煌めきと雷轟



ピシャーーンという音とともに、雷は真っ直ぐに私たちに向かって落ちてきた。まるで、初めからそう決まっていたかのように。あの日のように、鉄製の武器を胸元にしのばせたりなんてしていないのにも関わらず……──────
──────あの日?

ばちばちと私たちを包み込む光は、お互いにぶつかっては、花火のようにあたりに飛び散って消えていく。
雷光に包まれているというのに、痛みもしびれもない。こんなことはありえないことで、私達はいま、摩訶不思議な現象に立ち会っているはずなのに、お互いそんなことまるで頭にないようだった。向き合って、じっと見つめあって、そのまま二人の時を止めた。


「お前はいつもそうだ。私の話なんてまるで聞かないんだから……」


鉢屋はそう言って、ため息と言うにはあまりにも優しい息遣いで、どうしようもなさそうに笑った。その柔らかな笑みを知っている。いじわるなのに、本当はやさしいんだ。


「思い出した……」


そう言った私に、鉢屋は目を細めていっそう穏やかな笑みを浮かべる。その瞳に反射する蒼い閃光のうつくしさに、私はあの日見た景色を思い出した。


「鉢屋、わたしたちは、もっとずっと昔に会っていたのだね」

「ああ、そうだ」

「あなたと学び、同じものを志し、別れて────そして私、ひとりでしんだのね。そう、ちょうどこんな、雷の日に」



誰かに言えば、馬鹿なことをと笑われるような話だが、もう何百年も前のことだ。私が今の私になる前のこと、私と鉢屋は大切な友達だった。
6年間同じ学園で学んで、同じものを食べて、一年一年積み重ね、一緒に成長した。休みの日には一緒にいろんな所へ行った。たくさんの人々で賑わう街。太陽を浴びて宝石のようにきらきら輝く海。柔らかく灯るお祭りの明かり──────風に揺れる静かな山奥の花畑。美しい景色の中には、いつも鉢屋がいた。鉢屋とならどこへでも行けると思っていた。

卒業したら、1人だった。あれだけ沢山の友がいたというのに、あれだけ一緒にいたというのに、あっという間に1人になれた。
ある嵐の夜、ひとりぼっちで夕飯を食べていた私は、外でピカピカと光る雷光と、祭囃子のような雷鳴がどうしても気になって─────────私がどこかへ行こうとすると引っ掴んで止めてくる人はもう誰もいなくて、導かれるままばかみたいに見に行ったら、ちょうど雷に打たれて死んだのである。

最期に思い出したのは、やっぱり、鉢屋三郎の呆れ顔だった。





「お前のことだ、雷を見に行ったんだろう」

「そう、そうだ、そうだった」


差し出された両手のひらに、私の手を重ねて、瞳を閉じれば、涙が空に攫われていく。光の明滅に呼応するように眩い思い出が次々とフラッシュバックして、懐かしさと愛おしさに心臓が震えた。
私が奥底に大事にしまい込んでいたことを、鉢屋は覚えていてくれた。だからこうしてまた出会えた。思い出せた。これ以上に心を震わせることが、一体どこにあるだろう!



どれくらい時間が経っただろう。長かったような気も、短かったような気もする。突然ふ、と光が収まって、私はぱちりと目を開けた。
雨も風も雷も、嘘のように鎮まって、しとしとと木々から露が滴り落ちる音がする。相変わらず世界には私たちふたりきりで、辺りはしんと静まり返っていた。


「……帰るか」


夢から覚めたみたいに、ぶっきらぼうにそういった鉢屋。私も頷いて、何事も無かったかのように教室に向かう鉢屋の背中を追った。
けれどきっと、わたしたちは、夏休みが終わっても、ただのクラスメイトには戻れないだろう。

夢に見たあのお花畑が、夢ではなかったことを、私はもう知ってしまった。

190407
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