「問題ありません」



この奇妙な二人旅は、それから一週間も続いた。
朝、同じような時間に同じ場所をのろのろと歩いていると、鉢屋も同じように紺色の自転車で現れる。遠くで始業のチャイムが鳴るのを2人で聞いて、今日はどこへ行こうかと相談した。
水族館も、遊園地も、博物館も、美術館も、プラネタリウムも、電波塔にも行った。大した会話もなかったが、学校にいるときよりもむしろ居心地がよかった。私は学校が嫌いなのかもしれないと思った。

自転車で現れる彼を見つける度、彼の自転車の後ろに乗せてもらう度、思う。彼は、開襟シャツがよく似合う。


「今日は、どこへ行くんだ?」

「うーん……」


一週間と一日目、鉢屋にそう尋ねられた私は考える。けれどその日はなかなか思いつかず、私はたっぷりと時間をかけて答えを探した。途中考えるのを放棄してぼーっとしたりもしたが、そんな私を咎めることなく鉢屋もぼーっと眺めていた。
鉢屋は決して言わない────「満足したんじゃないのか?」とか「そろそろ学校に行こう」とか。私が学校を平気でサボる理由さえ聞かない。だから私も鉢屋に、どうして話したことも無いようなただのクラスメイトの私に付き合っているのかと聞く気は起きなかった。


「海はどうだ?」


たっぷり15分ほど考えていた私に、ようやく口を開いた鉢屋はそう言った。海。それは、今の季節にはちょうどいいだろう。私は美しい海岸と、きらきらひかる太陽と、波の音を想像してみる。
それから、提案してきた鉢屋をじっと見つめた。青い海と夏の空と、白い開襟シャツは、きっとよく似合うだろう。
頷いた私に、鉢屋は決まりだ、と笑う。それが嬉しくて、私も少し笑った。


「少し遠出だが、まぁ、何とかなるだろう」

「うん」


自転車の方向を変える鉢屋の横で、鞄をリュックみたいに背負い直しながら、私はまた頷く。それから、つぶやくように言った。


「鉢屋となら、私、どこへでも行ける気がするよ」


鉢屋は振り返った。それから、私をじっと見つめてくる。何か言いたそうに何度か口を開いていたが、そこから言葉が出てくることはなさそうだった。痺れを切らして、私は彼に問掛ける。


「なに?」

「なにって…………そりゃお前、」


鉢屋が、言いかけた時だった────それをかき消すような怒号が、学校の方角から飛んできたのだ。


「コラー!!お前達、何やっとるんだ!!」

「「あ」」


両手を振り回し、怒り狂いながら走ってくるのは、私たちの担任の教師であった。私達は思わず顔を見合わせた。

190119
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