狐と鵞鳥-参






「クックロビンになりたいそうだな連中は」
「頭が煮詰まってるから仕方ないですよ、ボス」
「其れにしても彼方は優秀な人材が居るな。君の事が書かれていたぞ」
「本当だわ。騎士様の名前が書いてある。シュヴァリエちゃん」
「白百合の騎士とは善い銘々だ」

フィッツジェラルドはモンゴメリが持つ本を渡す様促し、それに従う。本を開き書かれている文字を追うが大半は不明慮であった。其れでも白百合の騎士と黄金貴族、羊の従者に赤毛のメリーと登場人物の名称は確実に自分たちの事を指していた。

「まあいい。さて吾々は手筈通りペルセポネーを勧誘するか」

フィッツジェラルドは其の本を火にくべた。







「滑稽だな。ここ迄来れば貴様の人生観総てお花畑だ!同じ男として情けないにも程がある」
『独歩くん。それ以上は……心が折れます』

指す方にはうつ伏せの状態で、泡を噴いていた。この犯人は阿呆者である。順を追って説明しよう。

 遡る事2時間前。鉄道を駆使して総務省まで訪れた国木田と色葉は受付に取次ぎを頼むと直ぐに案内をされ、風格ある御人から報告書を受領した。中身を拝見し、説明を受け終えた処で今日の捕り物帳の事件(はなし)を訊くことになる。

「画像の削除や履歴の相殺にも問題はないです。個人で所有している画像をネット上で権限無くアップロードした者には厳しい処罰が改正され、殆どの者が貴方の画像を所有を放棄した事は確認済みですので、その点については問題ないのですが」
「ですが…なんですか」
『独歩くん。お顔が恐いですよ』
「そ、その……先日、当社が委託しているネットワーク管理システム会社に謎の電子メールが届き。それを開いてしまったパソコンからウイルスソフトが一斉送信され……貴方の個人情報、つまりはその流出しまして……」
「……だから何だ。続きを云ってみろ」
『独歩くん…敬語外れてますよ』
「で、ですが、個人情報と云っても。流れたのは学生時代の情報だけで!金銭面や住居、等は至って保守されております」
「ほお…貴様の言い訳はそれだけか」
『独歩くん…あちらの死角でお願いします』
「ひぃぃ!たすけてぇぇええ!!」
「誰が助けてだ貴様!国の情報機関を司る己の職業を何と心得ているんだ貴様!それでも政府機関のお役人か!税金泥棒等言われるのは貴様の職務怠慢の所為だ薄ら狸が!!」
『もっともっと!もっと言ってしまえばよいです』
「合いの手入れるの辞めて!止めて!お願いしますから止めてくださいぃぃぃい!」

一部、その会議室だけ賑わいを見せていた。一頻暴れ終えた国木田と色葉は再び向かい側に座り詳細なデータと資料を拝見している。対面で座っている風格ある男は登場時とはうってかわって萎んだ狸となっていた。

「ウイルスソフトは自作だな。ハッキングの腕前は上々のようだな。政府機関が委託している会社に堂々と犯行声明を残す等骨がありそうなやつだ」
『何故技術面では申し分のない能力を所持しているのに、私の学生時代だけを盗んだのでしょうか?』
「大方、先の画像を見てお前の事を気に入った内向な男が持て余した才知で、知りたかったんだろう。それで貴様はそのハッキング男の所在を調べ上げているんだろうな」
「はっはいぃ…ぬ、抜かりはありません。足跡を辿りましたら特定出来ました」
『……何がしたいのでしょう』
「此奴もか」

机の上に提示される写真と住所に、国木田の沸点は既に超えていた。その犯人を捕まえる為に立ち上がるが国木田が振り返る。

「貴様等が何故市警や軍警に話を通さなかったのは減俸、或いは辞職を免れたかったのかもしれんが…貴様の事は報告しておくからな。覚悟しろ…血税を無駄にしたことを心から詫びるんだな」
『現代の石川五右衛門みたいですね』
「お前は呑気に拍手している場合じゃない。兎に角此の男の住居まで行くぞ」

記載されていた住所を本に辿り着いた足先は、セキュリティーなど皆無の一般的なマンションだった。国木田と色葉はもう表情から感情が消え失せ、呼び鈴を鳴らす。液晶には彼女だけが映る様に立ち家主を待つ。

「 どちら様です……か……って!ワルキューレちゃん?! 」
『……開けて頂けますか? 小鹿さん』

嬌笑する色葉の姿にほろっと騙された男は、興奮気味に「ちょっとまってて」とインターホンを切る。選手交代とばかりに彼女が下がり、国木田が扉の前に立つ。扉が勢いよく開閉し男の満面な笑顔が凍り付く。指の骨をパキパキ鳴らす国木田が青筋を立てて男を出迎え、そして国木田の鉄拳が男の頭上に注がれた。そして冒頭に戻り、続きが開幕される。

「色々と貴様には訊きたい事があるが一つだけ答えろ。今は、其れだけ答えろ」
「は…はい……」
「何故難易度の高いセキュリティーシステムに侵入し、データを入手したのか。それも、彼女の学生時代のだけを奪取したその理由を」
「そ、それは……」
「それは?」
「それは……ワルキューレちゃんの事が好きだからでありますッッ!」
「!……色葉」
『ごめんなさい。生理的に無理です』
「うわっ意外と非道い!?」
「俺も御免だ」
「誰もお前には聴いてない!!」
「黙れ外道!貴様の傷心を慰めるなど能いせんな。一生傷ついてろ」
「お前の方が外道だ」
「ああ?」
「すみませんでした!」
『あの…私はあなたを存じないのですが、どこで私を?』
「あ、はい…えっと…あなたが、そこの眼鏡野郎と、一緒にミュウちゃんの店頭ライブで見かけた時からです。写真もほら撮ったんですよ」

土下座をしていた男は部屋に引っ込み再び戻ってくると携帯画面を見せてくる。色葉は屈みその携帯を受け取ると国木田と共に閲覧した。だが、二人ともその膨大な隠し撮りの量に魂が抜けかかり、国木田は戻すなり小鹿を縛り上げ廊下に転がし、市警に通報。依頼人にも連絡を入れる。
スライドさせてまだ閲覧している色葉は、指を止めた。その写真は自身が高校生の頃の物で。今も幼い顔をしているが、今よりもっと幼さが抜けない少女が映っている。

『小鹿さん。どうして私の情報が政府機関で取締っていることを知ったのですか』
「そんなものは警告された際に辿ればこいつの技法なら可能だ」
『いいえ。違います。この写真は私がこの学園に在学していた頃の物です。この写真を入手できるのは私の事を予め知っていなければなりません。保存の日付を見てください』

国木田に携帯を見せると保存日付がハッキングする二週間前だった。

「おい。これはどういう事だ。何故お前がこの画像を入手出来たか話せ」
「教えてもらったんだ!そこの在学生の子に、あ、アルバムを貰って」
「アルバム?」

国木田が床に小鹿を置き靴を脱いで中へ入る。物を退かす音が聞こえた数分後、国木田はある一冊の青い本を持ってやってきた。

「卒業アルバムのようだ」
『卒業アルバム……』
「此れはお前の年のようだな」

とある頁を開き国木田は納得する。其処には生徒紹介として色葉の名と写真が載せられていた。

「情報源の出所を吐け。隠していてもお前の為にはならんぞ。悪いが国はお前よりもこの娘を択ぶからな」
「……な、名前は知らない。ただそのアルバムを呉れたんだ。居酒屋で飲んでいたら隣に座って、君の事を教えてもらった。でも教えてもらった内容は政府機関が情報を知っているってだけで。僕は彼女の学生時代の写真をその人から貰って、もっと知りたくなって…だから学生時代の情報しか盗んでないしそれを見せびらかしたりしてないんだ!本当だ」
「……嘘は云ってないようだな。一体どこのどいつがそんな事を」
『少なくとも此の学園の関係者か生徒でしょう』
「腐った野郎はまだ居るという事か」
『独歩くん。此の学園は淑女の為に設立された学び舎ですよ』
「……という事は、女、だと?」

国木田は口をポカリと開け、色葉は笑みを浮かべた。結局、市警に引き渡し依頼人に報告だけで終わる。誰が小鹿に情報源を与えたのかは謎のままこの事件は前に進むことはない。小鹿は酒を煽りすぎて顔までは憶えていなかった。全ては闇の中へ抛り捨てられた。それが本当にそれで良かったなどは……未来の彼らが考える事である。

「史上最も間抜けな事件だったな。いや事件と名称を付けるのも烏滸がましい」
『個人情報の秘匿って大変ですね』
「張本人が何を云っている。帰るぞ」
『はい』




3000文字で解決する事件。ナニコレ間抜けすぎだろ!国木田くんとのコンビが多いのは割と昔からという補足設定。太宰さんが入社した時からは少ないが。乱歩さんとは人手不足の時はずっと一緒に組んでいたが、今では別行動が多い。今は多分谷崎と組むことが多いかな主人公。