「ごめんなさい太宰君。結局成金男の情報は得られなかったわ。代わりに別物は手に入ったけれど」
「謝るのは私の方です。彼方は私を知りすぎている、研究熱心というか…でも此れは此れで利用し甲斐がありそうだ」
太宰の手元には先ほど白金の女に取らせた紙がある。其の紙には、女の詳細な情報の文字が浮かび上がっていた。
「読み上げろ太宰」
「はい社長。先程の従弟の一人である白金の女の名前はリリィ・デオン。歳は二十。異能力は所持していません。組合に入って間もないようです。小雪さんの異能力の予知に反応したのは彼女だ」
「だが小雪の予知には制限規定がある。知り合いか?」
「記憶に憶えがないですが、異能はそういった人の機能に影響はされません。よってわたしは彼女に逢っている」
「然も相手は此方を熟知している。特に……小雪さん達姉妹の事を」
「其れは何故ですか?」
「敦君、御浚いだ。小雪さんの異能力の発動条件を述べてみよ」
「え?! えっと…確か予知は意識が無い時で念写の方は……相手を紙に透かせば情報が浮き出る!」
「そうだ。小雪さんは私の指示のもと態と本を落として相手方の頭の情報を得ようとした際に、本を拾うふりをして視界を遮られた。こんな芸当が出来るのは小雪さんの異能力についてよく知っている人物だけだ」
「だが、何で小雪等なンだい?」
「其れは彼が賢治君に尋ねた言葉ですよ“妖精が居ると聞いたのだが、それは本当か?”」
「つまりその“妖精”は色葉って云いたいのかい」
「十中八九間違いありません」
太宰が断言すると与謝野は腕を組み息を溢す。
「して色葉は」
「国木田君と共に総務省へ。序に軽い捕り物帳を演じてから此方へ帰路中です」
太宰がそう云い終えると探偵社の玄関口が開く音がし、春野たち事務員の人々の「おかえりなさい」という言葉によって国木田と色葉の帰宅を知る。ふたりはそのまま会議室へと向かったのだろう。数分も経たないうちに扉のノック音を三回奏でてから開閉された。入室したのは国木田だけ。
「ただいま戻りました。報告書は受領し、依頼も片付きました。問題ありません」
「うむ。ご苦労だった」
「はい」
「あれ、国木田さんだけですか? 色葉さんは呼ばなくていいんですか?」
当たり前の疑問をぶつけた敦に、太宰は口を動かす。
「今回の件に関して彼女には知らせない方針なんだよ敦君」
「ですが、狙われているのに本人に説明をしないのは」
「今回だけは駄目だ。彼女は関わらせない。悪いが此れは決定事項だよ、ねえ社長」
「……太宰に一任している」
普段と雰囲気の違う太宰に敦は唾を飲み込む。隣にいる小雪は訝し気に太宰を観察していた。
「小雪さんも今回の事件が片付く迄は予知で得た情報は総て私に報告してくれ」
「他の姉妹には?」
「例外はないよ。四姉妹の中であなたが一番私に近い」
「……わかった。福沢様があなたに一任すると仰るならわたしもあなたに尽力するわ」
「ありがとうございます」
「つまり此の場に居る奴らだけで解決させるって事かい?」
「ええ、今の処は。明日になってみないと判りませんしね」
「凡ては明日という訳か」
*
『ナオミちゃん。お客様って誰だったのです?』
「ムカつく殿方でしたわ」
『何しにいらしたんでしょうか』
「敵の襲来」
『鏡花ちゃん物騒ですよ』
ナオミと鏡花と共にソファーに座りお茶を飲んでいると椅子を転がし春野もカップを片手に参加を始めた。
「そう言えばハガキが届いていましたよ」
『ハガキですか?』
春野からハガキを受取り自身の名を確認してから裏面へ反す。手元を覗くようにナオミと鏡花も身を乗り出し共に文字を追う。
「同窓会のお知らせ…?」
「まあ、同窓会ですの!色葉さんの学生時代を想像するとお兄様が不憫に思えますわ。さぞおモテになられたのでしょ?」
『いえ、私の通っていた学舎は淑女のみが通う花園でした』
「女子校だったんですか?」
「確か高校の名前は……桃桜女学院高等部?!って名門貴族や華族が通う学園じゃないですか」
「春野さんが食いつきましたわ」
「制服も確か高騰価格で取引される位でしたよね。あと可愛いで有名」
『えっと……普通の学園でしたよ』
「春野さん落ち着いてください。鏡花ちゃんが呆気に取られてますよ」
前のめりになる春野を落ち着かせるナオミ。その隣で鏡花は色葉からハガキを受け気取り視線を落とす。
「何故此処に届いたの?」
鏡花の質問を遮るように報道番組が声を高らかに告げる。
「 昨夜未明に発見された女性の変死体について新たな情報です。現場には手荷物などはありませんでしたが、身につけていた衣服は桃桜女学院高等部の学生服で、頭髪はライトゴールドに緑色の瞳をした、あ失礼しました。カラーコンタクトが緑で元は碧眼の外国の容姿の模様。身元を明かす所持品がないため現在も身元については引き続き捜査中になります。ご協力宜しくお願い致します 」
ナオミと春野、鏡花は色葉へ視線を向ける。向けられた本人は液晶画面に尚も報道されている情報について視聴を続けている。
「色葉さんの同級生ということはありませんわよね」
『少なくとも私が入学していた3年間の間に在学していた生徒ではないですね』
「憶えていらっしゃるのですか?」
『一応此れでも生徒会長を三年間務めさせて頂きましたので』
「若し色葉さんの記憶が正しければこの方は態々母校でもない制服を着せられたという事になりますよね」
『ナオミさんの見解で間違いないです。問題は何故そのような事をしたのか、或いはそうする為の理由があったのかは判りませんが。カラーコンタクトには疑問ですね』
「兎も角此の殺人がこれ以上続かない事を祈りたいですね」
春野の願いは呆気なく葬られる。アナウンサーの戦慄した表情はリアルタイムで報道されていた。
「 たった今入った情報です。また女性の変死体が港の公園付近で発見されました。右目を鋭利な物で脳髄まで一突きにされ、頸筋には牙の後と血液が凡て抜かれた状態。桃桜女学院高等部の制服を着用。容姿もライトゴールドの頭髪に緑のカラーコンタクト。外国風容姿に…20代前半で所持品はなく身元が不明です 」
速報報道を視聴していた四人の居る部屋に、会議室の扉が開け放たれ探偵社員が報道を視聴しにやってくる。
「終わったの?」
鏡花が敦に尋ねると敦は「う、うん」と弥弥歯切れの悪い返答を返している。ナオミの隣には谷崎が、福沢の傍には小雪が立ち。与謝野は春野の隣に腰かけた。色葉の近くに国木田がやってくる。
「此れで犯人の標的対象がわかったな」
『はい。連続殺人鬼に在りがちな法則性ですね。処で独歩くん。会議はどの様な内容だったんです?』
「あ、ああその件だが――」
国木田の言葉を遮る様に両肩に太宰の手が置かれた色葉。彼の表情は違和感を覚える程の笑みが浮かべられていた。
「却説、色葉ちゃん。もう遅いから帰ろうか。はいはい支度して、君の荷物は此れだけかな」
色葉の鞄を手に持ち、太宰は彼女を立たせて出入り口へと向かう。掴む腕には強制力があり色葉はその異変に気が付くが理由が判らない以上戸惑う。視線を小雪へと向けると小雪は普段通りの態度で。
「太宰くんに何かされたら連絡してね。小春ちゃんが音速で向かうから」
『……こ、小雪姉さん!わたしっ今日も乱歩さん不在なのですけど』
「がんばって」
『こ、小雪姉さん』
「泣く程嬉しいのかい? いやー照れるね。今日の夕飯は何かな楽しみだな。君の手料理を食べられるなんて私は倖せだよ。さあ帰ろう。今直ぐ帰るのだよ」
色葉の助けを乞う手は誰も掴むことはなかった。周囲は謝罪の言葉を繰り返す中鏡花は返しそびれているネックレスを手で包む。不安や視えない恐怖が少女の小さな躰を静かに蝕んでいく様に、彼女の小さな囁きは闇の中に融けていった。
「嵐の前触れ」
えっと……「たえまなく過去へと押し戻されながら」の前後編をこの話の中に詰め込むので今回はいつもより長いです。多分。ちょっと何度も書き直ししすぎてわからんくなってきた。この設定が悪い。まったく誰だよ書いたの!……私だよorz この件をよくやりながら執筆してます。長いの面倒いですよね、一応オリジナルなので少しは楽しませることが出来るかもしれません。よって!どうか!最後までお付き合い宜しくお願いします。