「あまねさん! 昨日はありがとなー!」
「いいよ、もう」
朝練が終わって木兎光太郎が教室に入ってくる時、咄嗟に手を隠した。手のひらも手の甲も蚯蚓脹れになっている私の手は、全体が包帯で覆われている。おそらく一週間はこのままだろう、と言ったのは祖父だった。
「昨日よりすげー動きやすかった! あまねさんのおかげでしょ?」
「……それは、どうかな。調子の問題なんじゃ」
「悪かったのが良くなったのはあまねさんのおかげ! 昨日のやつ!」
「ああ、うん、そっか」
木兎光太郎の声はよく通る。それはもう、廊下まで届く。普通に喋っていても届くものだから、当然、この会話だってクラスメイト全員の耳に届いている。
視線が集まっているのがわかった。中には人でないものもある。全ての視線から逸らすように木兎光太郎の顔を見れば、驚くほどに無≠フ表情をしていて喉が引き攣った。
「……どうした?」
「手」
隠していたはずなのに、どうして見えたんだろう。そのうち見られるとは思っていたが、想定より早い。
木兎光太郎の静かな声は、初めて聞いた。こんな声も出せるのかと思考が逸れる。
「ああ、これは気にしないで」
「それ、昨日はなかったよな? どこで怪我した? どんな怪我? 痛い?」
「昨日の夜にやらかしただけ。痛くはないから気にしないで」
「……触っていい?」
「いいけど、なんで?」
すぐ横でしゃがみ込んだ木兎光太郎は、私の手を労わるようにそっと触れて、包帯をなぞる。痛くはない。痛み止めを飲んだから。違和感は、すごいけれど。
「俺のせい?」
「違うよ」
静かな声はひどく悲しげだった。否定の言葉はすぐに口から出て、そして、それは嘘じゃない。
木兎光太郎は信じていないような顔をしているが、本当に、木兎光太郎のせいではないからそんな顔をしないでほしい。
「これは、違うよ」
「ほんと?」
「本当」
「じゃあ、なんで?」
「……自業自得だから」
あんまり聞かないでほしい。そう伝えればまだ何かを言いたそうにした木兎光太郎は、だけどぐっと口を閉ざした。
「それより約束、守ってね」