けて儂の最期の愛情(しごと)じゃ―――。
*
中也の打撃に太宰は壁に押し込まれる。つかさず頸を掴まれナイフが添えられ、形勢は中也に分があった。
「態と捕まったのは何故だ。獄舎で何を待っていた」
中也の問いかけに太宰は答えない。背後では幼女が暢気にうたた寝までしている始末。このような血生臭い場所で眠れる神経を疑いたくなるが、中也の視線を再び太宰へ注がれる。
「だんまりか。いいさ拷問の娯しみが増えるだけだ」
「……一番は敦君についてだ」
「敦?」
「君達がご執心の人虎さ。彼の為に70億の賞典を懸けた御大尽が誰なのか、知りたくてね」
「身を危険に晒してまで? 泣かせる話じゃねぇか……と云いたいがその結果がこの態じゃあな。麒麟も老いぬれば駑馬に劣るってか? 歴代最年少幹部さんよ」
有頂天にも語る中也の饒舌がまわる。だが太宰はそれを喉で嗤った。
「何がおかしい」
「いいことを教えよう」
中也の首を掴む腕に手を添え握ると太宰は披露する。己が起てた全容を――。
「明日五大幹部会がある」
「五大幹部会? 莫迦な。あれは数年に一度組織の超重要事項を決定する時だけ開かれる会だ」
仰天する中也は思わず頸に添えたナイフを退け、後退までした。
「あるなら疾っくに連絡が……」
「理由は私が先日組織上層部にある手紙を送ったからだ。で予言するんだけど……君は私を殺さない。どころか懸賞金の払い主に関する情報の在処を私に教えたうえでこの部屋を出て行く。嗚呼匆々…彼女も置いて。それも内股歩きのお嬢様口調でね」
「はあ!?」
「私の予言は必ず中る。知ってると思うけど」
「この……状況からか? 巫山戯る……手紙?」
中也は其処で漸く太宰の言葉のある一部に気がつき、そして最悪な物語が頭に浮かんだ。
「手紙の内容はこうだ。[太宰死没せしむる時、汝らの凡る秘匿公にならん]」
「……!! 真逆手前……」
見る見ると中也は驚愕する顔すら抑えられずに、汗迄吹き出てくる始末。その様子を涼しい顔をして太宰は眺める。遂に幼女は小さく躰を丸めて健やかな寝息をたてていた。
「元幹部で裏切り者の私を捕縛した。だけど上層部に[太宰が死んだら組織の秘密がぜんぶバラされるよ]っていう手紙までついてきた。検事局に渡ればマフィア幹部全員百回は死刑に出来る。幹部会を開くには十分過ぎる脅しだ」
「そんな脅しに日和るほどマフィアは温くねえ。手前は死ぬ死刑だ」
「だろうね。けどそれは幹部会の決定事項だ。決定より前に私を勝手に私刑にかけたら独断行動で背信問題になる。罷免か最悪処刑だ」
「そして……俺が諸々の柵を振り切って形振り構わず手前を殺したとしても……手前は死ねて喜ぶだけ?」
「ってことでやりたきゃどうぞ」
厭味な笑みを浮かべて浅はかな挑発をする太宰。
「ほら早く」
だが安すぎる挑発に乗らないにもしても苛立ちは募る。蓄積していったその塵は何時しか肥大し巨大化して、最後は行動神経に伝達される。
「まーだーかーなー?」
降ろしたナイフを片手に振り上げ、太宰の頬をすれすれに其の刃を突き立てた。鋭利な刃物は血を啜り飲み切れぬ血液は顎を伝って零れ落ちる。
「何だやめるの? 私の所為で組織を追われる中也ってのも素敵だったのに」
頸から手を放し、拘束を解く。身を翻し幼女が眠っている傍まで行き彼女を抱き上げると、振動で目を覚ましたのか長い袖で目元をあたりを擦る仕草をする。肩口に顎を乗せ薄ぼんやりとした瞳で太宰を見据えた。視線が合うと太宰は人畜無害な愛想を振りまき幼子に手を振ってくる。そんな太宰の様子に吐瀉物を見るかのような視線を送った幼女。だが太宰の愛徳精神に火が灯り上の中年みたいに「いいねぇその眼差し」と悶えていた。心底どうでもいい、と虚ろになっていく幼女を余所に中也は其処で己の汚点に気がつく。
「真逆……二番目の目的は俺に今の最悪な選択をさせること?」
「そ」
「俺が嫌がらせをしに来たんじゃなく……実は手前こそが嫌がらせをする為に俺を待ってたって事か?」
「久しぶりの再会なんだ。このくらいの仕込みは当然だよ」
壁に突き刺さったナイフを取り出す。種を明かされ納得した中也は酷く項垂れた。
「死なす……絶対こいつ死なす……」
『中也気にするでない。腐った沼の毒蛇の事なんぞに落ち込む必要はない。あ奴は暇を弄んでおった。其れくらいの策くらい講じられる。一点お主は儂の子を止める為に尽力を尽くしてくれていた、差は歴然というものよ。ありがとうな中也。今はあの子に変わって礼を述べようぞ』
「……手厳しいなそっちの色葉ちゃん」
『黙れ黒墨狸。貴様に慈悲など儂からは無い。そんなもの呉れてやるなら海にでも放り投げるわい』
「うわー完全に嫌われてるね、私。……却説、鎖を壊したのは君だ。私がこのまま逃げたら君が逃亡幇助の疑いをかけられるよ?」
「…チッ」
「君が云うことを聞くなら探偵社の誰かが助けに来た風に偽装してもいい」
「……それを信じろってのか」
「私はこういう取引では嘘をつかない。知ってると思うけど」
中也へ投げ渡す太宰。片腕に抱きかかえた幼女とその腕に外套を持ち、空いた片手でそれを受け止める。太宰と対面する中也。幼女もまた体勢を変えて中也の服を掴み太宰と向き合う。眉毛些か右に上がるが、それでも余裕綽綽な態度は崩さない太宰。
「手前っ……望みは何だよ」
「さっき云ったよ」
「人虎がどうとかの話なら芥川が仕切ってた。奴は二階の通信保管所に記録を残してる筈だ」
「あ、そう。予想はついてたけどね」
「てッ……」
中也の服をくいくいと引っ張る幼女。彼女の愛らしい顔を眼に映してしまうと気も削がれる。中也は再び背を向け今度こそこの場から立ち去るために足を動かした。
「用を済ませて消えろ」
「どうも。でもひとつ訂正。今の私は美女と心中が夢なので君に蹴り殺されても毛ほど嬉しくない、悪いね」
「あ そう……じゃ今度自殺志望の美人探しといてやるよ」
『ほお……腐った鮒蟲は諦めるとな。手放すとな!それは愉快じゃ。此処へ反吐を出しつつも来た甲斐あったというものじゃな』
「飽く迄此れは私の夢であって、希望とは違う。私の臨みは色葉と添い遂げ其の魂を喰らう迄が私の臨みだ」
「……ほんとっ最低な奴に目をつけられたな、同情するぜ」
『全くじゃ。墓場まで共に入るなぞ爪さえ拒否じゃ虫唾が走る』
「なめて貰っては困るよ継母様。私の愛は一蓮托生さ。諦めるならとっくの昔に喰い殺しているよ」
『……気色の悪い男だ』
幼女の瞳とは思えぬ殺気を太宰に放つ。様々な表情を浮かべる珍しい彼女の様子に太宰は片眉を上げ乍ら笑った。
「云っておくがな太宰。これで終わると思うなよ。二度目はねえぞ」
「違う違う。何か忘れてない?」
中也は止まる。階段の途中だ。幼女は呆れた顔を太宰に披露する中、己の屈辱的過ぎるこれらの行為に地団駄を踏み乍らもそれでも中也は意を決して内股に華麗に振り返る。
「二度目はなくってよ!」
その可愛らしい様に太宰は嗤うが幼女はきゃきゃと喜んでいるのが二重で中也の心を折れさせる。
『愛くるしいの!中也はおんにかわいいのぉ』
「ああ…ありがとな。ああ、うん、手前のが数億倍かわいいって」
『ふむ。中々に劣勢であるな。此れでは分配が悪い、公平な選定をするのも儂の務め……なれば、こうするか』
幼女が腕を組み「うんうん」悩む姿を見て和む22歳共。
「あ、中也。約束のもう一つ…私に色葉ちゃんを返して」
「くっ……絶対嫌だ」
「ええー約束違くない? いいのかな〜お嬢さん〜いいのかな〜ふふふふ」
両手を広げて「さあ」と太宰が待機する中、幼女は中也の名を呼ぶ。
「なんだよ……」
頬を小さな手で固定され、眼前に広がる幼女の愛くるしい顔が瞳に映り込む。小さな唇が中也の唇に何とも可愛らしく「ちゅ」と接触した。思わず静止する中也を余所に2分くらい密接させてから離れる幼女の頬は桃色に染まりつつも照れ笑いをしているものだから、中也は目が点になり乍ら一気に顔中を真っ赤に染め上げた。その一部始終を目撃していた太宰は風前の灯火と化し、風化している。
『これで少しは対等になったかの?』
「…お…おまっ……手前はなにしてッ……や……柔らかい」
「何の感想云ってるのだよ中也……仮令、彼女が今現在5歳児の幼女だったとしても、彼女の意思ではない行動だったとしても其の躰は紛れもなく彼女の物で、其の彼女からのき……接吻なんて。絶対に赦さないよ中也。今すぐ私に返せ。色葉、帰るよ。君の居場所は私の元だ」
太宰は人畜無害な態度と顔を辞めた。取り払われた姿はまさしく幽鬼の如く、怒髪天に衝かれていた。抱えている色葉をきつく固定し中也は先刻の続きの再戦を予想したが、それは矢張りこの幼女によって遮られる。
『太宰。お主が中也にした事を儂が返しただけじゃ何をそんなに怒る必要がある』
「莫迦な事を訊くね。胎内にまで所有印を残した私に、君が私の物だと宣言することさえ阻むのかい」
『責任を取る積りで謀った事か?』
「当たり前だ。じゃなきゃ孕む確率の高い日に出したりしない。寧ろ……孕んで欲しかったのだよ。そうすれば色葉はもう私を置いて消えようと考えたりしない。足を斬りおとしたって君は私を置いていくのなら、君の好きな子供を人質にして世に縛り付けるそういう算段だった……なのに神様に嫌われているのだね私も君も」
『莫迦な男じゃ』
「……太宰。手前は腐っても雄(おとこ)だな」
「君に同情されるとは思ってなかった」
「莫迦云え。手前に同情なんぞするかよ。俺は無理矢理は道理に合わねえだけだ。色葉が択べるように磨くだけだ」
「ははは、カッコイイね中也」
『うむ。次ならばお主に抱かれてみたいものじゃ』
「それは手前の答えであって色葉の解答じゃねえんだろ。期待させんな」
『すまんすまん。だが、儂は強いぞ小僧共。次は触ることも敵わぬかもな……命あるうちに乗り換える事も検討せよ――却説。太宰、悪いが儂は中也に送ってもらうぞ。主は主の目的を果たすがよい。案ずるな次に逢う時は何時もの色葉(あの子)じゃ』
心臓部分に手を当て幼女は目蓋を閉じる。すると忽然と意識を飛ばし寝息を立て始めた。ずしりとした重みを感じた中也は落とさない様に抱えなおす。
「太宰……強姦した上に中出しした事は絶対赦さねえからな」
「別に私は君に赦されたい訳じゃないからどうぞ……それって君がつけたの?」
太宰は自身の頸に人差し指をとんっとつつく。中也は「ああ」と直ぐに理解し幼女の頸に赤い痕があることに気が付いていたようだ。それにすら青筋をたてる。
「期待に応えられなくて悪いが、俺じゃねえ。芥川だ」
「あっそ」
「太宰。薄気味悪い顔すんな」
「え? 何処が。次遭う時が楽しみなだけだよ」
芥川が殺されるな、と中也は予想する。型の合わない襟衣から覗き見える下着のつけていない素肌は目に毒だ。此れで勃起(たつ)男はいないと思いたいが、自分も決して余計な事は考えるなよと心に命じる。まあ、少しくらいは報復するかと中也は襟周りを指先を引っかけガバっと開けると口を開けて噛みついた。
『ん…っ』
甘ったるい幼児の声だというのに、妙に艶めいていてクるものがあるのか。唾液をたっぷり塗りつけ舌で強く痕を付ける。その間太宰は仲裁に入る事はなかった。
「んじゃあな太宰。精々次遭う日迄、手綱でも握ってろよ。今度は本当にマフィアが納める」
「やって見給えよ……やれるものなら。処で中也彼女が全裸に襟衣だけなのは君の趣味かい?それとも首領?」
「……見たのか?」
「見えるでしょ。あの角度なら……つるつるだったね」
再び中也が噴火するのは時間の問題だった。
これはパスつけるべきか?いやいやまだ大丈夫な範囲でしょ。言葉遊び的に言えばR15でおけ。もともとこの連載は精神年齢15歳以上だからな。明記してないけど。いや〜〜〜語ってしまったね〜〜〜語ってしまったよ。うわーい幼女!幼女が唇奪っちゃった☆的な話は大好物ぢゃお〜〜〜うわぁぁーーーーいいいいい!!!!!グボェ?!あと少しだけ続くよ、多分次でラストだから!おっしゃ!!